【RED HOOD】
草や落ち葉に小さな小枝を踏むその足音はとっても小さなものです。歩くのも小さな女の子、その真っ赤なずきんをかぶって歩く可愛らしい子は相も変わらず皆から「赤ずきんちゃん」と親しみを込め呼ばれる毎日です。
赤ずきんちゃんは狼と出会った森に一人森林浴をしてます。幾筋も降り注ぐ太陽光にその下で咲く色とりどりの花達。そんな花達を赤ずきんは切り株に座りぼんやりと見つめていました。
「あの向こうで狼さんは森は楽しい所だって教えてくれた」
見つめる先で思い浮かぶのはつい先日の情景です。あの時はケーキとワインをバスケットに入れ、寄り道もせずに病気のお婆さんの所に向かうつもり でした。そのとき、狼さんが「森の中の綺麗な花を見ないの?」と声をかけてくれたのです。おかげで赤ずきんちゃんはこの綺麗な花達を見つけ、お婆さんのた
めに花束を作ろうかと思いこの花達を摘んだのでした。
「狼さんありがとう。おかげで私はこの森をちゃんと見ることが出来たよ」
赤ずきんちゃんの言葉は虚しく空に舞うだけでした。誰に言うとこの無いその言葉、言う相手ももう存在はしない、そんな空っぽの気持ちを花達はまるで慰めるかのように花びらを風に乗せ舞い上がらせたのです。
「良い香り…狼さん、この香り感じてるかな?」
狼は犬の仲間であり、花がよく利くことを赤ずきんちゃんは知ってました。だから精一杯信じることにしました、その花の香りが狼さんのいる天国に伝わったことに…
「狼さんは何色が好きだったのかな?」
いきなり呟く赤ずきんちゃん。花の中からどうやら狼さんが好きそうな色の花を探してるようです。
「うん、私が赤だから狼さんはオレンジがいいかな?」
おもむろに摘んだその花は綺麗なオレンジ色の花、匂いはあまり無くてもそのオレンジの淡さはまた違う気持ちを生み出すのでした。
赤ずきんちゃんはそのオレンジの花を空高く上げ微笑みました。
「狼さん、私狼さんのこと好きだったよ。狼さんと一緒に花冠作りたかったな・・・」
願う相手はもういません。空を見上げる赤ずきんちゃんの目にはまた涙が溢れ出して空の青と白を滲ませるのでした。
「狼さん…私のこと好きだったから食べたの?」
答えは返ってはきません。でも、その時吹いた春の風は赤ずきんちゃんの頬を撫でた気がしました。まるで「赤ずきんちゃん泣くな」と言わんばかりにです。
「この花、狼さんにあげるね」
そう言い残し赤ずきんちゃんはそのオレンジの花を切り株に置くのでした。
花の名は『ヒナゲシ』。花言葉は「思いやり」です
ほら、その思いやりのオレンジの花を小さな小さな狼がパクッと銜えて持って行っちゃったよ。
戻る