【見えなくても・・・】
竜にさらわれたお姫さま。竜の巣から助けだされたお姫さまは本来なら喜ぶそのお顔もどこか沈み気味・・・侍従の方々がそのお気持ちを説いても、姫さまは答
えずただ俯くばかり。
ただ、姫さまの国には変化がありました。夜な夜な姫さまをさらった竜の泣き声が聞こえてきたということです。
王さまも警戒を怠らず国を守り、姫さまを守りました・・・ただ、当の姫さまはまったく違いました。
竜の泣き声をそっと瞳を閉じ、まるで心地のよい音楽を聴くかのごとく、その泣き声に身を委ねていたのです。
王さまも姫さまに竜の泣き声を聴いてはならぬと言い付けますが、姫さまは頑なに拒否しました。
そして、姫さまと仲の良い侍女は聞きました。「竜はなんと仰っておられるのですか?」と・・・
姫さまは竜の居る方角に顔を向け、愛しそうに窓の外を見つめながら言いました・・・
「あの方は・・・彼は私に声を届けているのです」
「声を?」
「はい・・・夜はヒトを悲しくさせる時間。私たちは離ればなれになってしまったら私はアナタを思い出し、悲しくなることは必然でしょう・・・だから私たち
は約束を結びました」
「約束を・・・?」
「はい・・・」
『例え、我々が離れてしまっても我はそなたの姿を竜が故にこの瞳に写すことはできよう。しかし、そなたはヒトであるが故に我の姿は見えはしない・・・だと
したら我は存在する証をそなたに届けよう。我が届ける想いにそなたは受けとめていてくれ・・・約束だ』
「私たちはそう約束を結びました・・・だから、彼は私にこう仰っているのです・・・」
【愛しの姫君よ。幾世の時は流れても我はそなたの居るこの世界に在り続ける。そなたという一輪の花を想い、我はこの声を一生届けよう】
語る姫さまの頬には一筋の涙・・・どれだけ純粋に彼を・・・竜を愛していたのか物語る涙・・・
離れていても伝わる気持ち
離れていても伝わる想い
見えはしないけれども、確かに存在する想い人
見えはしないけれども、伝わる想いや気持ち・・・
その嘘偽りなく世界に在り続くヒトツのもの
隔てるものは何もない・・・
気持ちは在り続けることに意味を成す
共有する者が在る・・・
そこに存在せし想いに幸あれ・・・
その願いを片隅に・・・
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