【全視点での好き】




 普通…この言葉がどれだけ世に出回っているか論じれば数文字で終わりそうな感じ。例えば、「全世界」。うん日本語だと3文字で終わっちゃうわね。
 とまぁ、そんな小難しいことばかり言ってるのには理由があったりしちゃうわけ。だって、彼は今日に限って「普通は・・・」と口癖のように言うんだもん。
「普通はさぁ・・・」
「ハイハイ、もうその言葉聞き飽きたわよ! それ以上言うと噛むわよ?」
 自慢じゃないけれど私の牙の鋭さは天下一品ものよ。牙のある女の子っていうフレーズはなんだか怖い気もするけど、そこは私が狼族だから気にしな いの。ここまで言えば彼も狼族だと思う人もいるでしょうけど予想反して人間族なんだなぁ〜これが。だから私が噛むと彼は獣族の数倍の痛さを感じるのが常な のよねぇ〜・・・脅しには便利いいけど。
「もう噛まれたっていいです。だけど言わせてくれ・・・こういう日に居酒屋で酒三昧の焼き鳥たらふく食べるか普通?」
 彼の呆れ精神のせいで脅しも通用しなくなってるわね。こりゃ重傷だわ。
「だっておごるから好きにして良いよっていったのはアンタよ? だから私は好きな場所を選んだわけ」
「でも納得いかん。お前の誕生日にこれじゃ・・・」
 そゆこと、今日実は私の誕生日だったりするわけ。だから彼は「好きに過ごそう。俺がどんとご馳走してやる」って見栄きったの。だからこうやって『好きなお店』で『好きな飲み物と好きな食べ物』をご馳走させていただいております。
「私はこれで結構楽しいわよ〜それに、こういうところだとアンタの財布もそう寒くはならないでしょ?」
「高級なお店行くと思って余分に下ろし過ぎて暖かいことこの上ないよ」
 肩の力が抜けた声で言う彼って結構可愛かったりするのよね。
「いいじゃん。逆に誕生日でこんなに楽しく笑って過ごせるから私的に大満足よ」
 そう、『好き』に笑って『好き』に過ごせるこの瞬間の味は格別だしね…




「大満足!」
 桜並木の帰り道を歩く私の尻尾は大きく振っちゃってる。それくらいの幸せ感、やっぱ着飾って無理して高級なお店行くよりかはお酒飲めてイッパイ笑える居酒屋がいいわよねぇ〜?
「そういってもらえて何より。ただ財布がこんなに暖かいことが心苦しくなるなんて思っても見なかったよ」
「たまには良いんじゃない? こういう過ごし方も答えの一つなんだよ」
 まるで人生を問うような言い方ね。でもしょうがないわよ、だって私のほうが彼より年上。年上らしくこう言うのもまた必須っしょ!
「だからそう・・・っくしゅっ!」
 だぁ〜もう! この桜めぇ〜上手くピンポイントに私の鼻にくっ付きやがって…おかげで良い事言おうとした瞬間が台無しじゃない!?
「クスッ・・・そのクシャミも好きに出したってか?」
「自然現象を自由自在に出す私はどういう存在よ!?」
「俺の可愛い犬っ娘(彼女)」
 字面におかしな点があったような気がするのは私だけだと思う・・・多分。
「そうさ・・・不意打ち的なコクんのやめない? 結構今ので幸せ気分マックスなんですけど」
「誕生日ならそういう幸せにするのもありかな〜って思って」
「そりゃどうもアリガトウゴザイマス」
 不意打ちだからね〜こう片言になるのも無理ないわ。でも、幸せな気持ちは本物よ。
「いえいえ、どういたしましてお姫様」
「じゃ、その胸ポケットに隠してるネックレスもらいましょうか?」
「えぇ!? なんでわかった?」
「そんな金属の匂いプンプンなものを入れてたら丸分かりよ。私が狼だって事忘れてた? それに、歩くときに鎖のジャラジャラした音も聞こえてたの」
 このネックレスの使用用途なんて予想突きまくり。
「じゃあ隠しても仕方ないよな・・・ハイ、誕生日おめでとう」
「ゴメンね〜もうチョイ雰囲気合ったムードでもらえばいいけど私が気付いちゃったからね・・・でも、ホントありがとう」
 渡された長い箱は上品にも布製・・・しかも本物っぽい感じありまくりね。こりゃ相当無理したんでしょうね〜・・・中見てみると結構な大きさのダイヤのネックレス。知ってる? 私それ見て少し眼が潤んだんだから。
「えっと、一応喜んでくれてるんだよな?」
 コイツは女の子を泣かしたからキョドってる。多分無難に選んだダイヤでしょうけど、私ね深読みしちゃうんだ。
「もちろん嬉しいよ・・・でも、知ってくれてたらもっと嬉しかったな」
「え?」
 もう私はこれ以上言わない、あとは自分で勉強しろ。私の可愛い坊や。

 私は今日イッパイ『好き』に過ごせた。
 好きなお店で、好きなもの食べて、好きに笑って・・・
 一番大『好き』なヒトから大『好き』な石をもらっちゃった。
 桜咲く4月の誕生石ダイヤモンド、私はそれもらって、嬉しくて、泣いて…
 コイツのこと更に『好き』になっちゃった。


「なんだ、今日はイッパイ誕生日プレゼントもらえたんだ私」
「まだまだ少ないと思うよ。来年こそはもっと良いプレゼント考えてやる」
 坊やの頭はまだまだ成長しなくちゃだね。気付けバカ…


 『好き』をプレゼントした自分をね



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