第43章 海の上でSOS
「う〜ん、、、見えないもんだね・・・・」
船先にいるレンがそう呟いた。レンは地図を片手に望遠鏡を覗いている
俺達がある町を出てから数日が経った。食料はまだあるけど・・・いつなくなるか分からない・・・
「う〜ん、、、」
俺はもう一つの地図で現在地を確認しようとした・・・
だが、、、海ばかりであった・・・確認しようがない・・・
テットとコウは面白いのか釣りをしている・・・まぁ、食料が出来るから良いけど・・・
エルは船の舵をとっている、実際エルが船の舵が取れるのか心配したが、その心配は全然必要なかった。
舵がめちゃくちゃ上手かったのだ。この前は岩山をかわすのにすれすれで傷もつけずにかわす事が出来たのだ。
まぁ、船がなきゃ意味無いんだから多分これからその技術は使えそうにも無いだろう・・・
俺の近くにレンが近寄ってきた。レンを視界に入れた。
「どう?」
「まだ着きそうにも無いよ・・・」
「そうか・・・」
俺は溜息まじりでまた視線を地図に戻した、、、世界は狭いと人は言うがはっきり言って広すぎる!
そんな言葉を心の中で呟いておいて外をみた。
レンが俺に寄り添ってくる・・・まぁ、獣人同士だから暑苦しく思う人は思うかもしれないが、魔法で一応涼しんでいる
俺はレンの方を向いた。
「どうした?大丈夫か?」
「うん・・・大丈夫・・・」
俺はレンを抱きしめて言った。
「治そうな・・・絶対・・・」
レンは俺の胸に顔をうずめながら頷いた。俺は微笑しながらレンを離した。
「んで・・・今日は誰が食事作るんだ?」
「僕だよ、つくろっか?」
俺は頷いた。レンは船にある台所へ向かった。



時は夜、俺はマストの上にいる、、、今日は見張りが俺だったからだ。
イカリを下ろしてみんな寝ている、この世の中だから余計見張りが必要なのだ。
波は穏やかだが、この世界には魔物はまだいる、、、海にいてもおかしくない・・・
まぁ、この数日は平和だったけど・・・
俺は船の外に目を凝らして見張った。大した異常は無い、、が、、、
俺の耳に誰かが上がってくる音が聞こえた。
気配からして、俺の知ってる人物、、、と言ってもこの船には俺の知ってる人しか乗ってないけど・・・
「あ、クレス大丈夫?」
顔を出したのはレンだった。白い毛並みが月の光が反射して綺麗に見えた。
「大丈夫、大丈夫、かわりがわりやってる見張りだし、レンは寝てなよ」
「うん、、でも、一緒にいさせて、、」
レンは微笑しながら言った。俺の隣に座る、、、
こんな真夜中に、、、どうしたんだろう・・・?
そんな疑問を考えていたらレンが口を開いた。
「僕、、、治るのかな・・・?」
泣きそうな声だった。でも本人は泣いてない・・・
何が治るのか、たぶん、俺達とある町でしか知らないだろう・・・
レンがワーウルフに噛まれた事を、、ワーウルフに噛まれた者、それが人間だったら体がワーウルフの形になり理性を失わずにそのままの姿でいる・・・いや、自由自在に人間とワーウルフに変身できる
しかし、、獣人族の場合、もともと獣人モンスター、、噛まれたとしても何の効果も無い、、はずだった。
獣人族がかまれた場合、理性を失い、目の前の物を壊す、、狂戦士(バーサーカー)のようになる
本来獣人族は、魔王の魔物、、、それが理性ができて、、今ではここまで獣人族を見かけるようになった。
たぶん、ワーウルフは理性を失った、、、いや、理性を失っているもともとの獣人族の姿、、、
そう、ちょっと古い文献に書かれていた・・・・
そして、レンはそのワーウルフに噛まれた。理性があるのもすぐに魔法医に見てもらったからとりあえず理性がある、
しかし、たまに理性を支配しようとするワーウルフの唾液、、と言うべきか・・・
それが全身にかけまわる・・・、レンが言うにはそれは物凄い痛みを感じるらしい・・・
それの対処法が、異常回復魔法(リカバー)と言うものだ・・・、魔法が元の状態に戻してくれる
しかし、完全ではない、毒やマヒなんかはすぐに治るが・・・、ワーウルフの唾液、、そんなものが普通体内に入ってくるだろうか?まぁ、、噛まれたら入ってくるって言う意見は別として・・・
普通、いや、日常にありえないからリカバーでも一時凌ぎしかならないのだ。
「治るって、絶対!」
「そう・・・?」
レンがまた心配そうな目をしながらこちらを見てくる・・・
実際、俺は絶対治るとも思ってない・・・この世界に医術がある限り、、、本当はあってもいい魔法医術なんだ。
だが、、、ワーウルフ化を治してくれる魔法医が、、すでにこの世にいない・・・
魔法医の中では一番優秀なんだろう・・・『インレイル=ハザード』、、、
赤毛の虎獣人、18歳にすでに世界中から依頼をもらっていたほどの魔法医だった。
しかし、今から100年前、ハザードが突然姿を消したのだ・・・
ワーウルフ化を唯一治せる魔法医だったが世界中のほとんどの患者を治したら・・・
姿を消してしまったという・・・そのとき彼は23歳だった。
確かに100年前って事だけあって生きてる可能性は低い、、、絶望的に・・・
考えてももらって欲しい、優秀な魔法医が一人で世界を旅できるだろうか?しかも、、人に姿を見せず
確かに、森の奥でひっそり暮らしているとしよう、誰にも見つからないで暮らせるか?何故そんなところに住んでいるのか?
そう、、、この世にすでにいない人物を探しても、、、無駄なのだ・・・
「大丈夫!レンの病気は必ず治せるって!俺が保障するよ!」
無責任な発言した。心の中では罪悪感を感じた。
「うん!」
レンの笑顔が、、、俺の胸にグッサリ剣のような物で刺された気分だった。
俺はしばらく、嘘の笑顔をレンに見せた・・・、そして、レンは安心したように降りていった。
俺は、、、さっき言った事を、、、後悔した・・・
しばらくの沈黙、波の音しか聞こえない・・・、俺は空を見上げた・・・空にポッつりと・・・月が見えた。
丸い、、、満月・・・・・・・・・・・ん・・・?満月・・・?
「まさか、、、」
俺は船縁に身を乗せ周りを見た。船の周りに数匹、、、大きな光を放った生物が泳いでいた。
ちぃ、、気がつかなかった!
俺は飛び降り、寝床に向かってハンモックに横たわる大きな物体に向かって・・・
「エル!魔物だ!起きろ!」
エルが飛び起きた。俺がすぐに甲板に向かった、途中、エルは熟睡していたのかハンモックから落ちたような音がした。
俺は剣を抜いた。そして、周りをずっと泳いでいる、、、
エルがすぐに出て来た。両手に刃をつけた状態で、、、
そして、一匹、、、大きな魚に角が生えたような魔物が飛び出してきた。
甘い!、俺はそう思い、すでに唱えていた魔法を解き・・・・
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」
魔物の断末魔の声、、、そして、船に身を乗せた、、、え・・・?
ちなみに俺が放ったものではない、魚のような魔物は口から炎を吐いて自分から倒れたのだ・・・
「なんだ・・・?」
エルがいきなりの事で呆然としながら言った。そして、俺たちは吃驚した。その魚のはらわたがいきなり動き出したのだ。
そして、、、、
びちゃ!
グロテスクな音を出してはらわたで動いていたものが出て来た・・・
「いや〜、危ない危ない、、、危うく消化されるところでした。」
にこやか〜に出てきたもの・・・俺が良く知っている顔だった。
「ん、、ここは?」
「お前は一体?」
「し、、し、、、師匠・・・」
俺の言葉に、、、眼鏡をかけた蒼い狼が・・・俺を見た。
そして、何かを思い出したかのように師匠は、俺の近づいてきた。
「クレス、お久しぶりですね・・・一体どこに行ってたんですか?」
「いや、、それはこっちの台詞ですよ師匠・・・あ、、」
俺は師匠をエルと後ろにいるレンやテットの近くへ引き寄せた。
たぶん、突然の出来事で何がなにやらわからないんだろう・・・
「師匠、これが俺の仲間、、エルとレンとテット、、、みんな、これが俺の師匠、、、ウォルト・・・」
「初めまして、私はウォルト=エイリクスと言います。」
師匠が深々と頭を下げて、エル達はそれにつられて頭を下げる
「えっと、、師匠、この事は明日説明してもらえますか?」
「え、、あ、はい、わかりました・・・それでこれは誰の船なんですか?」
俺は無言で自分を指差した。そして師匠はそれを見てふふっと笑った。
久しぶりに見た師匠の姿を見て・・・俺は一応安心した・・・



Q1、どうしてあんなところにいたんですか?

「えっとですね、、ちょっと魚釣りしていたら・・・釣られちゃいましたね、、」
微笑しながら言うなよ・・・
次の日の朝、俺達は甲板で一応、師匠に事情を説明してもらった。
つまり、そう言うことなのだ。釣りをして釣られて食べられた・・・
普通の人に話したら嘘の話のように聞こえるが・・・師匠ならやりかねない
この人は昔っからこんな状態なのだ。のんびり屋の、、そして、極度の方向音痴の・・・
ちなみに言っておくが、俺と師匠が出会ったのはウィレッツ大陸、俺達のもともと住んでいた大陸
その大陸から出るには高い山々を越えてやっと違う大陸に足を踏む事が出来るのだ・・・
だが、師匠の話によると、ただただ歩いていたらこんなところについていた・・・
まぁ、そんなのが師匠だ。
近くに町があってそっちに進んだつもりであっても全く逆方向に進んでいたり
・・・・普通は、分かると思う・・・・
「あ、クレス、噂で聞きましたけど・・・目的を達成したようですね」
師匠がにこやかにこちらを見る、俺は黙って頷く
「ちょっとした御褒美に、、、これを差し上げましょう」
そう言って師匠は自分の懐から黒い大きな水晶のような塊を出した。
もしかして、、、これはっ!
「黒水晶、、、違う名前で闇水晶と言いますけど、、」
やっぱり、、でも、俺は文献で見たことあるだけで
それの詳細、どこで手に入るのか全く分からなかった。
だから、実物を見るのはこれが初めてだった。
「クレス?どうしたの・・・?不気味な笑みを浮かべて・・・」
レンが心配そうに言った。
しまった、、顔にでてたかッ!
「なんでもない♪とりあえず、師匠、ありがとう♪」
「言っておきますけど、売っては駄目ですからね?」
「ちぃ、、ばれたか」
そう言いながらそそくさと黒水晶を荷物袋に入れた。
師匠が相変わらずの笑みを浮かべて
「変りませんね・・・あなたも」
「あははは♪」
波の音を聞きながら船の上で笑い声が響いた。
水平線にはまだ島は見えない・・・
そして、、これから起こる事は誰も予想できなかった・・・