【落ち葉と銀杏と】





 今年は異常気象のせいか草木の咲く頃がずれてしまった。それは彼女にとっては大問題だった・・・
「あ〜あ・・・見つかんない」
「見つかんないなら帰ろう。あぁ〜・・・寒っ!」
「何よ、自分が一番暖かい身体してるくせに、よく言うわよ」
 言い忘れてたがボクは獣人のキツネ科で彼女は人間。どちらが暖かそうかといえば皆は毛皮とフンワリな尻尾で判断して絶対ボクを選ぶだろうがそれは間違いだ。この会話から察する人も居るだろうが・・・ボクは大の寒がりだったりする。
 事の発端はボクの目の前を先陣切って歩くヒトの迷惑なんてなんのそので、せっかくの好物のきつねうどんを食べてる最中にいきなり家に来てはヒト の首根っこ捕まえて寒空の下お外へレッツらゴーを無理やりされて挙句の果てには一緒に探し物を探させられている状況に追い込んだこの天真爛漫、傍若無人、 奇々怪々、人生爆発、有言実行、無茶苦茶な彼女のせいである。(ひどいと思ったあなた、それくらいボクは彼女に振り回されてます。
「生まれつきなことを今言われても困る。大体こんなに探してもイチョウの木なんてないだろ?」
「ある!絶対にあるの!そんで今年もイチョウの押し花作る!!!」
 性格も性格ならやることもやることでまた奇抜真っ盛りなのだ。彼女の趣味は植物の押し花を作ること。聞こえは良いかもしれないが、これが幼稚園の頃から続いている趣味だと言う。凄いもんだね〜。そんな持続力ピコグラム単位でも良いから分けてもらいたいものだよ。
「ハイハイ・・・てか、町中探したのか?」
「当たり前じゃん!ちゃんと隅から隅までず〜っとよ!」
「神社の裏の森もか?」
「もち・・・ろんじゃないわね・・・」
 もしこの国の法律を一つだけ作って良いぞと言われたら即効に彼女をハリセン叩き許可で彼女は怒ることは出来ないという法律を作りたいもんだね・・・それくらいにボクは憤怒しちゃってます。
「なんじゃそりゃ?じゃあ今まで歩いたのはなんだったんだ!?」
「あっはは〜・・・ゴメンゴメン。でも、あの森にあるとは限んないんだしダメ元で一緒に行こうよ」
「自分一人で行ってくれボクは寒い、帰る、うどんのお揚げがまだ手付かずだ」
 後ろを振り向きバッハハ〜イと手を振りたかった・・・それは願望に止まり彼女はまるでどこぞのサイボーグの如く瞬時にボクの懐までもぐりこむと・・・
「そういう悪いこと言うのは・・・このお口かしら?」
 マズルを両手で掴んできたのだ。いいや、これは掴むというレベルではない、これは絞めるだ!そうなれば呼吸の「こ」の字もボクには許されず、鼻 はスピースピーという音を立てながら苦しそうにしちゃってる。あ、いや・・・第三者的発言をしたって自分のことだろう?あれ?なんか苦しくなくなっ て・・・あぁ・・・なんか白〜くなっちゃってすんげぇお花畑が見えてくるような・・・
「フンっ!こういう思いをしたくなかったら私に逆らわないことね!」
 すんません、そのセリフは行動を起こす前に言うべきものじゃないですか?そうすればボクはこんなにも現実世界に戻って生還してその後に来る苦しさを実感せずに済んだのですがね〜・・・
「さ!行くわよ!」
「ヘイ・・・」
 我ながら情けない返事の仕方だこと・・・



「うっわ〜・・・まさに獣道、アンタにはお似合いね」
「そりゃほめ言葉として受け止めておきますよ」
 久々に来るとやっぱこの森はあんまり人が来た気配しないな〜。寂しいもんで、最近のゲームとかの発達によりボク等の頃に比べこの森で遊ぶ子供は少なくなったのか?いやはや・・・何度もいうようだけど寂しいねぇ〜・・・
「あ!」
「え?・・・うお!?」
 な、なんだなんだ?急に彼女はボクの手を引っ張ってきたのだ。いきなりなので足はもつれそうだがそれでも何とか足は追いついてきてる自分に自我自賛したいものだ。
「ホラホラ!あった、あったよ!イチョウの木!」
 この場所を教えたのはボクなんだが・・・まあ、そう反論したところで彼女は怒り出すだろうし今は何も言わずでいるか。
 確かに、そこにはイチョウの木が一本だけそ山吹色の葉を程よく飾っている。ただ悲しいかな、やはりそれでも一本だけとは悲しく思うものだ。
「だな、これで押し花作れるよな?」
「もちろん!あぁ〜これで今年の分はコンプリートできそうだわ!」
「そりゃお幸せなことで・・・」
 紅葉とかはこの前採ってきたというし、冬にはあんまり植物も生えないだろうからこれで今年は完璧だな。
 だが、周りを見ても悲しさは抜けないな。昔は膝くらいの深さまであったイチョウの葉がこんなにも寂しくなっちゃって・・・変わってしまったな、この場所は。
「な〜に地面見て辛気臭い顔してんのよアホ狐」
 こいつはどうしてこう・・・ヒトが感傷浸ってるときにぶち壊すようにそう言うもんかね〜・・・って、今更言ってもこいつだけだもんな、この場所が変わってしまっても全然変わらないものってのは・・・
「うるせい」
 ボクはかろうじて落ちてきたイチョウのは二枚を手に取り彼女の髪に無理矢理挿してやった。
「あ・・・」
 おや、こういう呆気にとられた彼女の声も今では新鮮に聞こえるもんだね〜。昔はこうやって彼女はイチョウの葉を挿して嬉しそうにしてたっけ・・・彼女もそのこと思い出してたんだろうな。すぐにそのときの再現っぽく言ってくれた。
「ホラ、これでアンタと同じ私も可愛い狐さんだよ」
「今はボクのこと可愛く感じるか?」
「う〜ん・・・かな、やっぱ私の中じゃまだまだ可愛い小動物の狐君にしか見えないよ」
「いつになればカッコイイになるのやら」
「多分、一生無理かもね」
 そこも変わんないのか。まぁ、それはそれで悪くないけどな・・・
「だからね・・・」
「ん?」
 なんだ?急に彼女の声のトーンが低くなってきたな・・・
「アンタは変わるな。ずっとそのまま、フンワリ尻尾でもふもふな狐君でいてちょうだい」
 なんていえば言いのかわからないもんだ。その時見た彼女の笑顔は凄く可愛く感じちゃうし・・・ダメだね〜ボクって。
「これでもず〜っとボクのまんまなんだけどね〜」
「それ聞いてめっちゃ安心!それじゃ、帰ろう!」
「ああ・・・って、そのまんまか?」
「え?あ、うん。このまんま!」
 あろう事か彼女はイチョウの葉を頭に挿したまんま帰ろうというのだ。
「挿したボクが言うのもなんだけど・・・変に思われないか?」
「良いの!今の時期、こういうおかしなもの付けたって変じゃない時期だし」
「時期・・・あぁ、そういうことか」
「うん!」
 忘れてたな・・・この時期彼女はもう一つ好きなものがあったんだっけ・・・
「トリックオアトリート!可愛い狐男さん!狐娘でございます!」
 なんとも可愛らしい狐娘様なものだ。その可愛らしさに何かお菓子でもあげないといけないな。
「それじゃ、帰りにケーキでも買っていくか。美味しいカボチャ系のやつをな」
「うん!」

 
今年は狼さんの出番はまったく無し。
変わりに狐さんこんにちは。
ガオーッと驚かしはしないけど、お菓子をあげないといたずらはヒドイものだぞ。
トリックオアトリート、さあ一緒に食べましょう狐さん
トリックオアトリート、その美味しいパンプキンケーキを

トリックオアトリート、変わらないヒトに感謝を込めて・・


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