周回遅れのプレゼント・第3話 冬風 狐作
「う・・・げほ・・・げほぉ・・・っ!?」
 飲みたくない、これ以上体の奥に尿など受け入れたくない、そんな意識がある意味では冷静な判断をする余地を奪う。それは即ち我慢した結果、むしろ酷い結果を自ら招き寄せると言うもの。つまりむせる、頑として飲もうとしなかったが為にあふれかえった尿が閉じていた食道ではなく、呼吸の為に開いていた気道の方へと入ってむせ返してしまったのだ。
 だがむせた所で口は塞がれたまま。頭は相変わらず強い握力で抑えられているから動かす事で衝撃を分散させる事すら出来ない、そんな状態で僕は激しい衝撃をわずかな余裕で受け止めるしかなかった。その拍子に歯が相手のイチモツにぶつかったのも分かっていた、しかしどうしようも出来ぬままに、気道から押し戻されてくる尿は勢いで顎を苦しめると共に、わずかな隙間としての鼻腔を逆流してわずかに外に漏れ出る始末。一瞬息が詰まるのは尚の事、鼻の中から今まで以上に漂う強い尿の香りに思わず涙がこぼれて仕方ない。
「ん・・・んぐっ!」
「俺様のイチモツに歯を立てるんじゃねーよ、痛いだろうがっ」
 飛んできたのは罵声、しかし大声と言うよりも酷く低い声だった。思わずすくんでしまう、そんな声に震えた拍子に僕はとうとう食道を開いてしまう。
 声によって気が緩んだ結果、だからもう気が付いた時には口腔の中へ勢い良くたまりにたまっていた尿が流れ落ちていて、軽く胸が苦しいそんな具合だった。しかし少しばかりの安堵を同時に感じてしまったのは否定出来ない、そしてそれがわずかな休息に過ぎないのをどこか気配で悟っている己がいたのを思い出した。

(う・・・そうだよね・・・あの時の・・・)
 そこまで思い出して男はふっと意識を戻した。場所はあの個室、つまり会社のトイレの個室の中で先ほどまで手にしていたシャツをズボンの上に投げ出して、体は立った姿勢のまま壁に背中を寄りかからせている。姿勢が立ったままなら服装もそうであり、つまり全裸であるのは変わらない。目は空ろのまま、しかしあの濡れたシャツをじっと見つめて離さない。鼻の中にはあのシャツから嗅ぎ取った匂いが生々しく残っていて、記憶の中ではあの尿の香りがこれも生々しく残っては意識の上で共鳴しあっている、そんな有様である。
 手はどうしているかと言うとただ垂れ下がっているとかでは無しに、ある動作をずっとし続けている。片手は胸、もう片手はお尻へと回って揉んでいるとも撫でているとも言える、そんな動作を繰り返している。
 それに注目するとある事に気が付くだろう、その体の奇妙さと言うべきだろうか。どうも締まりのない体なのである、どことなく弛んでいる、また使い古されているとの言葉が似合うところであって特に胸は痩身のその身には似合わないほど膨らんで緩んでいる。まるでそれは乳房である様だった、そして乳首も男にしては無駄に大きい。どこか取って付けた様で、しかし緩んだ体として見るなら整っている、そう言う有様の前に視線は奪われざるを得ない。
 男の片手はその胸を弄るものだった。どこか他の場所よりも黒ずんで、乳輪に限らず全体として茶色に近い胸を弄る手付きは手馴れている、自然さを纏っている。
(う・・・ああ・・・声出せないのが・・・つらいよ・・・ぉ)
 ふとそう思う心、そしてその口はそれを裏付けるかの様に大きく開いてはぎりぎり限界まで、声とならない限界までの量で吐き出されている。流石にこの場で喘ぎ声を上げることの危険性により抑えていると言えようが、そもそもこの様な場でこうしなければならない発作的な衝動、それが冒頭で僕をトイレへと急がせた、生理的な現象の正体だった。
(はあ・・・クリスマス、またクリスマスが来る・・・)
 そしてそう思うともうたまらない、クリスマス。それは僕にとって最早単なるイベントではなかった、それは彼女にとってもそうだった。2人に共通する絶対忘れる事のない、最も重要な日。そう思えば思うほど、手の動きは、胸と尻を、尻もまたこの姿勢では表には見えないが、表するならすっかり黒ずんで緩くなった、そのどちらをも弄る手の動きはますます激しさを増す。
 胸は揉まれれば揉まれるほど熟れていく、言うなればそれは張りが出て来るのだ。そして確かな膨らみとなっていく、玉、双玉、ただ1つ突起が表にあるそんな大きな乳房へと変わっていく。
 そう男にはない乳房がそこに現れ、更に増えていく。視線を少し下に向ければ双玉の乳首から線をすっと引いた様に腰周りへ向けて乳首の列が現れる、それは最初は単なる点としての突起でしかないが、ふと気付くまでもなくむくっと盛り上がって双玉までは至らずとも、順繰りに腰に近付くに連れて小さくなる、そんな団子の連なりの様な複乳が形成された。
 それと共に何と言うのだろう毛並であろうか、皮膚がすっとした色合いに染まっていく。胸周りから見れば首周りから双玉、そしてその下の最初の乳房の辺りまでは完全なる白色に包まれている。それも分厚い毛が覆い隠している、と言って良いかも知れない。そんな見事な胸周りの豊富な胸毛の後も乳房に沿って腰周りまでつついた白さは、ややVの字気味に股間へと消えると大腿部の内側を覆って膝のわずか上の辺りでついえた。
 それ以外は黒の強いこげ茶色で統一されている、何時の間にか股間の表へと戻っていた尻を弄っていた手もその様に包まれて、そしてその指先はふとした黒光りを放っている。それは爪が、また蹄がとも言える代物であった。指の第一関節から先が全てそれで覆われているのに目を取られていると、続いては骨格自体がある意味では逞しさを得出す。
あの弛んだ体ではなかったがっしりとした、大きさのある体躯になるのだ。それは記憶の中で出てきた相手の体躯に似通っていて、そして顔も前へと伸びて完成の域に達する所。両顎が大きく、顔の表面を取り込む様にして前方へと伸びるそんな姿が目に飛び込んでくる事だろう。
 顔は馬よりもずっと太いと言えようか、横斜めに切れ込みの様になった鼻腔はそれだけでも大きく、口はそれを上回る大きさを見せてくる。その先端の周りは白く次いで黒く、最後はまた黒に近いこげ茶色に染まって顔全体はその色に包まれていた。そして被り物、こと角である。巨大な根元でまず前後に2つに分かれた一対の角は、牛のロ物ほど大きく、そして軽くカクッとした形はどこかハープを連想させるもので、その全体の大きさに対して顔は余りにも小さく、耳に至っては飾りかと思うほどの大きさで角の付け根の脇にちんまりとある。

「・・・うう・・・っ」
 ようやく耐え抜いた証とばかりに漏らした音がそれだった、正直この間、僕は強い刺激、つまりそれは快感を全身に感じて仕方ない。声なんて、そう嬌声なんて幾らでも上げてしまいたい衝動に駆られて仕方ない、しかしここではそれは出来ない。だからこうして漏らすのがせめて、唯一のガス抜きでもあるからこそ音となる以外のところを含めて長く、それは長く息を吐く。
 そして再び目を開くのが早いか襲いか、と言うところで僕の手はもう動き出していた。特に股間に当てられた手が動き出す、そこにある膨らみを、言うなればイチモツと言われるであろうそれを揉みつつ押し込む様な動き、それを始めるに至った。その動きが意味するところは当然快感を伴っている、だから体は興奮する。軽くまたも片手で揉んでいる双玉が揺れる度に乳首がはっきりと、白い毛並の中に独特の赤みを以って充血するのであらわと言うものだろう。
(う・・・叫びたいよ・・・ッ)
 心の中でさっと浮かんだのは膨らみをただ揉むのではなく、より強く押し込んだその刹那の事。ぐいっと体にめり込ませてしまう、それ位の勢いで股間の膨らみを押せば押すほど抵抗感と共に、僕はまた記憶の中へと意識が沈んでいくのを感じるのだった。


   続
周回遅れのクリスマス・第4話
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