【愛しの花】




(花は大好き・・・でも、こんな花はいらない!)

大粒の涙を流す少女・・・その理由は簡単、大好きなヒトが傷を負ってしまったからだ。ヒト・・・と言ってもトラの獣人、逞しい体つきだが時折見せる猫のよ うな仕草の彼に少女は恋を抱いたのだ・・・

そんなトラの彼が大怪我をした・・・それも、間接的に自分のせいで・・・

「なんで、そんな花のために危険を冒すの・・・?」

療養のためにベッドに居る彼に少女は問うた。一命は取り留めたトラの彼であっても、体のあちこちに巻きつけられた包帯はその怪我の悲惨さを物語る・・・

「泣くなよ。俺だってまさか足滑らすなんて思っても見なかったんだし、事故でも俺は生きてるんだ。泣くよりも安心してほしいな」

「死ぬより良くても・・・アナタが傷を負うのは嫌・・・」

その怪我は自分が存在するが故の傷、自分が居たから負ってしまった傷・・・少女の涙の訳は大方そこにある。そして、その理由とは・・・

「そんなに私に珍しい花を見せたかった訳・・・?」

それはトラの彼が少女の誕生日のために贈る花を取りに行くことから始まった。ただ花を摘めばいい話であろうが如何せんトラの彼が花を摘みに行った場所は人 間じゃ到底行き着くことの出来ない崖の中腹・・・さらに言えば、獣人でさえ到達は難しいといえる場所だ。

「ああ・・・花大好きだろ? 本当に見たことも無い花ばっかだったしお前が喜ぶならそれで良いかなって思ってさ。だけど、崖から落ちたせいで一輪しか持っ て帰れなかったけどな・・・」

崖から落ちたことと着地が失敗したことでトラの彼は大怪我を負ってしまったのだ・・・だが、少女の気持ちに嬉しさなんて無かった・・・

「その花のせいでアナタは怪我したんだもん・・・一輪あっても、憎らしい花でしかないわ」

「そう言わないでくれ。摘んだ俺が本当に馬鹿な怪我したことになるから」

トラの彼も少女の気持ちはわかっていたので少女憎しみには肯定も否定もしないようだ・・・

「私はアナタがくれるものなら何だって良いよ・・・アナタがそこらで摘んだ花だって私にとっては特別な花、枯らさないようにちゃんとする。でも、その花は アナタを不幸にした・・・」

「でも、俺は絶対その花じゃなきゃダメだったんだ・・・」

「どうしてよ?」

トラの彼は躊躇いながらも彼女の髪にその一輪の花を飾った・・・その自然の髪飾りは少女をより一層可愛く見せ、その花の可愛さと少女の可愛さは等しきもの と自然と思える様である・・・

だって・・・

「その花、お前と同じ名前でお前の誕生花なんだ・・・」

その言葉に少女の涙は強まった・・・だけど、今度の涙に憎しみは無かった・・・ある気持ちは純粋な嬉しさだけであることを、抱きつかれた少女で胸元を濡ら してるトラの彼には十分に分かっていた事だろう。


キミは愛しの『カトレア』
睦月の十三日の生を受けた子
花言葉は「純愛」
キミは本当にカトレアのようだ・・・




戻る