若気の至り・第二章冬風 狐作
 どうして彼女はわずかな間にそうも揺れ動いたのだろうか、確かに彼女は生命の創造と言う神に等しい事を独学で学んだ末に己の夢の結晶とする為に行いそして成功させた。だが所詮は魔力を持つ魔女の一族であるとしてもその体そして魂は人に過ぎない、明らかに彼女のした行為はその人の本分として許された範囲を大きく逸脱している事は全く疑う余地は無い。そしてそれは成功した命の形となって彼女に報いとして示されたのであった・・・。
「これって・・・人じゃない・・・。」
 その開かれた眼に映る姿、それは命持つ者である事には全く疑う余地は無かった。しかしそれは彼女の欲していた常に身近で一緒にいられる存在・・・友人であり知人であり庇護してくれる者とは明らかに異なっていた、それはその姿からも一目瞭然であろう。人には有り得ないほど隆々として逞しい筋肉、それに見合った力の漲った巨大な肉体に表面にて光を返す頑強でしなやかな皮膚ならざる鱗に角、完全に求めた者と異なったその姿に彼女は見覚えがあった。それは暇に任せて読み耽った意口の魔道書の中に時折現れては彼女の視線を止めた生き物、神とも神の使いとも或いは悪魔とも様々な解釈をされる竜の姿に他ならなかった。
"どうして竜なんかが出来てるのよ・・・私は人を作るつもりだったのに・・・。"
 己の作り出した者の姿から感じ取れたのは己如きではとても敵わない強大な力の波動とそれに対する畏怖の気持ちだけであった、畏怖は急速な恐れを明美の心の中に生み出しじわりとその体を部屋から外へ通じる扉ヘ向かわせ始めた。それは完全に無意識の行動で本能的な物に由来していた、だがその事がまた彼女自身に仇をなしてしまう。
 本能と言う物はそれこそ理性とは違い全ての生命体に共通する存在であり言ってしまえば国際法の様な物である、そしてその普遍性はその時々の解釈で左右される物ではない完全な物。弱肉強食と書いてしまえば簡単過ぎるが実の所はそれ以外の何者でもなく強者と弱者の関係で大体は説明出来てしまうだろう、そして理性が扉まで辿り付けたとしてどうやって鍵をすばやく解いて脱出しようかと考えを巡らせ始めた時にその本能は入れ替わるかのように機能を停止してしまったのだった。つられてその肉体も再び緊張に束縛されてしまうのである。
 停止した理由、それは前述した様に本能の普遍性によってもたらされた物だった。そうただ単純な竜の視線と明美の視線が交差し見つめあった人で言えば単なるコミュニケーションとしか取れないその動作が命取りとなったのである、強者と弱者の区別がその瞬間に付いてしまったのだ。当然この場合人である明美が後者であり前者が竜である事は当然とも言えよう。幾ら彼女が生み出したとは言えそれは赤ん坊などではなくれっきとした成体、そして人ならざる者にして力の象徴である竜・・・強大かつ絶大な力の前に理性は非常に儚い。そして明美はその場で腰を抜かして尻餅をついた格好で下から見上げる形になってしまうのである。

 自らに対してそこにいる者が序列の低い存在だと言う事に竜も勘付いたのであろうか、先ほどまできょとんとした有様であった竜は今やもうその味を獲物を見定める瞳をして丹念に視線を走らせている。そこには子供が大好きなおもちゃを手にした時の様な色がありありと浮かび上がっていた、今の自分はただ全ての運命をこの自らが作り出そうと試みての失敗から生まれた、理想の出来損ないに全てを委ねなくてはならないのだと言う屈辱的であり否定出来ない立場にいる事を改めて痛感させられたと言う訳だ。
 そして竜の緩慢に見えそして忙しない視線の動きは止まり静かにその口が開かれにじり寄って来る。それこそもったいぶって明美の今日に歪む顔を堪能しようとでもしている様にしか見えなかった、そして今にもその顎が開き中から凶悪な牙が見えその寝首若しくは腹を食い千切らんとする・・・そう信じ込み覚悟を決めかけた瞬間、顎は開かれたそして強い激痛と共に消え果るそうなる筈だった。
"あれ・・・?"
 だが激痛は来なかった、消える事も絶叫も訪れなかった。ただ代わりに訪れたのは濃厚な熱と湿り気そして弾力・・・全くの予想外の感触を受けた。そして何か熱いものが腹にと当てられる、それも置かれるのではなく熱を帯びた硬い物が何度も軽く叩きつけられると言った調子で気になって仕方がない。だから明美は薄っすらとその瞳を明け竜のほうを見、そしてまたもや息を呑む事となるのである。
 太く禍々しいまでに用途に適した姿をした棒、そう言っただけでは何か判別し辛いであろうがそれは肉棒・・・ペニスの事である。彼女の体に叩き突付けられていた熱い物とは正しくその事であり、すっかり勃起したそれを更に強調しつつ竜は鼻息も荒く目の色を妖しく輝かせて近づいてきた。  その気配は発情した獣、雌を求める雄その物だった・・・最も逆なのかもしれない。微かな明美の発する女、雌の匂いに目覚めたばかりの竜が惑わされたとも言えなくもなかったが、ともかくは色に惑わされたという事は間違いないだろう。その分厚く長い舌は明美の顔を首を胴体を絡め取りべたべたに仕立てていく、そしてますます押し当てられる一物は熱を帯び彼女を惑わした。
"何・・・私・・・欲しがってる・・・?そ、そんな人とだってしていないのにこんなのと・・・嫌・・・嫌だ。"
 明美はふと熱いと感じている熱が竜のみから発せられているのではなくわずかには己からも発せられている事に気が付いた。そしてその熱の昂ぶりは竜のペニスを見る度に段々と上昇して行き不思議と喉が乾いた様な感覚に見舞われた、それは彼女にとっての発情に近い感覚であった。竜が既に見舞われていた現象に彼女もようやく鎧を剥がされた末に感じつつあったのだ、それは明らかに竜が彼女を見、そして感じるのと同じく彼女は竜りペニスとその逞しい肉体に欲情していた。
 思わず無意識の内に飲み込まれる唾、頭の中では必死になってそれを打ち消そうとするも目眩がするのに似た感覚で次第に気持ちは募っていきわずかな抵抗がなければ自ら飛びついて行ってしまった事は容易に想像が出来た。だがそれは現実の物とはならなかった、もうその抵抗が消え果るちょうどその寸前に竜の方から飛びついてきたのだから。正確にはその猛々しいペニスをそれまで舌で湿らせていたワギナに一気に挿し込んで来たと言う事だ。その余りの節操の無いいきなりの行動に彼女の腹は微妙に歪みそして激痛が走る、わずかに開かれた口元からは苦痛への喘ぎ声が漏れて一旦引かれたペニスとワギナの壁の隙間からは赤い液体が滲み漏れた。
 堪らぬ一瞬の激痛が明美を貫きそしてわずかな鈍痛となって残った、それは彼女が純潔を失った証・・・それも人ではない存在によって失った事を身に染みて思い知らせる生涯で一度きりの貴重な証明であった。思わずその目じりより流れ落ちる一筋と喉を軽く鳴らす竜、その感触に満足したのか再び竜は腰を突き上げた。もう余韻も何も無い宴の始まりだった。

「くっ・・・うぅっ・・・はぁっあっああ・・・。」
 突き上げの度に漏れる喘ぎ声、竜の人にどこか似ているものの雁のついた先の先端は尖ってその根元は常になだらかな瘤状に膨らんだペニスは、彼女の膣を押し開いては引きを繰り替えして次第にペースを上げて正常位の姿勢のまま彼女を揺さぶっていた。彼女の年にしてはやや大きめの乳房は軽くその度に振れて如何にも頑強に見える竜の胸板とは対照的だ、もし竜が人と同じ二足直立の竜人であったならばその対照的な2つの胸は互いに触れ合い更なる欲情を刺激しあったかも知れない。
 だが竜はその言葉の示すとおりに竜だ、獣としての竜である。前肢を壁に置いて腰を激しく振る姿からはそれを楽しんでいると言うよりもむしろは本能的な気配が強くある目的のみを抱いているようにしか取れなかった。その目的とはつまり子を成す事、生物がその種の保存を図ると言う生存する上での最大の目標を果たそうとしている様にしか見えなかった。だからそれは荒っぽくただただ受ける側の明美は翻弄され弄ばれるばかり、肉体的には成熟しつつあるとは言えまだ同族同士・・・人同士でした事も無く性的な経験と言えば自慰行為のみである彼女にはかなりの負担となっていた事は想像には難くない。
 だがこの言葉がそのまま額面通り当てはまると言う訳ではない、実際の所を見れば明美の表情からしても明らかな様に当初の嫌悪感は何処へやらすっかり緩み切って欲情と快感の海の中に浸りに浸り切っている。だがそこからは人としての彼女はどうも窺えない、反応があるとは言えそれは全く意味は無く言葉とはとても出来ない喘ぎとも呻きともしか取れない物ばかりでただ快感を感じていると言う事を示しているだけだ。その望外な程の強烈な快感によって全てが乱され掻き回されている・・・そんな感じだった。
 そう彼女の中では負担が負担でない物へと負担のままだと言うのに見かけ上は快感と言う刺激に転換し愉しませつつ蝕んでいたのである、それはおよそ過剰であると言う他には何も言う事は出来なかったであろう。その体には明らかに余りある快感に覆い隠された力は許容範囲を大きく超えて溢れつつ、その交わりの意味を異なる物へと変質させる様に暴走し作用しつつあり何時しか内なる鬱積は形として表に噴出しようとしていくのだった。

 一方的に明美が成されるがままとなっていた絡みの気配が変わり始めたのはどれ位からであっただろうか。多分それは竜そして明美と双方が初めて達し濃く熱い精液を注ぎ込んだ頃からであろう、そうそれを気にそれまで竜の攻めや動きにそのまま反応していただけの明美がただ受動的に受けるのみではなく、竜に対して能動的な行動を少しずつ起こし始めたのだ。能動的と一口に言えるその行動は当然その絡みに抵抗するとかそう言う事ではなく更に欲して精液を胎に収めん、と言う雌としての本能的な行動だった。
 当然締め付けも強くなり雄である竜はそれに反応して射精する度にその量を濃くしていきそれを平然と彼女の胎は受ける、一見するとその小さな胎の中に次から次へと受け入れつつあった。しかし不思議な事に数回の射精を、1回に付き3分ほどは持続し続ける射精を胎に受けていると言うのにその胎は一向に膨らむどころか平然と元のまま何ら変わりはしない。確かに注がれている最中には注ぎ込まれる圧力にてわずかに膨らむのだがそれが終われば後は挿入の振動によって弛みが生じる程度・・・何故そのままの形から変わらないのか?そんな疑問が不意に浮かんで来てならないがその答えは容易な所に示されていた、それは腹にではなく彼女の全身にである。つまりは骨格に応えはあからさまと言えるほどありありと浮かび上がっていた。
 まず冒頭の彼女の容姿を思い出してもらいたい、日本国籍を持つ日本生まれで日本育ちでありながら祖父母の代に東欧から移住してきた名家の末裔であるが故にブロンドの白人の姿をしている少女。それが松村明美であった筈だ、しかし今竜と言う異形の生命体の下にてそのペニスを受け入れ快感に良い今や自ら積極的に受け入れている姿は果たして同じ存在なのだろうか?と思わず疑問を抱かずにはいられない。
 そう疑問を抱く理由は決してその絡んでいると言う事に由来すると言う事では無いと言う事も断って置かねばならないだろう、ここでの理由とはつまりその容姿である。絡んでいるその姿ではなく彼女自身の姿から抱かざるを得ないのだから。あの白い筈の素肌が今や美しい夕焼けを思わせる紅色に染まり瑞々しいと言うよりも一定の硬さと光沢を得、何よりも明らかに大柄な骨格へと移り変わっている事に疑問を抱かざるを得ないのは明らかだった。
 そしてその姿は次第に緩やかな変化と共に固まっていく、まず新たな姿を完全に露呈したのがその変質した素肌で明らかに人の皮膚とは異質なな硬さ持つ物に・・・頑強な鱗へと姿を変えた。続いてその頑強な鱗が覆う骨格も思春期の少女らしい体付きから一転して身長は明らかに伸びて2mはあろうかと言う巨躯になり、骨格もそれにあわせて屈強な筋骨隆々としつつも女らしい丸みに現される柔らかさを感じさせる肉付きに変わり果てた。もう服は既に千切れ果てて残骸として一部が体に纏わりつき残りは床の上に散らばっている、だが何よりも特徴的なのは脚に代わってある意味では下半身の主役とも言える太い尻尾の存在ではないだろうか。
 その付け根の太さは胴体をやや小さくした程度で円錐状に細くなって行くものの、その表面には体の他の部位と同じく逞しい鱗が踊り如何にも頑丈そうだ。先端まで筋の通ったその尻尾は先端付近を巧妙に上へと曲げて雄竜のアナルを刺激し雄竜の腰の振りを指揮している様にも取れなくはない、そしてその脚も大腿部は太く筋肉が付き前四指となったその各指は黒く鋭い鍵爪となつていた。爪先と踵の間は斜めに長く伸びて人で言うのならつま先立ちに近い格好に足は変形し切り背中には畳まれた翼の影が見て取れ、体がわずかに揺さぶられる度に連動していた。
 こめかみの辺りからは長く鋭くほんのり紅のかかった白い角がわずかに婉曲しつつほぼ垂直に伸びており、胸にはその多くの点で雄竜と変わらない体の中で唯一異性である事を実感させる乳房が鱗に覆われつつも一目見て分かる膨らみを確かに見せ付けていた。そしてその時を待構えていたかの様に大きく息を吐いた雄竜は一気にこれまで以上に大量の白濁液を注ぎ込んだ、そうして彼は軽く倒れこんだかと思うと瞬く間にその体から力が消え失せて瞳を閉じ静かに消えていった。文字通りその場でさっと・・・何一つとして痕跡を残さずに、元からそこにいなかったのではないかと思えるほど鮮やかに消滅したのだった。

 明美が意識を取り戻した時最初はどうしてその様な格好をして自分が倒れているのか良く分からなかった、頭がどこかで霞がかかってぼんやりとしていたからであろう。しかしぼんやりとしている内に霞は取れて記憶は戻った、あの自らが創造してしまった竜に犯された記憶を・・・だがそれを思い出した所で彼女は特に反応を見せようとはしなかった。
 むしろ明美が取った行動はその腹を軽く擦る事・・・母性本能と言うものなのだろうか?とにかく明美は愛しむ手付きにてしばらく撫でるとキリッとした表情を見て立ち上がった。当然その姿は人ではない、竜、竜人であるのだが今度も先ほどと同じく平然として毅然としており、誰しもが意識は無くても当然だが守られた事のある気配を強く漂わせていた。
 それは母親特有の子を想い護ると言ったものなのだろう、そして彼女はその姿とともに得た本能と知識によって行動を始めた。子を産むまでに如何なる事をすれば良いのかと言う準備を始めていく、俗に言う巣作りとでも言うべき物なのだろうか、当然その姿で外に出れば大騒ぎになるであろうと言う事は彼女の中にある人としての彼女が自覚していたので可能な限り今、主に支配している竜としての彼女はその通りに動き人通りもなくなった深夜に限って必要な時にのみ外へ出る等していたのだった。
 ここで1つ人として、竜としての彼女について書いておかねばならないだろう。今の明美は人外の存在であることは見るからにして明らかな事であるがその中身は一筋縄に全てが異なる物とは言えなかった、正しくは2つの存在がどちらも彼女として機能し並存しているのだ。それは元から存在してそこにある人としての彼女と新顔である竜としての彼女でありそれ以外の何者でもない。そして前述した通りに今専ら体を支配しているのは竜としての彼女・・・竜の魂が今の彼女を支配しており人としての彼女、人の魂はあくまでもそれを補助し助言する立場にある。
 それが先ほどの構図で竜として人の世界を知らない新人を人である住人である古参が助けているような感じだった。その様な感じでの協力体制の下で巣作りは何とか成功しあの魔法陣が描かれていた部屋には今や子作りの為の巣が鎮座している、巣と言う通りにそれは何処か鳥の巣をイメージしてもらえば良いだろう。だが何処かベッドの様に見えるのは人としての明美が関与しているからだろうか?そんな事も感じられないまでも無い。
 そしてそこで彼女はじっと動く事無く一週間を過ごした、その間にその胎は膨らみ外からでも明らかな様となって懐胎している事をありありと示していた。加えて二週間更にその場で過ごしたそんなある日、腹を撫でる以外には身動きと言う物を見せなかった明美は急に大きく体を震わせるとその後は小刻みかつ断続的に震わせ、口からはわずかな呻き声を漏らして悶えた。だがその中にあっても姿勢を仰向けに整えて開脚し、三週間前に初めて異性を受け入れて時間は経ったとしてもまだ間もない場所を露とした。
 すると間も無く今度はその割れ目が膨らむと白い物体がその赤い肉の向こうから垣間見え、幾ばくかの液体と共に加速的に白い面積は拡大し何処か濃い独特な匂いが辺りに立ち込めた。そのまま終いには大きな悲鳴にも近い喘ぎ声と共に一気に白い物体は大きく・・・卵は大きく表に表れ外へと放たれた。放たれた卵は湯気を立ち昇らせつつしっかりと組まれた用意されていた巣の上で軽く跳ねて転がる形で止まる、結局産み落とされた卵は3個に登り産み落とすと共に明美は再び意識を失ったのだった。

「あれ・・・私元に戻ってるけど・・・。」
 再び目覚めた時、全裸という格好ではあったが明美は人に戻っていた。だが見上げた先には見覚えのある卵が3個転がっており体の下にあるのは同じく見覚えのある巣・・・自分が作り使い産み落としたそれらを見て彼女は大いに戸惑った。これから自分はどうして行けばよいのか、この巣を、この部屋の惨状をどうすれば良いのか・・・そして純潔を人で無き者によって失った挙句産み落としてしまった明らかに自分の仔の入っている卵をついて。多いな困惑と混乱に打ちのめされた事は当然だった。
 そして強い後悔にも・・・これはまだ始まりに過ぎないのだ、寂しさと言う個人的な何時かは解決される事情に負けて都合通りに使える命を作り出そうとした浅墓な行いへのほんのささやかな罰の始まりだった。
 コッコッ・・・。
 彼女がまた我に返るのは小さな規則正しい響きを放ちかすかに揺れる卵によって・・・。


 続

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