カルキの匂いに精液の匂いが混じり、淫猥な臭気を孕んだ湿っぽい熱が籠もっている。
プール近くの水球研究会会室では、真ん中に設えられた長椅子にいちばん上等のタオルが敷かれ、その上に灰色の獣が横たえられていた。ギザ耳にギザシッポ、期待を宿した瞳。その周りを取り囲む、競泳パンツを穿いた獣たちの一団。
シッポ穴にはすでに肉棒が捩り込まれており、圧迫感を味わい尽くすようにぐりぐりと内部を掻き回してくる。右手で掴んだ軸は、競パンを脱いだばかりだというのに先端からとろとろと蜜を溢れさせている。自身の胸に押しつけて、毛皮の奥でぴんと立った乳首をこすれば、適度な硬度とぬめりけが心地よい。押しつけられたほうはというと、経験が浅いのだろう、弱い先端を押しつけられて、ひゃうんと嬌声が挙がった。
手近な相手の競パンに左手の指を這わせて、中から強張りを取り出し、刺激を始める。眼前に跨っていた競パンからも、ひときわ巨大な砲身が引き出されたので、躊躇なくしゃぶりつく。総計4本の欲望の塊を愛撫しながら、自身のそれが柔らかい口の粘膜に包まれている感触を堪能する。両手から、マズルから、液が溢れ、競パンに染みこんでいく。
6匹の獣のまぐわいで、最初に音を上げたのは右手だった。背の小さな齧歯類がひっきりなしに鳴きながら、薄い体液を放出して、向けた先の胸板に跡を残す。ほどなく左の黒猫が低く呻いて、手の平に熱い滾りをぶちまけた。その背後に圧し掛かっていた水牛も、黒猫の太腿のあいだを前後していた肉棒から濃い精液を吹き上げる。今度は臀部を穿っていたピューマが堪らず腰を前に押し込んで、何度か間歇してびゅくびゅくと射出した。そして水着の端からはみ出した目の前の肉柱をたっぷりと吸い上げ、軽く甘噛みしてやれば、こちらも派手な射精が始まる。肉棒が暴れてマズルから逃げ、タツノオトシゴの粘液が耳に鼻にたっぷりと振りかけられる。格段の量と匂いが矛先を変え、さらに胸筋や腹筋にまで降り注ぐ。体の中と外をとろとろにして、太腿を持ち上げられた姿勢で、ギザギザシッポが満足そうにふるふると揺れる。灰色の毛皮に魅せられて、跪き股倉の屹立を咥えていた鹿も、いつのまにか自身からの迸りで床を白く染めていた。
たっぷりの精液の感触にしばし微睡んでから、シャワーを借りる。水球研のメンバーともども、付着した粘液を洗い流し、これまたいちばん上等のタオルを会長から宛がわれ、水滴を拭った。
「……ん」
入口に立っているのは、プールの鍵閉めを終え戻ってきた鰻魚人、蒲焼寝床である。彼以外の会員たちが、よってたかって1匹の獣の体を貪る儀式は、初めてではない。定期的にこうして、欲望の捌け口かつ団結力の増進のため、集団で性行為に励むのだ。どうにもその習慣に馴染めない蒲焼が席を外しているあいだに、コトの大半は終わっていた。
いつものように賓客として招かれ、いつものように後孔を皆に明け渡していた、灰色の獣、アーウィン。クラスメイトで、理系の優等生。そして、抱く側からすれば、中出しすれば試合に勝てると評判の尻尾穴を持つ、戦神である。要するに、擁してしまえば、極度の淫乱、ということになるだろうか。
「おつかれ」
「蒲焼、ありがと」
裸で首にタオルをかけただけの姿で、さっきの椅子に座りなおしたアーウィン。スポーツドリンクを差し出すと、こくこくと飲み干す。水球研究会メンバーの名入りスクイズボトルに交じって、アーウィン用のカップが用意されているのも、見慣れた風景である。行為に参加しない蒲焼が律儀にドリンクを作っておき、燃え尽きた仲間たちに配るのも、慣例である。
「どーして蒲焼はアーウィンを抱かないのかな、こんなにかわいくてやらしいのに」
アーウィンを背後から抱きすくめ、おどけてみせたのはタツノオトシゴ獣人、水球研究会会長。尻の後ろで丸まっていたシッポをくゆりとくねらせ、アーウィンの腰に巻きつけた。ギザ耳に吻を近づけて、焚き付ける。
「アーウィンだって、蒲焼のチンポ咥えたいだろ? 長くて細めなんだぜー」
「長くて、細め」
「会長、セクハラですよそれ。アーウィンも復唱しないでくれ、な」
とはいえ、2匹の性的な会話はもう慣れっこになっている面もあり、きわどい会話にも神経が麻痺しているのかあまり恥ずかしいとも感じない。そうはいっても、目の前でじゃれあっている2匹が、少し前までここでまぐわっていたんだ、と意識してしまうと、多少の昂奮を覚えた器官がサポーターを押し上げてくる。
会長の腕が伸び、蒲焼の肩がぐいと引き寄せられた。驚いて目を見開き、少々体勢を崩す。なんとか持ち直せば、アーウィンと3匹で、頭を並べたかたち。
「八獣学庵水球研、今度の大会に向けて、獣戦神アーウィン様のご加護を賜ったこと、深く感謝するっ!」
「おー!」
いつのまにやら、他の会員たちも勢揃いして、鬨の声。会長が吻の付け根をニヤリと吊り上げ、鼓舞を続ける。
「さてここに、そのアーウィン様を持て成さない不届き者がいるワケだが」
「ふとどきものー!」
「ちょ、ま、カンベンしてくれよみんな」
「構わない」
カップを両手の中に収めて、アーウィンが呟いた。
「アーウィン様は寛大だねえ。でもな、チームというのは裸の付き合いが大切なのだよ、んで」
「か、会長、頼んますよ」
「だいじょうぶ。もにもにしなくても、蒲焼はみんなの仲間」
「お墨付きが出ましたよ。ちえっ、救われたな蒲焼」
「すくわれたなー!」
「救われなかったら何させる気だったんですか会長」
訝しげな視線を蒲焼に向けられて。
「みんながアーウィン様にペニスをさらけ出しているのに、蒲焼だけ免除ってのはいただけないだろ? せめて露出くらいはしてくれないと」
悪ふざけが終わらず、脱がされたあげく竿に「必勝」とイタズラ書きされた。水性ペンだったのが救いだろうか。
「蒲焼、試合、がんばって」
「おう、さんきゅ。いつも悪いな」
「構わない。まわされるの、好き」
「回……、あ、マワされるの、ね」