混乱の狭間・変化・後編冬風 狐作
「では、落ち着いて来た事だ・・・始めるとしよう。」
 痛みにしかませた顔が戻るのを見て曹長は呟いた。途端に周りからは歓声の声が上がり、一人のタイプの異なる眼鏡の男が何か包みの様な物を持って現れた。
「曹長さん、持って来ましたぜ・・・例の物を、これですな。」
「あぁ先生、わざわざご足労願って申し訳ありません・・・これですか、その薬とは。」
 急に態度を改まった曹長が頭を下げて包みの中から現れたアンプルを見詰めた。
「えぇこれです、何分人では今の所一度として実験した事がない薬でしてな。こちらこそ良い機会を下さり感謝しておりますよ。」
「いやいやこちらこそ・・・では先生準備の方を・・・。」
「はい、それでは・・・。」
 そう言ってその男、恐らくは研究者か何かがアンプルを手にとって準備を始めていた。無色透明な液体が注射器へと吸われていく、1本、2本・・・と計5本程度用意した男はその内の一本を手にとってこちらを見た。
「準備は出来ましたよ・・・ふふふ惚れ惚れする様な鍛え抜かれた肉体ですなぁ。実験に使ってしまうのが惜しい位だ・・・。」
 男は妖しく呟く。
「先生がもし1人で手に入れたらどうしてしまうおつもりでしたか?矢張り薬の実験台に?」
「いや違いますな・・・解剖するか、それとも剥製にして飾ったかもしれませんなぁ。」
「そっそうですか・・・。」
 その言葉に男以外の誰もが冷や汗を流しちょっと気持ちが引いた。だが表に出さずに気を取り直すと再び、曹長は口を開く。
「まぁ人にはそれぞれ楽しみがありますからな、違っていてもおかしくは無いでしょう・・・では先生、お願い致します。」
「わかりましたよ、楽しみだなぁ・・・くくく。」
 薄ら笑いを浮かべながら迫ってくる男、グランストンは拒絶の声を上げるが生憎体が固定されているので効果は薄く、余裕で迫ってきた男は注射針をグランストンの眼前に接近させて示す。
「喜びたまえ、君。君は偉大なる私の開発したこの薬の栄えある人としては初めて注射されるのだよ、このヨーゼフ・ラッシャーのな、カハハハハッ!」
「ヨ、ヨーゼフ・ラッシャーだと!?あの狂・・・!」
 そこから先をグランストンは言葉に出来なかった。何時の間にか器具の後ろに回ってきていた一人の兵士の手によって口に猿轡を嵌められてしまったからである。おかげでもごもごと音を立てて唸るしか出来なくなりこれまで以上の混乱へと陥れられた。
"どうしてラッシャーが生きているんだ・・・!?奴は死んだんじゃなかったのか。"
 そしてそれは猿轡以上にヨーゼフ・ラッシャーの名に於いて多分に引き起こされていた。8年前に終結した隣国との国境紛争後に国境地帯に位置する沼地で発見された夥しい数の死体。それらは紛争時に捕らえた後に行方不明となっていた敵国軍の捕虜達であった。報告を受けた軍上層部は政府に報告せずに独断で調査を行い、結果として当時は陸軍衛生研究所に勤務していた軍医ヨーゼフ・ラッシャーを逮捕するに至ったのだ。
 逮捕されるとラッシャーは捕虜を収容所に連れて行く途中の輸送班から密かに拉致し、自らの私的な研究所にて個人的に興味を持っていた実験の材料として使ったと何の抵抗も無しに認め自白したのだ。その証言を元に彼の私的な研究所に乗り込んだ調査隊はその惨状に仰天する事となる。その小さな研究所内で一体どの様な研究が具体的に行われていたのか、それは今なお明らかにはされていない・・・報告書を受取り衝撃を受けた上層部が極秘扱いにして封印してしまったからである。
 ただ風の噂では文字にするのも憚られるほどの非人間的な惨たらしく猟奇的な光景が広がっており、その時に突入した調査隊の隊員の一部にはそれが元で精神に変調を来たして除隊、今では傷痍年金の世話を受けていると言われているから余程の物であった事だけは確かであろう。
 グランストン自身その話を聞いた時には背筋に冷たい物が走った事を良く覚えている、そしてラッシャーは極秘に開かれた軍法会議にて弁護人も付けられる事無く、即日で銃殺刑に処されたと知った時にはどれだけ心が安らいだか分からない。軍に在籍しているとは言え元々血に弱い彼にとって"狂気の軍医"処刑の一報は福音以外の何者でもなかったのだから。

 しかし今彼の目の前には死んだ筈の"狂気の軍医"が一度だけ見た記憶のある写真の通りに、奇妙な笑みを浮かべて右手に注射器を構えて立ちはだかっていた。とても信じられる光景ではなかったが、これは夢ではなく現実そのもの逃げられる余地は何処にもなかった。
「じゃっ行くよ、頑張ってくれよ。」
 そしてラッシャーは猿轡の中から言葉にならない声を上げて抗議する彼を尻目に、注射針を左右の睾丸へと突き刺し均等に液を注いだ。
「ムッ・・・ムフーッ!?フフーッ!」
 男の急所への注射・・・それは想像を絶する痛みである事を、何かにぶつけたりして痛めた時とは全く別次元の痛みであるのをグランストンは身を以って思い知らされる事となった。もうここ何年流した事の無い涙が余りの痛みに堰切って流れ始め、頬と猿轡を湿らせ全身からは猛烈な脂汗が滲み出た。体が猛烈に熱い、もう蕩けて燃え上がりそうなほどに熱くなっている。そうしてよがり苦しむ様を良い見世物でも見ているような目付きで見る、情報局の連中とラッシャー・・・ただしラッシャーの瞳には研究者としての冷ややかな観察の視線もまた潜んでいた。
 グランストンの体の中で暴れまわる高熱、だがそれは次第にある一転へと集約されていった。
「見ろ感じてるぜ・・・凄いじゃねぇか。」
「おお、立派なデカマラだなぁ。」
"感じてる・・・デカマラ・・・?"
 熱に苛まれる中で耳にその単語を拾ったグランストンは、己の視線の先に見えるペニスに目をやり驚愕した。そこではつい先ほどまでは萎びて垂れていただけのペニスが今では皮も伸び切るまでに伸び、竿が赤く加熱して膨れ上がった格好となって勃起していた。その姿は自分自身のものでありながら一度としてみた事が無いものだったのである。
「曹長殿・・・そろそろ。」
「だな・・・先生、絡んでも大丈夫ですかね?」
「あぁ問題は無い、むしろ歓迎だよ・・・私はここで見ているから好きな様に遊びたまえ、君たちの持ち物なのだから。」
「左様で・・・では、おい誰か奴の初ズル抜けを味わいたい奴はいるか?包茎脱皮間もない奴をよう。」
 曹長が皆に問い掛けると一斉に手が上げられ、口々に取り巻き立ちは志願してきた。気の早い奴はもう軍服を脱いで全裸になって自らのペニスを勃起させている、そうでない者達も上着だけは全て脱いであるとかして準備を整えつつあり、当の曹長自身も股間を大きく膨らませていた。

「そうだな、じゃあ・・・グラーフお前が相手しろっ。前々からしたいと言っていたしな。」
「はっありがとうございます曹長殿!それでは。」
 そうして指名された男は中性的な体付きの若い男であった。グランストンよりも恐らくは若いだろう・・・その時になってようやくグランストンは恐るべき事実に気がついた。自分はただ絡まれるのではない、同性に男に絡まれる事を。だがこれも注射の時と同じく抵抗は全く無視され美味そうにしゃぶり付いた男は雁の裏にあったカスを舐め取り、舌で愛撫したその足で自らの使い込まれたアナルへと導いた。だが流石に大きかったらしく、その開発されていたアナルでさえ悲鳴を上げたが何とか入れる所まで入れるとグラインドが開始された。
 嫌がおう無しに耳に響く卑猥な音と男の喘ぎ、それを耳にするのは堪らなく悔しく死ねるものなら今ここで・・・とも思えるほどの物だった。同時に嫌がりつつも感じてしまう自分に非常な嫌悪感を抱いたのも事実で、射精してしまった時にはある事実以上に射精したと言う事にすっかり頭が奪われて呆然自失となる他はなかったと言えよう。だが同時にそれをどこかで好ましく思っていたのも事実であった・・・。

 饗宴は尚も続いた、ラッシャー以外の全員ともう既に一度は絡み合い今や2度目に突入していたのである。この頃になれば最初の頃に感じていた嫌悪感などは薄くなり、快感を感じる心がすっかり芽生えて開花しつつあった。同時にこれだけ絡んだと言うのに勃起の勢い、そして精液の量が一向に衰えない事にも気がついていたのだ。恐らくはあの薬は催淫剤と増精剤とが含まれていたのだろう、それも"狂気の軍医"特製の一般に流通している物よりも格段に効果のある物が。そうとしか考える事は出来なかった。
「ムゥッ・・・。」
 そして今再び、大量の精液が男の直腸へと注ぎこまれた。そのアナルはすっかり拡張し切ってだらしなく腸液混じりの精液がダラダラと漏れ零れていた。
"またこんなに出しちゃったけど・・・気持ち良い・・・。"
 その歩きながらも漏れている光景にうっとりとして見詰めていたグランストンは余韻に浸っていた。そして次の者が現れ、再び幾度と無く繰り返された来た行為が再び・・・となる筈だったその時、妙な感覚をグランストンは感じた。
"駄目だ、今絡むのは・・・!"
 直感的に感じた危機、だが猿轡のお陰でそれは今目の前で体内へと差し込んでいる男には届かなかった。そして腰が振られ始め絶頂へと達した瞬間だった、これまでになく強くまったと感じられた射精感が解放されると共に男の体内からペニスが抜けた・・・いや抜けたのは確かなのだが、男が前へつんのめったのだ。そしてその全身、いやそれを超えて飛び散る精液・・・量もこれまで以上のもので尋常ではなかった。男はその場で倒れ臥したまま動かない、明らかに周りは動揺していた。ラッシャーを唯一の例外としたまま・・・ラッシャーの表情は研究者の観察するその物の顔になり果てていた。
 そして慌てて軍服を身に纏った数名の男達が全裸のままの男を連れて行った時、再びあの感覚が芽生えた。そしてそれは再び弾けると全身に電流が走ったかのように体は硬直し、弛緩する事無く膨張し始めた。

「先生、これは一体どう言う事なんですかっ!?」
「・・・・。」
「先生?」
 曹長はラッシャーに慌てて事の次第を問い合わせた。しかしラッシャーは答えるどころかまるで気が付いていないかのように対応し、1人眼光を鋭くしてぶつぶつと口の中で何事かを唱えているのみ。その態度を不審に感じた曹長が今一度尋ねると、次には頬に一筋の赤い線が走り鮮血が垂れていた。
「・・・静かにしたまえ、今は観察中だ。次邪魔したらお前の自慢の物を切り刻んであげよう・・・。君たちの協力には感謝しているが・・・。」
「はっはい、申し訳ありませんでした!」
 これまでに聞いたことの無い、低い地の底から響いて来る様な声に鳥肌を立てる曹長。目の前にいるのは狂気に全てを宿した"狂気の軍医"ヨーゼフ・ラッシャーその人である事を改めて思い知らされた瞬間だった。

 膨張し始めた体の勢いに限りは無かった、胴体と首は巨大な筒になるかのように膨れ上がり手足は逆に細く長くなって行く。既にペニスは最も早くに変化を終えていた、その形状は人の物を巨大化させたあの姿から尺八を連想させる様な姿になっていた。それは見るからに長く弾力のありそうな代物であった。そして体の格好は大きく言えば角張ったものは無くて丸みを帯びて、それでいて脂肪は薄いまま筋肉質・・・鋭い金属音、手足首の枷が破裂した音だった。同時に体がずり落ちて精液の水溜りへと浸る、堪らなく香るその匂いに思わずうっとりとする間も無くその上で体はますます人でない物へと変わりつつあった。
"全く・・・配分間違えたかな、絡みながら変わる様にした筈なのだが・・・まぁいい存分に変わってくれたまえ。"
 ラッシャーはその様に思いを抱いた。その間にも言ってしまえば床に横たわったまま体は変貌を遂げていく、ある程度太くなった首には長さが加わって長さを稼ぎ一体化した顔は口元と鼻面が融合しつつ前面へと伸び、それを頂点にした円錐形へと全体的に整って行く。その頃になると変わり行く肌の上に広がるものがあった、それは漆黒の毛、美しいまでに黒い毛がその精液に塗れ人肌ではただ醜いばかりに変貌した体を隠し、むしろ飾り立てていく。
 そしてその色の広がりと共にその変貌しきった肉体が、何の肉体であるのかがようやく露わとなった。それは馬だった、青鹿毛の1頭の牡馬だった。とても元は人であるとは思えないほどの完璧なプロポーション・・・やがてその馬は自然に起き上がりカーペットの敷き詰められた床をその蹄で蹴る。そして顔を当たりに振るその様は何処か戸惑いの色が色濃く感じられた。
「早く取り付けろ。」
 ラッシャーが指示を回す。するとその場に残っていた男の内の2人が手際良くハミと頭絡、それに手綱をつけて動きを制する。
"えっ・・・馬、そんな・・・馬鹿な・・・。"
「ご苦労、では私の研究室まで連れてきてくれるかね・・・服はしっかりと着てだな。」
 男達が軍服を慌てて着ているのを尻目にラッシャーは馬の首筋をそっと撫でた、途端にグランストンは気持ちが良くなり訳も分からずに、自分をこの姿に変えた薬を注射した男に首を擦り撫でたのだった。


 自覚編へ続く
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