【冬用夏用】





「寒いぃ〜・・・さみぃぞゴルァ〜」
 ヒトの思いと心境を簡単かつ簡潔に述べた言葉。口調の悪さから予想は出来ないがこれはれっきとした人間の女性の言葉。
「んな当たり前言うな。俺までさらに寒くなる」
 正当な反論をしたのは人間ではなく竜人の男。いくら寒さに強い竜人でさえ凍える今日の気温。そんな二人は本日の夜のメインイベント、竜人の彼の家でお鍋の材料の買出しに外に出なくてはいけないのだった。
「大体なんでアンタの家に材料のざの字も無いわけ!?おかげで私鼻水タラッタラの状態じゃない!!」
「前置きも何にもなしに『アイラブお鍋、レッツクッキング!』て言ってお鍋絶対食べると切り出したのはどこのどいつだ?」
「ヒトは皆過去を振り返らずに未来を見つめる生き物、そんな昔を引き出しちゃいかんよキミぃ〜」
 もっともらしいことを言う彼女だが、状況がその言葉を許してはくれない。
「鍋の材料お前が全部持て」
「嘘々、ウソですってば!お願い、荷物持ってよ〜」
 二人分といえども竜人の彼が結構な量を食べるヒトなので普通の人間で言えば3〜4人前くらいは買わなければいけないのでその量は女性じゃキツイものがある。
「だったら寒いって言うな。むしろ暖かい暖かいてばかり思っとけ」
「な、何とかがんばるわよ・・・」
 と、勇気で言ったものの彼女の心境は寒いの一色、言葉こそ出てないが身体全体でその心境のオーラが漏れ出てきている。
「ねぇ〜・・・確かアンタ種族柄、火ふけたわよね?」
「・・・ハ??」
「火よ火!今すぐふいてよ〜」
 あまりの寒さにとうとう彼女の思考回路も狂ってしまったのだろう。暖を取りたいがためとはいえこれは奇々怪々すぎた。
「オマエなぁ、こんな街中でふく馬鹿がどこに・・・」
「四の五のぬかすな、早くふけ、私のために早くふけ〜」
「ったく・・・」
 そういうと竜人の彼は息を吸い込んだ。冬空の冷たい冷気が肺に浸透してくる。
 息を吐き出すときには小さな炎が彼の口から噴き出ていた。
「くわぁ〜暖かぁ〜」
 さっきの辛そうな顔はどこに行ったのやらで、すっごい幸せそうな顔になってるのだが・・・それも長くは続くはずも無かった。
「って、なんでふくのやめるのよ!?」
「息が続かないんだよ!」
 ふく炎は息をふく要領で行うためにその竜人の肺活量が鍵となるのだ。
「もう・・・また寒くなるじゃないのよ」
「じゃあ俺に引っ付けよ。そしたら少しは暖かくなるだろ?」
 身を寄せ合う方が一番良い策なのだが、当の彼女はそれを大きく拒んだ。
「ダ〜メ、アンタは夏用なのよ。この時期はアンタの鱗が冷たくて抱かれるのに適してないの!」
「ああ、そうですか・・・」
 悲しい、無性に悲しい気持ちになるのは決して気のせいではないだろう。そのおかげで冬は少々さびしい思いをしなくてはいけないとなると尚更だ。
 その時、彼女は竜人の彼の背後に回りいきなり抱きついてきた。
「だけど、私はアンタの冬用だったり」
「え?」
「人間の肌って案外暖かいものなのよ。だからこうやって暖めてあげる」
 竜人の彼には必要の無いことなのに彼女はそうしてくれる。暖かい気持ちになれば身体も暖かくなるというのはどうやら間違い無いらしい。だって、互いにその心は暖かく身体はの暖かさは・・・
「でも、やっぱアンタの鱗冷たい」
 ・・・ならないようだった。


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