しばらくして蛇が連れて戻ってきたのは、1人の男であった。それは比較的、若い具合の姿をしているもので、娘と通じるところを幾らかに持ち合わせていた。
それは狐の語った言を借りるならば「対価として相応しい」であろう。顔立ちだとか、背格好は普通、しかしその体の具合は健康と言えてしまえる具合であって、その穏当さが「対価」としての魅力を強めているのは大いに見えてしまえるところであった。最も異なるのは男の方は意識がないところだろう。見たところでは静かに息をしているのみで、何とも深い眠りの中にある、そんな具合の顔を蛇は時折舐め、また全身剥ぎ取られた体をとぐろの内に巻き込むなどして、どこか遊んでいる様な印象すらある。
狐はそれを愉快な気持ちで見ていた、そしてその狐に―何時しか、胡坐をかいた狐の上に据えられた―娘はこれまでにない刺激を与えられていた。即ち、その内に、狐の器官を挿入される、娘の、完全なる、とまではならずとも純潔に近い肉体の有する穴には今や、赤黒い陽物を咥え込まされて、揺すられていたのだ。
「あらあら、もうそんな…後ろの穴になんて、本当、貴女と来たら好色なものねぇ」
蛇はその光景にすっと感想を漏らす、それに対して狐は特に何も言いはしなかった。ただこれ見よがしに見せつけては、代わりに刺激で娘が喘いで返す、その一体となった動きに、蛇もどこか刺激されたのだろうか。ただ尻尾なりで弄ぶがままであった、男を一旦引き出しては、その性器を愛撫し始める。
「…う、んうあ…」
男の口から喘ぎが漏れる、悪くない響き、しかしその瞳は開かない、開かない内に、蛇は更なる刺激を加えては硬く勃起したその陽物を剥いて、ちろっと舌で舐め回す。
「ん…はぁ、何時以来かしら…」
蛇にとり、そうした経験は久しいものであった。蛇は最早蛇である、しかしその元となった「彼女」の記憶や意識の名残が皆無との訳ではない、姿こそ変われど、また思考に認識こそ変われど、どこかでは以前の「人」であった時を引き継いでいる。故に、蛇にとり、と書けるのであってそうした反応を示せるのであった。
蛇が蛇と化したきっかけの誘い、それは「再び子を成す」とのもの。そうと聞かされるまでその気は全くなかった「彼女」の内には、ふとした回想と共にそうした欲求が戻ってきたからこそ、今に至ったとしか言えない。
夢の中、それは肉体から離れた精神の中での狐との出会い、その誘いに乗ったからこそ、夢の中で彼女の精神は狐に食われた。肉体が目覚めた時は、その食われた精神が狐の内より産み落とされた瞬間なのである。だから彼女は「蛇」と化した、狐、曰く、この土地に古くからあって今は絶えていた「妖」となって、現に戻ったのである。
「んん、はあ、駄目、もうたまらないっ」
しばしの陽物への愛撫は次第に激しさを増していく。
ただ舌だとかで舐めていたのは、何時しか咥えるに変わり、そしてそれでも止まらなくなった刹那、すっと口を外した蛇はそのとぐろを緩めるなり自らの秘所へとその肉体を押し込む。そう、文字通り押し込んだのである、足の先からずぶりと、入れ始めたのである。
幾ら大柄な肉体となったとは言え、身長は170ほどはあろうか、の男の肉体は大きなもの。しかしその肉体は幾らかの割れる音、砕ける音と共に、蛇は自らの嬌声を挙げて打ち消さんとばかりに押し込み、およそ10分余りであろうか、じわじわと時間をかけらけた結果、その腹部を醜く膨らませる形で男の姿は消え果て、後には恍惚とした具合で牝の人の顔をした蛇が腹を撫でて、大きくその尾を伸ばしていた。
「くく、良いぞ良いぞ、それじゃ、最初の贄はどうじゃ?美味しかったろう、ではな、我も…ひとつ」
その光景を娘の尻穴を犯しつつ見ていた狐も、いよいよたまらなくなった、との具合に息を荒げて、大きく腰を打ち付けた。するとどうであろうか、びくんっと大きく震えた娘はどこかで弾けん、とばかりの響きすら感じられる大きな息を一気に吐いて、その汗だくの身から力が抜けてはだらん、となって、狐の支える腕が無ければそのまま、床の上へと落ちてしまいそうになっていた。
娘にとって、このひと時は一体、どうであったのだろうか。特に視覚的に、目に見える光景として展開したものは、自らの肉体を「犯される」との行為以上に肉体的にも、精神的にも響いたであろうし、その前には直接成された事なぞ、よりそれを強めるだけの添加剤とも言える役割しか果たさなかったのではなかろうか。
勿論、それを確かめるには娘の視点を、また認識を知るのが肝要ではある。しかし、今、露呈している姿からはとてもそれは分かりそうになかった、とにかく、最早精根尽き果てた、有り得ない出来事に晒されすぎて麻痺しきった体を狐は引き起こすと首筋を舐め回し、そしてその首を大きく捻った。
後は同じであった、夢の中で「彼女」にした事を娘にここでするまでの、狐。頭から首、背骨に乳房にと、それはもう丹念に余すところなく、その白い毛並みを汚しつつ、狐は娘を腹へと収めていく。
蛇はそれを見ながら、ひたすらに自らの腹部を撫でてはどこかうっとりした顔をしている。時折、膨らんだ腹部がびくんっと痙攣した時の表情と来たら、それはもう、「母」の顔であり、慈しみすら感じられようか。真に、満ちに満ちたものだった。
「はぁ、美味いのう、良いのう、して我もしばし休むとしようかねぇ、くっくっく…ふぅっ」
狐の体の上から娘がいなくなったのは、蛇が男をのみ込んだ時よりもしばらくの時間こそかかった時だった。
その狐の腹部もまた膨らんでいた。それは正に胎の位置であり、改めてその肉体を見るならば赤黒い陽物と対照的な適度な大きさの乳房がはっきりとあって、その胎の膨らみ方もどこかでは馴染んでいる、ある種の経験を感じさせられる、そんな具合となっていた。
「ええ、それはもう…楽しみの前ですから」
蛇もまた応じる。蛇の腹部もまた胎の位置、最もそれは秘部より呑まれた事を思い出せば当然ではあろうとしても、人でなく、しかし人に近しい姿を取る存在が、人の気配の濃厚な部屋の中でそれぞれに胎を膨らませて相対している光景とは、正しく面妖以外の何物でもないだろう。
そしてしばらく、沈黙がその空間を包み込む。ただ闇だけが深くある中で、再び動き現れた時はどうなるのか、それだけは誰にもわからぬままに、その空間へ向けて歩く足がひとつある事は、そっと触れておく事にしよう。その「足」を操る存在はとてもではないが、この事を知る由すらないのだから、知らぬが仏の名の通りに、ここはするに限るだろう。
何故ならその、「蛇」の存在すら、今、この土地に住まう者達は知らないのだから。かつての土地の支配者の復活なぞ、とても知らない方が良い限りであろうし、そこにそれを助け、また見合った分け前を得ようとする神とも妖とも取れる白狐がいる事なぞ、とてもではないが、「科学」に浸りきった者達にとってはあり得ず、認められない。しかし、幾らそうとしても避けられないものがあるのをまざまざと思い知らされ、また味合わされるまでには少しばかりの猶予があるのもまた「情」たるものであろう。
闇の中に一旦落ち込んだ白狐と妖蛇。それはしばしの一休みでしかなく、改めての目覚めの時はそれは久々の、土地が本来の姿を取り戻す瞬間なのだから。