起きたら獣人 冬風 狐作・pixivイメージレスポンス作品
 気持ちよく寝ている時、不意に起こされると言うのは何とも気持ちが良くない。でもそれは目を覚ましてから何が続いたかによって、良いにも悪いにも変わるもの。だから最終的にどう言う気持ちになるのかは自分自身の事でありながら、私自身が一番分からないのかもしれない。

 今日の私は驚きが目覚めの後に続いていた。目を覚ましてからしばらくの寝起き直後な倦怠感。その中に漂う私はわずかな目ヤニに刺激されてのかすかな涙を流しながら、目の前にある、ふとした「モノ」に視線を注がずに入られなかった。
「ほら、ねぇ、咥えてよ、ね」
 細かく区切る様な話し方で「モノ」の主たる存在が私に声をかけてくる。でも私の見えている範囲にあるのはふとした膨らみを持った「モノ」しかない、それだけ眼前に迫っているのであり、正に至近距離であった。最初はその「モノ」の正体が何か分からなかった、しかしそこにはふと漂ってくる熱にはっきりと伝わってくる香り、否、匂いがある。
 特に匂い、どことなく饐えたその匂いを嗅いでしまうと、ふとした記憶が呼び起こされる。しかし少なくとも記憶にある形とはかなり異なる姿である目の前のモノに私はどことない警戒感を浮かべずにはいられなかったし、だからこそ改めての確認の為に半ば無意識にて、また嗅いでしまうのだ。はっきりと嗅いでいる事が分かるほどに鼻腔を動かして吸い込んでしまう度に、私の頭に載せられた「モノ」の主の体、それは手が私の頭を撫でるのを感じながらの、まだ完全に覚醒していない頭での行動だった。
「ねぇ、黙ってないでよ…答えてよ」
 幾度か繰返した時、ようやくそう言われて私は一言も口にしていなかった事にようやく気付いた。だから頭に載せられている手の平の重みを感じながらわずかに顎を上に向け、更に眼球をも上に向ける。その時の全体の姿勢はと言えば体の半分に毛布をかけて、半ば寝転んで両肘を付く具合で半身を起こしているもの。そんな姿勢だから、ふと視線を動かした時に見えた色合いからふとあるイメージを、我が身と被せて連想してしまったのである。
(犬、みたい)
 確かにその様だった、今の私は四つん這いの犬。飼い主に好物を示されてお座りの姿勢で待てをさせられている犬。そうも意識したのは視線を上に向けて動かした際に見えた色合いの存在が大きい。そもそもその色合いを纏っているものは、目の前に示されている「モノ」が生えている根元、つまり何らかの生物の肉体だった。それは痩身気味ながらもしっかりとした骨格である事がうかがえて、更に強調を加える様に私とは違う色合いを纏っていた。
 繰返す様に書く「色合い」とは言って見れば服の様、つまり柄と見える。だがその様な柄の服を纏う人が果たしているのだろうか、色ははっきりとした白と黒の組み合わせである。それだけなら確かにそう言う服を身に纏う人は居るかもしれない、だがその配置が服にしてはおかしい、一言で言うならそれはホルスタインだろう。白の上に黒い斑点が広がっている、そんな色合いで改めて書くならばそれは服ではない、骨格がその下に見えていてる肉体そのものの色合いがそれなのだ。
 それを認識すればするほど私は奇妙な気分になった。一体私は何を見ているのだろう、若しかすると凄く精巧な夢なのかもしれない、そう考える一方で考える為に脳に通う血の巡りのお陰で視野はまさに覚めて行く。そして改めて視線を走らせた時、私はそれが良く見知っているものと完全にではないが、かなり似通っている事に気付いてしまったのだった。
 それは矢張り犬だった。犬と似通っている、何時もこの部屋で一緒に寝ている、より正確に書けば私のベッドの下で何時も寝ているペットの姿に、余りにもその匂いはそっくりだった。

「コリーヌ…?」
 コリーヌ、それはそのペットの名前だった。どうしてそう言う名前になったかは説明すれば至極単純、そのペットは犬で、牡のボーダーコリー。5年位前の誕生日の日にお母さんがプレゼントとしてくれた犬で、犬を飼いたいと思っていた私にはとても嬉しいもので、その時の喜びは今でもどこか胸の内に秘めているところがある。
 しかし突然のプレゼントは喜びの一方でふとした問題もまた孕んでいた、それは名前である。まさか誕生日プレゼントとして犬が来るとは思っていなかったから、事前に名前を考えている訳も無く、驚きと喜びの交錯する気持ちの中では適当な名前がすぐに浮かばなかった。結局一晩考えた結果、安易だとは思いつつも「ボーダーコリー」のコリーの部分を取ってコリーヌと名づけた。それが彼の名前の由来だった。
 だから正直な所、彼に対して申し訳なく思うところもあった。折角の名前なのにそんな安易に名付けてしまって良かったのか、と時として今でも一緒に遊んだり散歩しながらの後姿を見ては、ふと胸中に過ぎる事がある。それでも「コリーヌ」と呼ぶとさっと駆け寄ってくる、あるいはこちらを見つめてくる、それも嬉しそうな顔をして接してくれるのに私は凄く癒されていた。
 それは最早安堵でもあったろう。だから私は可愛がりに可愛がった。勿論、ペットと飼い主と言う立場をわきまえさせる為にメリハリをつけていたのは当然の事。それでもとにかく私は私なりに時間さえあれば一緒にいて可愛がり、また過ごしていたものだし、コリーヌもそれに応じてくれるものだからますますその時間は私にとって尊く、欠かせない時間になっていたのは言うまでも無い。
 そんな具合の親しい関係だからコリーヌの匂いは分かって当然だった、少し鼻を動かしただけで分かるこの匂いはどう頭の中で結び付けてもコリーヌ。でもコリーヌはこんな姿だったか、と思った途端に自信はなくなる。匂いと色合いはほぼ間違いなくコリーヌなのに、その体つきは何時も見慣れた姿ではない。少なくともこんなに足は長くない、そして私の頭に撫でる指なんてあった覚えはない。
 何よりこれはどうみても普段の私とコリーヌの関係だった、お座りをしているコリーヌの頭をやや前かがみになって姿勢を縮めて撫でる私、その位置関係が完全に置き換わった姿であると全くそのままで不可解なのに気持ちのどこかでは、ああ何時も通りだと思えてしまう、そんな奇妙な気持ちだけがますます色濃くなっていく始末だった。
 だから私はどこかで先導してくれる、導いてくれるのを凄くありがたく思ったのだろう。自分の考えの中では上手く処理出来ないからこそ、私は再び耳に届いた彼の「声」にすっと従い始めていた。
「さ…ほら咥えてよ、目の前にある赤いものを、ね」
「うん…んっ」
 コリーヌの促しは目の前にある、あの「モノ」を盛んに咥えて欲しい、と繰り返し求めていた。その口調は大体、終始一貫した響きが維持されていたものの、次第にどこかで急かす様な、また我慢が次第に出来なくなってきていると訴える息遣いが混ざり始めて、どこか私も刺激される。それはしばらくは躊躇っていたを後押しするものだった、だからふと頭を撫でられた拍子にそれを口に咥えてしまった。
 それは、確かに過去に経験した事のある行為だった。しばらくご無沙汰とは言え、以前に付き合っていた彼氏と夜に遊んだ時に布団の上でした行為。一言で言えばフェラチオその物である、だがこんなに脈打っていただろうか?それに匂いもきつかっただろうか?何より尖っていただろうか…?と脳裏に咥えてからと言うものしばらく過ぎり続ける。
 また時折、何か取り返しのつかない、あるいはしてはいけない、ある種の禁忌を犯しているとの意識が芽生えるもとても、一度咥えるなり緩急付けて唇を動かして始めてしまった舌は止められない。舐め回す行為を取り消す、つまり止めようとするのはとても出来た話ではなかった。
「ん…んう…んぷぅっ…ッ」
 「モノ」は即ちイチモツであるのはそれから完全に理解出来た、そこからは饐えた独特の香りと共に根元より先の辺りからはコリーヌの匂いが強く漂ってくる。そして深く咥えて鼻先が体にぶつかる度に柔らかい毛皮の感触がする、余りにも明白だった。もう詳細が分からないとか頭がぼやけているとか、そんな言葉で説明、むしろ誤魔化す事が出来ないほど明確だった。私は、そう今、セックスをしている。それも人ではない相手と、犬、それも愛犬のイチモツを咥えて感じて感じさせているのだと、はっきりと理解していた。
 戸惑いはなお完全に落としきれたものではなかった、しかしそれを受け入れている傾向が同時に強かった。何と言うのだろう、常に一緒にいるからこそどこかで芽生えていた感情に火が点いてしまったのかもしれない。
(んん…コリーヌの…)
 それは愛しいと言う気持ちであった、愛しい、常に一緒にいて、本当可能な限りのお互いの姿を「見せ合っている」、そんな関係にあり続けていた事から生じたのだろう。単なる親しさを飛び越えたその感情は、どこか私の中でコリーヌを犬とは看做さない認識を生んでいたと言う事だった。
 逆に言えば私が己を人と見ていない証でもあろう。つまりコリーヌとの関係において犬と人と言う区別はなく、ただコリーヌと私がいるだけでその関係は親しくそして愛しい、その様な認識が何時の間にか自分の中で完全に成立していた、そしてそれが表に今、この行為によって引きずり出された…それだからこそ私は自分のしている行為が何か「異質」また「おかしい」と感じつつも止められなかったに違いない。だからはっと次に我に返った時、私は顔面になにやらどろっとした感触、また喉に軽くイガイガとした苦味を感じていたのだった。

 あれから数日、私はと言えば休みであるのを良い事にあの朝以来、この家を出ていない。勿論、ご飯を食べるとかお風呂入るとか、そう言う事で家の中を歩いたりとかはしている。しかし家の外には出る事はなかったし、基本的に自分の部屋に閉じこもっていた。
「もう珍しいわね、あんたがこんなに出かけないなんて」
 お母さんにはふとそう言われたけど適当に私は受け流した、たまにはこう言う時もあるの、と言って返して部屋に戻ったら鍵をかける。鍵をかける事自体は普段からしていたのが今となっては幸いした、またコリーヌを専ら私の部屋で世話していたのも本当幸いな事だった。
「ただいま、コリーヌ」
「お帰り、お姉ちゃん」
 そうコリーヌを今、外に出す事は出来ない。何故なら、目の前にいるその姿はベッドの上に腰を下ろしているのだから。犬が普通、腰を下ろす事など出来はしない。しかしコリーヌは普通にそれをしている、脚ではなく足を伸ばして、前脚ではなく、両手をベッドの上に下ろして、そしてまるで人の様に私に接してくるし会話だって出来るのだから。
「ごめんね、外に出して上げられなくて」
「良いよ、お姉ちゃん…僕、余りお散歩好きじゃないし。それよりも…」
「ん…」
 これが現実である事は私はこの数日の間に様々な形で知った、その多くは体を通じてのものだったのはもう言うまでもないし、今からもまた味わう事になるのを私はもはや当然の事としてコリーヌの言葉に耳を傾けていた。
「お姉ちゃんと遊ぶのが凄く好きだから…」
 今の私ではコリーヌにはとても敵わない、どうしてかは分からないが、いや明確に分かるただ1つの要因は、明らかに身体的な観点で私は敵わない事であろう。コリーヌの姿は最早犬ではない、言うなれば人と犬の交じり合った「犬人」なる姿でその体力、つまり身体的な能力はただ人の要素しかない私ではとても敵わないのだ。
 その証がこの数日、体を以って現実である事を知った、いや刻まれた事だろう。今、コリーヌが腰を下ろしているベッドのシーツは最早随所に汚れが落ちていた。それは多くは黄ばんだものだが一部はふとした赤みもあって、それは皆、ここ数日の間繰り広げられた私とコリーヌの営みの結果だった。
「もう、今からまたするの…?」
 コリーヌが「遊ぶ」と言う言葉を使ったのを見て私はまたもそれを、営みを予感した。寝るのを忘れて繰り広げられるその営みは、これまで余りそう言う経験のなかった私の肉体を確実に蝕んでいた。それは疲労でもあるが、虜にさせると言うのもあるだろう。どこかではいい加減にしてもらいたいと言う嫌悪感を常に抱きつつ、しかしいざされ始めると抵抗が出来なく、攻められるままに感じて反応してしまう己の肉体に対する諦めと得られてしまう幾らかの快感、それ等が私の精神を蝕んでいた。

 だから私はその答えを静かな眼差しを向けて待った、どこか両股をきゅっと閉じつつも疼く胸を押さえつつの先に帰ってきたのは首を横に振る仕草であった。
「またしたいの?でも僕も流石に疲れたし、これで遊ぼうよ」
 そう言って示してきたのは1つの骨だった。正確には骨を模した玩具でただ1匹、いや1人でこの部屋にいる時にコリーヌが噛んでは遊んでいた物であるのは私が買い与えたから良く分かる。表面には多くのコリーヌの噛み跡が残っていてすっかり使い古された、と言う感はあるがそこまで、彼、コリーヌが気に入っている玩具であった。
 それを示されると私は、どこかで安堵しつつ、ある物を手にする。それはリードであった、黒いリードを矢張り同じく黒い首輪、それはコリーヌの首に巻かれているのであるが、そのD環にかちゃっと金具を通した途端、彼の体が縮みだした。
「ほら…咥えてよっ」
 縮みだしたその体は次第に前脚と後脚のある犬の体へと戻っていく、だから失われていく手に掴まれた骨の玩具を私は口で受け止めた。すると間も無く手は脚へと変わり、瞬く間に目の前にはベッドの上にお座りをしたボーダーコリーのコリーヌの姿があるだけになる。
 対する私もその間に、空いている手を器用に使って身に着けていた衣服をすっかり脱ぎ捨てていた。そして一糸纏わない姿になるとようやく口から玩具を手に取るとへたっとその場に崩れ落ちる。勿論、その姿は人のままである、しかしどこかしら生じていた胸の疼きはすっかり全身に広がっていて、今、手中にある骨に対する強い欲求となって私は震えてすらいた。
 その中でちらっとコリーヌを見ると彼はお座りをしたまま私を見つめている、すっかり元の犬の姿となった彼は一言も発しないがその目が言わんとしている事はふと浮かんでくる。今、したい通りにしなよ、そして遊ぼうよ、そう言わんとする輝きに押される様に私はその骨を口に咥えた。
「ん…骨、コリーヌの味で一杯…っ」
 それは変わらずの味だった、変わらずと言うからには以前にもそれを味わった事がある訳であって、再度の説明となるが前述した「遊び」は犬人となった彼との営みとは別のもう1つの意味に触れなくてはならない。
 つまり今度は私が「犬となる」遊びだった。私は咥え出した骨の玩具をそれこそべとべとになるまで、何度も何度も咥内に出し入れして噛んでは味わっていく。口の中にはコリーヌの唾液の味がすっかり広がる訳で、何時しかその匂いに刺激されて出で来た涙で頬はすっかり染まっていく。
 そして私の体が変わり始める、体型は基本的にそのままに、すっと産毛だとかその辺りが伸び始めるなり急速に成長して体を覆いだすのだ。更に毛だけではない、乳房から下にへその辺りに至るまでおよそ一定の間隔での膨らみが生じ、その頂点が急速に硬くなる。硬くなったそれは突起となって膨らみをより強調する効果を果たし、どこかしらの刺激は快感となる内にその部分もしっかりと体毛に、それは白色に包まれていく。
「んう…っ、んく…っ!」
 それ以上に強いのは尾てい骨の辺りから生じ、体全体の神経を震わせる。そう尻尾の形成である、黒いボーダーコリーらしいちょんっとした尻尾の形成は特に股関節を弛緩させて、ふと気が付けば緩んだ尿道から漏れた尿がまたも絨毯を湿らせていた。
 あとはもうひたすら変わっていく、私は、この獣の香りに満ちた部屋の中で顔すらも人ではなくなっていく。その間に私はそれを止めようとは決して思えない、ただひたすら愛しいコリーヌの味が染み込んだ骨型の玩具を口の中でピストンさせるのに夢中になっているだけの発情した牝。
 時折、それを口から外したとしてもただ一瞬の休憩に過ぎない。ひたすらお漏らしを、それは何時しか愛液へと変わっていたが、底抜けのバケツの如く垂れ流しているのも構わずにただ変化に流されていくだけの認識。人と犬の双方の要素を持った、牝の犬人となるのをすっかり当然として、喜びに歪む顔の内にある瞳からただ涙を流しつつ、お座りしているコリーヌを見つめるのみの存在に成り果てていく「遊び」の一瞬であった。


 完
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