【やりにくい口付け】

私とアナタがキスするときは、アナタはちょっとやりにくそう・・・だって、私は犬だから真正面から近づいたって私とアナタの鼻がぶつかっちゃうんだも ん・・・だから私聞いてやったんだ・・・

「ねぇ・・・私とのキスってしにくい?」

「ん〜? 全然そんなことないぞ」

「そう・・・」

ほらアナタはそうやって嘘をつく・・・本当の事言えば私が傷つくと思って・・・

「正直に言って・・・本当はしにくいんでしょ?」

「・・・」

私がそう言ったらアナタは私を抱いた・・・私がツライ思いを持ってると知って抱きしめてもそれじゃ答えにならないよ・・・

「確かに・・・しにくいものはあるな・・・」

「そう・・・」

ほらやっぱり、しにくいじゃない・・・

「でもな・・・」

「?」

「やりにくい分・・・オレはオマエと口付けを交わしてるんだ・・・ていう想いが強く感じるんだ・・・そう思ったらさ、やりにくいキスもどうってことないん だ・・・」

「・・・」

そっか・・・私を感じてくれてたんだ、やりにくいキスで・・・私、そんなアナタの気持ち全然知らなかった・・・

「ごめんね・・・変な事聞いちゃって・・・」

「いいよ・・・だってオレはこうやって暖かいものを抱いてるだけで充分だからさ」

「なにそれ? 私の毛皮は暖房じゃないよ」

「ハハ! 冗談だよ・・・でもな、ホントなんだ・・・こうやってオマエを抱くと何もかもが暖かくなるんだ・・・」

「・・・」

暖かくなる・・・あのやりにくいキスもアナタを暖かくしてたのかな?
私は・・・それを確かめたい・・・

「ねぇ・・・もっかいキスしようよ」

「ああ・・・いいぞ」

それからアナタは顔を傾けて自分の唇を私の唇に持ってきてくれた・・・
やっぱりアナタはやりにくそう・・・だけどね、私の気のせいなのかもしれないけど、アナタはその口付けで私から暖かい気持ちをもらっている・・・そんな感 じになるんだ・・・私・・・



何かでその人を感じ取る・・・その思いはアナタがその人に対する思いでもあるんです。
そして口付けで相手を感じ取る・・・それは、形はないけどその場にある「確かな」気持ちが強い事を意味するんだよ・・・

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