モノのミカタ 冬風 狐作
「うぐう・・・ううっ」
 そこは適度な照明の保たれた部屋、見たところ清潔で整えられている空間に場違いなうめき声が断続的に響いていた。それは一見して苦痛、あるいは何かに耐えているのがうかがえてしまう。そしてそれに対して、明らかに整った部屋にそぐわない気配、そう場違いと言う印象を抱かざるを得ないだろう。そしてその点では、鼻を動かせば嗅げる濃く漂う臭気も同列だった。
 うめき声と臭気の源は部屋の中央にあった、そこには1人の影がある。それは座っている姿勢、しかしその腰掛けている物の姿は矢張りおかしい。そもそもその姿勢自体が腰掛けている、と普通に言うにはおかしなものだった。
 まずは洋式便器、正に唐突との表現が似合う部屋の中央に置かれた「椅子」の上にいるのは、まだ初々しい若さの残る青年だった。その姿勢はただ座っているのでは当然ない、まず大股に股間を開いてさらけ出している。だから姿勢は自然と腰が深く便器の中に落ち込む、くの字型の格好になっていてすっぽりはまっていた。
 そしてその股間には黒く鈍い光を放つ存在が巻かれていた、それはそう貞操帯と呼ばれる代物。それは鍵をかける事で貞操帯を装着された相手の行動、そう性的な行動を制御する、との発想により生み出された器具である。だから何時かは取り外される事が想定されているのだが、一見した限りそこには鍵穴の類の姿は全く見当たらない。
 それもその筈である、何故なら鍵穴は既に溶接されて元には戻せない様にされていたのだから。そしてうめき声の元となっているのも口にはめられた口輪により発声を制御されているのに加えて、その貞操帯に理由があった。

 それは中身である、貞操帯は男性用であるから陰茎を納める為の部位、ペニスチューブと称されるものが当然ある。しかしその貞操帯が異なるのはそれが付いていても形状を異にしているのだ、言うなれば性的興奮、より端的に言えば射精管理を目的としているのだから勃起など出来ない大きさであるのが普通であろう。
 しかしそのペニスケースは違った、勃起している事を前提にした大きさをしているだけではなく上に向かって反り返っている。つまり貞操帯が腰周りを覆う形に添っているのではなく、あたかも金属のイチモツがそこに存在しているかの様にやや反り返り天を突く具合のペニスケースが突き出している。それが特徴だった。
「ふう・・・んふ・・・う・・・うっ」
 口輪には呼吸用に細かい網目の付いた蓋がされている。だから常に丸い器具によって押し開けられている状態であって、その間から漏れてくる唾液によって、口元はすっかり濡れているか伝った後が白い筋となって残っている有様。また首輪が巻かれていてそのリード、繋げられている鎖が洋式便器の後ろに立てられた柱の止め具に結び付けられているものだから、首は後ろに引かれる具合になって自然と顎が上がる姿勢にならざるを得ない。
 だから声など上手く出せないのだ、更に注目するなら鼻も塞がれている事だろう。それだからますます呼吸の用は口で足す事になり、唾液は増えて汚していく、そう言う流れなのである。服など一切纏っていない、だが体を包んでいるのは貞操帯と口輪のベルト、そして後ろ手にすべく柱に繋げられた両手の手錠と太腿を開脚する為の腿枷だけで、それ以外は全く素肌を露出させた存在でしかなかった。

(フウン・・・ん・・・まだ・・・まだなのかな、今日・・・っ)
 そんな哀れとも言える姿の彼が期待している事が1つあった、それは彼をこの様な姿にした存在が部屋にただひとつの扉を開けて中に入って来る事だった。扉には鍵がかけられているから鍵を開ける音は恐ろしく響く、だからその時点でホッと出来るのだがかといってこの拘束から解放される訳ではない。しかしそれでも彼は来て欲しくて仕方なかった、結果として行われる事が何時かはの先送りに過ぎないとしても、今この時を無事に過ごせたというのは彼の気持ちを大いに慰め、そしてその頃合を見て来てくれた事に対する相手、主人への感謝の念を不思議と強く抱けてしまえるからだった。
 何故なら、どうしてその様な姿でその想いを抱けるのか?と言う事に焦点を当てれば、自ずと明らかになるだろう。そうこで再びその貞操帯に注目しなければならない、実は前述の説明では幾つか欠けている所があるのだ。
 それはそうチューブ。ペニスケースの竿を眺めると鈴口の辺りから、筋に沿う様にふとしたふくらみがあるのが見える。実はその内側にチューブが通っているのだ。始点は鈴口であって尿道の中にある程度差し込まれ、実際の筋に沿って走った後は睾丸の後ろ側に取り付けられた袋へと繋がっている。袋自体は皮製であった、そして貞操帯の中に隠されている睾丸の代わりと言わんばかりの形状で、便器の中で水面を下にしてふらふらと揺れているのが目の前で見たなら分かるだろう。
 ではどうしてその袋に注目なのだろうか?袋と貞操帯の付け根、そこにはワイヤーが通っている。そのワイヤーはかすかな穴を通じて貞操帯の中へ至るのだが、先にはイチモツを忠実に模ったのとは例外的な膨らみがある。そう今度は金属の膨らみである、だから触った所で中身はきっと分からないだろう。しかしそれが何であるか、それを彼は主人から聞かされていた、そう「ギロチン」だと。
(ギロチンが作動する前に・・・今日もぉ・・・)
 ギロチン、その本来にものに比したら余りにも小さい。
 しかし小さいとは言え立派な機構を有していて、一定の条件が整うと二枚刃で構成された刃がすっと下ってイチモツを根こそぎ、更にもう1つの刃が睾丸を袋ごと切り落とす、そう言う仕様なのである。
 そしてその条件と言うのが睾丸の代わりに外につるさっている皮袋だった、そこに続くチューブは尿道からのもの。つまり皮袋の中に一定以上の尿が溜まり重さを超えてしまうと途端に、そう途端に機構が作動し、イチモツと睾丸が切り落とされる仕組みなのだ。

 だからこそ主人が来るタイミングが重要なのだ。もう1つ書き漏らした事を書けば、口輪の蓋にもチューブが伝っていてそこからは延々と水が注がれている。更にそれには栄養剤と利尿剤がたっぷりと混入されている事から、尿も絶え間ないとは言わない、しかしかなりの頻度でちょろちょろと出ているので意外に溜まっていく。
 一応主人は1日2回やってくる。朝と夕にやって来て様子を観察し、皮袋の中身を便器の中に流して空にしてくれる。しかし微妙にその間隔が空いたり、時には何時も通りでも尿の量が多く溜まってしまった時等は肝が冷えて仕方ない。しかし体は思う様に動かせないし、下手に揺らして皮袋に力が加わり機構が作動しては元も子もないので、その待ち望む辛さたるや言語を絶する焦燥感と絶望感でしかない。
 だからこそ次第に主人に対する感謝の念が芽生えていったのだ。この様な姿に己をした存在が己の危機を救ってくれる事実に反する感謝の念。それは目先の救済に対する感謝の一心以外の何物でもなかった。
 最もかと言って懸念、何時かは斬りおとされる、との予感から完全に逃れられたのではない。だが最早、積極的に抗する気持ちは目立つところではなくなっていたし、だからこそ事態を逃れるならどうなっても、と言う気持ちに至って染まっていた訳である。
 つまるところ全て主人の思惑の通りに彼は動いていた、と言える。だが余裕のない彼、自由な行動等論外の姿にされ、慣らされてしまった身では幾ら勘付いたとしてもどうしようもない。ただ求められる通りになるしかないのだ。そもそもこの様な姿にさせられたのもそれに応え続けて来た結果でしかない、その選択した結果との思いも働いて、ますます彼は自らを律し続けるのだった。

 そして今日も今か今かと待ち構えていた。彼なりの感覚からすると時間的にはまだ普通ではあった。しかし何故だか普段よりも気持ちだけが走っていく、胸騒ぎの類とも言えるだろう。
(ああ・・・ご主人様・・・ぁ、はやくぅ)
 もう幾日この状態か、それを数えるのを放棄してからと言うもの、刺激がより限られている頭は何だか呆けてしまった様だった。色々とあやふやな感覚で脳がスポンジになってしまったかの様な感覚に浮かぶだけのクラゲ、そんな心地すらある中で彼の耳はある音を捉える。それは主人がこちらに近づいてくる足音とだけすぐに浮かぶ。
 主人は、癖なのだろう。何時も来る時はわざと足を強く力に叩き付けさせているのか、壁の向こうからでも何となく分かってしまえる。よってこの瞬間は日々待ち遠しい、少しばかり体の緊張を解せる貴重なひと時であった訳である。だから今日も反射的に力を緩めてしまう、すると途端に尿道からチューブへ至る尿、その勢いが増すのが感覚として伝わってくる。そして皮袋の重さが増すのもすっと感じられる。
 だがこれは前述した通り、何時もの通りであって全く問題がなかった。後は主人がやって来て観察して、そして彼が懇願すれば良い、わずかな手順が残されているに過ぎない。しかしどう言う事か急に足音は止んだ。そして鍵を回す音も聞こえない、もしかして聞き間違えたのか?その動揺が芽生えた途端、何とか均衡を保っていた状態は一気に乱れて、そう動揺は混乱へと変わった。
(どうして、どうして来ないの・・・っ)
 一度緩ませてしまった以上、もう膀胱に溜まっていた尿の勢いを制するのは困難だった。元々薬剤が投入されているのだから普通よりも量が多いし、だから弛緩も極まっている。その様な中では幾ら気持ちで足掻こうとも皮袋へと至る尿の量を減らすのは嵐の中で、フルの中に溜まった水を柄杓ですくう様な意味のない事だった。
(早く・・・早く、はやくぅぅぅっ)
 ずっしりとこれまでにない重さへと変わっていくのが痛いほど感じられてしまう瞬間。しかし気持ちとは裏腹に主人の動きは全く見られない、これはもう危ないとは思うまでもなかった。そうこのままでは機構が作動してそして、その後の展開を知っているからこそ脂汗にまみれて悲鳴を上げるしかない。
(ああ、助けて・・・たすけてぇ・・・っ)
 気がつけば涙すらも流れ出していた。もう出せるのはどこからでも出してしまおう、そう体の採った応急措置に等しいその結果、少しは先延ばし出来ると言う淡い願望すら彼はすがって行く。しかしそれも所詮はその様な気分的な効果しかなかった、時間は1秒が10分にも相当する様に感じられる様に麻痺出来たところで物理的には何も解決しないのだから。
 ガチャリ・・・
 鍵穴を回す音が響いた、そして軋む音と共に扉がゆっくりと開くのは何時も通りだった。しかしそれを彼が感じる事は出来なかった。股間に咲いた真っ赤な大輪のシャワーと床に広がる花弁、そして便器の中の真っ赤に漂う銀色のペニスケースとその中身。精気をすっかり失したと言う具合になって、斜めに柱に引きずられる様な姿勢になった彼の姿が主人の微笑みの材料となるだけだった。

 さてその後の彼はどうなったのだろう?少なくともあの時点では絶命こそしていない。ただ気絶し紅い華を咲かせた姿は、主人の微笑みの材料となっただけであった。しかしそれで終わらせるほど主人は愚かしくない、徹底して使い尽くす、それがポリシーである主人がその様な無駄を許す筈がなかった。
 ではどうしたのか、しばしその光景を記録に納めるなり主人は彼を拘束から解き放ち、次いで止血を行いさっと運び去る。当然、主人も血塗れとなる訳であるが構う様子はなく、白基調の服を赤く染めたまま連れて行った先は「工房」だった。
 見渡す具合は手術室と、そしてどこか古典的な職人の気配が工作するその奇妙な空間。そこで彼は徹底的な改造を受けた。まず外貌は全て剥ぎ取られた。それ以前にフックによって宙吊りに吊り下げられいるものだから、その姿はあたかも食肉工場の肉の塊かような印象を与えるだろう。そしてその赤向けの体には、それまでの皮膚の代わりに植え付けられていくものがある。
 それは毛皮だった、獣の体の幾らかの特徴的な部位であった。骨格も毛皮と部位の色彩に合う様にまるで粘土細工を弄るかの様に切った貼ったを繰り返して、元が人間であったとは思えない獣の姿に顔の周りからされていく。
 続いてはきれいさっぱり、こちらはまず最初にギロチンによって切断され、かつ止血されたが故に今や何もなくなり、さっぱりとしている股間周りである。
 ここは大きく、イチモツの類が無くなってなだらかな傾斜を描いていた面を主人はえぐる。そして幾らかの管が埋め込む、その1つは漏斗的に片方の口が大きく開いていて、イチモツの様に外に向かって飛び出す格好の管であった。もう別の管は体の奥深く、器官名で言えば膀胱より口まで続く管で口の中に取れつけられたポンプと接続される。これですっかり口は口としての機能を果たさない。
 最後の1つはそうアナルからだった。片方の口は何か別の管と接続出来る様になっていて、その場ではどことも繋がってはなく特に作業はされない。まるで総仕上げの場所、と言わんばかりに手早く終えた動きは、さっと次なる残る箇所へと移る。
 それは足である。後ろ向きに限界を超えて曲げられた勢いで、固定するボルトが埋め込まれていく。それ以外でも手に掴まれて走るメスによって開かれた、その体の内からは不要な器官は取り払われていたものだし、代わりにその姿を安定させるボルトや物質が詰め込まれた。腸内の細菌に至るまで根こそぎ取り払われ、最低限の生命維持だけ出来る様にされて閉じられ、どこも仕上げは毛皮を植えつける事、それさえ済めば完成なのだ。

 その彼が少しばかりの検査、つまり加工された「モノ」として機能するかを試されてから、落ち着いかされたのは便所だった。家の片隅にある空いた空間に、手足を壁に埋め込まれた形で固定された彼のこれからはそう、小便用肉便器と言うもの。
「トイレの便器にはカバーかけたりするのが普通だもんね」
 わずかな最低限の意識のみ持つ彼、いや肉便器の頭をなでながら主人は満足げに呟いた。だからこそ生やした毛皮、それは主人の好みを反映して肉食獣、そう豹柄をしている。
 言わば主人にとっては少し変わった形をした豹柄カバーをかけた小便器、そうとしか認識されていない彼は今をどう思っているのだろう?だが、すっかり便器として機能するように神経に至るまで、その手を以って改造されてしまった身からうかがうのは容易ではない。
 鈍いとは言え輝きを持っていた瞳は今やセンサーの役割を果たすだけ。そして何のセンサーかと言えば人が来た事を感知し、漏斗状の片方の入り口へ流し込まれた尿を、口の中のポンプにて埋め込まれた管にて吸い上げられる様、起動させる為の存在でしかなかった。
 吸い上げられた尿は体の中の消化器であった、生体のまま残された部分を伝い分解されて、アナルにつなげられた管より下水へと排出されていくのみ。もう全てがその機能の為にあり、そして装飾される為だけにあったと言えよう。
 よってそこには何も何も思いは浮かんでこない、しかしそれは彼の選んだ結果なのだからきっと幸せ、であるはずだった。
「あなたの好きな様に弄られたいんです・・・使い倒されて、そして・・・」
 そう遠くない過去、はっと告白して身を委ねた結果なのだから。懐かしくもある、しかしもう当事者達にとっては忘却の記憶なのだった。


 完
【その他】小説一覧へ 感想などは「各種掲示板・投票一覧」
よりお願い致します。