【近くにある向日葵】





気温はもう夏と呼ぶに相応しくなくなってきた・・・吹く風も私の鬣を涼しげになびかせるこの頃、未だに咲くヒマワリも少し高く昇る日差しを見るように強く咲いている・・・私と姫はヒマワリが多く咲く野に行く途中なのだが・・・

「早く行こうよ!」

姫よ、そう急がなくてもヒマワリは逃げません。逆に急いで転びでもしたら大事ですよ。まあ、姫はそんな私の思いなど知るよしも無いほど楽しそうだけど・・・

「やっぱり綺麗・・・いつ見ても、ヒマワリが一番だね!」

姫がそう言うのも無理は無いな。一面に咲く地上の太陽達・・・そう比喩表現をしてもいいくらいの綺麗な黄色のヒマワリたち。こればかりは、私も姫と同じ気持ちに自然となってしまうな・・・ん? 姫の様子がなにやら暗くなってる・・・

「でも、残念・・・」

「何がでしょうか?」

「この子達・・・もうすぐ枯れちゃうんでしょ?」

そうか・・・ヒマワリは夏の花。秋には枯れて種を残し枯れてしまうからな・・・

「ハイ・・・もう暦では秋ですし、枯れるのは時間の問題かと・・・」

「そう・・・」

気の利いた言葉を贈ればいいのだろうが、如何せん私にはそんな詩的センスは持ち合わせてはいないものだから姫様を余計に悲しませる・・・。

「私ね、ずっと思ってることがあるの」

「思ってること?」

「うん・・・」

姫はそう言うと近くにあるヒマワリの花に手を添える。それはまるで愛しいヒトの頬に手を置くようなものに見えた。

「ヒマワリってどこと無くアナタに似てるでしょ? ホラ・・・」

「あ・・・」

確かに・・・ヒマワリの花弁と私の鬣はどこと無く似てる部分は多い。

「それに、アナタの鬣は太陽にも似ている・・・それはヒマワリにも言える事だから、私にとってヒマワリが枯れるってことは太陽が枯れると同じくらいなの・・・」

「姫様・・・」

姫よ、そなたはなんと心優しきことでしょう・・・そして、どれだけ私を喜ばせてくれるのでしょう・・・私は太陽と比べられるほどの存在ではないというのにアナタは私を太陽と同等のものとしてくれる・・・

「だから、私はヒマワリたちに枯れて欲しくない・・・でも、仕方が無いもんね。枯れない花なんて自然の花の中に無いもの・・・」

姫様、そのようなことはありません。だって・・・

「私が居ます・・・姫様」

「え?」

「ヒマワリと似てるだけですが、私が居ます。アナタのそばでずっと枯れずに居る私が・・・それじゃ、不満ですか?」

「えっと・・・」

自分じゃ不思議なくらいに出てきた言葉。何でこんな言葉をいえたかわからない、ただ目の前に居る姫様を思っただけなのに・・・

「そっか・・・気づけなかった私が馬鹿だよ・・・」

なにが馬鹿なのだろう? 私にはそんな風に見えはしないのだが。

「私は本当の意味で『ヒマワリ』を感じていたんだね!」

言葉の意味はわからなかったけど、なぜか熱が上がったような気持ちの私がヒマワリの野の中で・・・その中に居る姫様の前に存在していた。




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