第53章 午後の休暇
「またさらわれた?」
あきれた声を出したのは軽装で椅子に座ってたゼロギガだった。
聖都市ファンタレス、巨大な魔法陣、六芒星を元に建てられた都市である。
その都市に足を運んだのはちょうど昨日の夕方辺りである、荷車が襲われ、歩きのみ進む手立てがなかった。
それで予定よりも遅れたのだが……
そして、翌日に別行動していたゼロギガと合流したのである。
ちなみに師匠は行方不明中。またひょっこり現れるだろうと思ってほうっておいてる。
「白犬族ってそんなに珍しいのか?神の使徒とか聞くけど……」
「こっちの大陸じゃ、滅びた種族だよ、何年も前にね」
「そうか……」
つぶやいて、ゼロギガは部屋の隅っこにある椅子を持ってきて座る。
「んでもって、今度は魔族なんだろ?大丈夫なのか?」
「一応、コレでも魔族には何度も戦ってきたんだけどね、色々奥の手使って」
「そういや、東の大陸でその地を支配する魔王を倒したとか倒してないとか聞いたな」
「まあ、そこまでわかってるなら話が早いが……倒したのはある意味ここにいない人よ」
事実である、一応。
倒したのはここにいる俺やテット、エルでもない。
甘えとか何かがあるからと言って別々の行動を取ったテイサーである。影薄いけど。
あの子の力がなかったらたぶん魔王なんて一人も死なずに倒せないだろう。
「やつらが言ってたシルフィティアって言う町が気になるんだけど、何か情報知らない?」
「いや、すまない……そういう町は聞いた事がない」
「………とりあえず、この町で情報を集めればいいんじゃないか?この町がここらへんじゃ一番でかいんだろ?」
「お菓子屋さんとかパン屋さんとかあるかな!」
テットが目を輝かせながらエルに聞いてくる。
……こうしてみると子供なんだがなぁ……
「あると思うぞ、行くか?」
エルの問いにテットは何度も頷いた。
「そういえば……何故あんな子供まで連れているんだ?」
エルとテットが出ていった後、席を立とうとした時、ゼロギガが聞いてきた。
その言葉に答えるためと言うか、一度浮いた腰をもう一度沈める。
「何も、旅は道連れってやつよ」
「なら、違う町に預ければいいじゃないか?あんな小さい子供まで巻き込ませるつもりか?」
「俺は一度拒んだ、だけどそれはテットの意思だ」
「意思か、強い子供だ……でも心は幼い、会って間もないからわからないが、魔族に狙われる旅だなんて、危ないを通り越して危険だ」
「そう…だけどな……」
少し言葉に詰まる。
「別に文句を言いたかったわけじゃない、聞きたかっただけだ……でも今後旅をし続けるなら、考えたほうがいい」
そういい残し、ゼロギガが部屋から出る。
他に人がいなくなった部屋は、ずっと静かだった。

あとあと考えれば当たり前なことだっただろう、子供を旅に連れて行かせるのは危険。
しかし、テットの並大抵の体力ってわけでもない、体力だったらそこら辺の大人にも勝てるだろう。
「レンはどう思……」
何故か無意識にレンに聞いてしまう。
しかし、いつも隣にいたレンの姿はいない。
―いつの間にこんなに人に頼るようになったんだろうか?
 邪竜と戦う数週間前、レンに出会う前までは一人で戦ってきた……
 それからと言うもの、人と出会い、旅の仲間ができ、仲間の死を見る。ー
俺は急に立ち止まり、空を見上げる。
―仲間に頼られるのも、って思ってたが、一番頼ってたのは自分じゃないのか?―
突然、どんっ、と肩がぶつかり少しよろける。
「おい、ねーちゃん……人にぶつかっておいて挨拶もなしか?」
明らかに柄の悪い格好をしている三人組。
一人は痩せ、一人は太く、一人は……特に特徴が無い男。
「ちょっと面かせ…ぐべらっ!」
一人が俺の胸倉を掴む瞬間、下顎をとらえアッパーを喰らわす。
「!!こいつ!」
アッパーを喰らわした痩せの男はその場で倒れ、もう一人の特に特徴が無い男は青筋を立てながらこちらに襲い掛かってくる。
手を引き、こちらに向かって突いてくる拳をかわし、その腕を勢いを利用して投げ飛ばす。
一部のテントが壊れたような風景が見えたが気にしない!
「女だと思ってしたでにでてればこいつ!」
ぷちっ―
「女女うるせい!!俺は男だ!!グランド・ボム!!」
男の下に魔法陣が形成され、その瞬間、大きな土柱が吹き上げる。
そして、しばらくすると男が落ちてきた。
「人が悩んでる時に肩がぶつかってきたからぁあいさつうぅ?
 舐めんじゃないよ!
 それに俺は男だ!!間違いなく!」
ぐでぐでにのびきった太った男を足でのす。
「しかし、この俺にぶつかってきたのは運が悪かったなお前ら!
 そっちから仕掛けてきたわけだから何しても正当防衛♪ってことになるんでよろしく!」
「ちょっと待て!あれやこれや壊したのはお前だぞ!」
飛ばしてテントを壊した男が、抗議の声を上げる。ちなみに足でのしてるやつはのびてるせいか反応なし。
俺は男に向かって指を突き出し。
「やかましい!元はといえばあんたらが悪いんじゃ!」
「くっ!」
腰からナイフを取り出す何の特徴も…いやゴロツキC。
ナイフを構えながらこちらとの間をつめる。
と、同時に、俺もゴロツキとの間をつめる。
その動きに驚き、ゴロツキが足を止め、ナイフを突いてくるが、軌道が甘い。
するりと避け、ゴロツキの背中を取る。
「なっ!」
反応が遅れ、次の行動に移ろうとする前に、俺が当身をする。
予想通り、あっけなかった。

とりあえず金目の物と有り金をすべて奪っておきました。

男達を簀巻きにしておいて、その場を一目散に立ち去ろうとしたが、いきなり視界がさえぎられる。
「ぐべっ!」
目の前に壁が現れたかと思ったが、鉄特有の冷たい光を反射する板が見えた。
おそるおそる見上げると、そこにあるのは予想通りの鉄仮面。
「……あの〜……」
「クレス=ファンレッドだな?」
「へっ?」
「だな?」
「……そうですけど……」
一人が手で合図すると俺を囲み、逃げられないようにする。
「おとなしくついてくるんだな…それとも、町民を傷つけてもなお逃げるか?」
くるりと踵を返して、ガチャガチャ音を立てて去るその集団に、多少あっけにとられていたが、すぐに立ち直り、ついて行く。
おそらく、警備隊長か近衛隊長……まあ、どっちにしろ行く場所なんて決まってる。
俺は町の中心の城を見ながら心の中で、変なことにならないよーになんて願っていたのだった。