第51章 大きな剣を持つ青き剣士
「ファイアーボール!!」
――どごおおっ!
振り向きざまに放った火炎球が確かな姿を見せずに立ち尽くしていた者を吹き飛ばした。
あっけないと思うなかれ、結構事実。
爆煙がやがて消えうせ、周りの様子が見えるようになってきた。
しかし、自分が予想していた以上に、それは立っていた。
「うそ………」
確かに、手ごたえがあったはずなのに、それは紅蓮の炎を喰らいながらも立っていたのだ。
ここで初めて身構える。
相手は俺よりやや低く、獣人族のようであるが……兜に鎧やらでその素顔が見えない。
唯一露出しているはずの尻尾も、がちがちな鎧で身を固めている。
そして、その身長に見合う短剣……少し部が悪い。
俺は剣を片方だけ抜き、片手でそれを持つ。
それを見てか、相手も剣を抜き、構える……
―生きてる気配がしない。
そこにいるのに、何故かいない気配がする―
そして、自分があらかじめ唱えておいた呪文を解き放つ。
「ダグ・ウェイブ!」
地に手をつけて放つ魔法、術者より闇の欠片が広範囲で一直線に進んでいく魔法である。
地を解して放つ魔法なので、大地あるところのみ発動できる。
闇が一直線に目標物へと進んでいく。
―ザッ
大きく音をたて、相手が動き出す。
鎧のカチャカチャと当たる金属音と共にこちらに向かってくる。
―自ら魔法に向かって突き進んでいってる!?―
あまり良い予感はしない。身構えながらも唱えていた魔法から手を離し、後ろへと大きく跳ぶ。
闇の欠片が相手と衝突する寸前、相手が高く飛んだ!?
人の跳躍とも思えないほどの高さを跳び、闇の欠片が虚空を通り、正面の壁に激突する。
相手は着地すると、またこちらに向かって走ってくる。
何者なんだ。こいつ。
剣を構えつつ、横にある障害物の後ろへと場所を移す。
呪文詠唱完了するまでの時間稼ぎでしかないが……
突然、寒気が襲った。
第六感が俺をその場で伏せさせた。
大きな音と共に、障害物が横になぎ払われ、今立っていた場所は見事に斬られていた。
―のわぁぁっ! 障害物ものともしてないでやんの!―
ふと、上を見上げるとまた高く跳躍しながら剣を下向きにして落ちてくる相手が……ってぇ!?
くるりと横に回って場所をずらすと、間もなく大きな音と共に隣で床の石やらが飛んでくる。
―シャレにならないし!?―
飛び起きて、唱えておいた魔法を解き放つ。
「フリーズ・ブレス!」
青い閃光が、地面に突き刺したままの状態の相手に向かってとんでいく。
しかし、閃光は虚空を通り、地面を凍らせる。
気がつけば、すでに目の前まで刃を振り下ろす寸前だった。
―間に合わない!
きぃんっ!
目を閉じた俺の耳に聞こえてきたものは、斬れた肉の生々しい音ではなく、金属と金属がぶつかった音。
目を恐る恐る開けてみれば、見知らぬ剣と顔が紫の染色をほどこされている、狼の剣士。
突然の第三者の出現で、一瞬であったが感情の揺れがあった。
相手は後ろへ大きく跳ぶと間合いをとった。
「あんたは……?」
「まずこいつを黙らせることが先だろ……安全な場所へ下がっていてくれ」
背は俺より一つ頭高く、青い肩当てつきの鎧に、自分の等身近くある長剣。
剣士が自分と同じ長さの剣を持つ者は、かなりの手慣れか、はたまたかけだしのかっこつけか……
しかし、気配を消しながらも、あの寸前だった剣を受け止めるのは並みの剣士はできないと思うが……
男は剣を構え、相手に向かって走っていく。
部屋の蜀台のろうそくのあわい炎が、剣の鈍い光が反射して見える。
どれくらい経っただろうか?
俺を助けてくれた男は、毛皮が汗でぬれてきている。相手を見るが、まったく疲れた気配を感じさせない。
何もただただ見ていたわけではない、たびたび小さな魔法でちょっかいかけているものの、あたりさえしなかった。
「早く――レンを助け出さないと……」
ぼそりとつぶやきながらも、また呪文を詠唱し始める……が、
「そこだあっ!」
男が吠え、長剣を難なく振り、鎧の一部を切りつけた。
鎧に大きくヒビがはいり、その小さな隙間から、白い毛皮が見えた。
『!』
相手は大きく動揺の気配を放った後、一瞬で、その場から姿を消した。


「あんた、なにもんだよ?」
鎧を着た謎の相手が姿を消した後、俺と男は奥へと進んでいった。
なぜ男がついてきたのかわからないが、別に断る理由もなかった。
そして、今歩きながら、話をしている。
「旅の傭兵、ってだけじゃだめなのか?」
「あんたの顔の染色――顔に独特の紫を顔に塗りつけるのは、ある種族だけって聞いたけど?」
「譲ちゃん物知りだな」
「じょ……」
「ん?何その場でうずくまっているんだ?」
「生まれた文化は違えど、同種族なんだから性別ぐらい分るだろ性別ぐらい!」
「ん?あ、男か、譲ちゃん」
「譲ちゃんって言うな!」
ばしぃ、と懐に隠してあったスリッパで男の頭を叩いた。
「いって〜、お前なぁ……ンなもん常に持ち歩いてるのかよ!」
「常時装備よ」
パタパタと手を振りながら、そうごまかした。
「それより、あんたの名前、まだ聞いてなかったんだけど?」
「ゼロギガだ」
「……悪人っぽい名前ね……」
「ほっとけ、お前はどうなんだよ」
「俺は、クレス、クレス=ファンレッドだ」
「そうか、クレス、よろしくな」
ぽんと俺の頭に手を置いて、ゼロギガは先へと進んでいく。
なんか、楽しいやつが一時の連れになったものだ………