第2章 Killer shot?破壊の天使?
天気は見えないが、おそらく晴れ。
それでも暗い洞窟内に、響く足跡の数……
その洞窟に流れる風が自分を通り過ぎていき、髪やフードをもてあそんでいく。
いや、もしかしたらこれ以上先には行かせない様にしてるかのようにも思えるぐらい強い。
しかし、変わらない速さで僕らはその洞窟内を駆けていく。
「なんでしょっぱなからフルマラソンしないといけないんだろう……」
僕は溜息混じりで言った。
ふと、後を見てみると、テット、イリアス、アレクの順についてきているのが見えた。
どことなく、と言うか表情でわかりやすくテットとイリアスはこの状況を楽しんでいるようにも見えた。
「あら、楽しくていいんじゃない?それに、あいつ等があたし達に追いつけることはまず無いと思うわ」
自身満々にそう言ってのけたのはイリアス、走っている最中にもかかわらず威張るように胸をつきあげる。
その様子に僕とアレクは苦笑せざるおえなかった。
彼女はいつもこんな感じである。
最初の頃はあんまり慣れなかったが、慣れればそうたいして気になることも無い。
むしろ、それが彼女なのだと判断できる。
まあ、自称天才科学者兼魔道士なんて名乗ってる時点で、本当は僕は好きじゃなかったのだが……
慣れと言うのは結構恐ろしいものなのかもしれない。
今考えると、クレスも良く慣れたなぁっと内心苦笑する。
「最近、苦笑しかしてない気がする……自分……」
誰にも聞こえないようにそうつぶやいた。
クレスがいたときは、最初はもちろん慣れなかった。
どうしてこんな人がいるのだろうか、なんて思ったぐらいである。
でも、長い間いたせいか、それもあんまり気にならなくなった。
それがクレスであり、なくなったらクレスじゃないようにも思える。
ところ構わず大魔法をくりだし、盗賊相手に大魔法をくりだし、怒り任せに大魔法を……
そう考えていくと、クレスってやっぱり大悪人なのだろうか?
うー……まあ、それは本人に聞くしかないとは思うが、聞いても返ってくる返事はわかる気がする。
……とりあえず―
「イリアス、頂上まで後どれくらいなの?」
「そうねー……あと一時間ぐらい走れば着くんじゃない?」
「曖昧だな、さすがに自称美少女天才科学しっ………!」
「ちょっとイリアス!?こんなところでアレクいじめるのはやめてあげて!」
アレクのぼやきに、イリアスが反応して後蹴りを食らわしたのである。
当然のごとく、アレクはバランスを崩してその場で倒れた。
「盗賊風情のアレクに、そんなこと言われる筋合いはないわよ」
僕らは一旦足を止めて、後を振り向く。
「アレク、大丈夫かな?」
テットがちょっと心配そうにつぶやく。
ちょうど曲がり角だったせいか、見事に壁に跡をつけたのち倒れたようである。
あ、ぴくぴく痙攣してるし。
自分は悪くないと言った感じに、イリアスが腕を組んでいる。
僕はアレクに近づいて。
「大丈夫?アレク……」
「……………」
やはりピクピクと痙攣したままである。
「もう、しかたないわね……!」
そうイリアスが言うと、アレクの服を引っ張り―
「いっ!?やめてやめて!擦れるからそのまま引っ張っていくんじゃないいいぃぃぃぃぃぃ!!!」
イリアスがそのまま悲鳴をあげているアレクを引きずりながら走っていった。
そんな光景を、どういう表情で見たらわからないまま、しばらくして我に返った。
気づいた時には、テットもいつの間にか洞窟の奥へと走っていた。
……テット、どことなく楽しそうだし……
「やっぱりまだ慣れてないかなぁ……」
自分の苦笑しながら、僕も3人の後をついていったのだった。


「科学者にこんな重労働させるんじゃないわよ」
そんな言葉が出たのは、アレクをやく一時間ほど引っ張ってきた辺りだった。
その間にも、壁にぶつかったり、岩の突起物にぶつかったり、擦れたりして、アレクだけなんだかボロボロだし……
ともあれ、すでに頂上は見える位置にまで近づいていた。
その間、まったくティト達の姿は見ていないが……追いついてきていないのだろうか?
ふと、後に目をやるが、やはり誰もいない。
そして改めて前を見る。
岩山がそれぞれ錐になって、天へ伸びていくような風景である。
ただ、若干その先端は曲がっており、数本あるその錐は一箇所の天に伸びているかのように見えた。
違う例えで言うならば、その先端の一つ一つを弧を描くようにドーム上に何かがすっぽりとはまりそうなかんじである。
まあ、当然のことながら、ドーム上のものなんていうのはないが、もしあるならばぴったりとはまりそうである。
自然の神秘と言うべきか……
「ふふん、思った通りね!」
腕を組んで、うんうんと頷きながら満足そうにイリアスがつぶやく。
その横でテットがまねするように腕を組んでうんうんを頷く。
「こんな場所を開拓するのは難しい、けれど、やはりお宝ってのはこういう場所にあるってのに限るわ!
そんな道端に落ちてそうなジュエルよりか断然こっちのほうが盛り上がるってもんよ!
それはそうと、何故あんな自然の情景、違和感もなく錐となって岩が突き出るのかしら……自然の力と一言で終わらせるにはもったいないわ……」
「ちょいちょい、イリアス……できればさっさとあそこにたどり着いたほうがいいんじゃないかな?」
なにやらぶつぶつ言い始めたイリアスを、僕が声をかけて我にかえす。
「んー、そうね、あいつらが来るのには十分な時間をくっちゃったわけだし、急いだほうが良さそうね……
ほらアレク!何のびてるのよ、さっさと行くわよ!ほら出発!」
「だああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ引きずるなああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「………行っちゃった……」
「レンー!早くいこー!」
イリアスがアレクを引きずり、その後をテットが追う……って、あれ?でじゃぶ?
少し頭を掻き、僕もその後を追おうとしたその時。
急に自分の周りが暗くなった。
しかし、それも一瞬。
影がちょうど、僕の真下に来たようである。
その影が、テットとイリアス達のあとを追うようにのびていく。
その影の様子から、あきらかに人の形ではない!
「テット!イリアスにアレク!上を見て!」
僕の言葉に、イリアス達は同時に足を止め、空を見上げた。
その瞬間、その影を中心に風が巻き起こり始める。
『何か』が着地をしようとしているのだ……
その影は、ちょうどテットとイリアス達の間にいる。
僕は風で土が目に飛んでくるのを避けるため、腕を目に付近にやり、なんとか空を見る。
『竜』。
頭と尻尾は同じくらい長く、その隅々まで鱗が覆う種族である。
しかも、その鱗さえ黒く染め上がっている……黒鎧竜と呼ばれる種族だ。
かつて、一度だけ対峙したことがある竜、その時はクレスがいたおかげでなんとか撃退することができたのだが……
『ぐぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
その姿とは似つかわしい声を響かせ、大地を揺るがす。
その竜が、今地面に――着地した。
「くっ!?なんでこんなところに黒鎧竜が……!」
僕はテットの近くまで駆ける!
テットは、一つの手のひらに納まりそうな球体を取り出すと、それを握り締める。
その瞬間、まばゆい光を放ち、その光がおさまるとテットの手には似合わない大剣が現れた。
イリアスが作成したと言われている大剣である。
精霊の力が消えてしまったせいか、テットの強靭な力はほとんど発揮されなくなってしまったのだった。
しかし、それでも大人一人には簡単に勝ててしまうほどの怪力を持ち合わせているため、ナックルから大剣へと武器を変えたのである。
とゆーか、どういう原理をしたら、あんな小さい球体に大剣が納まるのかは少々気になり、聞いてみたら企業秘密の一言で終わらされてしまった。
テットが大剣を構えて、竜と対峙するが、竜のほうはイリアスとアレクのほうを見ている。
「テット、今はイリアス達と合流、それからなんとかしよう!」
「わかった!」
大剣を背負うように片手で持ちながら、竜を大きく大回りして正面へと移動する。
そこには、背負っていた棒を構えているアレクと、その後で簡単な杖のような棒を持っているイリアスがいた。
「イリアス!」
その言葉と同時に、黒鎧竜の口から、黒く燃え上がる炎がイリアス達に向かって吐き出される。
距離は短いほうではないが、長くもない!
ほんの数秒数えるぐらいで当たる瞬間――
「炎封滅殺!」
アレクが声を大きくして唱えた呪文が目の前で発動させる。
赤く見えるその盾は、黒い火炎球を受け止めると、その火炎球を消滅させてしまった。
「厄介ねェ……こんな強力なのがいるとは思わなかったわ……」
「イリアス!アレク!大丈夫?」
なんとか近づいた僕とテットを、イリアスがブイサインを決めて。
「余裕よ!」
「余裕じゃねぇ!?」
イリアスの言葉にアレクが即座につっこむ。
「何よ!私にかかれば黒いトカゲもそこらへんにいるトカゲも一緒よ!」
「ならさっさと倒してもらえないかな?俺としてはちと厄介なんだが……」
「無理よ!」
「即答するなよ!?」
そんな言葉を交わしながら、黒鎧竜の攻撃をアレクが何度も防いでいる。
ここは一つ……
「アレク!テット!イリアス!できるだけ時間を稼いでくれない?」
僕の言葉に、三人は頷いて。
『了解!』
そして、それぞれ散り散りに分かれる。
僕は後へ、テットとアレクとイリアスはそれぞれ横手にまわったり、前に走ったりしている。
前に走っているのは当然のことながらアレクである。
アレクは炎封滅殺を発動しながら、ぶつぶつをつぶやいている。
『我が求めるのは――冷血なる白銀の大蛇!』
高らかに響くその声と同時に、アレクが持つ黒い棒が淡い光を放つ!
その光がおさまるとき、アレクの手にあるのは自分の背の二倍はあろう大剣が!
「当たると、痛いぜ!」
その体格には似合わない速度で動き、竜の足をかすかに傷を付けていく。
アレクの武器は、本人でさえわからない代物だそうだ。
ある人から見れば魔力が込められた武器と言われたこともあるのだが、魔法がなくなった今、その話の信憑性も薄く感じる。
何はともあれ、自分は準備に移る。
なにもただ遠巻きに戦闘を見るわけではない。
手ごろな岩山を見つけ、その上に立つと、ちょうど真正面に竜が見える。
僕は空中に手をかざし、目を閉じた。
「兄ちゃん……来て!」
その言葉に反応するかのように、僕の手に大きな大剣が姿を現す。
その姿は白銀に覆われ、どこか神々しく思わせる。
柄と剣の間に鈴があり、振るたびに剣の斬る音が聞こえず鈴が鳴る。
神鈴剣……兄が自分に残した最後の代物である。
何故か、この剣だけ、ジュエルと同じような効果を発揮し……ブースタにセットしなくても、この力を使える。
あまりよく考えなかったが、兄が残してくれた何かだと、僕は思っている。
僕はその剣を地面に強く突き立てた。

〜心悪しき者よ
  我が聖なる裁きを受けよ
  我は汝を裁く審判者
  その心、変わらぬのなら
  等しく滅びを与えん!〜

僕の周りの地面から、光の粒子が空へ伸びて消えていく。
しかもそれが数えれないほど空へ伸びて消え、また地面から生まれそして消える。
地面に突き立てた大剣を抜き去り、それを両手で持ち。
大きく振りかぶる。
黒鎧竜の周りに浮かぶ六芒星の魔法陣、その魔法陣が現れた瞬間、イリアス達はそれぞれその陣から離れる。
雲の間と言うべきか?
相当高い場所にいるはずなのに、雲が空をおおって、その間から光が漏れる。
『ホーリィジャッジメント!』
その一言とともに、大剣を縦に大きく斬ると、光漏れる場所から一条の光が竜に向かって突き刺さる。
一条の光が突き立つと同時に、同じような光が魔法陣の中で降り注ぐ。
束になった光がよりいっそう強くなり、目がくらむほどの光を放つ。
竜の断末魔などは聞こえず、ほどなくして……
「……よし、びくとりぃ!」
竜の姿は消え、そこに残るのはただの岩の平原だった。