第1章 New start!ジュエル争奪戦!
日がじりじりと照りつける季節。
深緑の森に木漏れ日が、不思議と暑さをやらわげる。
今現在、僕の目の前にあるのは、断崖絶壁の山。
高さは雲が被るぐらいの大きさである。
本当に――『断崖絶壁』の一言で終われそうである。
「こんなところに本当にあるの?」
僕は、疑問の色を表情に浮かべながら、イリアスにいぶしげに聞く。
真紅の髪を、ふさっとかきあげながら―
「当然よ、あたしに誤算は無いわ」
自身満々に答える。
まあ、それならばいいのだが……
僕は、こつこつと断崖絶壁とは逆の方向に足を運ぶ。
「なんで、ここで降りちゃったの?」
僕らのいるところは、断崖絶壁の途中―である。
下には深緑の森が広がる……おそらく下にいれば上のような感じであっただろう。
しかし、何故かイリアスはこんな途中のとこで降りたのだった。
「まあ、あたしにも誤算の一つや二つ……」
「……さっきと言ってること違うじゃん……」
ちなみに降りると言うが、ワープとも言う。
船の一部にワープしすてむと言う機械が備わっていて、行きたいところへワープできる代物なんだが……
「ま、そうそう上手くいくことはないと思いなさい。命だけは、助かったんだから」
「いっ、命以外は助かってないの……?」
溜息を吐きながら、また断崖絶壁の山を見上げる。
魔法で行けばすぐなのだが、その分また体力を消費してしまう、それは目に見えている。
ふと、少し下に視線を落とすと、金髪の虎が、うんしょっ、うんしょっと声を出しながら登ろうとしてる。
「いや、無理でしょ」
「あぅ……でも、これ登らないといけないんでしょ?」
パンッパンッと山―いや、崖を叩く。
「……シルフ・ウィングだったら、一応セットしてきたけど……」
「なら、それを使ったほうが早いんじゃないか?」
アレクが眠たそうな瞳でこちらを見ながら言う。
白銀に光るその髪は、肩辺りで長くぐるぐると結ばれており、その先端には尻尾のようにちょこんと髪の毛が出てたりする。
盗賊と言うには、あまりにも威厳と言うものが無いというか……威厳を持っても困るけどね。
僕は観念したように、大きく息を吐いて―
「しょうがない、まわりに集まってー」
テットが赤いマフラーをなびかせながら、走って近づいてくる。
手の届くようなところまで近づいたら、僕は目を閉じ、詠唱する。
「猛き風を巻き起こす者、天空を舞う静かな風と共に、我に翼を与えよ」
ブースタが緑色に光りだす―
「願わくば、その宝石に封じられし力、解放せん!シルフ・ウィング!」
その言葉と共に、風が―僕らを翼のように包み、風の結界ができあがる。
ジュエルを使っての力。宝石に封じ込められし記憶と魔法。
何故、こんなことになったのかはわからないが、確かに今存在する。
「いっけえぇぇ!」
僕は声を上げて、断崖絶壁の上へと風の翼を移動させる。
ぐんぐんと登っていく傍らであくびするアレク。
ちょっと殴ってみたいと思ったが、集中が切れるといけないのでやめておいた。
……やっぱりクレスに似てきたのかなぁ……
雲が風の翼にまとわりつきながら飛んでいき、何事もなかったかのように、ただただただよう雲に戻る。
ちょうど、降りれそうな場所を見つけ、一旦僕はそっちの方向へ向かい、術を解除した。
「ふぅ……」
「よし、ごくろーさま!」
嬉しそうにイリアスが言う。
どこかクレスの面影が見える気がする……
っと、あんましじろじろ見るのは良くないと思い視線をそらす。
良く見ると、雲に隠れながらも、ぽっかりと空いた空洞を見つけた。
「おい、あれはどうだ?」
アレクも気づいたようである。
僕の肩をぽんぽんと叩き、先ほど見ていた空洞を指をさす。
「僕もちょうど同じとこ見ていたよ……」
笑いながら返す。
そして、先を改めてみると、いつの間にやらテットとイリアスが先に空洞の前に立っていた。
「遅いわよ、二人とも」
「ごめんごめん!」
僕とアレクは二人に向かって駆け出した。


「ジュエルの反応からして、たぶん頂上付近ね」
イリアスが、なにやら色んな言葉が書かれた手帳を見ながら言った。
あれから空洞を通り、出たところから伝って頂上へ進んでいく途中である。
やはりと言うか、断崖絶壁も登って高いところから見ればかなりいい景色が見られる。
今も、登る方向とは逆を見ると、雲が薄くかかった大陸が見える。
広くなったな、世界はと感傷にふけることもできる。
「がんばろー!」
「おー!」
テットの掛け声にイリアスが反応して声を上げ、アレクはというと、その後をのんびりとついていく。
端から見たらピクニックにも見えなくも無い光景だな、と苦笑する。
その時――
「お、お前ら!?」
突然後から声がかかった。
テットとイリアスがすぐに反応して後を向いた後、僕も後を見る。
実際、こんなところで声がかかるなんて珍しい、というか無いに等しいぐらいである。
それなのに声がかかる、しかも『お前ら』ときたもんだ。
ただ、声に心当たりがあるわけで……あんまり僕も後を向きたくないのだが……
「……また、邪魔しに来たの?」
僕は疲れたような口調で言う。
そいつらは三人組だった。
一人は年は20代だろうか?軽装で剣士とも思わせる服装、金色の瞳に金髪の髪をした狼の獣人
一人は年は僕と同じ10代後半、髪の毛は緑に近く、大きなバンダナをつけたシーフの姿をした犬獣人。
そして最後は、こちらも同じ10代後半、青と黒のラインがある服を着ており、切れ長の瞳に黒い髪を持つ無口な黒猫。
色々なところで僕達と対立し、ジュエルの奪い合いをする同士であり好敵手である。
ライバルって本当にいるんだなぁと、苦笑交じりの笑みを浮かべる。
「その言葉をそのまま返させてもらう、俺達が目に付けたジュエルだぞ!」
狼の獣人のティトはそう声を上げた。
僕は頭を掻きつつ。
「いやぁ、目をつけたジュエルって言われても、早いもの勝ちじゃないの?」
「そうだな、それについて文句を言えることのほうがすごいな」
「脳みそまで空っぽなんじゃないの?ダメよアレク、あんな人たちと話しちゃ、貴方の頭の中が空っぽになっちゃうわよ?」
「ならねぇよ!」
僕とアレクとイリアスが口々に言う。
そのからかい、または挑発ともとれる発言に、ティトは激昂し。
「黙れお前ら!? よし!そう言うならどっちが先にジュエルを手に入れるか勝負だ!」
ビシッとも音が鳴りそうなぐらい強く力を込めた指がこちらに向けられる。
「やれやれ、うちのリーダーは短気なんだからなぁ……」
「カルシウム……足りてないんでしょ……?」
犬獣人のフィリーに黒猫のジリースが溜息混じりな口調で言う。
そこにちょうど良く、雲がティトの前を通り過ぎた。
「うわ!?雲が邪魔だ!?」
そんな声を上げる。
まあ、いきなり目の前に雲が現れたらちょっとびっくりするかもしれないけど……
その雲が通り過ぎて、ティトが改まって声を上げようとした時、その異変に気づいた。
「うわ!?先に行きやがったあいつら!」
そう、ちょうど良く雲が来たときに、僕らは踵を返して走り出していた。
卑怯とは言わないでというほうが無理だろうけど、まあ、作戦の一つと思ってほしい。
ともあれ、ジュエル争奪戦が始まったのである。