【大切なもの】
住んでいた城も仕えていた使用人も・・・ましてや父君である王さえも失ってしまった姫君・・・かつての自分が住んでいた城が見える小高い丘で涙する姫は絶
望に打ちひしがれていた。
だが、そんな姫君のそばには狼人の男が一人立っていた。彼はその狼ゆえの強さで姫を守り、姫が泣くときはその温かな体で抱きしめ慰め、いつどんなときも姫
のそばに居た狼人・・・
だが、全てを失った姫にもう仕える必要は無い狼人・・・姫はそのことに大きく悲しむ・・・
「アナタはもう私に付き合う必要はありません・・・これからはアナタが好きなように生きること・・・それが私が言えるたった一つの言葉です・・・」
言うだけでも辛い言葉を放った姫は無心に城を見つめるだけだった・・・数刻の後に狼は口を開く・・・
「アナタは全てを失ってしまった・・・」
「・・・」
狼から発せられる言葉は確かな事実。
「アナタは大切なもののほとんどを失ってしまった・・・だが、アナタがまだ私のことを大切に思っていてくれるのであれば私はずっとアナタの大切なものにな
りましょう・・・」
「・・・」
「私は・・・姫としてではなくアナタ自身を大切に思います。だから、私はアナタのそばに・・・」
狼人の言葉の続きは無かった・・・姫が狼の言葉を言い終える前にその体を狼人に傾け狼人がそれを受け止めたのだから・・・
姫の涙は増える一方、しかしその涙は悲しみではなく喜びの涙・・・
そのときの姫の気持ちは狼にも充分過ぎるほど届いていた・・・
たとえ、言葉にしなくても・・・
そばに居てね・・・ずっと・・・私の大切なヒト・・・
と・・・
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