ペット馬鹿冬風 狐作
 大野満子の生活は真に単調で味気のないものであった。夫である幸雄は単身赴任でポーランドへ赴任している為に少なくとも後半年経たねば帰っては来ない。そして、満子と幸雄の間に出来た3人の子供はと言うと、それぞれ今やすっかり成長して独立して家を出てしまっているので、かつては狭いと感じられたこの広い家の中で満子はただ一人、愛猫のマリコと共に日々全く変わり映えのない孤独な時間を過ごしていたのだった。
 そんなある日、満子はある行動に打って出た。この生活にすっかり息苦しさと閉塞感を感じていた彼女は、少しでも変えなくてはと考えて行動に移したのである。とは言え幾ら夫がいないからと言って夫とは別の男を家の中に連れ込んだり、有り余る金に物を言わせてホストクラブへ熱心に通うとかそう言う事は微塵も考えていなかった。彼女の行動、それはパソコンである。実を言うと彼女は予てからパソコンと言うものに興味を持って仕方がなかった、しかし怖くて手を出せないでいたのだがよくよく考えてみればこれほど好都合な条件もない。広い家、一人身、豊富な資金・・・彼女は乏しい知識を少しでも補うべく、書店に行ってはその手の本を幾つか買い求めて知識を付けると自分なりに考えてある最新型のパソコンを購入した。大野満子、50の手習いである。
 注文したパソコンを自宅に届けてもらうとそこから満子の挑戦は始まる。まずは組み立て、次にセットアップ。取扱説明書と事前に付けた知識をフル稼働させて何とかこなし、インターネットも開通させると早速彼女は基本的な動作を見に付け様と、暇さえあれば体をパソコンに向ける様にした。そして一週間ほどで大抵の事をすっかり習得した満子は、色々な事を知っていくうちに更なる高度な分野を習得したくなった。今度も最初に各種の書籍やネット上のその手のサイトを巡って知識を身に付け、膝の上に猫のマリコを置きつつ次第に熱を上げて行った。
 流石にかつて東都大学教育学部の華とまで言われただけはあって、その上達のスピードは見るべきものがあり、2ヶ月も経った頃には猫を膝の上に置くという姿勢こそ変わらねど簡単なプログラムの仕事を請け負うまでになっていた。文字通り彼女の生活は一変した、そこにはかつての様な緩慢な時間は無く、一定の速さと波を併せ持った時間に満ち溢れていた。彼女自身もすっかり満足しており、これを新たな生きがいとして腰や肩の疲れなど気にする事無く更に熱を上げていた。

 独学で高度な内容に取り組む一方、彼女は自分のホームページを製作し公開していた。内容は飼い猫のマリコ一色で、10人が10人みたならば間違いなく親馬鹿ならぬペット馬鹿の気配満載と言うだろう。だが彼女はそんな事は気にしていなかった、愛する最も身近な身内とも言えるマリコの事を紹介する・・・この事が快感だったのだ。そして彼女はネットを通じて新たな友人をも手にしていた。手にした友人に共通するのは皆女性で、誰もが自分の買っているペット猫なり犬なり鳥なりを溺愛している事、それだけで彼女達は相互に惹かれ合い、その中の一人が運営するサイトにある会員制チャット「ペット馬鹿の集い」に夜な夜な集まってはその日の近況報告と共に取り止めもない話を延々と続けていた。
 顔は知らないと言えどチャットで話し合う度に、彼女等の心の中には妙な連帯感が生まれつつあった。そしてその気持ちは、何時しか相手は一体どの様な人であるのだろう等と想像するにまで発展し、とうとうチャット上での遣り取りの中でもそれが漏れ聞こえる様になりつつあった。とは言え一応ルールでそれは禁じられている事、すぐに他の者から窘められて収まるのであるが窘める者にしてもその気持ちは同じであるので次第にその気持ちは鬱積しつつあった。そんな時、ある提案がまるでその皆の心中を把握しているかの様なタイミングで、チャットの主催者である"エリザ"から出されたのだ。ちなみにこのチャットでのルールとしてそれぞれの名前はペットの名前でなくてはならないと言う物がある。
『エリザ→今度、一度皆さんで顔を会わせて見ませんか?場所なら私に格好の心当たりの場所がございますし、ただ会うのだけではつまらないですから色々と趣向を凝らそうかと考えています。如何でしょうか?』
 反応はすぐに帰ってきた。そのどれもが賛成であり、例え一部には日にち等で注文が付いていたとしても幸いにその日は登録している全員が参加していたのですぐに話は決まった。
『エリザ→了解致しました。それでは後日詳細を登録されているメールアドレス宛にお送りしますのでお待ち下さい。賛同して下さいましてありがとうございました。』
 そしてこの後のチャットは一時その事で盛り上がりつつも、まだ詳細が分からないからと次第に別の物へと移行して終了した。退室後、満子に限らず皆が密かにパソコンの前で程度の差こそあれ喜んでいたのには間違いはない。
 "エリザ"からメールが来たのは3日後の事だった。早速開封してみると中にはまずは賛同してくれた事への謝意を交えた挨拶文、そして本題・・・中には詳細な日時と場所、そして失礼ながらと前置きがあり、参加する場合はこのメールにチャットの登録名となっているペットの全身写真を一枚添付する様にと書かれていた。勿論、参加しない場合は写真無しで送り返す様にとあるので、写真にてその有無を判断するのだろう。期限は一週間後に設けられていたが、私はすぐにアルバムの中からきれいにマリコの全身が写っている写真を選び出すと、それを添付して早速返信したのだった。

 そして期待を大にして待つ事約一ヶ月、夏の盛りに満子は猫のマリコは知人に預けると単身新幹線に乗り込み西を目指した。そして途中で在来線に乗換えて数駅、港に面した鄙びた無人駅で電車を降りてタクシーにて指定された場所を告げてそこへ向わせる。30分ほど掛かるのではと予想していたが、実際には15分余り、タクシーを降りてしばらく歩くとそこで一隻の船と共に一人の男がヒマそうに座り込んで煙草を吸っていた。
 満子が話し掛けて事前に指示された通りにメールのコピーを示すと、男は煙草をその辺りの地面に押し付けて消し、空き缶の中に放り込むと一礼して船に乗せるとエンジンを掛けて船を走らせ始める。船は幾つかの島々を過ぎるとその中でも一際小さな島に設けられた桟橋へと横付けされた。そこで満子は桟橋からそのまま歩けば目的地、と言われて下ろされると一人その場に残して男は舟と共に元来た海を去って行った。
 満子は木製の桟橋を軽く軋ませながら進むと、石畳で舗装された道を歩みある門にまで辿り着いた。そして呼び鈴を鳴らすと中から一人の女が現れ、彼女も挨拶すると共に門を開けて中へいれ建物まで、更には部屋まで案内して鍵と引き換えに幾つか説明をして鍵を掛けて部屋から出て行った。その部屋はシティホテルの一室の様な造りで、一先ず長旅の疲れを癒すべく風呂に浸かり汗を流した彼女は、何時の間にやら用意されていた軽食を摂ると、指示された通りにクローゼットを開けその中からある物を取り出した。
「なるほど・・・これを作る為だったのね・・・中々精巧な作りだこと。」
 クローゼットの中から出てきたのは猫のマスクと全身を模った猫型のスーツ、薄い素材で表面がてかてかとしているそれは正しく、飼い猫のマリコをそのまま大きくしたものであった。まずは手に取ったネコ型マスクを頭に被せて、服を着て試しに鏡の前でポーズを取って見た。なるほど中々にあっている、まるで頭だけとは言えマリコになった様な気がしてそこはかとなく嬉しかった。そして30分ほどすると鍵を開けて満子は廊下へと出て、階段を下りとある部屋の重厚なドアを押し開けた。

 彼女は部屋の中を見た途端、思わず息を呑んだ。何とその部屋の中には自分と同じ様に獣のマスクを頭に被せた人が幾人もいるのだから、そして既に中にいる人々も満子を見て反応を見せている、満子はすかさず近付くと、皆に挨拶をし早速その中の一人の兎のマスクをつけた女性へと話し掛けた。
「はじめまして、マリコと申します。あの、あなたはマーシさんでしょうか?」
「えぇその通りです・・・えっあなたがマリコさんですか!?こちらこそ始めまして、私がマーシです。何時もチャットにてお世話になっております。」
 その言葉を聞いて満子は喜びを表しつつ内心胸を撫で下ろしていた。何故なら、今の行動は一種の賭けであったからである。確かにチャット上で彼女と最も気が合うマーシと言う人は、買っているのが純白の兎であると言っていた。そこで白兎のマスクと言うだけで判断し話しかけたのだが・・・結果として成功したのは何よりであった。それを切欠に満子は他の人々とも会話を交わして、新たには言ってくる人々も含め総勢12名は夕食会の始まるまでにすっかり全員が打ち解けあい、ようやく叶った念願に大いに喜んでいたのである。
「こんばんは、皆様・・・今日は私、エリザの提案に賛同して下さいまして遠路遥々ここまで来て下さいました事に感謝致します。私がエリザ、狐のエリザでございます。何分この様な事は始めて企画いたしましたので、色々と不手際はありますでしょうがどうかご容赦下さいませ・・・。」
 夕食会は主宰者であり提唱者であるエリザと言う狐のマスクを被った女の言葉で始められた。出されたのはフランス料理のフルコース、皆が思い思いに食べつつ会話を交わし、時には談笑して時間は瞬く間に過ぎて行った。そして皆、それぞれ約束を取り付ける等して深夜に散会となった。これから4週間、私達13人はこの館の同じ屋根の下にて人としてでは無くペットとして関わりあって行くのである。ペット同士での集い、そう思うだけで私は心がジンと震えるのを感じた。

 最初の数日間はただ話したり食事を共にするだけの極めて人らしい過ごし方をしていた。だが、次第にそれはぶれ始め、どこか皆意中の相手と言うものが出来始めて私もまた、あの白兎のマーシとチャットではそうではなかったがいざ話をして打ち解けた犬の、正確にはゴールデンレトリバーのマルコと共に過ごす様になり、そしてとうとう一週間目が終わるまで後2日と言う時に体を交えてしまった。
 正直私はあれ程自分が燃えるとは思わなかった。私はこれまでレズと言うものは縁遠い物だと考えていたが、そうではなかったらしい。むしろ最も身近である自分がそれに最も近かった事を思い知らされたのである、しかし私はそれをくやんでいるとかそう言う事は無い。大いに喜んでいるのだ、これまで眠っていた自分が目覚めた事に・・・恐らくは目覚めずに死に行くものがそうならなかった事に喜んでいたのだろう。そして3人で絡み合えば絡むほど、私達の結束は強まりそしてどこか激しさを求めつつあったのだ。
 二週間目に入ってすぐ、ただの絡み・・・割れ目同時を擦り付けるだけやマスク越しに割れ目を舐めたりシックスナインをするだけでは物足りなくなっていた私達は道具を用い始めた。いつも絡み始める前にくじ引きやジャンケンで順番を決め、勝ち順にディルドーを腰に巻いてまるでオスの様に突き動かす。そして互いに正に被っているマスクの如く、叫び絵や喘ぎ声を発し挿されている方はメスの如く激しく腰を振る。カメラにて録画したその姿は大きさなどに違いはあれど、獣の様に激しくそれを見ながら思わず自慰に耽り、やがてはまたの絡みへと発展する事は日常茶飯事であった。そして交われば交わるほど、私を含め誰もが自分が人間である事を疑い始めた。本当は獣・・・猫ではないのか?犬ではないのか?鳥ではないのか?馬ではないのか?と自分を疑い、次第にそれが真実であると確信しつつあった。
 最初に出会った時には皆何もかも獣マスクを被る淑女然とした人間であったが、今やすっかり崩れて獣マスクを被った獣となっている。獣マスク以外は何も身に付けないのは最早当然であり、用を足すにもトイレを使うことは極めて稀になって部屋や廊下などのそれぞれが気に入った場所にマーキングするまでになった。
 部屋の鍵は常に開けっ放しとなり、食事もまた最初はちゃんとした人の食事であったものが次第にそれぞれ被ったマスクにあわせた粗雑な物となって、それを椅子に座る以外は手掴みで食べ食い散らかす事もしばしば。膝を突かずにつま先からしっかりと上げて四つん這いで歩く事も増えた、精神の有り様や考え方もどこか短絡的で限定されたものとなりつつある。

"解放・・・。"
 私はふと眠る直前、その言葉を脳裏に浮かび上がらせた。これまで幾十年に渡って自分を縛り付け、そして行動原理となって来た人として当然の常識や世間体と言った物から解き放たれた事への反動・・・次第に鈍くなっていく頭で私はそう想い瞳を閉じた。
 3週間目・・・恐らく、その辺りに私はマスクでは飽き足らなくなった自分に気が付いた。そして次の瞬間、私は猫の如く素早く部屋の中を移動するとクローゼットの中から、あれをあの初日に見たっきり閉まっておいたスーツを取り出した。猫のスーツ、私の体格に合わせてある猫の・・・マリコを模したスーツ、私は思わずマスク越しに頬擦りしてそれを後ろの方で興味深げに見詰めているマーシとマルコに示した。途端に彼女らも何かを思いついたらしく、そそくさと部屋から出て行く。
 その間に私はそのスーツへと両手を通し・・・両足を通して、胴を入れ、そして感じる一瞬の息苦しさと皮膚に接する異色な感覚への警戒感。だがそれは文字通り一瞬の出来事、すぐに馴染んだそれが当然であると認識して、それこそが、いやこれこそが長年求めていた物だと悟り涙を流すのだった。
 途端に、幾ら体を入れたとは言え空いていた背中を、スーツはまるで見えざる手がそこに存するかの如く包み込む。すっかり全身を包まれても目立つ各所の弛みは次第に引き締められて消える一方、より自然な弛みとして存在感を消していく。表面のスーツのてかりは消えて、肌その物に同化しそしてその柄に沿って適当な長さの毛、無数の獣毛がその表面を埋めていく。本当正確に狂い無く埋めて行くのだ。そして力なく垂れ下がっていた尻尾にも急に力が漲ったのか、まるでオジギソウの葉が静かに開いて行く様にそっと上へ上がってピンと張るのだ。髭と耳も尻尾と同じ、これまでどちらかと言えば暗い穴に近かった目は薄暗い部屋の中で爛々と輝きを、緑の輝きを放っては瞳孔を大きく開けている。
 手足の長さも短くなってすっかりそこには人はいなくなった。人である大野満子は消えた、代わりにいるのは彼女の愛猫マリコ、本物よりやや大きめだが茶柄の虎縞はそっくりで本物よりも精気に満ちている。
「ニャー。」
 そして猫が一鳴きした瞬間、部屋のドアを一匹の白兎と標準的な色をしたゴールデンレトリバーがくぐって入って来た。そして、それぞれが鳴くと3匹の不思議な取り合わせはしばし三すくみの様に向かい合い、そして猫が尻を向けそこにゴールデンレトリバーは舌を走らせて、すっかり熟しているそこを更に熟させるとその股間にある逸物の照準をその割れ目へと合わせた。
 ゴールデンレトリバーのマルコはオスである。よってそれを精巧かつ正確に模して作られた獣マスクとスーツを身に付けた飼い主である女性は、マスクによって精神のオス化が進みそれでディルドーをあれだけ巧みに操った訳で、下準備は出来た所でスーツを又のだからもう堪らない。既に肥大化してクリペニスと化していたクリトリスは、見事にスーツに付けられたペニスの型へ嵌るとその形通りに変形し、子宮やら卵巣やらの女性器は精巣や輸精管と言った男性器へと後を追った。女、いやメスからオスへとなりそして瘤付きの犬のペニスと化したのである。
 禍々しいまでに強圧なそれは、何の躊躇いも見せずに猫の割れ目を押し開き突き刺さる。そしてピストン。激しいピストンが猫を襲い、互いに喘ぎながら獣だというのに何処か人間臭さを漂わせて交わると瘤を膨らませてレトリバーは猫の胎内へと精液を注ぎ込む、しばらく経ってようやく外れた時には黄色掛かり濃縮された精液が漏れ流れた。
 そして白兎が純白のその体毛を黄色掛かった白で染めつつ猫のワギナを舐めていると、まだ足りぬと見たレトリバーはまた一舐めをして突き刺した。白兎はやや猫よりも体が小さい、その為膣も短く白兎への刺激は大きい反面レトリバーにしてみると少々やり難そうだが、それでも腰を振り続ける。瘤も半ば出しながら猫と同じく注ぎ、そして漏れる。猫がそこを舐めると再び・・・と言う様にマリコと言う名の猫とマーシと言う名の白兎、マルコと言う名のゴールデンレトリバーと化した彼女等は完全に獣となって異種姦と言う異様な交わりを、その全身を白濁塗れに例えしようとも続けたのである。それこそ目の色を変えて続けたのである。

「あぁ・・・良いわね・・・良質だわ。素体が良いし、本当私特製の獣服と波長が合っているわ・・・大成功だわね、あと少し頑張って貰わないと・・・。」
 そしてその頃、あの3匹を除く残りの9人の全ても9匹の獣となって交わり絡み合っている光景を、同じ館の別室にて一人の狐スーツに身を宿した女、この集まりを提唱し主宰するエリザがモニターを通して眺めていた。不思議な事に彼女に欲情の跡は見られない、そればかりか獣スーツと獣マスクを身に着けている筈なのにマスクは傍らの机の上に投げ出され、スーツは壁から掛けられている。
 しかし、そこにいるのは人間ではない、白兎以上に木目の細かい美しい純白と絹の様に輝いて流れるその獣毛は只者ではない事を暗に示している。そして獣毛と同じ質の腰までの長さ以上の丈を誇る髪を流し、そして腰から生える九尾の尻尾・・・九尾の狐。
「ふふふ・・・本当御馬鹿な人たちね・・・獣を愛する余り本当に獣に成り下がるなんて、本当人は愚かだわ。まぁそんな事今知った事じゃないけど、あとしばらくはここで頑張って貰うとしましょう・・・そして返してからも事ある毎に利用させて頂くとしましょうか。私の使い魔としてね・・・おめでとう、私の目に敵うなんて素晴らしい事なのよ、誇りに思いなさいな・・・私の計画に協力できる事を・・・。まぁ今言ったとしても分からないだろうけど、何せ獣なのだから今は思う存分楽しみなさいな・・・おほほ・・・ほほほほほほ・・・。」


 完
【狐】小説一覧へ 【猫】小説一覧へ
【犬】小説一覧へ 【その他】小説一覧へ ご感想・ご感想・投票は各種掲示板・投票一覧よりお願いします。
Copyright (C) fuyukaze kitune 2005-2013 All Rights Leserved.