神人縁起『ある遺跡の物語』・後編カギヤッコ作
 その奥は石に覆われた通路になっており、その壁にも全裸の男達がぶつかり合う壁画が描かれていた。
 そこに描かれた壁画の男達は外の壁画以上にそのたぎるモノを見せ付けるようにしてぶつかり合っている。青年の視線が絵の股間に行く。外の絵と違う点い、その壁画の男達のモノはより激しくに勃起していたのだ。
 本来この遺跡の文明圏では稀すぎるほどに見られない表現なのだが、今彼が歩いている通路は本来人が歩む事のできない領域であり、その奥は静止衛星が宇宙に浮かぶ時代においても捕らえる事はできない世界であった。
 それを知ってか知らずか、その絵を見るうちに通路の冷えた空気で萎えかけた男根がそれに合わせるように硬くなるのを男は感じた。ふと手をやれば放出寸前の充血した肉棒の感覚を感じる。そして、歩くたびにモノがどんどんいきり立ってゆくのを感じる。
 男はそれを感じながら通路を奥へ、そのまた奥へと進んでゆく。視界が開けた時その先に見えた光景、それは石の柱と壁に囲まれ、何かで濡らし固められた土の地面であった。その奥には外と同じ様に狼の像が鎮座している。そう、それはまさに神の前に奉げられた闘技場でもあった。闘技場はまるでさっきまで男達のぶつかり合いがあったかの様に激しい熱気と闘気で充満していた。
 その気に当てられた男の中に激しい高ぶりが生じ、股間のものも立ち上がる。
グルルル……。
 その時、彼を先導していた狼がうなり声を上げる。
「どうしたんだ?」
 ふとその姿に目を置こうとした時、狼が一瞬その身をかがめ、大きな声で吼える。
ウォーンッ!
グググッ、ギチギチギチッ!
 その咆哮と共に、狼の姿がさらに一回り大きくなったように見えた。
 それだけでない。狼の前足に筋肉が注ぎ込まれるように太くなってゆき、その先端にある足の指が大きく伸びてゆく。
 一方、足もまた筋肉を注がれながら太く、長くなってゆき、四足歩行をするには窮屈な形態に変化する。
グワッ!
 狼が身をそらす様に伸ばした時、その姿は大きく変化した。
 四足歩行から二足歩行へと変化した足。それにより全てをつかみ、引き裂くように変化した前足―いや両腕。
 いかなる人間の男性のそれをもはるかに上回る厚さを持つ裸の胸板と幾重にも割れた腹筋。野生的な逞しさとそれを彩る剛毛は雄雄しく揺れる尻尾からも見て取れる。
 あらぶりながらもたくましい吐息を漏らす狼の股間からは人間のそれを上回る屹立がそそり立っていた。それはまさに人狼と言える存在であった。
 いや、そんなものではない。
 男は確信した。目の前にいる存在こそ伝承にあった獣神である事に。そして彼は獣神に選ばれたと言う事に……
 人狼―獣神は静かに闘技場の中心まで歩むと、改めてその姿を男にさらす。鍛え上げられた胸板と腹筋、そしてそそり立つものが露になったが、自分とは余りにも違いすぎるその姿に呑まれながらも男はその獣神からすれば貧相な裸身を負けじと大きく広げ、闘技場に向かう。
 普段の彼なら間違いなくおののき、逃げ出そうとしていたであろう光景だったが、今の彼には恐れはない。ただ獣のごとき高ぶりと激しい意思がそこにあった。それを示すように男のモノもまたリンと立っている。そして獣の皮をかぶった男と獣の姿をした獣神はその姿をさらしあい対峙した。
 ギャラリーは誰もいない。ただ男と獣神だけの空間。それはまさに何人も、そして神であろうと近づく事を許されない聖域であり、聖なる儀式の始まりであった。どちらからともなく走り出した男と獣神ははげしくぶつかり合う。
パシッ、ピシッ。
「はっ、はっ!」
ウウッ、グウッ!
 互いに手を出し合いながらの何度かのけん制。
 獣人はともかく、レスリングなどやった事のないはずの男もまるで経験者の様にたくみに相手をかわしながらけん制を繰り返す。そして数度目のけん制の末、先にとったのは獣人の方であった。
グゥゥゥ……。
「くっ……」
 男の手をつかみ、そのまま引っ張り込むとその優位な体格を使って押さえ込もうとする。
「くそっ」
 負けじと、男も必死で獣人の肩をつかみねじ伏せようとするが、ふと男の中で何かがひらめいた。瞬間、男は身をかがめて獣神のでん部に手を伸ばす。
グオッ!?
 獣神は男が身をすぼめた事に一瞬ひるむ。その隙に男は手を伸ばし、獣神のでん部をつかみ、押し倒す姿勢を取る。
 体格に劣る男ならではの思わぬ機転と奇襲である。しかし、獣神も負けじと足を踏ん張り、男の突進を辛くも受け止め切る。そしてそのまま男を返そうとするが、男も踏ん張ってそれを止める。
 両者は激しく組みあい、その均衡は寝技の応酬に移行してもしばしの間続いた。
 獣神は本来ならその爪や牙で男を引き裂く事もできたであろうが、それは獣神にとっては最大の禁忌であった。それを行った時、聖なる儀式は無に帰す事になるのだから。
 一方、男にしても本来戦士としての心得はもちろん、何か格闘をしていた訳ではないのに本来なら厳しい選抜の末に選ばれし者しか訪れる事のできないこの場所で獣神と戦っている。戦士ではない男がここに来た理由、それは彼が潜在的に獣の精を宿していたからかも知れない。
 なればこそ彼はかの地に導かれ、遺跡の前で全裸に狼の面を被った姿となってこの神殿にたどり着いたのだから。そして男はあたかも熟練の闘士、もしくは獣のごとく獣神と渡り合っている。獣神もまたその闘志を全身で受け止めるべくぶつかり合っている。
 それを示すように高ぶりあった二人のモノもまた激しくぶつかり合うのであった。そのうち両者はその高ぶりあった互いのものにも手を伸ばしつかみ合う。
グッ!
「うあっ!」
グッ!
ウォ!?
 ほぼ同時に互いのモノをつかみ合う両者。
シュッ、シュッシュシュッ……。
シュシュシュシュ……。
「ううっ、うあっ……」
ウウ……ウグゥ……。
 獣神の豪腕とそれに比べれば華奢な男の手が互いのモノをつかみ、扱き出す。
 すでに男のモノも獣神に負けないくらい長く、太く、硬くなっていた。もしかするとマスクの中の顔も既に人のものではないのかも知れない。そして、両者は投げあう姿勢のまま扱き合い……同時に達した。
「うおっ!」
ウオーンッ!
ブヂュヂューッ!
 二人の口とモノから盛大に咆哮が噴出し、それと同時に両者の体が宙に舞った……。

「はぁっ、はぁっ……」
 男は地面にはいつくばったまま悶えていた。狼の面の口から漏れる息も荒い。
 幾度となくぶつかり合った激闘の余韻、そして幾度となく息吹を噴出し、それでもなお萎える事のないモノの感触に酔いながら。あれから男は幾度となく獣神とぶつかり合い、組み合い、投げあい、そして扱き合った。男も健闘はしたものの、文字通り先に精尽き果ててしまい遂にダウンしてしまったのだ。
「……」
 しかし、男の顔―マスクの中の顔に不思議と負けた事以外の悔しさはない。
 人の身でありながら獣神とまさに精の全てをぶつけ合ったのだ。敗北の悔しさ以上に全てを出し切った開放感と達成感が全身に満ちていた。
ビンッ!
「う!」
 その時、再び彼のモノが響いた。
ビンッ、ビンッ、ビンッ!
「うっ、うっ、うっ!」
 刺激と快感に男の顔がゆがむ。
ムキッ、ムキッ!
「くっ!」
 全身の筋肉が突然膨張を始める。それはモノを中心に腰を、足を、腹を、腕を覆い始める。
「ううっ、うううっ……」
ミシッ、メシッ
 筋肉が膨張しながら伸縮し、その貧相な体を逞しく覆ってゆく。
メリムリッ!
「ぐっ!」
 男は目を見開く。それは尻から盛り上がった肉の塊からであった。塊はゆらゆらとゆれながらその身を剛毛で覆ってゆく。
 その剛毛は男の背中と足、腕を覆い隠す。
 その姿はまさに狼、いやかの獣神のそれに近かった。
グッ
「うっ?」
 ふと口元に違和感を感じる。何かつっかえるような感覚。口だけではない。耳が、それか頭全体がマスクの中で膨らんでいる。
「むぐっ、うぐっ、うううう……」
 口をふさがれ声が出なくなる。それにも構わずマスクの中で何かがうごめく。モノから、そして体中から湧き上がるものがマスクの中いっぱいになり……。
ベキッ!バリバリッ!
「ウォォォーン!」
 作り物の狼の顔が砕け、中から本物の狼の咆哮が響く。
「ウウ……フゥ……」
 獣神同様人狼の姿となった男はそれに気づいているのかいないのか、只興奮によっている。それを示すようにそのモノもまた激しく獣の高ぶりを見せている。
グルル……。
 そこに獣神が近づく。
「ウウッ!?」
 男は目を見開く。なぜなら獣神は突然その身をかがめ、尻を突き出したのだ。獰猛かつ高貴な獣神ににつかわしくないその行為。しかし、男は導かれる様に立ち上がると、その尻の前に立つ。
グズブッ!
メリメリッ!
ウオッ!
「ウッ!」
 そして、その猛々しい獣のモノを獣神に突き刺した。
ズッ、ズッ、ズッ!
グウッ、グオッ、ウォッ!
 獣神はまるで行為に浸る雌の様に吼える。その姿は神と言うよりまさに発情する獣の姿であった。男もそれに応える様に腰を、そしてモノを打ち付ける。
ミシッ、ミシミシッ!
ウウッ……ウオッ……。
 それに合わせる様に獣神の姿が変わって行く。
 裸の胸板から腹にかけて再び獣毛に覆われ、その四肢も狼―獣のものになってゆく。
 一方、男の両腕と両脚はさらに逞しい豪腕と脚へと変貌し、その表面も獣毛に覆われる。
 何より獣神を犯し続けるうちに男の中でより激しく、荒々しいくらいに熱い高ぶりが湧き上がり、男をさらに獣に変えてゆく。その姿はまさに雄の狼を犯す雄の人狼の姿だった。
ズチュッ、ブチュッ、ビチュッ!
 男はさらに荒々しくモノを突きたて、獣神は更に悶える。
 そして、男のモノは最大級の放出大勢の臨界を迎えた。
「ウッ、ウオッ、ウオーッ!」
ブシュシューッ!
 男のモノから盛大に精が噴出し、獣神の中に注ぎ込まれる。
 まさに選ばれた戦士の精が獣神の中に注ぎ込まれた瞬間であった。
アオーンッ!
ウォーンッ!
 二匹の獣の咆哮が神殿いっぱいに響く。
ズルリッ
 ふと、獣神の体が男から抜け落ちる。
ドスンッ
 そのまま力なく倒れたかに見えた獣神だったが、不意に立ち上がると男の精を受けより逞しくなった人狼の姿、そしてよりそそり立つモノを見せる。それを見た男もまたモノを高ぶらせ、再度獣神と激しいぶつかり合いをはじめる。
 それはまさに神話の時代をほうふつとさせる激しく、荒々しくも美しい光景であった……。

「……」
 夜明けの日差しに目を差され、男は目を覚ました。
「ここは……?」
 けだるい体を静かに起こし、辺りを見る。
 あの神殿と比べるとはるかに狭い石壁と柱に囲まれた場所。
 比較的まともな裸身でぶつかり合う男達の壁画。その奥、狼の面を被ってぶつかり合う男達の絵に囲まれるように立つ狼の像。
 足元の感触は固められた地面ではなく石畳が敷かれている。そこは男が最初に立っていた遺跡の中だった。
「こ、これは……」
 ふと顔に違和感を感じて触ってみる。紛れもない人間の男の顔。狼どころかマスクすら被っていない。
 朝の日差しと少し涼し目の空気の中、男はあの出来事―そう、狼に導かれた先の神殿で狼が転じた獣神とぶつかり合い、さらには自らも獣となって獣神と睦み合った出来事が夢ではないかと感じた。実際、その奥の扉のあるはずの場所は只の石壁だったのだから。
 そう思いかけた時、体にふと熱いものを感じた。その肌を振るわせる熱い高ぶりの名残、そして何よりサイズこそ元に戻っていたがそれでも負けじと股間で自らを主張している自分のモノ。
「そうか……そうだな……」
 男はそううなずくと、そっと自分のモノをなで、一瞬ぎゅっとつかむ。そして、そのまま両手を広げると、
「うおーっ!」
 と狼のように力強い咆哮をあげた。
 しばしの後、すっかり身支度を整えた男は朝焼けに見送られながら遺跡を後にし、自身の日常に戻っていった。
 しかし、彼の中にはあの獣神と交し合った熱い獣の魂が今も息づいている。それはこれから彼が生尽きるまでその人生を支えていくであろう。人と神が交わりし時代から繰り返されてきた悠久の歴史と儀式。それは人と神が別れて生きる時代になっても途切れる事無く続き、受け継がれてゆくのであった……。


おわり
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