【裸足の世界】




砂浜を裸足で歩く少女は今大地を歩いている感触だ。人間族以外の色んな種族のヒトはこんな感触で歩いているのかと思いつつも一緒に歩く竜人の彼に微笑をかける・・・

「どうした、嬉しそうだな?」

微笑みから返ってきたのは竜人の彼の不思議そうな声・・・それもそうだろう、いきなり自分の顔を見られて笑われた時にはそういった反応が普通だからだ。

「私もアンタと同じ裸足だなって思ってらね、なんか嬉しくなっちゃった」

いい加減且つも少女の心情の簡潔な答え・・・だけど、この部分だけでも少女の思考を理解しろというのは無理なものがある。

「訳がわかんねえよ・・・大体、落ちてるもので足切ってもしらねえぞ」

無関心というべきか当たり前というべきか・・・少女のロマンな心をこの竜人に理解しろと言っても、多分理解してくれるのに1年分の苦労を一瞬でする羽目になってしまうだろう。

「もういいわよ・・・ファンタジー小説の主人公になった気分の私が悪かったわよ」

一瞬で味わう1年分の苦労と一瞬で終わる呆れを比べても天秤にかけるほどの物は無く、必然的に後者を選択した。

「なに怒ってるのか知らないが、サンダルくらいは履けよ」

「嫌だ! 裸足の方が気持ち良いもん!」

片方は片方を想い、片方は自分だけを思ったが故の些細な喧嘩。まあ、大体喧嘩の原因なんてちっぽけなものだったりする良い例がこの二人であろう。
そう思った矢先、竜人の彼は不意に彼女の片方の手を取り少女の手を引くような状態で歩く形になってしまった。

「な、なにするのよ!?」

「そんな足だとすぐに怪我するからな。俺が先で歩いて足元見といてやるよ」

「い、いらない! そんな優しさ・・・」

「優しさじゃない、俺は怒ってるんだ」

「なんでよ・・・」

今初めて聞く竜人の彼の感情・・・どうしてそうなったかは少女にもわからなかった。だって少女はずっと・・・



「俺を風景の一部にするなよ・・・一緒に歩いてるのに・・・」



ちゃんと見てなかった少女が悪かった。
ちゃんと感じなかった少女が悪かった
ちゃんと一緒に歩いてなかった少女が悪かった

この罪悪感を少女はどう拭おうか迷った。迷って迷って・・・答えは・・・

「うん、ゴメンネ」

取られた手の指に自分の指を絡ませた。人間とは違って4本の指しかない竜人の手。硬くて爪が出ててちょっと危なっかしい部分もあるけど、少女はその手を握り返したんだ。
そのとき、後ろを見た竜人の彼は心の中にある気持ちという実が弾けた。

沈む夕日の光に照らされた少女の笑顔のせいで・・・




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