【所有物】
人間や獣人の奴隷売買・・・聞こえも中身も悪いこの商売をしている市場に私は赴き、ある一人の狼獣人の少年を買った。
もともと貴族だった私にはそれなりの屋敷や使用人たちは居たのだが、家族が皆居なくなってしまい、屋敷も一人で切り盛りするのも難しくなり、いざ屋敷を売
り払って使用人たちも解雇し、私自身屋敷よりも数段と小さな家に住むことになったが、それでも今の今までの生活のおかげで家事全般に戸惑う毎日・・・わず
かながらでもよかったので助力が欲しいと思い今に至ったのだ・・・
この少年はどうやら親に売られたらしい・・・少年の顔立ちは将来を許されるほどのものであり、親も納得のいく金額でこの子を売ったのだ・・・そんな少年に
私は同情や哀れみを持ったのだろう、だから二倍の値でこの子を買うという残虐な行為に走ってしまったのだ。
「どうぞ」
私はその子と家に帰り、趣味で育てたハーブで作ったお茶をその子に淹れた。男の子はやはりというべきか悲しい顔をしている・・・
「・・・」
俯きな狼の少年・・・その目には涙を浮かべている・・・当然だ、私は如何なる理由があろうとも人として最低な行為をしてしまっているのだ。その子の涙は飾
りのように頬に雫となって停まり、そのふさふさした毛に吸われることなく綺麗な涙の宝石を作り出していた・・・
もう私のこの子に対する気持ちは定まっていた。お手伝いとしてこの子に接するのではなく一緒に暮らす共同体としてこのこと接しようと・・・それにはまずや
ることがある・・・
私は涙する狼の少年に抱きついた・・・その子の毛並みが私の頬を触れる・・・そのくすぐったさや気持ちよさは今この場には似つかわしくない気持ちだった。
「ゴメンね・・・私が人として最低なことをして・・・」
少年は察してくれただろうか? 私の純粋な謝罪の気持ちを・・・許してくれとまでは言わないけれども、せめて泣き顔を治めてくれれば私は今はそれで十分
だった・・・抱くのをやめてこの子を顔を見よう・・・この子が今、どんな顔をしているのかを私は知る権利がある・・・どんな顔をしていても真正面に見つめ
る覚悟を・・・
所有することに罪悪感を持ってしまった女
所有されることに悲しんだ狼の少年
両者の食い違った思いはやがて絆を生む物語へと繋がるだろう・・・
そう遠くない未来、この二人に笑顔が生まれる運命を待ちながら・・・
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