2012の干支・後編カギヤッコ作
 そこからの二人はただ激しかった。
 対面座位―二人が向かい合うように座った状態で繋がり愛し合う姿勢のまま二人は愛し合った。
「うっ、あっ、和菜、かずな…」
「あっ、ああっ、ひろき、ひろきくんっ…」
 弘樹は何度も和菜の体を自分の下半身で優しく支えながらも突き上げ、和菜もそれに包まれながらも激しく突き上げられる。
 特に和菜は自らの中に打ち込まれた怒張が幾度となく体内を越え、頭の中まで突き上がる衝撃を何度も感じていた。
 話にだけは聞いていたものの男性と行為をする時はこれほどのものなのか。それともこれは彼のものが異様なだけなのか。
 そんな事はもはやどうでもよく、和菜は愛する人に貫かれる快感に身も心もしびれながら体を動かしていた。
「あっ、ああっ、いあっ、あっ、あーっ!」
 もう何度目になるだろう絶頂が和菜の胎内から脳天を突き抜け、頭の中で花火が上がる。
 最初に感じた時、和美は思わず失神しかけていた。貫かれ、突き上げられ、そして着き上がる衝撃と快感。
 しかし、弘樹の声に我に返り思わず彼を抱きしめてキスの雨を降らせた時には失神しかけていた事など忘れ、今度は自ら体を上下して次の衝撃と快感を求めていた。
 幾度となく突き上げられるうちに和菜の中であの夢はこれの暗示だったのではという予感が確信に変わっていた。
 愛する人と結ばれる為、そしてそれを長く、激しく味わう為自分の中の高ぶりが高められていた。
 そして、それが今一気に噴き上がったのだ。
 今和菜の中では今まで以上に高ぶる激しい熱と高ぶり、そして弘樹から注がれた高ぶりが激しく渦巻いている。
 彼女の中の冷静な部分はこのままこれが高ぶり続け、弘樹と続けていたら自分はあとかたもなく消し飛んでしまうのではないかと言う不安を感じている。
 しかし、それもいいと今の彼女の大部分の心理は告げている。
 あの夢の通り自分はその身を異様な色に染め、激しい高ぶりと快感の中にいる。
 あとはその勢いで人の体を失うほどの絶頂に至るだけだ。
 しかも相手は愛する人。その手で仕上げられるのなら本望。
 夜の帳のせいか、エアコンのタイマーが切れたせいか、それとも肌に塗った塗料のせいかか肌は外側は冷えている。
 しかし、それ以上に内側は熱く激しく昂っている。
 もっと、もっと弘樹を受け止めたい、わたしの中で、わたしの全てで…。
 そう思いながら和菜は弘樹を受け止めていた。

 一方、弘樹もまた幾度となく和菜を打ち上げる中で今まで一度も漏れる事のなかった自分のものが幾度となくその高ぶりを和菜の中に打ち込んでいる事実を受け止めていた。
 誰か、なぜかは知らないけど和菜とこうして結ばれ続ける為に自分の中のものを止めてくれた事に感謝する思いも弘樹の中にはあった。
 既に幾度となく和菜は突き上げられ、打ち上げられている。しかし和菜は果てる事無くそこにいる。
 そして自分も尽きる事無い精と根をみなぎらせている。
 このままずっと繋がっていたい、和菜に自分の全てを打ち込みたい。
 そんな思いが弘樹の中の大半を占めていた。
 もしこのまま打ち込み続けて自分が和菜に呑みこまれたら…と言う不安も和菜の中に呑みこまれるのなら本望、いっそ和菜の中で受胎してその子供になるのも悪くない…と思うようになっていた。
 寒さのせいか、繋がっている場所以外の感覚が少し鈍くなった様な感じもするがそれ以上に弘樹は和菜を包み、自分の全てをその中に打ち込もうとしていた。
 そして、幾度となく行われた行為に1つのピリオドが打たれようとしている。
「うっ、うぅっ、和菜、おれ、この一撃でお前と一緒に打ち上がりそうだ…」
「あっ、ああっ、弘樹くん、いいよ、弘樹くんと一緒ならもっと高くいけそう…」
 激しく交わりながらおぼろげな意識の中で2人はそう言いあうと、互いの全てをぶつける様にそのままの姿勢で愛し合い…。
「うぁぁぁぁぁぁーっ!」
 その雄たけびとともに弘樹はその全てを和菜の中に打ち込み、
「あぁぁぁぁぁぁーっ!」
 同じく雄たけびを上げて和菜はその全てを受け止めた。
「あぁ…ああ…弘樹くん…わたしの中に弘樹くんがいる…弘樹くんでわたしがいっぱい…。」
「あぁ…和菜…和菜の中におれがいる…おれの中に和菜が染み込んで来る…」
 和菜は“たった1人”でそうつぶやくと改めて自分の肌を撫でながら胸をさすり、そしてさっきまで弘樹が繋がっていた場所を静かに抑えると…。
「んあっ!ああっ、うぁっ、うぁぁん…!」
 そのまま腰を上下に振り、全身をそらして喘ぎ始める。
 一見只の自慰行為にも見えるが、今の和菜は1人ではない。和菜の中には弘樹がいる。
 今も和菜の中で弘樹は和菜と繋がり、激しく愛し合っている。
「うっ、うあっ、かずな、かずなぁ…」
「あっ、ああっ、ひろきくん、ひろきくぅん…」
 和美の肉体と言う「風船」の中で2人と言う「熱を帯びた空気」は激しく混じり合い、高ぶり合う。
 それは常人では決して味わう事の出来ない荒々しいまでの激情と恍惚であった。  和菜は吠える。ひたすら吠える。
 座ったままの姿勢でその身をそらせ、乳房を揺らし、ただ官能と劣情のまま吠える。
 しかし、その両手が押さえる秘裂からはまたしても一滴もにじみはない。
 それは弘樹が栓になっていたかのように。
 だが、幾度となく身をそらし、あえぐ中で膨張する2つの魂のもたらす熱気はその肉体にも変化をもたらし始めていた。
 まずその肌。幾度となく混じり合っても薄れる事さえなかったその肌の色が濃くなり、さらに質感を帯び始める。
 それはただの塗料の乾燥ではなく文字通りの変質…女性の柔らかくさわりのいい肌が固くなり、それでいて光沢のあるものに変化してゆく。
 そしてその体がしなり、反らされながら震える度に震える肌から一つ、また一つ小さな固い板の様なもの―鱗が生え、その全身を覆い尽くしてゆく。
 一方秘部から腹部にかけては震えるごとにたくましさと頑強さが増し、いつの間にかたくましい腹筋が刻まれる。
 しかし、その腹筋は横筋ばかりが刻まれており、腹が膨らみと縮みを繰り返すごとにそれは下腹部から胸元、首筋まで伸びると蛇腹状に変化してゆく。
 屈伸を繰り返す下半身からはいつの間にか小さな塊が生え、それは震えながらゆるゆると動きを大きくしながら大きな尻尾を形成する。
「あっ、ああっ…うぁっ!」
 下半身の肉が盛り上がり、尾を形成した時和菜は一瞬声を上げる。苦痛とそれ以上の快感に。更にその秘裂からは完全にそれをふさぐように大きな肉の塊が生える。そして、ついに変化は彼女の顔をとらえる。
 可愛らしく喘いでいた口はいつしか激しい喘ぎ声を洩らすようになり、その口も大きく開閉を繰り返していたが、その中から大きな牙が見えるようになり、唇も大きく伸びながら鼻を飲み込み、独特のマズルを形成する。
 耳はピンととがりながら伸びてゆき、髪も首筋から背中のあたりまで伸びるだけでなく生えてゆく。
 上下を繰り返すその頭上からは一対の塊が盛り上がり、長く固くする角を形作る。
「アァ…ウアア…カズ…ナ…ヒ…ロキ…ク…ウォォ…オオオ…」
 既に和菜のものではなくなった声を上げながら和菜はさらに完全に人のものではなくなった身をそらす。
 そして…。
「オオオ…ゴォォォォ…グゥォォ…ゴォォォォーンッ!」
 文字通り天まで突き上げる咆哮と絶頂とともに彼女の声と意識ははじけ飛んだ。
 そして両足で一気に飛びあがる途中に舞い、そのまま飛び回る。
 その中で両手と両足の先からは長く鋭い爪が伸びながら爬虫類を思わせる形に変化し、形のよかった乳房は胴体に埋め込まれる一方胴体はまるで折り畳み式のホースの様に伸びてゆく。
 瞳は口はかつてその顔に描かれていたように鋭くも知性のある瞳と長くどう猛ささえ感じさせる形に変化している。そして口元からは一対のひげが伸びている。
 龍―特に東洋の伝承に伝わる龍がそこにいた。
 龍はしばしその身をひるがえしながら部屋の中を舞う。その体躯では狭すぎる様にも思える部屋の中をしばし泳ぎ抜いた後、静かに宙に浮かびながら部屋の様子を見る。
“ふぅぅぅ…ようやく蘇る事が出来たか…。思わぬ事態で肉体を失い、魂さえかき消えておったが…まあやむをえまい。天地の理の為に準じた定めと言う事だ“
 龍は静かに重々しい口調でそう言うと改めて部屋の周りを見渡し、そして自分の内側に気をめぐらす。
 その中ではかつてこの部屋の主であり一組の男女であったものがうごめき、交わり合っていた。
“娘は我が肉体を、男は我が精を受け継ぎ蘇ったわけだな…よもやこう言う形で巡り合い結ばれようとは思ってもみなかったであろう。女のつややかさと男のたくましさがこうまで我に力をもたらすとはな…。我の再生に力を捧げた事、礼を言うぞ”
 男の様にたくましく、女の様にしなやかな動きで改めて宙を舞うと静かに力を込め、一気に天につき上る。
 屋根などまるでない様にすり抜けると龍は一気に国を見渡せる高さまで浮かぶ。
“やれやれ、我が眠る間にも人界は変らずか…良くも悪しくも。まあ、我がうかつにかかわってもろくな事はあるまい。我は静かに龍界に戻るとするかの”
 そう言うと龍は一気に急降下し、部屋の中に、そして床に敷かれた紙の中に消える。  龍が完全に消えた後、そこにはその龍の描かれた一枚の紙があった。

 静かな部屋。さっきまで激しい男女の営みと陣地を越えた龍の再生と言う超常の物語が行われていたとは思えぬ静かな部屋。
 不意に龍の絵から何かが浮かび上がる。それはピンポン玉からテニスボール、バレーボールにバスケットボールサイズと大きさを増し、そのままころりと床に転がり落ちる。
 そして、その球に変化が起きる。
 一つ、また一つその球に筋が入り、まるでメロンの様に全身を覆う。
 そのうちその中心の筋が大きく溝を刻み、玉を2つに割る。
 二つに分かれた玉はある一点で繋がったまま分裂と変化を続ける。繋がった先の根元からは一対の大きな塊が伸び、中間部でも同じく一対の塊が伸びる。
 その先からは5本の細長い塊が伸びると形を整え、手や足を形成する。
 頭頂部からは大きな丸い塊が浮かび上がり、小さくなっていくにつれて口、目、鼻、耳が浮かび上がる。
 それはまるで双子の誕生にも似ているが、ただ違うのは一方はそれなりに体格のいい男性の形を取り、もう一方は細身で柔らかく、一対の乳房を持った女性の形をとっている事であろう。
 そして両者の髪が伸び終わった時、2つをつないでいたものが男性型につながる形で分離し、女性型の中に納まるように両者が整えられた時点で2つの変化が終わる。
「…弘樹…くん…?」
「和菜…大丈夫…か…?」
 まだ恍惚と絶頂の余韻にある頭を緩やかに覚醒させながら弘樹と和菜はたがいに声を掛け合う。
「何か…すごかったね…わたし達、ホントに1つになって空を飛んでいた気がする…ううん、わたしの中に弘樹くんがいて、そして突き上げてくれながら1つになった様な…」
「ああ…おれが和菜の中に入ってつき上がりながらまじりあった様な…何かすごい夢だった気がするぜ」
 愛し合い、繋がり合ったままの姿勢で2人は記憶をたどる。しかし、弘樹が和菜の中に消え、そのあとまじりあうまでの記憶はおぼろげなものでしかなかった。
「でも残念だな、あのあとすごかったはずだけどはっきり覚えていないって言うのがな…せっかく始めてお前とできたのに」
「…うん…とっても激しくて、気持ちよくって…でも、何か実感がないのが悔しいな…そうだ」
「なんだ?」
「もう大晦日も終わってお正月だし…今度は「姫始め」だね?」
 そう言った和菜の顔を、素肌を初日の光が照らす。
 鱗どころかシミ一つない、人間として整った部類に入る生まれたままの和菜の姿を。
 その姿を見て和菜の中で既にかつてのレベルに戻った弘樹のものがピクリと震える。
「あっ…」
 それが返事だった。
 2人は辰年の元旦1日中愛し合い、食事もシャワーも悪戦苦闘しながらもつながり合ったまま行った。2人が本当の意味で「2人」に分かれたのは少なくとも2日以降だったと言う。

 ちなみに、2人が再生のヨリシロとなった竜が天に昇り、再び消えるまでの間あちこちで不思議な事が起きていたり、龍の加護か幸せな結婚をする事が出来た2人の家で竜の絵が大事にしまわれる事になった事はまた別の話である…。


おわり
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