「ここだな…」
俺は目の前に聳え立つ三階建ての建物を見て呟く。
ここが、俺がこれから三年間を過ごすことになる場所。
草永館と書かれた看板がある、俺が入学した高校の寮だ。
俺は、犬里陸(いぬざと りく)。
柴犬と、コリーのミックス犬獣人。雑種って呼ぶなよ。
先日中学校を卒業し、今年から晴れて高校生だ。
そして、今日からこの目の前の建物で生活を送ることになっている。
『そんな生活』
玄関を潜ると、そこに居たのは大きな体格のセントバーナード。
ソファアにもたれ掛かって、ペンでボードを叩いている。
垂れた目と耳が温和そうな雰囲気を出していた。
「お? 新入生か?」
「あ、はい。犬里陸(いぬざと りく)です」
セントバーナードは俺に気付くと、玄関まで歩いてきて、手を差し伸べてきた。
「俺は郷田紅尾(ごうだ べにお)。ここの寮監やってんだ。皆からはベンって愛称で呼ばれてる。よろしくな」
「はい、郷田先輩」
俺は差し出された手を握り返した。
「あーやめやめ。堅っ苦しいの嫌いなんだよ。ベンって呼べ、ベンって」
「え…? じゃあベン先輩?」
「そーそー。おっといけねぇ。部屋に案内しないとな」
そう言ってベン先輩は俺を引き連れて二階へと上がった。
道すがら簡単な寮のルールを聞かされる。
終身時間に入浴時間。食事や洗濯について。そして…
「で、ここがお前の部屋の208号室。二人部屋な。ルームメイトは昨日から来てる」
「はい。分かりました」
「ん。じゃあ他に何か困ったことがあれば俺や、他の先輩に聞けば良いからな」
「はい」
「遠慮するなよ?」
「わかりましたよ」
ベン先輩はそう言うと、じゃあなと手を振りながら、三階へと続く階段のほうへ歩いていった。
なかなか良い先輩だ。
慣れなれしい感じもするけど、別に嫌じゃない。
そんなことを思いながら、俺は部屋のドアノブに手を掛けた。
問題は、むしろこっちだ。
これから三年間共に過ごすことになるルームメイト。
そいつがもし嫌な奴だったらどうしよう、という不安が脳裏をよぎる。
もう既に入寮しているとの話だったが…。
意を決してドアを開ける。
ガチャリ、という重々しい音を上げながら、ドアが内側に開く。
中には、部屋の両側に備え付けられたベットの片方に腰掛けて、本を読んでいる白熊がいた。
俺が部屋に入ってきたのに気付くと、読みかけの本から顔を上げ、一瞬驚いたように目を丸くする。
だが、直ぐに本にしおりを挟んで立ち上がると、恥ずかしそうに頭をかいた。
「んと…君もここの部屋…だよね?」
「ああ、よろしく」
部屋に入って白熊の目の前に立つ。
Tシャツに綿の短パンというラフな格好をしていた白熊は…なんというか…
…でかい。
確かにオレは、170センチとそんなに大きい訳じゃないけど…こいつは…。
おそらく190センチを楽に越えているだろう身長に、ふくよかな腹回りも手伝って、かなりのボリュームだった。
少々威圧されながらも、オレはとりあえず挨拶をする。
「俺は犬里陸。そっちは?」
「オイラは隈井田海(くまいだ かい)。 あ…ベット勝手にこっち側使ってるけど」
「ああ、かまわない。じゃあ俺はこっちだな、っと」
俺は手にしていた荷物を、ベット上に放る。
ぼふっと音をたてたバックに続いて、俺自身もベットにダイブする。
足だけベットから降ろして背中から倒れこむと、心地よいベットのクッションが体を包む。
はぁー。と息を吐き出すと、足元のほうからギシギシぃっ!という音が聞こえた。
何事かと思い身を起こすと、白熊が反対側のベット、俺の正面に腰掛けていた。
ひょっとすると、今の音はベットが上げた悲鳴か?
どんだけ体重あるんだよ…
「疲れた?」
白熊は、笑いながら首を少し傾ける。
その子供っぽい笑顔は、何だか安心する笑顔だった。
よかった、いい奴そうだ。
部屋に入る前の不安は、もう無かった。
「まぁなぁ。俺んちこっから電車乗り継いで三時間くらいかかるから…ケツが痛ぇ」
「オイラんちは、駅まで自転車で五十分。そっから乗り継ぎ七回で、八時間かかるよ?」
「八時間!? っていうかチャリで五十分ってどんだけ田舎…!……っとごめん」
しまった。
会って間もない相手の地元を、いきなり田舎呼ばわりするって…かなりひどい奴だな俺。
「いいよ、ホントに田舎だしね」
「まぁうちの所も結構な田舎なんだけどさ。さすがに駅はそこまで遠くないからなぁ…ホントごめん」
「気にしないくていいってば」
白熊はまた微笑む。
うーむ、大きな体の割りに、なんとも子供っぽい。
優しそうな笑みを浮かべて、首をかしげるその仕草からは、白熊本来の凶暴さが微塵も感じられない。
舌ったらずなしゃべり方も、仕草も、笑い方も、同い年とは思えない。
…見かけだけなら、逆の意味で同い年に見えないかもしれないけど。
「素直なんだね、いぬじゃとくん」
「ん?」
いぬ…じゃと?
訝しげに眉をひそめた俺に対して、白熊は恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
ま、人の名前を噛んだらそうなるか。
「あはは、そんなに赤くなるなよ。言いにくいなら、リクって呼んでくれれば良いから!」
俺は笑いながら下の名前で呼んだらどうかと提案する。
白熊は驚いているのか、耳をピンと立てた。
「いいの?」
「ああ。そっちの方が仲良くなれそうじゃんか」
「じゃあ…りきゅきゅん……」
っぷ…!!
「く…!あっはっはははははははははは!!!」
俺は堪え切れずに大声を上げて笑い出した。
目の前の白熊には悪いと思いつつも、とめることが出来ない。
だって…!
今、わざわざ君付けで呼んでくれようとしたにも関わらず、明らかにそのせいで噛んでるし!
苗字でも名前でも噛むってお前…!
「う…、そんなに笑わなくても…」
「ご、ごめん…!悪気は…ないんだけどでも…っく…!!」
大きな白い体を小さくしながら、耳をぺたんと伏せていた。
流石に二回も連続で噛めば、羞恥心もマックスだろう。
あんまり笑ったら可哀想だな。
「君付けなんかしなくて良いから。リクって呼び捨てにしろよ」
「ん…リク?」
「お、やっとちゃんと名前呼んで貰えたな」
俺が二カッっと笑うと、白熊は恥ずかしそうに鼻の頭をかいた。
「…あ、あのさ、リク…」
「なんだ隈井田?」
「あ、オイラも下の名前で呼んでくれていいよ」
「ん? じゃあ、どうしたカイ?」
俺が言い直すと、カイは嬉しそうに耳をピクピクさせ、俺の目を見てこう言った。
「オイラ…リクのこと好きだ」
その言葉の意味を理解するのに、しばらくかかった。
「んぷっ!」
唐突に、唇を奪われる。
カイは体に似合わない素早い動きでオレとの距離を詰めると、問答無用にキスをしてきた。
閉じていた唇をこじ開けられ、舌が口内に侵入してくる。
カイの舌がオレの舌と絡められて、オレの牙の根元を執拗に舐める。
呼吸もままならないような、深いキスに、オレの呼吸が荒くなる。
頭がじんじんして…思考が…。
ぷはぁっ、という音とともに、ようやく俺達の口が離れる。
つつ…と、粘っこい液体が俺達の間に橋を作り、垂れて切れた。
「あ…」
しばらく息を荒くして、ぼうっとしていたカイ。
でも我に返ったのか、バッと離れると、カイのベットに寄りかかる形でしりもちをついた。
そして、突然ぽろぽろと涙を流し始めた。
予想だにしない状況に、火照っていた頭が一瞬で冷める。
「ど、どうした!?」
「…ご、ごめん…ごめ…うぅ……!」
カイは泣きながら、謝ってきた。
「急に…こんな、ことっ、して…!なんだか、我慢、が!できなく、なっちゃっ、てぇっ…!」
ああそういうことか。
感情に任せて俺の唇を奪ったことに対して、泣いて、謝っているのか。
しゃくりあげながら、小さくなって謝り続ける白熊に、オレは抱いたことの無い感情を覚えた。
「カイ」
オレが名前を呼ぶと、カイはピクッ体を震わせる。
きっと何を言われても仕方ない、そう思っているんだろう。
耳を伏せて、顔を上げることすらしなかった。
オレは…そんなカイの白い体を、そっと抱きしめた。
「そんなに怖がんなって」
「怒って…ない?」
「怒ってない」
「本当…に?」
「本当に」
カイの言葉を反復して、怒ってないことを伝える。
それがわかると、カイはにへらぁっと緩んだ笑みを浮かべた。
まるで…安心しきった、子供の顔。
オレは、そんなカイに、そっと口付けをした。
驚いて目をまん丸にしたカイに、オレはなるべく優しく見えるように笑いかける。
「気にしなくていい。俺は…カイの気持ち、受け入れるから」
そう言うと、カイはもっと驚いていた。
「でも本当にオレなんかでいいのか?初めて会ったばっかりなのに」
落ち着いたカイとオレのベットに並んで腰掛けながら、オレは聞いてみた。
「初めてじゃ…ないよ」
返ってきた答えは、予想外のものだった。
「え、会ったことあるか!?」
「リク、春休みが始まる前に、ここに下見に来たでしょ?」
「なんで知って…」
「オイラもその日下見に来てたんだ。でも地図なくしちゃって…。オイラ田舎から出たこと無いから、もう、どうしていいか分からなくなってて…」
カイは、思い出すように話始めた。
体の前で指先をつんつんする仕草が、なんとも可愛らしい。
「オイラがおろおろしたてとき、声かけてくれた人がいてね…それが…」
「オレ?」
カイの言葉を引き継いでオレが聴くと、カイはこくりと頷いた。
記憶を辿ると…確かにオレは下見に来ている。
そして、駅前で落ち着きなさそうにしていた…白熊に…
「ああ!!!」
思い出した。
確かにオレはあの日に白熊と一緒にこの寮まで来た!
それが、カイだったのか!
っていうか、こんなに大きな白熊のこと、よく忘れてたなオレ…。
オレが思い出したことが嬉しいのか、カイがはにかむ。
「オイラに『どうしたんだ?』って言ってくれて、それで一緒にここまで案内してもらって。オイラ、凄く嬉しかったんだ。それで…多分その時にもう、惚れちゃってた」
「そっか」
ぼそぼそっと話すと、カイはえへへ、と笑った。
「そしたら、さっき部屋に入ってきたのが…リクだった」
「うん」
「話して、優しくしてもらって、名前で呼べって言ってくれた。笑われてるのは…恥ずかしかったけど、でも、ちょっと嬉しかった」
「うん」
「……我慢、できなかった…ごめん」
「気にすんなって…受け止めるって、言ったろ?」
突然のキスを再び詫びてきたカイの手に、オレはそっと自分の手を重ねる。
嬉しそうにカイは笑ったが、すぐに心配そうな顔になった。
「リクは…いいの?」
「なにがだ?」
質問の意味がわからなくて、尋ね返す。
「オイラはリクに惚れた訳だけど…リクは………その、男同士だよ?」
途中で言葉が続かなくなったのか、くるっとオレのほうを向いて直接的な質問をしてきた。
そうなんだ。
カイは男。オレも男。
つまりこれは…同性愛で、ホモってことになる。
「わかんねぇ」
オレは素直にそう言った。
あいにく誰かと付き合ったことも、告白されたことも無い。
女性とも、もちろん男性とも。
更に言えば、誰かを好きになったことも無かった。
でも…
「カイに好きって言われて…嬉しかった」
「え?」
「キスも…あんまり、嫌じゃなかった」
「…」
「ビックリはしたけどな」
あはは、と笑いかけると、カイは申し訳なさそうにもじもじしていた。
「好きって言われて、キスされて、泣いてるお前を見たら…さ」
「見たたら…なに?」
「なんだか可愛く見えてきちゃってよっ!」
「んっ!?」
オレは不意打ちで、カイの唇を奪う。
さっきカイにされた様に、下を伸ばし、カイのそれと絡める。
最初は驚いて硬直していたカイだったが、そのうちオレを抱きしめて、お互いの口を犯しあった。
牙を、前歯を、歯茎を、口の内側を。
幾度となく刺激し続けて、お互いの口から「んん…!」と声が漏れる。
我ながら驚いてるんだ。
ほとんど初対面のカイに、こんな感情を抱くなんて。
でも、決して嘘じゃない。
オレのことを抱きしめているこの巨体も、淵に涙を溜めて閉じられている目も、口の中を刺激するたびに反応する丸い耳も。
全てが…愛おしく思えた。
長い長いキスを終えて離れると、オレはあることに気付く。
「うわっ…!」
オレの視線に気づいたのか、カイは慌てて股間を両腕で隠す。
カイの股間は、内側から押し上げられてテントを作っていた。
「…そういう、リクだって」
「はは…まあね」
かくいうオレも、息子はしっかりといきり立っていた。
ちゃんと勃つってことは、オレは体でもカイのことを好きだって言ってる訳だ。
自分の体なのに、なんだか嬉しくなった。
オレは再びカイにキスをする。
そのまま肩に置いた手に力を掛けて、カイをベットに押し倒す。
そして…
「あっ…!」
カイの股間に、ズボン越しに手を這わせる。
ちょっと触っただけで、カイはぴくんと仰け反った。
そのまま摩ってみる。
「あぁ…んっ!…ふぁ!」
敏感なのだろう。ズボン越しの刺激だけで、身をよじるように反応する。
その反応が、逐一可愛く見える。
「カイ…腰浮かせろ」
「え…?」
何をされるのかわかったのだろう。
白い顔が真っ赤に染まった。
「嫌か?」
オレが聞くと、カイはぶんぶんと首を横に振った。
しばし迷った後に口を開く。
「でも…自分で、脱ぐ…」
「だめ」
「ん…」
オレがズボンに手を掛けると、諦めたように腰を浮かせた。
パンツごと、オレはズボンを引き下ろす。
白い体毛の中にそそり立つ、先端だけ皮がめくれてピンク色を見せるそれが、外気にさらされた。
カイは顔を両手で覆っている。
「自分から告白したくせに、照れてるのか?」
「…だ、だって…」
恥ずかしそうに、また涙を目に浮かべる。
やばい…なんかサドに目覚めそう…。
カイのチンチンはちょっと、っていうかかなり小振りだった。
片手に収まってしまうそれは、なんとも可愛らしい。
それにそっと触れる。
カイがピクッと反応したのがわかった。
初めて見るわけじゃないが、こんなに間近で見たことの無い、そして初めて触る自分以外の男のそれ。
でも、全然嫌には思わなかった。
むしろ、可愛くて、愛おしいとさえ思う。
「ふっ!あっ…!り…リク…!はぁっあ…!」
カイのチンチンを握って、普段自分のにしているように扱く。
しごくたびに、カイは声をあげ、体全体が反応する。
そのうち、カイのチンチンは先端から汁を出し始め、それがにちゃにちゃと卑猥な音を立てる。
その皮をそっとめくると、ピンク色のそれが姿を現した。
ぬらぬらと自らの分泌液で光るそれは、なんともいやらしい。
オレは親指の腹で裏筋を押すように撫でる。
「ああっ…あぁ〜…!!」
力を入れるたびに、カイが快感の声を漏らす。
オレはシャツのすそを捲り上げると、そのまま脱がせてカイを全裸にする。
膨らんだ腹を撫でて、そのままふくよかな胸に手を這わせる。
むにっ、と揉んでみると、程よい弾力が心地よい。
「あぁ…!り、リク…!オイラ、もう…イっちゃいそう…!」
「いいよ、イっても」
オレはそう言いながらカイの耳を甘く噛み、手の動きをピストン運動に戻す。
程なくして、そのときは来た。
「んん…!リ…ク…、はぁっ…ふっ…!ああぁあ!」
カイは全身を仰け反らして、ぶるるっと震えながら、オレの手の中に精液を吐き出す。
手に感じるカイのチンチンが、びくん、びくんと脈打った。
射精して、放心状態になっていたカイは、ふっと立ち上がると、オレに唇を重ねる。
そのまま、体重に物を言わせて押し倒された。
さっきのオレと、同じ行動。これって…!
「っぷは!今度は…オイラの番」
やっぱり。
カイはオレのズボンに手を掛けると、ゆっくりとそれを降ろした。
さっきオレが脱がせたもんだから、オレは文句を言えず、おとなしく腰を浮かせる。
皮を半分被ったままのオレのチンチンが、ビンとカイの目の前に晒される。
う…、これは…恥ずかしいな。
カイは目の前のそれを愛おしげに見つめると、おそるおそる、といった感じで触れてきた。
「あぅっ…!」
カイの指先が触れただけで、俺は声をあげる。
ひ、人に触られるのって…全然違う…!
「大きい…」
カイが羨ましそうに呟いた…。
オレのは多分…平均くらいじゃないかと思う。
まぁ、お前のと比べれば…やっぱり大きいけど。
「うぁ…!ん、はぁ…!」
「気持ち良い?リク…」
しごき始めたカイが、そう尋ねてくるが、快感からか返事をすることが出来ない。
ふっとカイが動きを止めたので、頭を上げて覗き込む。
そこに見えたのは…カイが…舌を…
「ふぁっ!!」
カイの舌がオレの亀頭を舐めると、オレは思わず声をあげた。
そしてカイはそのまま…
「待っ…!カイ…それは…ふぅあんぅ……!」
カイはオレの逸物をすっぽりとくわえ込むと、暖かい感触がオレのそれを包む。
牙を立てないように注意しながら、カイはオレのチンチンを音を立ててしゃぶった。
舌が絡みつくたびに、先がのどの奥で刺激されるたびに、オレは喘ぐように声をあげる。
「ああ…!か、…カイ…!オレもうっ…!ふぅ…あっ、あっ、あああ…!」
そのままカイの口内へオレは発射した。
カイはそれを、ごくりと音を立てて飲み込み、そしてちゅるんと口を離した。
あまりの快感に、頭がぼうっとする。
カイがその場に座り込んで、上目遣いにオレを見ていた。
「リク、気持ち…良かった?」
「ん、まぁ…」
でも、まさか咥えられるとは思ってなかったけど。
オレの返事に、カイは幸せそうに微笑む。
可愛い。そう思った。
そして、あることに気付く。
オレはカイの前にひざ立ちになると、そっと抱きしめる。
「リク?」
「まだ、言ってなかったなと思ってさ」
オレは体を離して、カイの首に両腕を回す。
不思議そうなカイの顔に微笑むと、そっと、唱えるように言った。
「オレも…好きだよ、カイ」
もう一度、今度は軽く触れるだけのキスをすると、オレはまた笑った。
カイが、今にも泣き出しそうな顔をしていたから。
その夜、俺達は二つあるベットの片方に二人で並んで寝た。
体の大きいカイが寝返りをうつと、悲鳴を上げるベットが少々可愛そうだ。
それにちょっと狭い。
「んにゃ……リク……」
寝言でオレの名を呟いたカイの顔を、そっと撫でる。
カイはくすぐったそうに身を捩じらせた。
入寮一日目。
まだ、入学もしていないオレの高校生活は、恋人が出来ることから始まった。
しかも男だ。
こんなこと、全然想像してなかったな…。
今思っても、こんな簡単にカイを受け入れられたことに、自分で驚く。
でも、目の前の幸せそうな寝顔をみたら、そんなこと、どうでもよくなった。
おやすみ、カイ。
ちゃんと名乗りあってまだ数時間だけど…
今まで出会った中で一番大切な人。