第54章 はめられた罠
城下町で捕まった俺は、城内の謁見の間まで連れてこられた。
謁見の間、まあ、紅い絨毯や端っこにロウソク立てを持った人までいる。
そしてなによりでかい。
「そなたがクレスという者か?」
「……そうですけど……」
「おお、まことか……これで私も安心できる」
黒い髪に黒い髭を持った中年辺りの領主。渋いといったら渋いのだろう。言ってしまえば『おじさま』というイメージが大きい。
まあ、悪い印象ではないがいい印象でもない。
「あのー……俺が何でこんなとこに呼ばれたのかお聞きしたいのですが……」
「うむ、説明せねばならぬな」
コホンッと一度せきをし―
「その前に、自己紹介をせねばな、私がこの街の領主であるガーディア=アル=ルースだ」
「ええっと、しりと」
「近頃、おかしなことが起きてな」
俺の言葉をさえぎる領主。まあ、言いたいことが分ったようだが、途中で止められるのはどうも後味が悪い。
「我が城のほとんどのものが同じ夢を見たり、城の前で黒猫が何十匹も横切ったり、城内で転んだり、取ろうとした本の上の本が頭から落ちてきたり」
うをい―
「っとまぁ、後半はちょっと違うと思うが……不吉なことばかり起こってるのだよ」
「後半というか、ほぼ全部というか……」
「むぅ、そう言ってしまうと、私達の勘違いでしたの一言で終わってしまいそうじゃないか」
その通りだよ。
「とにかく、夢の内容を聞いてくれ」
なんか無理矢理話を進めようとしてるし。
領主は、自分の髭をなでながら口を開く。
「頭の中に声だけ響く感覚、とも言うだろうか……その声が真紅の破壊神、東より来たりて、城に災いを呼ぶだろう……とな」
「……あのー……」
「ん?」
「ずいぶん遠まわしのよーな直接的なよーな……」
「待て待て、まだ続きがある…… 災いを避けたくば、破壊神招き、場内に留めさせるべし……」
「あー……後半、思いつかなかったんだな……たぶん……」
俺が溜息を吐きながら言った。
「ん?その言い方……ならこれは夢じゃないと申すか?」
「いや、まだ決まったわけじゃないけど……そうだな、その夢を見た後、ドアが開きっぱなしになってたとか、場内を兵士以外が歩き回ってたとか、そういうのは無いよね?」
「んーむ……」
考え込む謁見の間にいる、兵士または大臣に領主。
「そうだ、その夢を見た後、窓やドアが開いてる時があったな」
「そう言えば……!」
「確かに!」
一人のつぶやきに、ほとんどの人が同意の声をあげる。
「俺が場内を警備中のとき、魔道士姿のやつを見たぞ!」
「そう言えば……!」
「俺もだ!」
をぃ。おまえら。
領主が呻きながら口をあける
「ううむ、確かに、最初は宮廷魔道士かと思って普通に挨拶してたが、考えてみると確かにおかしい」
「いや……おかしいもなにも、考えなくても犯人はそれでしょうが……」
「そう言えば……」
一人の兵士が声を上げる。
まあ、話の流れからすると、俺は無関係みたいだし、単なるイタズラで終わりそうだ。と、軽い考えがいけなかったのだろうか?
しかし、この兵士が、とんでもない発言をしやがった。
「あいつみたいな服を着ていたぞ」
と―
でもまぁ、ここで逃げるのはおかしい。
「ちょ、ちょっと待って!真紅の破壊神ってのを聞いて俺を連想させたんだろ?んな自分がとっ捕まるようなことを夜にやってなんの特になる!」
「ちょっとイタズラ好きのおちゃめさんだったんだろ!」
「んなわけあるかあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
兵士に向かってとび蹴りを喰らわす。
二回ほどきりもみ回転をして飛んでいく兵士を見ながら着地する。
「んじゃ何もせずこの街から出て行く!それで解決でしょ!」
「まあ、待て、なら私達はどうやって、取りたい本をとり、猫に横切られなくなるんだ!」
「んなこと知るかあぁ!!」
その時、耳にくるドゥンという音を聴いた瞬間。辺りに誰もいなくなり静けさが支配した。
窓のほうへ振り向き、外を見ても小鳥さえもいない、いや、自分がいるだけである。
この手の結界を得意とするものは一つしかいない。
「…………魔族……?」
しかし、時間が経つが魔族の姿は一向に見せない……これは……
「足止めかな……しかし、なんで……?」
わけのわからないままだが、ここを脱出しなければ話にならない。
俺はある呪文を詠唱する。
簡単な術だったため、すぐに発動する。
「とおっ!」
別に掛け声はいらないのだが、そこはなんとなくである。
俺の手のひらからハトが飛び出し、空に向かって飛ぼうと、窓のほうに向かっていく。
そして、ガラスの割れた音とも似てる音が響き渡り、自分の周りに人が現れる。
兵士や大臣……ん?領主がいない……
兵士達や大臣がじっと、剣を構えながらこちらをにらんでいる。
ふと、足を動かすと液体のピチャッと言う音。
下ろしたくないが、顔が足元へと向けられる。
「!!!」
そして見た光景が、領主の亡骸。