僕の住んでいた村には変わった風習があった。
 「魂遣り」(たまやり)と呼ばれるもので、15歳を迎えると男子は必ずしなければならないとされていた。
 
 山に住む様々な動物、例えば鹿や狸、クマや山犬、の毛皮を縫い合わせたポンチョのようなものを全裸の上から羽織り、同様の格好をさせた人型(神社の注連縄からこさえるモノらしい)と七日間、毎晩同衾するというものであった。
 
 俗に言う成人式の意味合いもあるらしい。
 
 奉っている神様の名は「山姫」
 女性の神様で、この「魂遣り」で気に入られれば、今後村での生活は大変に安泰したものとなる・・・・


 という話だった。
 
 ただ
 
 「山姫」に気に入られたにもかかわらず、村の外での生活を望む場合はどうなるのか・・・・・・・・・
 
 今の僕がちょうどその「場合」にあたるらしい。
 
 東京の会社の内定が届き。
 それを村に住む両親に報告したその日の晩から

 部屋に尋ねてくるようになったのだ。
 しかも自分のストライクコースの容貌で
 
 「村に帰ってきて欲しい。できれば神社の神主をして欲しい。」それが彼女の要求だった。
 
 一度居留守を使ったこともあるのだが
 その時はドアノブを引き千切られてしまった。

 そして今夜も・・・・
 
 コンコン・・・・ゴン・・・・ガンガンガン!!
 
 「お兄ちゃん〜いるんでしょう?もう!だめだよぅ〜。分かってるんだからぁ〜。くすくすくすくす」
  
 ドアの向こうで無抵抗な獲物をいたぶるような、ウットリとした少女の声がきこえてくる
  
 その時
 
 バジン!!!!!
 何かがはじけ飛ぶような音が聞こえた。
 
 「んんん??・・・痛い!・・・・・・・ん?なにこれ?」
 
 知り合いからもらった御札。
 ドアの内側にびっしりと張ったもののいくつかが弾け飛んでいた。

 「う〜〜〜ん・・・困ったなぁ・・・・なにかやったんだね・・・・・・・お兄ちゃん!!!!!」
 
 猫なで声から急に刃物を突き立てるような金切り声に変わった。
 
 「ふぅ〜〜〜〜ん・・・くんくん・・・嫌な臭い・・御札・・・・ウチの系統とは飛び切り相性の悪い所のだねぇ・・・・・」
 
 心臓が早鐘のように鳴る
 
 「まあ、いいけど」
 
 そう言うと、続き足音。ドアの外の濃密な気配も消えてしまった。
 
 真っ暗な部屋を見渡す
 窓、ドア、外界と触れるモノにはびっしりと例の御札。やったか・・・・・?
 
 ぞる・・・・ぞる・・・・・

 台所から聞いたこともない音が流れてくる
 
 「お兄ちゃん〜〜〜〜〜ツメがアマイかなぁ〜〜」
 
 ・・・・・・・排水口を何かが逆流してくる
 大量の動物の毛皮だった。
 
 排水口から飛び出したそれは、僕の目の前でうねりながら、少女の形に再び結びついていった。

 「さて、じゃあ、今日は、お説教からかな?オニイチャン