【勇気・手紙・未来】
「手紙書こうよ」
虎族の女の子からそう言われた人間の男の子、だけど・・・
「なんで?」
と、当たり前に返してしまう。それはそうだ、いきなり手紙を書くといわれても誰に出すのか? ましてや、その目的でさえもわからないまま言われても混乱す
るだけだ。
「う〜ん・・・未来の自分宛にかな。自分の将来の姿を想像して書いたり、好きな子と一緒になれたか、そういう内容を未来の自分に聞く手紙を書くの」
「そんなこと、いちいちボクに言わなくても自分一人でやればいいじゃん」
「ダ〜メ、私一人じゃ心細いもん。だから、キミを道連れってことで、一緒に書こう!」
「もぅ・・・」
そう、虎の女の子は結局は誰かと一緒に手紙を書きたかっただけ・・・その矛先を男の子に向けられたせいで少々不機嫌になったのは言うまでも無く、無理やり
に渡された便箋と鉛筆を持たされて書くことに・・・
「フフッ・・・」
などと語尾に音符がつきそうな笑いを虎の少女はしながらそのしましま模様の手の中にある鉛筆でサラサラと便箋に文字を書いていってる・・・男の子は気が乗
らない部分があったが、仕方が無く書くことにした・・・
(こいつに逆らうと後が怖いもんな・・・殴られる攻撃はいいけれど、引っ掻かれたり、つねられたりすると爪が痛いんだよな・・・)
「書いた?」
「書き終わった・・・」
二人は互いに書き終えたことを確認し、書き終わった便箋を箱に入れ、今はもう季節で散ってしまった桜の木の下に埋めることにした。
「じゃあ、私が掘るね」
「いいの?」
「うん! だって私が言い出したことだもん、私がやらなきゃ!」
と言ってさっそうと穴を掘る虎の女の子。さすがは獣族、その掘る速さは人間の上を行くもので、すぐに箱が埋まるほどの深さの穴が掘れた。
「よし・・・じゃあ、これを入れて・・・よし! 後は埋めて完了だね!」
顔はニッコリ笑っていても穴を掘ったその手のおかげで綺麗な毛並みが土汚れてしまった虎の女の子、そんな虎の女の子にどうしても聞きたい事がヒトツ・・・
男の子にはあった。
「なあ・・・オマエはどういう内容を書いたんだ?」
その質問の答えは数秒と待たず、まるで突風のように返ってきた。
「私は自分の理想の姿になれたか? って手紙だよ! 今以上に綺麗な縞模様で毛並みも皆から綺麗だねって褒められて・・・とにかく、今以上に可愛い女の子
になってますか? っていう手紙だよ! キミは?」
「ボクは・・・将来オマエと一緒にいて、こんな風に楽しく遊んでいるか? って質問した」
「きっと遊んでいるよ! キミと楽しくいつまでも・・・ね」
その時に笑った虎の女の子の笑みはどこか遠くを見つめていた・・・その時に吹いた風は女の子の毛並みを綺麗に揺らし、今語った虎の女の子の将来の姿を男の
子が容易に想像させるほど綺麗だった・・・
『将来の私へ、私のしましまは立派になってますか?
私の毛並みは綺麗で皆から可愛いと言われてますか?
私自身はこの手紙を書いている以上に綺麗な女性になってま すか?
この手紙を書いているときはその事ばかり思います。
もうヒトツ・・・
持ち続けた願いは叶ってますか?
この手紙を一緒に書いてくれた子とずっと一緒に居ますか?
もし一緒に居ても気持ちを伝えていなかったらこの手紙を渡 してください。将来の私のことです、気持ちを伝えられず にいると思います。でも、今手紙を
書いている私の気持ちを 使って将来の私の気持ちを伝えてください。持ち続けた願いを伝えるための勇気を将来の私にプレゼントします・・・』
手紙を書いた男の子と虎の女の子は互いに立派なヒトになったら開けようと約束し指切りをしました・・・片方は肌色の人間の手、片方は黄色と黒の縞模様が
入った虎の手・・・
その指切りをして結ばれた小指は離れても本当の意味では放れなかった。
明くる日、この場所で・・・この桜の木の下で結ばれるものは小指でなく、気持ちと言う離れないものだから・・・
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