ある夜の事。鳥や獣も寝静まり、ただ枝をそよぐ風の音だけが響いていた。
ガサッ、ガサッ。
大樹の根元に開いた穴の中から一匹の獣が姿を現した。たくましい体躯と四肢を静かに動かしながら穴を出、全身を覆う毛皮はまさに威風堂々の風格である。
この獣も大樹に比べれば遥かに幼い人生を大樹と共に生きていた。初めてこの地を訪れた時、獣はまだ生白い小動物の様な存在だった。その大きさと存在感に惹かれた獣は事あるごとに大樹の元で過ごし、何時しかそこを根城にしていた。
時には根元でまどろみ、時にはその回りを駆け回り、時にはただ静かにその傍らにたたずむ。
その四肢を使って幹を駆け上がって枝に腰掛ける事もあった。そうするうちにひ弱だった獣は少しずつたくましさとりりしさ、そしてそれに見合う深い慈しみを持つ存在となっていった。獣の成長を象徴しているかの様にかつては全く見えもしなかったのが尻尾や両脚の間から見え隠れする「オスの証」もたくましい姿を見せている。今夜もまた獣は静かに大樹の周りを静かに回ると、静かにその身を大樹に寄せる。
「……」
獣はいつものように心地よさを感じる反面、どこか寂しさを感じていた。初めてその身を大樹に寄せた時よりその幹は少しずつ、確かに枯れている。例え命あるものは全ていつかは消える定めにあるとわかっていても成長期を共に歩んだ獣にとってはいずれ来るであろう肉親と別れる時に負けない寂しさを感じる。
「……」
自分は大樹と共に生きた事でこんなにも精力あふれる存在になったが、大樹自身は既に精気を枯れ果てさせている。このまま枯れさせたくはない。何か恩返しをしたい。獣の中にそんな思いが去来する。しかし、獣にできる事はただ黙って大樹が朽ちるのを見守る事しかできない。
複雑な思いに駆られ続けていた獣だったが、ふと見上げた先、幹の中に何かが見えた。
「……?」
小さな穴。普段獣が根城にしている穴に比べれば遥かに小さい。クンクンと匂いをかぎ、じっと見つめまわす。
そうするうちにいつしか獣の中に激しい発情感が沸きあがり、足の間がぎゅっと引き締まる感覚が満ちる。
「ううう……」
獣は一瞬自分の発情に疑問を持った。こんな所に発情して自分はおかしくはないか。そんな所に自分の発情をぶつけてもこの木が蘇る訳はないはずだ。しかし、枯れ果てつつある大樹の中でそこだけは最後の気を溜めているかの様に何かを発しているように獣には感じられた。それは獣の思い過しかも知れないが実際獣の心身には精が満ち、足の間から生えるものも今にもはちきれんばかりに震えている。
「う……うう……」
獣は考え込んでいたが、遂に自らそれを止めた。
「うぁーっ!」
そしてそのまま大樹に飛び掛ると、幹にぐっと両手を伸ばしそそり立つものをその穴の中に突き入れる。
ズボッ!
キツメのサイズの上潤滑のないまま突き入れた衝撃による苦痛と快感が獣を襲うが、それをも刺激にして獣は静かに、そして大きく身を動かしながらそそり立つものをさらに動かし始める。
ズッ、ズッ、ズッ!
ネチャッ、ネチャッ、ネチャッ!
獣が全身を激しく上下し、腰を激しく前後し、股間のものを打ち込む。そのたびに獣は激しく、甘く声を上げる。枯れ果てた大樹と交わる牡獣の姿―見た目にはかなり異様であるが、同時に何か崇高なものをも感じさせる光景であった。
どれだけグラインドを続けたのか、遂に獣は絶頂を迎えようとしていた。
ブシューッ!
獣の足の間、その奥深くから噴出した精が股間のものを通じて穴、そして大樹の中に吸い込まれる。もちろんその圧力で若干股間のものが押し出され、漏れた精が滴り落ちるがそれもまた枯れた幹の中に吸い込まれる。獣は絶頂と放出の余韻に浸りながらそれを満足そうに見つめていたが、まだ足りないとばかりに体が落ち着くのを待って再び股間のものを打ちつけ始める。
ズッ、ズッ、ズッ!
ネチャッ、ネチャッ、ネチャッ!
ブシュ、ブシューッ!
幾度となく股間の肉棒を打ち付け、精を放つ。そして大樹はその枯れ果てつつある幹にその精を染み込ませてゆく。いかに精力たくましそうな姿を持つ獣とは言え幾度となく精を放っていてはそれこそ自身が枯れ果てかねないはずなのだが、獣はなおも精を放ち続ける。それこそ自身の全精力を大樹に奉げるかの様に。
ズルッ……ズルッ……ズルッ……
ネチョッ……ネチョッ……ネチョッ……。
ビュッビューッ!
幾度となく精を放つうちに獣の勢いも少しずつ弱くなり始めている。腰の動きも後足の踏み込みも少しずつ衰えを見せ始めており、その体も少しずつ痩せ細っている。ただ放つ精だけは変わらず激しく獣から噴出している。
一方、大樹の方も獣の精を吸ううちにその圧力に耐えられず少しずつヒビが入っていた。
ビキッ、ビキビキッ!
かすかに生えていた葉はすべて落ち去り、枝も支えきれなくなったものから次第に折れていっている。まさに枯れ果てた大樹の全身が獣の激しいまでの精力に耐え切れず崩壊を始めていたのだ。獣も既にやせ衰え朽ち果てる寸前であり、これ以上行為を行なえばともに文字通り命が果てる所まで進んでいるが、もはや両者にそれを聞く意志はない。それこそそれが彼らの本望であり本能であるかのように獣は精を放ち、大樹はそれを受け続ける。
そして……。
ブッ、ブシューッ!
文字通り最後の勢力を放った獣はそのやせ細りきった体を音もなく地面に倒す。
バキッ、ベキメリッ!
ズズズ……ドゥン!
大樹もまた全身に走ったヒビを広げながらその朽ちた全身を獣を避ける様に倒しながら朽ちていった。こうして老いた大樹と若き獣の精の交わりは終わりを告げた……。
静かに森に朝日が昇り、鳥達の声がこだまする。
「う、うん……」
けだるく、柔らかい声を上げながら獣は目を開ける。
「あ、あれ……木は?」
少しかわいらしい声でそう言いながら獣は起き上がろうとする。よろりと起き上がりながら朽ち倒れた大樹の根に手を置き、獣は静かに辺りを見回す。大樹は完全に折れ果て、そして朽ちていた。
「やっぱり……やっちゃいけなかったのかな……」
獣の中に後悔の念が湧き上がる。物心ついてからの自分にとっての憩いの場であり、成長し共にあるうちに感じるようになった「獣」としての自分を満たしてくれた大樹を助けたかった一心でやってしまった行動。それが結果として大樹の寿命を縮めてしまったのなら……。
ふと獣の目に涙が浮かぶ。しかし、その先に何かが見えた。ちょうど大樹が生えていた場所。
一瞬獣にはもう一人自分が立っていたような錯覚が見えた。しかし、天高く伸びる前足は異様に長く、地面に突き立つ後ろ足は一つにまとまっている。そして何よりその全身は……。
「あ……」
今度は喜びの涙を浮かべながら獣はもう一人の自分―自分に似た姿をしたその木に抱きつき、静かに口付けをした。
そして、朝焼けがその地を照らす。
「はぁ……」
感慨に浸りながらため息をつくと獣は静かに顔の皮をはぎ、自身の股間のものに軽く両手を添えると、そのまま静かに引き抜く。
ニュルリッ。
「んっ……」
大した抵抗もなく股間から引き抜かれたそれを静かに地面に置く。牡獣―を模したマスクと精巧な疑似男性器を身に付けて扮していた少女は少女に似た姿をしているその若々しい木と朝日を浴びながら静かに見つめ合った。それは新たな命の再生を祝う祝福のようにも見えた。