本を読んだら書く その4

山中襄太『語源十二支物語』(大修館書店、1974)

 学府の世界で語源学が蔑ろにされている現実を嘆き、自身の見解を高らかに披露。日本語の語源としてアジア・ヨーロッパの言語に着目、共通する語幹を多く見出しており、他の言語学者は日本・中国の語群にしか目を光らせていないのでそのような気づきに足りていない、と貶める著述、と読める。本著以外にも語源辞典を多数記しているのだが、どうもアカデミックな裏付けは取っていないようだ。もっとも、著者は著作発表時点で80歳手前、論文を記して発表するのも難しいご年齢だろうか、それともそもそも学会には愛想が尽きており興味がなかったか。

長澤規矩也『古書のはなし』(冨山房、1976)

 古本と古書の違いがよくわからなかったため購入。古本は中古本のことで対語は新本。
 では古書とはというと、対語となる新書との違いは装訂によるとのことで、さすれば旧式装訂とはざっくり云うと糸綴じの本のこと。

 びっくりしたのは「全角」「半角」の「角」は「格」の誤用で、「格」とはすなわち「格子」、方眼升のことなんだってさ(P.11)。

杉本つとむ『常用漢字にない漢字の辞典』(日本実業出版社、1986)

 著者が延々と常用外の漢字を語る本。生物名はカタカナにするというルールによって外れたとおぼしき「雀」から、「血塗る」と書きがちな「䘐」「釁」あたりまでぽんぽん出るが賢すぎやしないか。気が付くと「某という漢字を常用漢字から外したのは理解しがたい」とディスっているので好感度高し。

藤堂明保『漢字の話 上』(朝日選書309、1986)

 タイトルからは計り知れないが、ケモノ・トリ・サカナ・ムシの漢字しか載ってない。「狼」の「良」は「青い」っていう意味だよー、ほか。

田中健一『QUIZ JAPAN全書02 田中健一の未来に残したい至高のクイズI』(セブンデイズウォー、2015)

 2010年代のクイズのスタンダードたり、かつ過去のベタ問とかぶらない(カブったとしても展開違い)ことをドグマとして書きあげた、第16回アメリカ横断ウルトラクイズ王者によるクイズ本。

諸説あったら出題できなかったはずの由来・語源問題はその枷を破るのか「猫車」(#953)
協賛を擁するテレビクイズの枠を外れ問題数が爆増した商品名・ブランド名系「Ben & Jerry's」(#973)
やはり出さずにはいられない青春クイズマンガ「ナナマルサンバツ」(#912)
まだ新語であり時期尚早じゃないかな「香箱座り」(#920)
完全に新傾向であり、人名回答からシフトした迷問ではあるまいか「高橋和枝賞」(#1222)

……とまぁ、90年代のクイズしかやってきてないおっさんには区分だけで手一杯。

飯田一史『ウェブ小説の衝撃 ネット発ヒットコンテンツのしくみ』(筑摩書房、2016)

 なろう小説が受けている理由をめちゃめちゃわかりやすく説明してくれる本。リアルタイムな読者の反応と著者の更新というスタイルが齎す文体の変化とか、ボカロ曲に紐づく文学という形態とか、とにかくこれまでの出版界の常識を打ち破っているんだけど皆気付いてるかだいじょぶか、という著者の警鐘がずっと鳴っている。
 異世界転生はジャンルのひとつであり、要するに探偵モノとかディストピア文学とかいう括りの一例。それなのに異世界転生モノを一律ディスるのは、物語のジャンル化を理解していない愚物の仕業だ。