PC『Undertale』(トビー・フォックス、2015、日本語版2017)

ゲーム界の中での位置づけの話

既存のRPGのメタ構造崩し

これ作中ではじわじわ明かされるので、初回プレイではプレイヤーの意識にないため「???」になっちゃうんですけど、主人公はゲームプレイヤーなので制御系の力を持っていて、「セーブ」「ロード」「リセット」が使えることになっている。その前提が崩れていく、のがアンテの醍醐味なんですよね。
1週目でなんとなく片鱗は見えてくるんですよ。最たるものがラスボス(という立ち位置)であるアズゴアが、RPGコマンド選択方式のコマンドのひとつ「みのがす」を物理破壊して選べなくするんですよね。これゲームシステムに対する強烈なインパクトがあって、プレイヤーはモンスターに対して「たたかう」か「みのがす」(の子コマンドとして選択できる「にがす」)のどちらかを用いてバトルを完了させてきたんですね。最終局面になってその片方が封じられた、ということは、選択肢がなくなって、ゲームを終わらせるためには「たたかう」しかないし選べない、っていう状況に持ち込まれたってことになる。プレイヤーにとって当たり前のようにコントローラブルな要素が奪われてしまったワケで、ここまで主体性を持って(自由気ままに)ゲームをプレイしてきたこちらにとってはすごくストレスフルなんです。
もっとも、この演出を行ったRPGは過去にいっさいないわけではなく、たとえば「にげる」を選択したら「にげられない!」となるボス演出は定番だし、選択コマンド上グレーアウトされているというシステム演出もあっただろう。しかし敵方が槍で突いて破壊、となるとこれはレアケースだと考えられ、本来ならばゲームシステムとは金科玉条であり、ストーリー展開に左右されて選べたり選べなかったりするものではない、という鉄則が、ストーリーに介入されないシステムなんてないよね、と言わんばかりの力技で捩じ伏せてくるのを、我々はまじまじと見せつけられることになります。
んで、選択コマンドのアンコントローラブル化はさらに進み、次のボス(アズゴアはラスボスではなかった)戦では、これまで選択キーを数回押して辿り着いていた選択コマンドの決定方式が根本的に覆され、コマンドの長方形アイコン自体がフィールドを自由に動き回り、プレイヤーはそれをカーソルで追って捕まえなければ実行できなくなる。こうなるともう演出の妙に「くぅっ」と唸らされるしかなく、これまでのバトルでは二分されていた、選択カーソルのフェーズと弾幕避けのフェーズがぐっちゃぐちゃにかき回されていて、この発想アリか? アリだなサイコーだな……に認識が切り替わっていく。
んで、この選択コマンドのアンコントローラブル化はあくまで序章で(サンズ戦のラストがスゴいとか、アズリエル戦のセーブの二重の意味とか話しきれてない)、ここから本番、「セーブ」「ロード」「リセット」の話になっていくんですけど、
「セーブ」について
次のボス、フォトショップフラフィはめちゃくちゃ強い弾幕ボスなんですね(ラスボスですし)。んで、プレイヤー側は瞬殺だったり常殺だったり、まぁ何度もやられるワケです(枕さん弾幕ニガテ)。で、死ぬとゲーム画面が閉じて終了する(冷静に考えるとボスに敗けたらタイトルに戻るのに、戻らずゲーム落ちるの鬼才の発想だよな)ので、プレイヤーはゲームを起動するんですけど、そのたびフラフィが「また来たの?」「何回やっても無駄だよ」「君とやるの楽しいからいいけど」って台詞変えて喋るんですよね。「セーブ」の概念奪われてるんですよ。本来プレイヤーが決めた区切りでセーブがなされるから、ボス戦の敗北後にセーブする動きって想定外で、ボス戦前のデータをロードして再開するのがゲームとしてのならわしなのに、自身がセーブしたバトル直前のデータにアクセスすることはできず、そのファイルは敵側の管制下にあり、フラフィに敗けるたびフラフィがセーブしてるんですよね。まじかー。
なお、アズゴア戦でのプレイヤーはまだ「セーブ」の能力を保持しているため、バトルに敗けた場合はロード→再戦の運びになります。再戦のたびに、「あなたに○回殺された」とアズゴアと会話することになり、この回数は本来ずっとゼロであり、カウントアップされないはずですが、しっかり増えていきますね。
「ロード」について
セーブと同じような話ですけど、この時点でプレイヤーからはロードの力も奪われていて、それはコマンド選択可能なセーブ/ロードだけじゃないんですね。コマンド選択じゃないセーブ/ロードの力も奪われている。どういうことかというと、フラフィ戦って弾幕避けなんですが、弾幕避けてるときに背景に「セーブしました」って出て、その数秒後に「ロードしました」って出て、画面が「セーブしました」って出たときの局面に戻されてるんです。弾幕の技演出にもこのセーブ/ロード主導権が奪われていることが示されている。
そして極めつけは、いろいろあって(枕さんの弾幕避け上達とか)倒した後に、フラフィが自身ノーダメ状態のセーブデータをロードして、こちらの勝利を無かったコトにしちゃうワケです。シビれますね!!
「リセット」について
でまぁ。アンテのタイトル後のセーブロード画面には、セーブデータを消して最初からやり直す「リセット」があるわけですけど、フラフィ倒すまでは強制終了→起動→フラフィ戦に突入、なので、リセットもできません。ゲームが進まなくなったときの最後の手段が取れなくなっている。
 ……というかたちで、プレイヤーからはセーブ/ロード/リセットが奪われてしまうんですけど、うまいことやって取り戻し、フラフィはロードできずに敗け、こちらが勝利する流れになるわけです。
 さらに、フォトショップフラウィじゃないラスボス(ラスボスいっぱいいる)を倒したあと、フラフィはプレイヤーに「リセットしないで」って嘆願するんですね。ハッピーエンドになったからみんなそのままにしておいてほしいって。リセットの力を失ったあとは情に訴えてプレイヤーのリセットの操作を制御しようとしている
そんなワケで、このゲームは全体的にフラウィがセーブ/ロード/リセットの権限を握っていて、本来その行使者である主人公の周回プレイはフラウィに監視されており、そして主人公はその権限をフラウィから奪い返すことができます。
 そしてこの、主人公以外にセーブ/ロード/リセットの権限を握っているキャラクターはフラウィに留まらず、サンズ、そして“キャラ”(キャラ名「キャラ」って鬼才の発想でしかないよね!)もそうであることが作中から明らかになっていきます。

 それ以外にも多くのアンチRPG要素が盛り込まれていて、それは本作が謳う「敵を倒さなくてよいRPG」というところに端的に現れていますね。

一般のRPGでは否定されることがまずない「LV」「EXP」の概念の再解釈
最初にネームエントリーを行う、プレイヤーの分身たる存在は、本編での操作キャラクターではない
これはそもそもネームエントリーではない、っていうフェイクでした。また、続編『DELTARUNE』第1章冒頭でも同様の演出がありました。
ショップで物を「うる」ことができない

一般評価と作者論

すごいインディーズゲーム
国内だと、日本ゲーム大賞2018 年間作品部門 優秀賞
『スーパーマリオ オデッセイ』『スプラトゥーン2』相当の評価
トビー・フォックス氏は日本のコンピュータゲームに造詣があり、MOTHERシリーズ(糸井重里)、東方シリーズ(ZUN)からの影響を受けている
リリース後、両人とはコンタクトしている

しんじつのラボ――アルフィーがかなり悪党、ホラーとカタルシス要素

アルフィーは主人公の気を惹くために、ダンジョンにわざと迷いこませて、自分がアドバイザーになることで依存させようとしていたそうで、その目的のためにメタトンに殺人鬼を演じるよう頼んでいたとのことで、ぶっちゃけアウトだと思っていたのだが、なんかラストでは赦されていた感があったので、そういう赦しを他者に与えることができる世界を作っていくことがダイジなんだということなんでしょうね。
しんじつのラボこわい
めちゃめちゃこわい
そしてこわいアマルガムのみんなはハートフルに家族のもとへ帰っていく
みんなキメラ様相なんですけど、もとの家族のもとに帰って普通に暮らしてらっしゃるそうなので、線引きの無い世界を作っていくのがダイジだというToby Foxからのメッセージだと思います。

キャラクターの異常な“立ち”

デートイベント3つあるんですけど(銘打たれたデートはないんですが、サンズとは道中ずっとデートしてるようなもんだな……)、♂♀♀で後者ふたりはのちにカップルなんですよね。ダイバーシティだと一言で片付けるわけにはいかないサービス具合じゃないですかコレ。
あとロイヤル・ガードのふたりは♂♂なんだけど、片方が上半身裸になったのでもう片方が告るというイベントがあります。
ランダムエンカウントですがエンカウント回数に限りがあるらしく、ザコキャラと何度も戦えるわけではありません。その制約の中で一期一会のザコキャラが喋るわ動くわで魅力大放出、比較的イヌが多い、キャラ付けに紐づいた弾幕エフェクトが楽しくて飽きずに進めます。
枕さんの推しはモンスターの子なんですが、彼がタロットイラで口に銜えているアイスは「Bisicle」、棒が2つついてて2本に分かれるアイスキャンデーですね。日本語訳では「バビコ」で、江崎グリコ社のアイス「パピコ」に掛かってるんですが本質的にはベツモノ。

枕さんやっとアンテ始めたという話

テミーの村の左下のコは、いわゆる蕁麻疹のコなのだが、集合体恐怖症(トライポフォビア)にはちょっとツラいので、話しかけるの躊躇したほうがいい(会話イベ時にグラフィックが切り替わるので)

 というわけで遅ればせながら(2021年になって)アンテをプレイしています。不殺エンドは見ました。

 これ前情報ナシ、時間制限ナシでプレイしたかったですね。さすがに数十分も謎解きしてるヒマがなくて、攻略Wiki見ながら進めてたんですけど、失敗イベも街の会話もぜんぶ愛おしい。

プレイ前の認識

弾幕避けるの枕さんめちゃめちゃニガテ(数あるゲームシステムの中でもめちゃめちゃニガテ)
枕さんアクションとシューティングと格闘とスポーツゲームがニガテ
なんかケモショタがいる
ヤギっぽい
主人公(ヒト族)と縁が深いらしい

プレイのきっかけ(存命中にはプレイするつもりではあった)

(攻略サイト見てたら)テミーが大学に行きたがっているそうなので
学費足りないなら手伝ってあげたいという奨学金スカラーシップ精神によるもの
2021サマーセールで300円だった
というか元値1000円なんですね(Switch版でも1,620円)……安すぎる。

プレイ後の枕さん

俺誰!?(ネームエントリーキャラ名を自分のH.N.にしたせいで混乱している)
なんかサンズいっぱいいる
アンテは公式で二次創作のガイドラインを出しているのですが、その所為かそれとも原作自体がループものであるためマルチバース作品を生み出しやすい土壌であるせいか、各人がアンテ原作世界とは別の世界を確立していて、それらに別のサンズ(とパピルスと他キャラもみんな居るんだけどだいたい取り上げられるのはサンズ)が存在していて、そしてそれらの世界を関連させて二次創作しているアンテマルチバース作家さんがいらっしゃって、それでサンズがいっぱいいて、エラー!サンズがいちばんかわいい