交錯する仲・後編 冬風 狐作
 彼の投げ返してきた球、反応は当然想定内であり特段驚く事はなかった。だがそこでつまらないだの変わり映えが無いだのと、直接明言せずともそれを漂わせるか類似させた言葉をぶつける事の無粋さと無神経さも知っていたので敢えてしまって何も判らないかのような対応に徹する。懐かしい、あの初めての頃の記憶を思い出しながら。
 その依子の前で彼は毎度の如く、普段は依子に言われて開ける戸棚を開けて中から小箱を取り出す。それは棚の上に置いてあるコップの底に幾分溜まる程度に注がいで蓋を閉じる。そしてそれを示してようやく取れたぎこちなさを強調する様にニッと彼らしい微笑を浮かべて口に含み、おちょぼ口をして唇を近づけ重ねる。緩くしてあった唇を押しのけて舌が、そして唾液と混じったあの液体が口移しで含まされる。
「ん・・・ふ・・・。」
 思わずその感触に喘ぐが唇はその振動すらも覆い隠し吸収してしまおうかと言う様に密着する、口付けの効用か何なのか・・・とにかくその場は静かであった。喉を唾液混じりの液体は軌道に入らず食道へとおつ、それであってもなくても舌は絡められて唇同士の形に合う様に噛み合わさったディープキス。
 ベッドに腰掛けた依子、そして体を斜め立ちにて手で支えながら交わしていた彼は何時しか耐え切れなくなったのかはわからない。だがくっと手の力を抜いていきなりではなくやんわりと、羽毛が着地するかのように柔らかな印象を与える形でシーツの上に着地した。そして身を重ね合わせる、わずかな薄い衣にて覆いあった体を摺り合わせ熱を求めて確かめ合い手を回しあう。
 口が離れるまで果たしてどれ位費やしたのだろうか・・・ようやく離した時、2人の瞳は互いにうつろで何処かぼうっと潤っていた。何事かと呟きあうが余りにもか細くて互いの脳裏には響かない、しかし口の形でわかる・・・そう普段通り、何時もこうしているのだ。だが違うのはわずかであれども彼がせんじて、それを依子が待っていると言う事。それをしっかり依子は、しっかりと言うほどでもない微弱な認識であるかもしれないがそっと感じて熱に忘却していたのだった。
 そして半ば本能的に・・・いやただ堪え切れないだけなのか、お互いに強く抱き合う。正気の時にやれば痛がる位強く、がっしりと締め付けあって抱き合う。ある意味尋常ではない、服に食い込みそれは・・・いや錯覚かもしれないが身に食い込んでいる、ミシリと言う軋み音はベッドの発する音かはたまた・・・?
「ん・・・あっ・・・あああっ!」
「ぐ・・・ああ゛っ・・・!?」
 2つの異なる音色の盛大な悲鳴、いやその語尾の丸さから喘ぎか・・・とにかく盛大な声の響きが部屋に満ちた。

 錯覚等ではない・・・変化、服が余裕を無くし張り詰めている現実の光景。体にあわせてミシミシと悲鳴を上げて張り詰めて縫い目から無残に散り去る、腰に巻いていたのは軽く結ばれたタオルであるからそのまま縫い目が解けてタオルに戻るだけ。抱き合っていたのは相変わらずであった、ただその体は同時に全体としての骨格は逞しくなりまた背も伸びて如何にも頑強。かすかに震えるその表面より肉の波うちは無くなり硬直した波の波形を小なりとも伴わない硬い波へと変質していく・・・。
「あ・・・あぅ・・・あっ・・・。」
 どちらが漏らしている声なのだろうか、とにかく互いに大きく息を吐いていた。正面からぶつかり合うはずの顔は今や側面からぶつかり合って擦れあって時折大きく、その前方へと鼻を含めて大きく伸びて一体化した口吻転じたマズルから出る、1本髭がぶつかり合う度に痙攣を繰り返すのは感じていると言う事なのだろう。
 そして盛り上がった尻肉の上部、尾てい骨と言われる辺りに現れていたしこりから発達した盛り上がりは、それを流す様に伸びて振るえてシーツと大腿部を叩く。前者の時は明らかに軽い音を、後者の時は質量のある音が響き首筋より背筋沿いに続いた鬣が、先端に蓄えられた毛として落ち着くと共に中を揺らめく巨大な尻尾。
 体表はただ鱗、彼は朱に彼女は橙の鱗に染まり顎下から腹部を経て大腿部の内側までの、蛇腹と言える質感の異なるの箇所も白基調とは言え色は等しかった。そして米神より先端の幾重にも別れた白く太い一対の角を以って2人は、部屋は静かになる異様なる姿となった2人は大きく肩で息をしてようやく抱き合っていた手を緩めて体から力を抜くのであった。

「ふふ・・・ん・・・出来た・・・。」
 陽一は、朱なる鱗に包まれた異様なる姿となった・・・人には無い部位を複数併せ持った姿、どことなく感じられる竜のイメージ、言ってみれば竜と人にて竜人と言えるその姿にて彼女を見つめる。彼女もまた酷似してただ一見しただけでは橙の鱗以外には差異が無い、そして何よりも様々な考えは抜きとして今の陽一はすっかり満足しているのだから。
 では一体何か・・・それは自分がここまで主導出来た事。いきなり変化前にしてみたらと言われた時に思った苦悩はそこにはなかった。掌の上で踊るだけ・・・そんな事は微塵にも思っていない、姿が変わったせいなのかもしれないがとにかく純粋に彼はそれを気持ちの中で噛み締め咀嚼しては、視線を彼女の視線と重ね合わせる。その瞳は猫、とにかく人ではない獣の瞳。縦に細い瞳孔がそうである事を強く主張しているだろう、白目の色も互いに異なりその眼光は共に鋭い。
 仮に人がその眼光に当たられたらどうなるだろうか、萎縮はするだろう。そして畏怖をも抱くだろう、それだけの重さを伴った眼光を常に漂わせる姿となった2人はその中に親愛の情を互いに見出す。その体である者にしてみればその鋭さは空気に等しい普通のものなのだ、だから何も思わずただそこに纏われている互いを想い合う求め合う気配に思いを寄せて反応するだけ。再び唇を重ね合わせて・・・体を離し添い寝をするような位置関係になった。
「ええ出来たわね・・・あなた・・・。」
 依子は彼の思いを察してそう微笑みつつ呟く、それに対して彼はその胸に片手を置いて揉む仕草をして返した。
「ああ・・・そして何時もの如くだな、この平板な胸に君もなって・・・。」
「ふふ、そうよ・・・ようやく私は私になれたの。この素晴らしい望ましい体にね・・・。」
「望ましいか・・・あの豊満な肉体も僕は好みだけれどね。」
 嬉しくてたまらないと言う言葉を力強く吐く彼女、だがその体には女と言う気配は無い。作りは部位だけで見るなら殆ど彼と同じで変わり映えがしないと言ってしまえば全くしない、男と言う気配に満ち満ちている。
「言わないでよ・・・もう、とにかく惜しむらくは・・・。」
「惜しむらくは・・・んっ。」
 そう言って彼女は彼の股間の割れ目を撫でる、男であるのに割れ目・・・しかしどこか様相が異なりただの割れ目ではないようであった。そしてそれを示す様にしばらく撫で、軽く息を荒くさせている彼そのままに内から膨らみが何かこみ上げて、液体ではない厚い個体。正確には粘液を纏った厚く熱い個体が顔を覗かせ、そのまま外へと首をもたげる・・・太く長い男、いや牡にあっては当然のイチモツがぬっと姿を見せてその存在を主張していた。
「出て来るまで・・・見えないのが惜しいのよ・・・。」
「んぐ・・・ふ・・・。」
 そう言いつつその手は割れ目からイチモツへと動き擦り続ける、もう出てくる時点で粘液に包まれていて擦り易くしてあるかのごとくてかっているそれに手を走らせて刺激する。この場合最も夢中であったのは彼女であろう、彼女の抱える・・・彼女と言う自分への違和感、彼と言う相手への憧れと別の違和感。何でこんな女など言う体に自分はあるのだろうかと、周囲からは素晴らしいとプロポーションを褒められる度にふと殺意にも逆恨みにも近い感情が沸々と湧いて来る。
 総じて嫌悪感とここではするが少なくとも彼女にとってそれは褒め言葉ではなくむしろ傷つける言葉であった、彼女は心の中では自らは男であったのだから。具体的に病院などで医師の診断を受けた事はないから彼女としても断定している訳ではない、若しかすると本当は違うのかもしれないと思う節もある。
 しかしその心には明らかな自らへの異議・反意に溢れてその様な思いはわずかに出来た隙間で肩身を狭く、一応診断もなくもらうつもりも無い以上世間にて戸籍通りに生きる為の砦的な意味合いのある事を自ら感じて共存させていたのであった。

 自らが女である事に違和感を感じむしろ異議を抱いている彼女、ではどうして彼とめぐり合ったのだろうか。これまでの人生と言うもの、女と言う自分を見ただけで言い寄ってきた数々の男達を撃破してきた自らが女性としての関係を悉く拒否してきたと言うのに。その出会いを見ればそれは簡単な事かもしれない、何故なら彼女が自ら打って出て交際を申し出たからである。それは数年前の・・・インターネットが社会に根付きチャットが時代の最先端の人のする事みたいに思われていた時代の一件・・・そこであった一目惚れである。
「私とお付き合いしてくださいっ。」
 臆せず・・・いや臆していたのを隠そうとしてああも元気に言い寄ったのかはわからない。とにかく1人でのんびりと酒を飲んでいた彼に言い寄った場は、当時良く出入りしていたチャットのオフ会での出来事だった。酒によっていた勢いもあって周囲はそのいきなりの告白に驚くどころかむしろ煽てる始末、唯一当惑していたのは彼だけでその場では決め兼ねるので早々に彼女をつれ店を出て近くの公園のベンチにて話をつけようとした。
 それは断るつもりでの行動だった、寒い冬の夜空の下だから深く飲んでいない以上酒はすぐに冷める。だから冷静になってくれる筈だと踏んだ訳である、しかしどこかで彼も躊躇していた。諦めてくれと言うのは折角言って来たのに失礼ではないか、また彼としても以西から迫られる事はそうある事ではないから千載一遇の機会とすべき・・・と気持ちが交錯していた訳である。
 しかし何よりも即決を妨げ、様々な思い以上にあったのは女も好きだが男も好きだという両性を愛する気持ち。世間的にはバイセクシュアル、そう言われる性癖であったのが先ほどの様に機会として生かそうという気持ちと断ろうと言う相反する気持ちに同時に作用していたのだ。
 彼としては、世間的には健全で普通な男としてある以上、また1人息子であると言う以上老いた両親の為にも速く結婚して子供を、孫を設けたいと言う気持ちはあったし何よりも子供好き・・・純粋な意味で子供好きで一時は小学校の教員にでもなろうと全く関係のない学部に進んでおきながら、留年までして教員免状を小中高と全て取得してしまう熱意とマメさに彼の一面が象徴されていよう。
 しかし男に対する興味も捨てきれない・・・子供も結婚相手も家庭も欲しい、しかし一方ではと言う狭間にて身動きが取れなくなっていたのが現状だった。だから極端な話、女でも男でも抜ける体を持て余していたと言えようか、そんな中で参加したのがそのオフ会であったのである。そしていきなりの告白・・・公園にて幾ら言っても引き下がらない彼女に、彼はとうとう痺れを切らし限界を感じて呟く。
「男も好きな私に・・・君は勿体無い。」
 そう言えば引き下がるだろう、男が好きな男に好き好んでくる女はいない・・・そう踏んでの宣告と彼は取っていた。これでようやく店内に戻れて体を温められると、放置して帰るのも悪いから一緒に帰ろうと言い掛けた時浮かべられた微笑に蛇に睨まれた蛙となる。一瞬の動きの空白、その間に彼女は逃すまいと手を握り・・・自らの事を熱く強く訴え始めたのだ。その弾丸のごとき勢いから数日後、再び彼らは出会う。そしてその時から改めて関係が始まったのであった。
   一見すればそれはただの男と女の関係、互いに想い合う男と女の関係にしか見えない。しかし中身は違う・・・人は見かけによらないと言う言葉の実践とも言えるだろう、自らは男と心の中で滾らせている彼女を彼は男として扱い何事においてもそれを変えなかった。最も2人だけの時に限ってではあるが、大いに彼女を喜ばせて満足させたのは言うまでも無い。
 彼にしてみれば余計にそれが複雑だったが、彼は男であり女でもあるのだからと自らに言い聞かせて応じつつ別の効用を共に見出す。それぞれが異性に詰め寄られた時に付き合っている相手がいると、そういう時だけ公言出来たからだ。それも正々堂々と・・・女として男として異性と付き合っていると言う事を必要な時に漏らせば効果的、特にそのプロポーションに引かれてよく男に迫られて辟易していた彼女、またも彼女に大きなメリットがあったと言うのだけはまたも同じではあったが。
 その段階はまだ人同士で付き合っていた第一段階であったのだろう。少なくとも全てが人として動いていた、当然夜の営みもそれに含まれよう。それから見れば現在は第二段階、ある時・・・調査の為に長期海外出張をして帰ってきた彼の手土産が全てを変えた。そう第二段階の扉を開いたのである、人として人ならざる者としての2つにして1つの本質による関係が始まったのだから・・・そして数ヶ月前、そうしての付き合いの長さが第一段階を抜いている。

「ん・・・が・・・がぁうっ・・・!」
「ん・・・っ。」
 極太のイチモツ、大きな喘ぎ声と共にその人のモノとは質量も形状も異なるその先端より白い熱に満ちた液が吹き出る。最初は大きく放物線を描き、半ば過ぎからはドクドクと飛び散る様に彼女は大いに心を躍らせる。そして疼く胸と股間・・・股間の割れ目からは多量の先走りが漏れシーツを湿らせているがその奥からの彼女のイチモツはまだ姿を見せていない。
 早漏と言う言葉があるなら彼女は遅出とでも言えようか、中々イチモツが出るまでに時間がかかるのは本来は女であるのに精神は男と言う組み合わせ故の事かも知れないが、この体では男。当然勃つモノはありそれは彼に劣らない立派なモノである。ふと見れば出し終えた彼が、その先端から白い液体を垂らしながら起き上がり床に膝を付いて割れ目に舌を走らせてきたではないか。それに思わず身を震わせ先走りを多く漏らす・・・そして再び立ち上がると彼は・・・正常位の形で構え手を添える。
「来て・・・。」
「ああ・・・っ。」
「んぐ・・・・ぁはっ・・・!」
 太い彼が彼女の割れ目に入る、熱がその奥で構えている彼女の熱目掛けて突き進み・・・しばし。
「あああっ・・・!」
「んあはぁ・・・・ぁっ!」
 どちらが出たのが先か、彼の白いの彼女の白いの混じりに混じって互いを汚しつつ彼女のイチモツがその割れ目より姿を現したのだから・・・。脈打つそれは尚も残滓を先端より撒き散らしつつ明らかに勢いがあった、ようやく確固たる男の、牡の証を己の体より生やした事に彼女は微笑を決して忘れなかった。
 その濃く強く浮かべたその微笑を見て彼もまた余韻の中で疼く心・・・そして今度は横になり四つん這いとして尻を突き上げ精液落ちて冷えた床の上で待つ。そして誘うかのごとくその尻尾を横に振って余計に待つ、その間に勿体付けるかのように彼女は立ち上がりそのイチモツを、剛直を軽く扱いて腰に手をかけ宛がう・・・今か今かと待ち望む瞬間。
 だが中々そのイチモツはそこから先へ動かない、何時もなら躊躇う事無く突き刺され彼の事はお構いないと言うのに・・・そこで彼はようやく察する。彼女は待っているのだと、指示を待っている事に・・・そうとわかれば後は早い。むしろこちらが焦らしているのだと不思議と気が大きくなってくる、そして大分待たせた所で彼はふと呟いた・・・いいよ、と。
「んあっ・・・ぐっ・・・ぅ!?」
 途端に込められる力そして入り込む力、巻き込まれる肉に痛み・・・ようやく許された、許されるまで待たされた思いを発散させるかのような激しさと受け入れ、痛み以上の気持ち良さに酔い喘ぐ声に肉の触れ合う音とが交錯して部屋に満つる。外に吹き荒れるようやく冬焦がれたイチョウの葉、それをかき回す風音に対抗するかのように・・・人気少ない公団住宅、その一室で深く募り異形の竜人らの夜は交錯するのだった。


   完
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