立春の前日だからと、春巻春雨の部屋にクラスメイト数人おしかけて、節分という節分の何らかを放り投げて去っていった。残されたのは三角錐と小袋と大袋、部屋の主であるサーバル獣人と、あっけにとられる僕。
「あれ、豆撒き、初めてだった? こういうイベント」
飄々と説明する猫。
「いや、知ってたけどさ……少なくとも急襲・散ら撒き・遁走的な何かじゃなかったし、僕の世界だと。それに豆じゃないのもあるよ、米菓子とか麩菓子とか」
「おかきは鬼揚かな、麩菓子は金砕棒に擬えてるんじゃない。ほら、鬼が来るから剣を交えるために」
「菓子類で鬼を歓待したいのか敵対したいのかわかんないよそれ」
すごい長い麩菓子が数本転がっている。とりあえず部屋の隅に積む。材木置場みたいになった。
「もちろん迎え入れるさ。八獣学庵には鬼も金棒も在籍してるし」
と、とりとめもない会話をしながら、撒き散らされた各種袋を拾いあげ集める僕と猫。あと、その「金棒」はたぶん下ネタだと思う。
「あ、黄粉チョコ」
「バレンタイン前倒しだね。鬼っ仔ラブなのかも」
部屋が片付いたので、いそいそとハーフサイズの中巻をテーブルに運ぶ。
「春ちゃん、コンパスある?」
「丸描くの?」
「えーと、そっちじゃなくて。磁石の、あー、電磁石……超電……物の名前が出てこない。針になってるヤツ」
「羅針盤、とも云うね」
磁石の針が円盤のいずれかを示す器具。春ちゃんが液晶端末を貸してくれた。
映りこむ航空写真。そしてわが八獣学庵上図。
「正門が北」
「なる」
下半分を省略して頷く。八獣学庵は、八棟がぐるりと輻射線状に並んだ構造をしている。子方位を指しているのが正門であり、小修部だ。そこから時計周りに90度ずつ、中修部、高修部、大修部が設えられている。
「ていうか、それを教えてくれたのは君」
「けっか」
だったっけっか、と云おうとして、大胆に上半分を省略してしまう。
「今年の恵方は南南東です。5時半の方向ー」
もしゃもしゃと食べ進む僕。ちなみに春ちゃんは酢飯よりも白飯がいいということなので、細長い食べ物はとくに用意しなかった。
「32方位だと南微東のほうが近いよん」
脳内にて、24方位の「丙」を南から南東の範囲に重ねつつ、もしゃもしゃと平らげる。
要するに、北から時計周りに180度が南で135度が南東、南南東はそのあいだで157.5度。
丙は南東から3分の2進んで165度。南微東は4分の3進んで……45度の4分の1は11.25度だから……もとい4分の1戻って168.75度。あ、ホントだ近い。
んで、願いゴト考えるの忘れたまま終端まで食べ終えた。
「ん……まぁ、季節モノだからいちおう参加。春ちゃんは夕飯食べないの?」
「季節モノにしては由来の不明部分が多いんだけどね。あ、どうしよ」
食べきった僕を、春ちゃんが色っぽい目で見ている。
「ムラムラしてきた」
「と、突然だね……ゴハンはあとにするの?」
「うん」
と言いながら服を脱いでいる。もう僕には拒ませないつもりである。
「あー、ちょっと零しちゃった」
半勃ちの肉竿から先走りが流れて、袋に伝わろうとしている。
「えーと、こんな感じで」
どこから引っ張り出したのか、八卦クッションを尻に敷き、全裸で僕に向き直る。
「方位もいいけど行為もしようぜ!」
ノリノリだ。海苔だけに。あ、意図してない意図してない今のはノーカンで。
「恵方に向かって射精するといいコトがあるっていう設定は、どうかな」
「流行らなそう」
「あそ」
2010年節分分(再描画)。