それはちょうど去年の冬だった。私は勤め先の会社が毎年行っている社員旅行で6泊7日の北海道の旅へ行くことになったのだ。
高層ビルに囲まれた無機質な街並みとは対極的な広大な大自然、自然味溢れる色鮮やかなその地方……。しかも季節は冬と言うこともあって良くポスターなどになっている一面銀世界の雪景色が見れるとなかなか私は旅行の日を楽しみにしていた。
旅行開始当日……。
私は空港から外へ出ると、そこはまるで別世界だった。真っ青な澄んだ青空にぽっかりと綿雲が数個浮かんだ空、気温はやはり冬と言うこともあり低く、厚着をしていないとすぐさま風邪を引きそうになるくらいにその寒さを直に感じられる。
空港から会社がチャーターした観光バスに乗り、市街地から郊外へ少し離れると、拓けた街並みから一面銀世界の、私がずっと見たかった風景が目の前に広がる。それは雪の降る事があまりにも稀な都会の冬とは全く違う。
「うわぁ………。凄い……!!」
私は大はしゃぎをしていた。と言うのも、私の実家は雪とは縁遠い南方の出身……。実は雪を見るのはこれが初めてであった。
そして今回の旅行はいわばスキー旅行と言った所だろうか。冬のこの時期、格好の旅行日程であろう。空港からバスに揺られるところ二時間弱……。いよいよスキー場に到着する。しかし、当然の事ながら私は滑れないと言うことで初心者コースからのスタートになった。
ゲレンデの中央部分までリフトで上がると、同僚にレッスンをお願いし、なかなか上達が早かったのだろうか、その日の半日程で大体の事は出来るようになった。そうしてまだ時間のあった私はもう少しだけ練習をしていた。その時、私はふとゲレンデの脇の森から何やら視線を感じて見つめると、そこには一匹のキツネがいた。フサフサの毛には細かく雪がついていてそれがまた可愛くみえた。
「あぁ…!!キツネだぁ〜。可愛い〜、あぁ…ちょっと……もう行っちゃった…。」
キツネはそうして私が近づこうとしたのを察知して森の奥へ走って行ってしまった。
「ああ……、もうこんな時間じゃない…。みんな待っちゃってるかしら……。」
私はホテルへの集合時間が近くなっていたことに気がつき急いで集合場所に戻ったのであった。
翌日は雲一つ無い晴天。スキーには持って来いの天気日よりとなった。勿論、今日は上級者用のゲレンデに移動して気持ち良く滑っていた。
しかし午前中晴れ渡っていた天気も、午後になると、気温が急に下がり曇り始めるとチラチラと雪が降り始めた。視界が若干悪くなり始めたがそんなことはお構い無しのように私は滑っていると、急に目の前に犬のような…だけど犬には似つかないどこかほっそりとしながらも柔らかな体毛、そして太くてフサフサした尻尾……、そう、狐が飛び出してきたのだ。私は慌てて止まろうとするが、バランスを崩し、狐共々ゲレンデ脇の崖へ落下してしまった。
「………いったた……。ここは…。」
起きると一面の雪原の上だった。だが、体には冷たい筈の感覚も無く、何だか身体が妙な浮遊感に包まれていた。
″お姉さん……。″
「だ、誰?!」
私は急に空間の四方から聴こえる自分を呼ぶ声に驚き、辺りを見回した。すると背後にあの時の一緒に崖へ転落してしまった狐がいたのである。どうやらこの狐が私に話しかけているようであった。
「あ…、無事だったの…?」
私は狐に問い掛ける。
″いや……、私は…もう。″
すると狐は少し俯き加減で己の身について話す。
「て言うことは…、ここは…。」
“そうよ…。ここは生者の世界と死者の世界のちょうど中間の世界……。私と貴女は死んだのよ…。“
私は辺りを見回すとぼんやりとあの時のシーンが浮かび上がってくる。
「やっぱり私は死んだんだ……。」
私は助からないとはもう転落した時点で思っていた。それでも僅かな生きている可能性に希望を抱いていたが、狐の思わなかった己の死亡宣告に肩を落として力無くその場でうずくまる。しばらくその空間に沈黙が重くのし掛かるように訪れる。
その沈黙を解いたのは狐の一言であった。
「それは……?」
私は縋るように狐に近づいた。
″それは……。私と貴女の魂二つを一つにするの…。すると私も貴女も無事に帰れるわ……。″
「解ったわ……、どうすればいいの…?」
″私の手と貴女の手を合わせればいいわ…。″
私は言われたように狐の肉球のある柔らかな前足と手を合わせる。するとその合わせた手を中心に眩い光と中心へと引き込もうとする強風が起こりそこへ吸い込まれるような感覚に襲われ、私は微睡むように再び意識を失った。
「……ねぇ…!!大丈夫……?!」
…あれ……、この声は…聞き覚えのある声が耳元から徐々に聞こえ始める。
「いっ…………、たた………。私……、一体…?」
会社の同僚が私の上半身を起こした。何でも私はゲレンデで急に倒れて意識を失っていたらしいというのだ。
「でも、私…、狐と一緒に崖に……。」
頭によぎる落下したときの状況……。一瞬後頭部が痛み、その時の衝撃が体でも記憶しているようだ。しかし周りの反応は違っていた。
「あはは、狐?何言っているのよ、倒れて幻でも見てたんでしょ、全く……。調子が悪そうだから、ホテルの部屋に戻って休んでいたら?」
と言われ、私はそのままホテルの自室へ戻り着替えると肉体的にも疲労していたのだろうかすぐにベッドに横になり寝てしまった。
「うっ……んっ………。」
ベッドに入ってしばらく時間が経った頃……、何やら体に熱を帯びていて、全身に寝汗をかいていて寝苦しくなりベッドから起きた。
「私……、どうしちゃったの………?」
体の異常に私は着ていた寝間着から下着までを急いで脱いで確かめようとする。すると、私の眼下に広がる自らの裸体に信じられない光景が広がっていた。私の体の股間の秘所を中心にじわりじわりとまるで黄色い絨毯のような物微細で柔らかな毛が生えていたのだ。
“お姉さん……。私よ…。“
私ははっとした。私を呼び掛けたのはあの空間にいたあの狐の声だったのだから。
「ど、どこにいるのよっ!!」
私は部屋を見回すがどこにも姿は見えない。
“お姉さん……、もう忘れちゃったの……?私はお姉さんと一緒になったんじゃない……?“
するとあの時の、あの空間で起きていたことが全て一瞬でフラッシュバックされる。
“ようやく思い出してくれたみたいだね、お姉さん……。“
狐は含み笑いをしながら私の体の中から私と会話している。
そうこうしている内に、私の下半身にはあの黄色い色鮮やかな獣毛が覆い隠し、私は恐る恐る秘所の部分を屈んで見てみた。するとどう言うわけだか解らないが、その女性の象徴である割れ目から足を伝って液体が流れていた。そう、愛液が勝手に秘所から湧き出していて私は発情していた。
「あはっ……ん………、うぅ……ぁぁ……ん……。」
私は淫乱な喘ぎ声を秘所に手をあてがった瞬間に揚げ始める。手を秘所に持っていき指先でかき回すかのように激しく自慰を始めていた。
「あはんっ…!…あぁ……、あなた……、ひゃん……っ、私をど、どうするつもりなの……?」
私は自慰を止められぬまま内なる狐に問い掛ける。
“私とお姉さんとは一心同体でこの体を維持してるの…、でもずっとお姉さんばかりが使ってるのはずるいよね……。だから………!“
そういうと秘所を激しくかき乱している手が更に激しく動き回る。
「あぁはっ!うはぁっ……ん……!!」
私は絶え間なく体を襲う快感に体を捩らせながらもその激しい快感の波に溺れていく……。
“だからね、今度は私がこの体を使う番……。大丈夫……、痛みもなく、気持ち良いままで変わって上げるから……。“
そういうと狐の声が急に聞こえなくなった。しかしそれと共に体の自由が一切効かなくなり、感じれるのは自慰による秘所からの激しい快感のみ………。
もう狐の激しい攻めに私の精神は限界値まで一気に達しようとしていた。割れ目から体を襲う快感に答えるかのようにじわりと溢れ流れ出す液体……。激しい行為と共に、体の毛の浸食も早くなっていた。全身が黄色い毛に覆われる頃に、別な変化が訪れた。骨格がバキバキと激しい音とそれまで体からは一切感じなかった快感の波が体全身に伝わっていく。
「うはぁ……んっ…!!くはぁ……っ!」
まるで全身が性感帯になったように妖美にその美しい女性らしい声を上げていく。
“そうそう……、お姉さん……、いい忘れてたけど私が出てこれるのは雨が降っているときだけなの……、ふふふ……。他の時はお姉さんが自由に使って良いわ……。私もその分この体を楽しく使うから……。“
狐の楽しそうな、そんな声が私に向かって話しかけられるが、快感の海の中にドップリと沈み行く私にはそんな事は到底聞き取れるものではなかった。
体は人のようなままだが、より獣のような繊細な体つきに、そして尻からはふさふさの尻尾が姿を現すと、変化のなかった頭からも徐々に変化に伴う微細な音がし始める。
“そろそろかしら……、お姉さん……。我慢しなくても良いの……。お互い感覚は一緒……、私も早く果てたいわぁ……。“
狐の誘導するような魅惑的な声に私の手は一気に終着点までその速さを早めていく。
耳の先が三角に伸びながら頭の上へ動き始め、頭の形が獣の……、いや狐のようになると、鼻と顎が前に延び始め、上顎と鼻はまるで溶けるかのように一体化すると鼻先が黒くなり、新しい鼻腔が形作られた。
「はぁ……、はぁ……、ほぅ……、あはんっ……!」
伸びた口の隙間からは小さい鋭い歯と長く延びた舌がダラリとだらしなく荒い息をしながら垂れている。
「はぁ……、はぁ……ん………!くはぁ……っん……ああぁ……っ!!…………あはぁぁっん!!!」
そして遂にその快感の波は津波となって私を襲っていった……。そしてそこにはベッドの上で自慰の虜になっている、人のようで人ではない……、そう。狐人がいたのだった。一際大きな喘ぎ声を出した狐人の割れ目からは先ほどの数倍の量の愛液がドバドバと出てきた。
「はぁ……、あはんっ……。」
まだ興奮醒めあがらぬのか、暫く体を震わせながら喘ぎ声混じりで熱い呼気を吐き出していた。
「ふぅ……ふぅ……、よし………。」
暫くすると彼女は立ち上がり、部屋の片隅にある大きな鏡の前に立っていた。
「これが……、人間の雌の体か……。」
声が元の体の主と違う。そう紛れも無く彼女の体の内部から聞こえていたあの狐の声だった。
「まだ夜も続くわね……。ふふふ……。」
今はその狐が体の支配権を持っていた。それは降り始めた雪が吹雪に変わっていた夜の事であり狐人は更にその体を様々にいじり始め、その晩を過ごしたのであった……。
それからと言うと、私の生活パターンは大きく変わった。雨が降り始める度に部屋で自慰に貪り続け、狐に体を奪われると、その間の記憶がない。朝起きると自分の部屋にいて、秘所から愛液と精液の混合した物が堰を切ったようにベッドの上へ流れているのだ。それが人の体でいる彼女には堪らなく嫌であったのだ。
「うぐっ………、は、始まった……。」
今日も私は何をしているのか解らないまま、全てを狐に委ね、自らの意識は眠りについた。
完