「いらっしゃいませ〜。」
その店の扉をくぐると良く通る大きな女の声で迎えられた。ここはとある地方都市の外れにある風俗店、田んぼの中に忽然とあるその店の存在は良く知られていたが、車社会のこの地域でも流石に交通の便が悪いせいと見えて客は少ない。そんな店に俺は入った、全く初めての事である。
「さぁお客様、当店では5つのコースをご用意して御座います。お好きなものをお選び下さいませ。」
「あっどうも・・・。」
受付で対応してくれたのは中々の美人、胸も俺好みの巨乳で背も高く今時髪の毛を染めていないと言う珍しい女の子だった。あんまり見詰めては悪いので早々に手渡されたメニューへ視線を落とす、そこには言われた通りに5つのコースが書かれておりしっかりと値段も書いてある。中々良心的な店の様だ、俺は期待に胸を膨らませて視線を何度も行き来させて吟味した挙句、一番下に書かれていたコースを選んだ。値段もそう高くは無い、それに今日は給料日金はしっかりとある。
「では、これを。」
「はい、かしこまりました。当店今日のオススメコースですね、了解致しました。ではこちらへどうぞ。」
そうして連れて行かれた先は幾つかある内の一つの部屋、狭苦しくも広すぎるとも感じない居心地の言い大きさの部屋であった。室内ではその部屋専属の女の子が俺を待構えており、扉の所で案内の女の子から引き渡された。特に指定した訳ではないがここで待っていた女の子も自分好みの顔と体をしていた、全く素晴らしい事だと言えよう。これまでこう言った店で指定せずに入ってろくな女と当たった例の無い俺は心の中で密かに笑っていた。
「いらっしゃいませ、お客様、本日は「今日のオススメコース」をお選び下さいまして真にありがとうございました。私はオススメコース担当のユキです。精一杯御奉仕させて頂きますので心行くまでお楽しみ下さい、また何かありましたら遠慮なくお申し下さいませ。」
「こちらこそ、よろしく・・・それじゃあ。」
「えぇ始めましょう、まずは服を脱がせて差し上げましょう。」
そう言うとユキと名乗る女の子は俺の服を脱がし始めた、かなり積極的であるのでこちらとしても俄然燃えて来る。そして部屋の脇にあるシャワー室で体の汗を流すと、それまでも拭いてくれた。何ともサービスが行き届いた店である。そしてシャワー室から出ると良い物があると言ってユキが何かを手にしてやってきた、その手にある物を見るとそれは紙コップだった。中には並々と透明の水の様な液体が入っている。
「お口に合うとよろしいのですが・・・。」
とユキは心配そうに言っていたが、丁度喉が渇いていた俺は有難く頂戴して一気に飲み干す。味はサイダーに近い爽快感を感じさせるものだった。
「いや、中々美味しいよ。ありがとう。」
「ありがとうございます、お客様。そう言って頂けるとユキ嬉しいです。では置いて来ますのでお待ちくださいね。」
ユキが空になった紙コップを脇に捨てに行っている間、俺はその光景を眺めていた。すると急に動悸が高まってきた、体も何だか火照っている。口の中では唾液が留め止めも無く湧いて来て、溜まらず視線を辺りに巡らせて止めると何とその視線の先にはユキの屈んだ尻があるのだ。全く偶然にも程があると言うもの、それだけで俺の心拍数は上がり呼吸も絶え絶えとまでは行かないが荒く、自然と汗まで書き出す始末。
そして募る思い、悶々とした濃く熱を持った何とも言い難い・・・欲が、性欲が秒毎に鬱積して行く。耐えられなくなった俺は静かに何とかばれぬ様接近すると、最早かなり以前より勃起し切って堪らないペニスの根元を支えてそのまま突き刺そうと仕掛けたその時。
トンッ
額に何かが置かれた。その瞬間我に帰った俺が前を見ると、瞬時に動いたのだろう何時の間にかやらこちらを向いたユキがニコッと笑ってその右手を俺の額に当てている。そしてこれまでに無く大きく口元に笑みを作り・・・。
「お客様、そんなに慌てては楽しみも半減してしまいますよ。大丈夫です、今から取って置きの事を御奉仕して差し上げますから・・・よろしいですね?」
「はっはい・・・早く・・・お願いします・・・。」
その時の俺は自分でも不思議なくらいに素直に従いそして懇願した、もう耐えられなかったからだ。体中に性欲と言う名の熱が篭りに篭り過ぎて・・・すると彼女は四つん這いになる様に言ってきた。深く何も考えずに言われたままの格好を取る、四つん這いになるなんて最後にしたのは何時だったのだろうか。思わず一瞬だけ熱で熟れた脳みそにそんな思いが飛来し去る。
「・・・・」
何事かユキが言っているが全く聞き取れない、わずかに聞き取れても理解する事が出来ない。それだけ俺は危機的な状況に陥っていたのだ、そしてひんやりと冷たい物が熱が最も集まっているペニスを掴む。恐らくユキの手であろう、その小さい様で大きな存在感を放つ手は静かにペニスを扱く。ただその扱き方は中々変わっていた、ただ上下に動かすのではなく揉み砕くと言うかその様な手の動きがまるで焦らしている様で、性欲を発散させる所か逆に強め熟成させようとしているかのようだ。
だがそれに対して何も言えない、余りの気持ち良さにすっかり全ての体の機能が・・・唯一性欲と生殖に関係する所以外は全てが麻痺してしまっていたと言って良い。そして張り詰めた快感はある一扱きによって溢れ出す、その途端、そう彼のペニスから勢い良く精液が吐き出されだされた瞬間、彼は明らかに安堵の表情をその性に狂いに狂った顔の中に浮かべていた。熱は急速に精液として消えていく、これで何とか助かった・・・そう彼は思っていたのだ。
だがそれはあくまでも思い過ごしに過ぎなかった事に彼はすぐに気が付く、今度は何時までも熱の流出、つまり精液が止まらないのだ。まるで無尽蔵であるかのように出続けるそれに恐怖を感じた時、更に不思議な感覚が彼の体の中に芽生えた。何か新しい器官、先程の熱い熱とは異なった冷たい熱が体に篭るのではなく外へ向けて拡散し出て行く。とは言え無秩序に出るのではない、ある程度の塊となって幾つかの箇所から飛び出していく、怖かった、何が起きているのか知りたかった。だがこの姿勢では何も分からない。
その頃、ユキは至極冷静に少し離れて男の体の変貌して行く様を見詰めていた。余りにも奇怪な光景であったが実を言うとユキには見慣れていて何も思わなかった、ただ淡々と自分に任せられた職務を全うするだけの小役人。その様な眼差しであった。
奇怪な光景・・・まず第一に四つん這いになっているその背中を見てもらいたい。肌色の皮膚と共に所々が白と黒に染まっている、一見しただけでは何か塗料でも塗ったのかと思えるがよくよく見れば皮膚よりも盛り上がっており、それが毛の塊である事が分かる。そして腰の、尾てい骨の辺りからのひょろ長く太い紐、いや尻尾。先端がほうき草の様に幾つかの毛の塊となっている。
もっと機会なのが彼のペニスと腹の辺りであろう。彼のペニスには金属のノズルが取り付けられてそこに精液が注がれていたばかりか、ペニスからへその辺りに掛けての全体が盛り上がりその表面からは幾つもの突起が飛び出ている。ペニスもそれらと形状がすっかり酷似した形となっており、流れ出している精液も見た所の質感から精液ではない様にも見られた。同じく色が白い物・・・乳・・・牛乳、まるでそれの如くさらさらと透明な管の中を流れていく。
数分もした頃には静かにジワッジワッとだが変化は更に加速し進んでいた、最早彼の全身は白と黒の斑模様の獣毛に覆われ、尾てい骨から伸びた尻尾は時折自らの尻を叩いている。そしてその顔も人ではなくなっていた、前へ突き出て鼻先は黒く全体としては鼻先を頂点とした巨大な三角形。重量感のある顔に比しては円らなそれでいて存在感漂う横に楕円となった瞳、口元からは涎がだらっと垂れている。
視線を腹へと回せばそこには大きな肉の塊、腹から飛び出てそこだけ獣毛に覆われず赤黒い。そして幾つも突き出している突起、それらは皆一様の大きさ形をしてその先端からは白い液体が滴り始めている。ユキはそれらに手際よく金属の筒を付けて軽く刺激を加えると、勢い良くその後に続く透明な蛇腹上に加工されたパイプの中を白い液体が流れて行く。
そしてペニスと睾丸は影も形も残っていなかった、その代わりにあったのは一筋の割目。女性器の証が鎮座しており、その上を忙しなく尻尾が行き来し両側の尻肉を叩いていた。とは言え必ずしも完全なる牛にはなっておらず人としての形が良く残っており、足の指こそ完全なる蹄となったものの手の指はしっかりと5本が揃い第一関節から先が指として分かれたまま蹄化しているだけであった。
「モォーッモォーッ」
言葉を忘れてしまったのか、はたまた声帯が変わって人としての声を出せなくなってしまったのか先程から口から漏れるのは牛の鳴き声ばかり。ただそれは気持ち良いのか、それらの鳴き声には何処と無く相通じる物が全てに見られるのだった。そんな牛人と化した男であったものの鼻に鼻輪を取り付けたユキは何時の間にか服を着ており、その姿は牧場などでよく見られるスタイル。そして耳に認識タグまでもが取り付けられると屈みこんで乳首の根元を弄り、金属パイプ・・・搾乳機のパイプを外した。
わずかに絞りきれなかった乳が床を汚したが気にするほどでは無い、ツボを刺激されたのか外されて以来乳首からは一滴も乳は漏れなかった。そしてユキは鼻輪に取り付けた鎖を引いてこう一言述べる。
「立ちなさい、あなたに相応しい場所に連れて行って上げるわ。」
如何にも重そうに牛人は立ち上がる、それを見届けると無言で鼻輪を引いて歩き出すユキの後に付いて行きながら涎と共に不満の声を上げる牛人だが気にも留められる事無く、入って来たのとは別のドアから外へ出る。そして通路はやがてトラックの荷台の様な所へ形を変え、幾つか仕切られた内の一つに牛人をユキは押し込み繋ぎ止めた。
繋ぎ止める位置が下にあるので必然的に四つん這いにならざるを得ない、余りにも傍目からは滑稽で恐らく常人がやられたら屈辱の極みであろうがその牛人の姿からはそのどちらも感じられなかった。むしろ四つん這いになれた事で安心している雰囲気すら感じられる。それもそうだろう。意識・理性のあるなしに関わらず、腹にはこれまで無かった巨大な乳房が出来、その上足の指は完全なる蹄となってしまったのだから歩き難い事この上ない筈だ。そしてその寛ぐ姿からは理性や人としての尊厳の片鱗すら見出す事は出来ない、完全に獣となってしまっただろうかの様だ。
ユキが無言で外へと出てその区画に人から扉を閉めて鍵を掛けても動じない、ただそこに置かれた餌と水とを一心に食しているのみ。その空間には他にも同様に扉が閉じられた区画が幾つか見られた、耳をその際で澄まさせると何者かがいる事が分かる。しかし言葉などは全く聞かれない、逆に獣特有の匂いと鳴き声が漂ってくるのみ。
数時間後、また何者かが唯一空いていた区画へと入れられ鍵がかけられる。足音が聞こえると床下から響く唸りと振動・・・エンジン音。そして一定の方向への推進力と上下動、恐らくここはトラックの荷台。外から見れば何の変哲も無いトラックだろうが中の構造と積荷はとても想像し難い物であるトラックは、町を抜けて少し離れた山中へと入る林道を進んでいく。そして着いた先は人里離れた山奥の牧場、牛達が暢気に草を食む傍らに立つプレハブの怪しげな建物。そしてそこには一つの看板が掲げられていた。
『扇野原乳業株式会社 第三牧場』
そうその会社こそ、あの男が、牛人と化した男が勤務していた会社であった。聞く所によればその建物の中にて飼育される"牛"より最高級の牛乳が生産されるのだと言う。しかし今だかつてその詳細を知った者、現場を見た者は・・・聞かれた例が無い。
ちなみに扇野原乳業はこの地域随一の有力企業であり、元々の本業である酪農以外にも様々な分野に大なり小なり手を広げている地場財閥として知られ、酪農は今では一つの顔に過ぎない。同時にどんなに経営が苦しくてもリストラをしない事でも・・・ただ、その際に必ず独身社員が幾人か子会社に出向し、一時的に行方不明になる事と関係があるのかは分からない。