Story to the NEXT〜新たなるプロローグ〜
天に月が高く昇る夜、閃光が煌く、それは青やら赤やら白やら。
攻撃呪文の応酬、その閃光は、屋根に当たると、凍ったり、燃えたり、破壊したり。
氷がより閃光の光を増すようにも見える。
そんな大騒ぎしていても、人々は深い眠りに落ちてる。
いや、もしくは気づいていて目を逸らしているだけか。
白い影が、家の壁を伝って、屋根へと上る。
そこへ、赤い火炎球が飛んでくる。
しかし、その影は動揺せず、当たらぬよう、ひらりと身をかわすだけ。
すると、影は天にむかって印を描き出す。
その描かれた印から、青い閃光がいくつも飛び出て、『何か』を目標にし、進んでいく。
『何か』は自分に向かってくる閃光を避け、屋根の上へ身を躍らせる。
二つの影が、月をバックに対峙する。
一つは、紺碧な髪をもち、白い毛皮を持った少年をほうふつさせるような身長の獣人。
そして一つは、月の影をものともせぬ、真紅なる長髪を髪にもてあそばれ、
切れ長のその瞳には不気味に光る真紅な色、それもまた獣人だった。
白の獣人は、驚いたように赤髪の獣人に何かを問いかける。
だが、赤髪の獣人はまったく口を開こうともしない。
しかも、また新たな火炎球をその手に生み出し、放つ。
白の獣人は、動揺を押し込み、別の屋根へと飛び移る。
そして赤髪の獣人に放たれる氷の矢。
だが、獣人は避けようともせず、虚空に印を刻み、赤い淡い壁を生み出す。
壁に衝突した矢は、瞬時に溶け、その形を失ってしまう。
別の屋根に着地すると、白の獣人はまた問いかけるように声を張り上げる。
赤髪の獣人は無言のまま、また新たに印を刻む。
その描かれた印から、赤黒い閃光が放たれる。
かなりの距離があり、かわそうと思えば簡単にかわせただろう。
――しかし、少年はかわさなかった。
閃光は、少年を包み込むと、悲鳴さえかき消すほどの爆発を発動した。
戦いは、あっけないほど、早く終わった。
赤髪の獣人は、天昇る月を、朝日が出るまで見ていたという。
「わあっ!?」
僕は大きな声と共にベットから飛び起きた。
全身と言う全身から、汗を感じる、おそらく夢の所為。
僕は心を落ち着かせてから、辺りをみまわす。
高級な宿の一室のようにも見える、しかし、天井、壁、床、すべて鉄でできている。
もう少し落ち着こうと、僕は窓の外を見る。
現在、大空を舞うこの船は、今は僕達の住処となっていた。
時折、窓から通り抜ける雲。
下を見ると、そこには青い海が広がる。
この船は、空を飛び、今や僕は各国へと飛び回っていた。
そこへ、扉が大きく何度も叩かれる。
「レン?起きたの?」
どんっ!どんっ!どんっ!
響くその扉は、音が扉の悲鳴のようにも聞こえてきた。
僕は慌てて、その声に反応する。
「あ、起きたよ!テット!」
すぐに扉の悲鳴は止み、僕が扉を開けると、そこには金髪で金色の瞳をした虎獣人、テットの姿があった。
テットはきょとんとした様子で、僕を見る。
「レンが一番お寝坊さんだよ!退屈だったんだからボク!」
すぐに笑顔で、そう言うテット。
レンと言うのは、僕の名前。
記憶喪失の時に、唯一覚えていた名前である。
僕は苦笑しながら、その様子を見る。
テットは昔から見てて飽きない子だったしなぁ、なんて思っていた。
僕は再び、窓の外を見て、今までのことを振り返る。
クレスが消えて早2年……19歳になった僕は十代の最後を迎えていた。
僕はとある理由で、全国を飛び回って、ある物を探す旅に出ていた。
ま、それがある意味旅のきっかけになったんだけど、それを持ってきたのはテットだけどね。
クレスが消え、僕達が聖都市へと帰還したそのすぐ後だった。
世界の空と言う空に、赤、青、黄色、緑、いろんな様々な色の閃光が空を上り、大地へ落ちてきたのだ。
それを見た人々は、最初は神の怒りや、魔族の復活とあまりいいことが起きると思ってなかったようだ。
まあ、その直後である、世界に魔法が消えてしまったのは。
神様が消え、精霊達も消えた、そうなれば当然魔法の力を借りる精霊や魔族はいなくなってしまった。
しかし、そのすぐ数日後、空から降り注いだ閃光の一つを持ってきた者がいた。
その閃光の一つは、宝石のような形をしていたが、宝石と違ってたのは中心には淡い光を放っていたことだ。
研究者は、その石を徹底的に調べた結果、ある研究者が大きな発明をしたという。
ま、そのある研究者ってのが、今僕達が乗っている船まで作ってしまう人なんだけど。
テットは笑みを崩さないまま、口を開いた。
「食事のほうもできてるからね!ボク、レンが起きるのを待っててお腹すいちゃったよ〜……」
すぐに腹を押さえるような動作をして、笑う。
「あはは、待っててくれたんだ。先に食べてもよかったのに……」
「レンと一緒に食べたいんだ!いいでしょ?」
「……そりゃ、いいに決まってるでしょ」
笑いながらそう言うと、テットもぱあっとひときわ明るい笑顔になる。
「うん!ボク先にいってるよ!」
嬉しそうにかけていくその背中を見て、僕も苦笑しながら食堂へと向かった。
この船は、それぞれの個室、食堂、機関室、動力室、ブリッジ、甲板、あと何故か研究室とプールに、お風呂までそれぞれの個室と、大人数用に完備してたりする。
まあ、それだけ完備すると当然、船も大きくなっちゃうと思っていたが、意外とコンパクト。
いったいどこをどうしたらこんなのにそんなに完備できるんだとつっこめるほどである。
まあ、作った人が作った人だから、しょうがない気もするけどね。
僕は苦笑しながら、個室が並ぶ廊下を歩く。
個室はこの廊下一直線しかないのだが、やはりというかその廊下もかなり長い。
僕の部屋は一番奥なのだが、そこから端を見ると、かなり小さく見える。
そして、曲がり角を曲がり少し階段を下りたらそこが食堂。
カウンターがあり、テーブルがあり、一体何人この船に乗ってるんだろうかと思えるぐらい。
竜やら、竜人やら、獣人やら、と言ってもほとんどが整備者か、この船を作った人の部下、そしてある人の子分達。
僕は辺りを見回すと、僕に気づいた人は挨拶をしてくる。
一通り挨拶をすませたら、テットが待っていたテーブルへ座る。
「お腹減った〜……」
すでに食事は出ていたらしく、テットはよだれをたらしながら待っていた。
その様子に、笑いながら僕は手を合わせる。
「んじゃ、いただきます」
「いただきまーす!」
テットも慌てて手を合わせて食事の一言を言う。
何か忘れてるような、と思いながら食事をしていると、
僕はハッと気づいたように、腰につけていた機械を外して、テーブルの上におく。
ブースタ。
その機械はそう呼ばれていた。
この船を作った研究者が、誰よりも早く開発した機械である。
そして、この中に入ってる物は、淡い光を放つ宝石である。
研究者は『マジック メモリー ジュエル』と呼び、その宝石には、魔法と、また抜け出た人の記憶が込められていたのだ。
何故、記憶までもがそこに込められているのかというのは、まだ誰も解明されていないが、
確かに、この世界に存在していたと思われる人の記憶がその宝石には込められていたのだ。
そして、その宝石の中に……
「レン……また着けて寝ちゃったの?」
「うん……昨日、疲れてたから……」
「……大丈夫?それ着けたままだと、夢で人の記憶がごちゃごちゃになっちゃうでしょ?
僕も前着けて寝ちゃって、変な夢見ちゃったもん!」
そう、ブースタを着けると、着けた瞬間だけ、その宝石にこめられた記憶と魔法が使えるようになる。
記憶は宝石を着けて、ブースタに指示を出すと、その宝石に込められた記憶を見ることができる。
魔法は、ブースタにつけていれば、自然とどんな魔法が使えるようになったかわかるようになる。
当然、着ける数には限りはあるが、着けすぎても重いだけだしね。
ちなみに僕のブースタは、大きさによっては7個が限界、テットは5個だと思う。
無邪気に言うテットに僕は笑うだけだった。
今日見た夢、クレスが僕に……いや、これ以上先は言わないでおこう、涙が出てしまう。
同じような記憶が、僕のブースタの中にあったのだ。
もっとも親しい人に殺されてしまう最後の記憶、その記憶だけ胸に残っていて、
おそらく、ブースタを着けなくても、その夢を見ていただろう……
ぷすっ
皿の上に堂々と真ん中を占領する目玉焼きの黄色い部分を、僕はフォークでつぶした。
黄身が皿の上に広がり、近くにあったソーセージが一部黄色く染まる。
その様子を見ながら、僕はソーセージをフォークで刺して、自分の口の中へ。
「………はぁ、おいしい……!」
噛み締めながら口の中のものを味わう。
「…………」
「………ん?どうしたの?」
「レンってさ……最近、クレスに似てきてない?」
ぶぅっ、!
ちょうど水を口に含んだ時だった。
僕の口から大量の水が噴出し、テットにぶちまける。
「あー……そんなに驚いた?」
冷静というか、普通に笑顔のまま、テーブルにおいてあるタオルで顔をふく。
「驚くと言うか、いきなり何を言うのさ!」
「んー、だってレン、ボクと最初に出会ったときに印象がまったくなくなっちゃった感じだったから……
なんていうか……同じ年だったクレスと似てきてるなぁって思ったの!」
「クレスって、テットみたいな時にはこんなんだったの?」
「んー、雰囲気というか、どことなくー!」
どことなく、か……
僕は口のまわりを拭いて、食事を再開する。
ザザッ―
突然、スピーカーから雑音が響く、その音だけでそこにいる全員の視線がスピーカー移る。
『テット!それにレン!しゅ……』
ガキッ―
『コラァッ!それはあたしの仕事でしょうが!遅刻者二名!ただちにブリッジに着なさい!以上!』
プツッ
静寂な空気がその場に流れる。
僕も持っていた箸を止めて苦笑していた。
「……毎朝騒がしいな、あの二人は……」
そこにいた一人がそうポツリとつぶやく。
そろってみんなうんうんと頷く。
僕は苦笑しながらテットと一緒に食べ終わった食事を返して、ブリッジに向かう。
カンッ、カンッ、カンッ―
走るその足からは鉄の音が足音となって鳴り響く。
そして、見える先には鉄の扉。
普通に見たら、その扉は大人がやっと開けれそうなぐらい重そうだ。
だけど、僕は足を止めることもなく扉に向かって走り出す。
扉は、機械音と共に開き、僕とテットが通り終えると、また機械音と共に閉まる。
最初は驚いたけど、もう今となっては慣れてしまった。
「遅い!そこ二人!」
澄んだ声をしながらも、大きな声を上げながら叱咤する。
その声の主は、真紅の長髪を一つにゆんで、その切れ長の瞳は真紅に光る。
歳は20代前半、むっとした表情も、どことなく綺麗に見せる一つなのかもしれない。
服はひらひらしてるわりには、動きやすい格好である。
そして、この船に唯一乗っている人間の女性、またこの船の設計者。
「たくもぉ、あたしがいなきゃあんたらは集合もできないの?」
その頬は更に膨らむ。
僕は、その足の下にいる丸っこい狼の獣人が気になって仕方が無い。
歳は30代近く、髪は銀色に、そのトロンとした瞳の奥には銀色が見える。
狼の種族にしては珍しく丸っこく、背は僕より高いけど、遠くから見ると小さく見える。
服は意外と露出部分が多くて涼しそうだが、冬は寒そうだ。
まあ、その人物が今現在、人間の女性に足蹴にされてなんか鉄に埋めりこんでるし。
「………なんかいつもより埋もれてない?」
「ん?……そうかしら?」
さらにゲシッ、ゲシッと踏みつける。
「イリアス、その辺でやめたほうがいいんじゃない?」
イリアス、イリアス=ベレスフィア、それが彼女の名前だった。
その名前を聞いて、次に発した彼女の言葉は『男みたいな名前でしょ?』と笑いながら言っていた。
聖都市にいた魔道士にして研究者の一人、彼女がブースタなど、ジュエルなどの効果を発見したのだ。
まあ、意外と実力者なのだが、こうして見るとわがままな女性に見える。
そして、今踏まれてる人物は、アレク=レグリアム。
盗賊の首領、といっても自称義賊らしいのだが……まあ、ひ弱な女性に足蹴にされている盗賊の首領。
ものすごい絵である。
「そうね、でもアレクいじめると飽きないのよねぇ……」
後ろ髪をかきあげながら足をどける。
すくっとアレクが起き上がり、その眠たそうな瞳で僕とテットを見る。
「オレはいじめられる側なのか……?」
溜息交じりで、勝ち目のない学者に言葉を発する。
そんな光景が毎日繰り広げられる。
僕らのメンバー、『紅月の狼』がここに集まった。
「んで、今回のターゲットは……」
イリアスがカタカタとキーボードと呼ばれたいくつもの小さなボタンが列をなしている機械になにやら打ち込んでいる。
突然、光が四角に広がり、そこになにやら文字が描かれている。
ピッ、ピッと音を放ちながら、光は色々な色を発し、そして、描かれたのは僕たちの世界の地図。
そして、あるところに記された赤い目印。
「ここね」
イリアスが、パチンと一つのボタンを強く叩くと、赤く記された部分が大きく拡大される。
投影機というものらしいが、僕達の大陸では、見たことない代物だった。
それも世界が封印から解かれてすぐだった。
別の大陸は、大きな繁栄をしたらしく、そこには見たことない機器で移動をしたり、空を飛び。
ボタン一つで火が出てきたり、立方体の箱には冷機が帯びていたり。
その技術が、世界に流れてくるのも、2年という月日には十分なようだった。
まあ、その技術は僕達は使い慣れてないから、イリアス以外は使えないんだけど……
「アーファイング地方のレグニス峠ね、人の足じゃ入れないとこが怪しいってデータがあるわよ」
どこから仕入れたんだろう。そのデータ。
っと、心に少しツッコミを入れてみた。
「レグニス峠って、傾斜が厳しくて、若い人でも1日を費やして通るって言われてないでしたっけ?」
「そーよ、まあ、私の『イリアス船大吾朗号』にまかせればOKよ!」
「……そうかなぁ……ちょっと不安になってきた……」
僕は苦笑しながら、後ろのテットとアレクを見るが、二人とも苦笑していた。
イリアスの話だと、そこに着くのにそこそこ時間がかかるから自由行動ということで、僕は甲板へ向かうことにした。
予想通りではあったが、かなりの風が僕に押し寄せてくる。
しかし、飛ばされるほどでもないが、油断しているとバランスを崩す程度起こりそうだ。
僕は船の先に立ち、そこから下を見る。
雲が川のように流れていき、その更に下に海が見える。
2年前では、見ることはなかったような光景だ。
たった数年のうちにこんなにも進歩してしまったんだなぁと苦笑する。
僕は、前を向いて、空気を大きく吸う。
〜ちりゆく花びらが〜
声を上げて歌いはじめる。
巻き起こる風のせいか、普通はかき消されるその声は甲板の上に響くように聞こえていた。
〜風が教えてくれた〜
遠くを見通すように、僕は一直線の視線のまま歌い続けている。
だいぶ前に、この歌を教えてくれた人がいた。
その人は、誰だかわからなかった、だけど、優しい人だった。
〜いつも同じ、涙ばかり流し続ける〜
涙が頬を伝う。
この曲に含まれた想い、僕は歌うことでそれを感じる。
何故泣くのか最初は分らなかった……だけど、この曲を作った人の想いが、手に取るように分る。
〜大切な、祈りが届くように〜
祈るように手と手を合わせて握り締める。
目を閉じ、そっと歌う。
〜探してた、答えはここにあると
そっと教えてくれた〜
〜悲しみをResetして……〜
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