第3章 Memory!宝石に宿る力
天に大きく光照らす太陽。
今現在僕が立っている場所は、雲が当然のごとくとおりすぎていく。
ずいぶん高いところにきたしなぁと苦笑しながらも、僕らは足をすすめている。
何故かと聞かれれば、僕らのほかに同じジュエルを狙っているものがいるのだ、当然、のんびりはしてられない。
そして、僕らは先ほどまで竜と対峙していたのだ、もしかしたら追い抜かれている可能性もある。
そうなってしまってはもう打つ手が無い。
イリアスの案内で、ジュエルの反応がある場所へと僕らは走っている。
ジュエルの反応は、魔力を帯びているせいで結構わかりやすいものだという。
だが、高レベルの魔術を備わったジュエルとなれば、そうもいかない。
僕らはちょうど一つ、その高レベルの魔術が備わったジュエルと数個ほど持っているが、それのどのジュエルも『プロテクト』がかけられた状態で見つかったのだ。
『プロテクト』と言うのは人、または物にかけることによって、そのかけたものは薄い膜のようなものに包まれると思って欲しい。
その膜がバリアの役目をして、あるいは防御に、あるいは魔術による攻撃、探知などを妨げる効果があるのだ。
そして、高レベルになるほどプロテクトがかけられたものが多いという。
最初は人為的なものかと思っていたが、記憶に鍵をかけるように、またジュエルにプロテクトがかけられたみたいとイリアスの推測で終わったのだが……
まあ、あのイリアスがわからないものは僕らにはわからないと言う理由もあるのだけど、まだまだジュエルは謎が多いのである。
この数ヶ月でジュエルを利用することができるだけでもだいぶ大きな進歩だと僕は思う。
しばらく歩いていくと、思っていたほど広がった空間が目の前に広がっていた。
数本の柱と思われる土柱が天に向かって伸びており、下を見れば結構奥深く空いている穴がある。
例えば、大きな球形がここにおさまっていたとしよう、それが突然消えうせ、なおかつバランスを保っていたのならこんな感じであろう。
しかし、円の中心とも呼ばれる場所から、自分達までのところまで危なっかしい道が続いており、ちょっと怖い気がする。
だが、そんな思いを知ってか知らずか、イリアスは一目散にその道を走っていった。
「ちょっと、もうちょっと慎重にいかなくていいの?」
そう声をかけると、イリアスは立ち止まって―
「大丈夫よ、構造上ある程度の重み振動なら耐えられるような設計になってるわ。
おそらくだけど、人が100人集まってもここは崩れないはずよ」
自身満々にそう告げて、今度はスキップをしながら真ん中へと向かう。
女は強し、もしかしたらこの世で一番怖いもの知らずなのって女性なんじゃないだろうかと時々思う。
心の中で苦笑しつつも、僕もイリアスの後をついていくように走っていく。
中心は意外と静かであり、風の切るような音が響いてこない。
一体どういう構造になってるんだろうか、これって人の手で造られた物?それにしては人の技術レベルじゃ、到底不可能に近いほどの安定を保っている。
だからと言って、人の手によって造られた以外に、自然現象で発生したとしたらこのギリギリの安定をたもってそうな構造だったら、それこそ先ほどイリアスが走り抜けていくときに崩れているはず。
残るは……魔族……
まあ、こんなに真面目にモノローグをしていて、ハズレだったらものすごく恥ずかしいけど……
さて、それはぞれとして、今僕達の目の前にある、青白く輝くジュエルが置いてあった。
おそらくこれがイリアスの装置の検索に引っかかったジュエルだと思う。
サファイアを思い浮かべさせるそのジュエルの大きさは、握りこぶしぐらいだった。



僕達は船に戻り、ブリッジにあるそれぞれの椅子に座っていた。
後を追ってきているはずの三人組とは出くわさず、来るよりも苦もなく帰ることができたのは幸いと思っておこう。
「頑張った割には、少しちっちゃいわねこれ」
少し不満げな声をあげるイリアス、その手にはあの紺碧のジュエル。
ジュエルと言うのは、大きさなどでジュエルに封じ込められているものが強いといわれている、その分、使うときのデメリットも大きいわけだけど……その分のメリットもけっこうあったりする。
メリットその一、詠唱を短縮しても強力な魔術が使える。
少し前、魔術ってのは詠唱を唱えてから発動するものなのだが、小さいものだとさすがに力を引き出しにくい。
だが、強力なものは力を引き出さなくても発動しちゃえばかなり強かったりする。
詠唱なしの強力魔術ほど、怖いものは存在しないだろう。
メリットその二、使用可能な魔術の数。
大きいジュエルほど、魔術が封印されている数が多かったりする、しかし、数が少ないほど強力なものが封印されてあり、多すぎると逆に必要なくなってしまうというデメリット。
例えば、今回手に入れたジュエルに1〜3個ほどの魔術があるのなら、それなりに使えるものになるだろう。
んで、デメリット。
イリアスが開発したブースタはそれぞれのステータスに合わせて作られているので、何十もののジュエルを組み込むことは不可能なのである。
強力な魔法を単品で攻めるか、多種多様の魔術を駆使するかと選ぶ必要がある。
まあ、どちらにせよ、『勉強をしないでも魔術が使える』ってこと自体かなり大きなメリットなきもするのは、たぶん気のせいじゃないと思う。
「そう言うなイリアス、見つかっただけでもいいじゃないか」
アレクが相変わらずの眠たそうな目をしながら、イリアスを慰める。
「いーや、あたしの機械がはじきだしたジュエルよ!これの何倍の大きさでないと困るわよ!」
その何倍の大きさのジュエルがあったらブースタも入らないし、誰が困るんだろう……
「とりあえず、中身を見てみる必要はあるわね……」
そういうと、アレク、僕、テットの順に見回して―
「んー、そうね……レン、先に見ちゃっていいわよ」
「え?あ、ちょっとっ!」
いきなり放り投げられたジュエルをどうにかキャッチして、まじまじと宝石を見る。
「ほら、あんたは消えた親友探しのためにジュエル探してるんでしょ?
テット君の目的はわからないけど、アレクの目的はお金だし、あたしは退屈しのぎで、遊びで探してるようなもんだから、一番最初に見る権利くらいはあるでしょ?」
「ええっと、まぁ……」
「なら、さっさと見なさい!」
言われるまま(とゆーか命令)にイリアスから受け取ったジュエルを、ブースタの挿入口にセットし、ひとつのボタンをポチッと押す。
ブースタが少しけたたましい機械音をあげ、セットしたジュエルが光り輝いていく。
自分の視界が急に暗くなった気がした。
一人の人間の視線、他人から見ると映像がそのまま視界になってるように見える。
映像に映し出されているものは、一つの宿屋のようだ。
木製の床に壁に椅子や机、どこの宿にもあるごく普通の部屋。
しかし、一つの椅子には、人間の女性が座っていた。
映像が乱れているせいか、鮮明には見えないが彼女は白に近い水色の長髪に、紫色の瞳をしていた。
―よく眠れたか?―
―いーや、どっかの誰かさんが邪魔しまくったせいで全然寝れなかった―
女性と、記憶の主が話をする。
―修行不足だな、私はちゃんとしっかりと寝れたぞ?―
―お前な……―
溜息が吐き出される。
―ベットに寝てたお前が、床に寝てた俺の上に寝返りで落ちてきたんだろうが!しかもそのまま熟睡してるし!―
―むっ、それはいかん……すぐに役所に知らせなければ……変態狼が出たと―
―いきなり嘘をつくんじゃねええぇぇぇっ!―
息が乱れながらも、記憶の主が絶叫する。
―ミウクのせいだろうが!ミウクの!どかそうとすると蹴られるし、やっとどかしたとしても寝返りでお前……いや、思い出したくない……―
ガクッと顔を下に向けたのか、画面が床へと切り替わる。
―ふっ、それこそ修行が足りない証拠だ、私が鍛え上げてやったのだ、感謝ぐらいしてもらいたいな―
―ほほぅ……いたるところで俺のおごりにしておいて感謝だぁ?―
―それとこれとは全然話が違うな、私は鍛え上げてやったことを話しているのだぞ?今ここで食事代や宿代やらのおごりの話をしているわけではない―
―…………―
―と思ったが、そうだな、何度もおごってもらっているのだから感謝ぐらいはしたほうがいいだろう、だから感謝してやる、ありがたく思え―
―火炎球っ!―
突如映像が乱れ、そこから映像が流れなくなった。
「ええっと……」
僕は頬をかきながら、今の記憶を思い出していた。
行動も声もそっくりだが、本人が出ているところがないため、確信まではいたらない。
「どうだった?」
テットが僕の裾を引っ張りながら笑顔で聞いてくる。
僕は撫でながら―
「ちょっと、手がかりみたいな物が見つかったかな、って」
苦笑しながらそう言った。
僕はセットしていたジュエルをイリアスに渡すと、イリアスは満面の笑みを浮かべて
「うんうん、まあ手がかりが見つかってよかったわ!これからばんばん探すわよ!」
いつもの元気のよさをいかしきった感じにそう言ったのだった。

できれば、戦いのない場所へ行きたいなぁ……