俺は、目醒めた……。

　人の『殻』と言う一人っきりで窮屈な枷から……。

　そして…、今日も変わらない日常が始まる……。

　ザッ、ザッ……、俺の玄関先から部屋へ走って来る音が小鳥がさえずる朝に聴こえる…。走っているのは、全身、華奢ながら、相応しい所にはしっかりと筋肉がついていて、他は人間の女性のように柔らかで、人と違う所は淡いオレンジ色の皮膚をしており、アクセントで赤い筋のようなものが何カ所かある。
　尻からは太く長い尻尾が走る度に服の間から見える胸と共ににぶらぶらと揺れ、背中にある羽は生命 力溢れるかのように立派にそびえている。首も長く、顔は爬虫類のように顎が前に伸びており、口元からは小さい牙と呼吸をする度に長い舌が見え、頭からは二本の角があり、桜色の長い髪が風になびいていて、着ているシンプルな作りの服が凄く似合っている。
「おはよう〜、鋼牙〜！」
　元気良く俺の体の上へダイブしたのは俺の妻である詩音である。
「……う…ぅ…ん……詩音…、朝から元気だな……。」
　詩音がダイブした衝撃は微塵も感じられず、俺はズキズキする頭に片手を添えながら無理やり体を起こした。俺は昨晩、馴染みの店で飲み明かしていためはっきり言って二日酔いだった……。
「もう…、鋼牙ったら〜！今日は私が『還る日』だと言うの忘れているでしょ〜。」
　詩音は膨れ面を見せ、かなり怒っていた。
「悪い…、昨日は仕方がなかったんだ。すぐに帰るはずが、偶然飲み仲間が来て……。」
　俺はらしくも無い言い訳をして、詩音を説得しようと試みる。
「もぅ…！鋼牙ったら、私を置いて何処かに行っちゃうんだもん！……でも、今日はずっと一緒だよ……。」
　詩音は、すり寄ってくるかのように俺の腕に抱きついてきた。甘える子供のように…。
「まったく……、甘えたさんだな…、詩音は…。」
　そう言って俺は詩音を抱き寄せる。温かい…、柔らかな感覚…、『殻』に囚われてから実に十数年ぶりのこの感覚は俺も、そして詩音も大好きであった。
「…鋼牙…、私…、大好きだよ…。だから…、もう…絶対離れないでね…。」
　詩音はそう囁くとギュッと俺の服をつかみ、顔をお互い見合うと熱いキスを交わした。お互いの長い舌が絡み合い、快感が体を駆け抜ける。

「鋼牙…、私…。」
　詩音は恥ずかしそうに赤くなった顔で俺の顔を見上げ、何かを欲していた。それは俺も同じであって、顔を赤くして詩音の澄んだ蒼い瞳を見つめていた。
「あぁ…、久し振りに…、やるか…？」
　俺は恥ずかしさの余り、瞳を反らしてしまうが
「うん…。私…、鋼牙が欲しい…。」
「わかった。じゃあ…。」
　俺と詩音はそのまま寝室へ移動してお互い服を脱ぐ……。
「鋼牙…、前より格好いいよ…。」
「詩音も…、見ない内に綺麗になったな…。」
　お互いそう言うとベッドで抱き合いながらまたキスをした…。肌が触れ合い、先程よりもより一層深みに入った。そして…、俺と詩音に体が求めている欲望と言うスイッチが入った…。俺は詩音をベッドに寝かせ、胸に優しく手を触れた。
「あぁ……ん、鋼牙…。」
　それは段々とエスカレートしていき激しく揉んだと思うと今度は長い舌で舐め始めてみた。
「鋼…牙……、はぁ…。鋼牙……。」
　詩音は快感の底無し沼に入っていく…。そして俺は胸から彼女の秘所へ、その舌を移動していく。彼女の秘所はすでに決壊寸前のようであり、割れ目からは液体が迸っていた…。それを俺の長い舌が舐めまわす…。液体は仄かに甘く感じられ俺を更に発情させる。
「あぁ…！だ、だめ……っ…！」
　詩音は快感の絶頂に達し、決壊したダムのように割れ目から液体を勢い良く俺の顔へと出した。

「へへっ…、詩音…、なかなかうまかったぞ……。」
「はぁ…、今度は鋼牙の番だよ…。」
　そう言って詩音は俺の股間にある逸物を掴むとまるで飴玉かのように優しく舐め始める…。ザラザラした長い舌の感覚がとても良い感覚であった。
「は…っ、はぁ…。」
　俺は快感の余り、情けない声をあげる。
「はぁ…！はぁ…、はぁぁあ……！」
　そして快感の絶頂を迎えた時、俺は詩音の口内に激しく液体を流し込んだ……。
「鋼牙のも……、なかなかだったよ…。」
　そして更に熱を帯びた二人は遂に体と体を絡ませあった。俺の逸物が詩音の割れ目にすっぽり入っていく。すかさず詩音が声を上げる。そして俺は腰を動かし、逸物を割れ目にスライド運動をし始める。
「あぁ…ん…！！鋼牙ぁ…！！」
「し…、詩音っ……！！」
　そして…、二人共同時にイッた……。快感が体に電撃のように走る…。この感覚も何年振りだったのだろうか…。気が付くと俺と詩音はお互い疲れ果てて眠ってしまっていた…。

「う…ぅ……ん…。」
　俺は目を覚ますと目の前には、黒い長い髪をしていて、背は少し短めで皮膚は綺麗な肌色をしており、顔は童顔のような美しい顔立ちをしている人間の女性が静かに眠っていた……。そう……、これが詩音の、人の『殻』である。詩音は俺とは違い、半年に一回、こうやって殻に戻ってしまうのだ。それが、「還る日」なのである。
　還る日は１日だけなので、彼女自身にはそんなに苦痛ではない。そして殻の状態でも意識は詩音のままなので、このままにしていても大丈夫なのである。ただ、殻の状態の時は意識レベルが極端に落ちるため、常に眠ってしまうのであった。
「うぅ……ん…。」
　優しそうな声を出し、詩音は起きる。
「鋼……牙……？」
　龍体の時とは違う声を出し、俺を眠そうな目をしながら探す。
「詩音…、俺はここに居るよ…。」
　俺は細い詩音の手を掴む…。
「鋼…牙……。離れ…ないで…ね……。」
　詩音の意識が朦朧とし始めている。　
「あぁ…、心配するな…。俺はずっとそばに居るよ……。」
　そのまま俺は静かに毛布を掛け、手を握ったままその場で眠りについた…。

　そして、還る日の一日が過ぎようとしていた時、彼女の体が淡いオレンジ色に光り始めると、元の…あの龍の体へと姿を変えていったのであった……。詩音はゆっくりと瞳を開くと、自分の体が元に戻っており、力が漲ってくる感覚がはっきりと分かっているようであった。そして、詩音のベッドの横には、ずっとそばに居た鋼牙が気持ち良さそうに眠っていたのであった…。
「鋼牙…、有り難う……。大好きだよ…。」
　そう言って、眠っている鋼牙の頬にキスをして、また眠りについたのであった。

　日が昇り始め、部屋の窓に日が差し込み始めた朝……。

　いつもと変わらない妻との生活が始まるのであった…。

　そして……。

　 　詩音の腹部には新しい命が宿っていたのであった……。