【笑った世界、泣いた世界】
世界の片隅に在る風吹く夜の森の花園・・・
姫が握るは自らを守ることを約束した狼騎士の剣・・・世界を守る贄となるため・・・魂を肉体から解放するための剣を貰い受けヒトリこの場に立つ・・・
「思えば私はこの剣でずっと守られてきました・・・そして、この剣を振るうアナタという存在で・・・」
姫の後ろに居るのはこの剣の持ち主。姫に忠誠を誓い、後生、この身に何が起きろうとも姫をずっと守ってきた狼たる騎士。
「我は姫様を守ることが証。姫様が世を去り、魂になりこの世を守りたいと願うなら我はその願いを聞き入れたかった・・・」
狼の苦渋の言葉に姫は首を静かに横に振るう・・・
「アナタに私を殺めたという罪を背負わせたくなどありません。私は、そのような罪を背負わずとも、私が守り未来現存するこの世界でアナタが生きていれば魂
を捧げるのも怖くは無いのです」
姫は剣を上げその先を自身の心の臓に向ける・・・
「私の分まで生きること・・・それが私が狼たるあなたに言える最後の命(めい)です」
太陽の如く微笑む姫君、不安隠しの笑顔、これからの世界に在る狼への願い・・・この二つを感じとった狼は剣握る姫君の手を、その優しき温かな毛で覆われし
手で包み込む・・・
「如何様でしょう・・・ここぞと言う時、我は姫様の命よりも我自身の証を大切に思います・・・」
包み込む狼の手は力がこもる・・・その手は泣いていた。狼は泣いていた。
生きていて欲しい・・・
その願いを込め流す涙・・・
「なぜ、姫様は死ななければいけないのです・・・」
「それが、この世界を救うからです。私の魂が・・・」
「そのような御託はいりません!」
狼の力強い叫び・・・本当の獣を表すかの如くの咆哮。次には狼は姫君を抱きその頬を涙で染める・・・
「姫よ・・・愛しき人よ・・・なぜアナタでなければならないのだ!? この世で唯一、我が命賭けて守りたき者よ・・・なぜ、アナタの魂が必要か・・・」
狼のその言葉に姫は持っていた剣を落とす・・・地面に落ちると同時に姫の頬には一筋の涙・・・
「悲しいかな、これがヒトの業だからです・・・世にヒトリ、世界の贄となることによって世界には厄は訪れない・・・そのヒトリが私だからです」
姫は、泣く狼の頬にそっと口付けを交わす・・・その口付けには多様たる意味・・・
大丈夫だよ
心配ないよ
そして・・・
「ありがとう・・・愛しき人とお呼びになって・・・私も幸せです。傍に居たき方とずっと傍に居ることが出来て・・・」
姫はそういうと抱く狼から離れ、地に落ちし剣を拾う・・・しかし、狼はその剣を無理に取り上げた。
「何をするのです!?」
「我は業を背負う覚悟はあります」
「え?」
「愛しき人の願いを、我は叶いましょう・・・世界を守る贄の手伝いを・・・」
狼はまた愛しき姫を抱きました・・・深く愛情を込め、その景は二人は唯一絶対離れることのないものでした・・・狼は抱く姫の背中に剣を向けます。
「姫よ・・・行くぞ」
「ハイ・・・」
「ずっと一緒だ・・・愛しき人よ・・・」
刹那、世に二つの命が消えてしまいました・・・
その場に綺麗咲きし花は紅に染まり、一色の園が出来ました。
瞬間いろんなものが泣きました。
風が泣き
木が泣き
草が泣き
花が泣き
精霊が泣き
命が泣きました・・・
涙の花で手向けられた二つの命
絆という固く結ばれた二つの命
忘れないでください神様・・・
今この場所にあった涙の笑顔を・・・
覚えていてください・・・
二人笑ったこの世界があることを
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