「両良寮へようこそ。寮長の敷詰だ」
“寮”へと促されて向かった先には、大仰な門扉、左右に門柱、上に門番。寮長と名乗ったオセロット獣人は、全裸で左の門柱に座っていた。見まいとしても視界に入った股間に門柱。というのもしっかり勃っていたから。
「名前は覚えなくていいよ。学庵敷地内に“寮”はひとつしかない」
「は、はい」
寮名なのか寮長名なのか、どちらを覚えなくていいのか判断つかないまま頷く。
「入口は例のごとく生体認証。近寄れば自動的に開くよ。もし反応悪ければ字のとこに手首近づけてみて」
言われた通り、一歩踏み出すと門が音もなく開いた。
敷詰が後ろに跳ぶ。すちゃ、足音がして、内側に着地。裸だから裸足だし、尻尾の根元も隠すことない後ろ姿。とてとて寮に向かうので、素直に追う。ようやく局部が露にならなくなったので、視点を背中と尻尾に定めて。
「何かわからないことがあれば訊いて。もっとも、俺は寮内のことしか知らないけど」
「はい。ありがとうございます」
割り当てられた自室、備え付けの家電、共同設備、脱出経路、そのほかもろもろ。この寮で起きて過ごして寝るための説明をざっくばらんに受け、礼を告げる。
「ランドリー、調理場、大浴場があるのに、個々の部屋にも洗濯機置場、ミニキッチン、シャワー室があるんですね」
「不服か?」
「あ、いえ、個室に洗濯機を置けない場合に、ランドリーがあるものと思いましたので」
「寮の壁は防水防湿防音防弾。洗濯乾燥機のひとつやふたつ苦ではないよ。それでもランドリーがあるのは、寮だから」
「?」
「ランドリーに下着まで放りこんで洗って、全裸になってひと眠りして、気が付いたら集団注視、っていうのはお決まりのイベントだからさ。一個小隊に催淫剤入りの食事を振る舞うこともあるし、風呂場で破廉恥な賭け事をすることもある。要するに多答にしときたいんだよ」
「たとう?」
「多くの答え。選択肢は多いほうがいい、っていうのが会長の持論だからさ。ゲストルームも多いし、マップに乗ってない部屋も多くある。懲罰房とか鏡張りとか……あ、いや、マップ通りだ」
見取図内のいくつかの区画には、「謎」「NULL」「無回答」といった記載がある。
「マップ通りですね」
「マップ通りだな。俺の部屋は最上階の突き当たり」
「はい」
「他には?」
寮長の下の名前
寮長の裸の理由
⇒寮長の飯の好物
「……唐突だな」
「……」
「汁や粉の飛ばない食べ物がスキだな」
味覚や嗅覚に依存しない、機能的な回答が返ってきた。裸だからだろう。