女の争い冬風 狐作
「では。よろしくお願いします。」
「わかりました、ではあちらのロッカー室で着替えましたら、このカードキーを使ってロッカー室にあります出口より出てください。」
 私は指示された通りに椅子から立ち上がるとロッカー室へと向った。ロッカー室では事前に割り当てられていたロッカーへと今身に付けている全ての物を脱いでしまうと、入ってきた入口とは全く正反対の位置にある扉へと進む。ただの鉄板の様な扉の脇にはカードキーを差し込む読み取り機があり、私は先ほど手渡されたカードを挿し込んだ。
カチッ・・・ピッピッピッピピピッ
 カードのはまる音と電子音が鳴り響くと鍵が開いた。一歩踏み出し、ノブに手をかけた私は密かに口元を綻ばせて扉の置くに続く廊下へと踏み込んだ。
"私は美しくなるんだから・・・待っててね弘明。美佐子なんかに負けはしないんだから。"

 話の発端は数ヶ月前に遡る、その日都内のとある私立大学の学園祭にて運営委員会と水着メーカーのタイアップでミスコンが開かれていた。参加資格はその大学及び提携校に在籍する女子生徒、1位にはその水着メーカーの行う来年のキャンペーンにてキャンペーンガールとして採用されるという物だった。それに加えて賞金として10万円が懸けられていたのだから応募は殺到、事前の審査でかなりの数を篩に掛けて落とした上で選び抜かれた15人によってその栄冠が争われる事となった。その選ばれし15人の中には、文学部一の才女として知られる武佐川沙耶、そしてそのライバルとして有名な木村美佐子の2人の名前があった。
 2人の気合の入り様は他の参加者の比ではなかった。周囲はそれをライバル関係から生じた物と解釈していたが、実際はそう言う側面もあったものの実の所はそうではなかった。彼女等は互いに合意の上争っていたのである、あるものを巡って彼女等は一世一代の争いをミスコンと言う場を借りて繰り広げていたのだ。
 あるものとは中澤弘明、医学部に在籍しており逸材として将来が非常に期待されている人物である。彼は頭のみならずその姿格好のセンスも良く、顔も中々ハンサムであった。頭は良いがそれ以外は・・・と言うオタク的な人物ではなく、社交的で人付き合いの多く面白いと評判の男を彼女らが放って置く筈がなかった。
 その後ひょんな事で互いに彼に対して好意を抱いている事を知った沙耶と美佐子は一計を案じ、ミスコンで上位になった方が弘明へ告白する権利を得ると言う勝負をする事にしたのだ。無論、書類選考の時点でどちらかが弾かれ片方が通過した場合はそこで決着と決めていたので、書類選考の通過は揺るぎ無いものとしても、やはりそう通知が来るまでは互いに気が気でなかった。そして合格との通知が届いた時の2人の喜び様は大学の合格発表のそれを上回る物だったと言う。

「それでは結果を発表します!第一位の栄冠に輝いたのは・・・。」
 無数の観客の視線と熱気、そして騒々しい音楽と司会者の声を一身に浴びながら、2人を含めた15人の候補者達は皆一様に直立不動の姿勢をして顔を前に見据えていた。そしてドラムが打ち落とされ、途端に会場は静まり返る。一拍の間が置かれた次の瞬間、司会者は高らかにこう宣告した。
「○○大学学園祭、第1回ミスコンテストの勝者は、文学部2年生の・・・。」
 会場にざわめきが走る。文学部以外の学部や系列校から選ばれてきた候補者の間には、見た目はそのままでももう終わった、と言う様な感情が走り急速に冷えて行くのと対照的に文学部に所属する候補者、沙耶と美佐子は息を飲んで次の言葉を待つ。もしだめでも素直に諦めよう・・・これはその時どちらも抱いていた気持ちだった。
 そして司会者は万感の思いを込めて吐き出した。
「勝者は文学部2年生・・・木村美佐子さんです!」
 会場内に津波の如く流れるどよめき、そして万雷の拍手。美佐子は全ての注目を浴びて満面の笑みを見せて、全身でその喜びを示していた。それはその後すぐに実行委員会から優勝トロフィーが送られた時も変わりはせず、2位としてトロフィーを受け取った沙耶は言葉を求められて次の様に言った。
「おめでとう、美佐子。」
 ただ一言それだけだったが、会場からは再び万来の拍手が沸き起こった事は言うまでも無い。そして二人は握手をして、一旦はその場で別れた。
 ミスコン後、美佐子は所属するサークルの面々から祝いの席を設けられた。そこにはあの中澤弘明の姿もあり、多いに楽しんだ後彼らの前で美佐子は弘明へ告白をした。誰もが驚いたが、弘明はすぐに快諾し告白を受け入れ誰もが祝い認める中で、美佐子は弘明との交際をスタートさせたのだった。そしてその後も順調と言う話がすっかり諦めた沙耶の耳へ入ったのは、ミスコンから二週間後、美佐子が告白した宴会から10日も経った日の事だった。
 それを耳にした瞬間、思わず沙耶はそれを何気なく既に知っている物と思い込んで口にした友人を思わず怒鳴りつけてしまった。そしてすぐに我に帰って謝ると、まだすべき課題が残っていたにもかかわらず彼女はその場から退出して家へ一目散に逃げるように帰った。そして鍵を掛けて、窓が全て閉まっている事を確認すると一人今の机に突っ伏して、鳴き声を上げて長きに渡って涙を流し続けた。

 どうして、教えてくれなかったのか・・・どうして美佐子は自分に教えなかったのか、告白したとされる日の翌日には会っていたと言うのに・・・。と沙耶は強く思って泣き続けた。自分が情けなくとても惨めに思えた反面、彼女は美佐子に対する怒りが芽生えるのを感じ取った。普段の彼女ならすぐに摘み取ってしまうのだが、今回はそうしなかった。自分を裏切った相手に、告白したらすぐに教えると言う約束を破った相手への怒りの芽を潰し、こちらが自重する必要なんて無いと考えたからである。
 しばし泣く事で心を落ち着けると、沙耶は片っ端から美佐子と関係のある物をゴミ袋へと放り始めた。彼女と一緒に買った物、彼女の映った写真、彼女が自分にプレゼントした物・・・その全てが憎らしく徹底的に排除した後は、すっかり疲れてそのままベッドで眠りに就いたのだった。
 翌日、彼女は大学を欠席した。単位は基準の倍以上取得しているのでしぱらく休んでも何ら問題は無い。朝食を食べて食器を洗ったあとはしばし何をするでもなく壁に寄り掛かり、そしてふと思い立つと紙を用意し、片っ端から佐代子に対する憎しみを文字として紙に吐き出して行く。
 その内容はとても読むに耐えない罵詈雑言の類に過ぎなかったが、誰かに渡す様に埋め尽くした先から退けて別の紙へ書き続けている内にそれを書き連ねた紙は数十枚に達していると言う有様。ようやく書き止めた時には彼女はわずかな清涼感と大きな徒労感を感じて大の字になって床に寝転び、また涙を流しかけかけていると・・・。
「なるほど・・・良く分かりました、あなたの思い。助けてあげましょうか?」
 彼女の耳に、自分以外は誰もいない筈なのに男の声が響いたのは。慌てて起き上がると、ちょうど目の前においたベッドに腰掛ける形で、あの美佐子に対する憎しみを書き連ねた紙を丁寧に一人の背広姿の男が手にしてこちらを向いていた。
「あなたは誰?何時の間に入ったのよ?」
「私はセールスマンです。それ以外の何者でもありません・・・さぁいいでしょうそんな事?」
 その男の声を聞きつつ顔を見ていると、不思議と得体の知れない見知らぬ彼に対する疑念が薄れていった。その代わりに男の登場で一旦は静まっていた恨みの気持ちが再び表へと引きずり出され、これまでにも増してその思いは強くなっていた。
「そうで・・・すね。助けてくれるとは一体?」
「あなたの復讐を手助けしてあげましょう、という事です。何分ビジネスなものでただと言う訳には行きませんが、格安でして差し上げましょう。」
「復讐と言いますが、具体的にはどの様にするのです。」
「あなた自身がするのです、私はその過程を手伝うのみですよ・・・さぁどうしますか?早速しましょうか?」
「今は・・・ちょっとまだ良いです。ご好意に背くようですけど・・・。」
 男の期待に満ちた声とは裏腹に沙耶はそれを今は遠慮する、と断った。それはまだ踏ん切りが付いていないからで、憎しみの本音を言えばすぐに即答したい所だがまだどこかで迷いが断ち切れなかったからである。それに対して男は落胆の色を見せるも、また気が変わったら何時でも参上すると告げた途端に煙の如くベッドの上から姿を消した。
 余りに忽然と消えた為、夢でも見ているのでは無いのかと驚き、例にその座っていた辺りを手で探ってみると確かにそこには何者かが存在していた痕跡と熱とが残されていた。しかし。それが分かった所で何の足しにもならない。結局、その後もしばし頭を悩ませたが一体何処へあの"セールスマン"が消えたのかは皆目見当がつかなかった。

「決心が付きましたかな?」
「えぇ、勿論・・・だから呼び出したのだけど・・・。」
 あれから数日後、ようやく心を復讐に固めた沙耶があの謎の男の事を思うと、すぐに男は部屋の中に姿を現した。何も無い所に姿を見せるので、一体全体どの様な原理があるのか興味を抱いたが、今はそのような時ではないと断ち切ってその思いを捨て去り、男の次の言葉を待つ。
「あぁそれはそうでしたね。失敬しました・・・では、しばしお待ちを。」
 そう言って男は携えていた鞄を開いて、その中から何やら大きな巻かれた布を手に取るとそれを壁に広げて押し付けた。その布には茶色の扉が描かれており、壁に付けられて男が軽く足で蹴ると急に弛みが無くなり壁と一体化し、見事な木の扉がそこに姿を現した。その時まではまだ沙耶は驚きつつも、何らかの錯覚で扉の様に思っているだけなのではと疑っていた。
 しかし、男は当然の如く腕を伸ばして、非常扉の取っ手の様になっているノブを回すと鍵の外れる音と共に、その扉は部屋の中へと開いてくるではないか。沙耶は目を見張り、何度も擦ってはそれを見たが確かにそこにあるのはしっかりとした木の扉、驚きの余り立ちすくむ彼女を男は抱える様に抱き上げて扉をくぐり鍵を掛けて消えていった。

 そして話は冒頭へと戻る。ロッカー室からIDカードで扉を開けて道の廊下を進んで行った彼女は、その先にて性別不明の中性的な人物に導かれてとある部屋の中へ入った。そこには幾つかの日焼けベッドの様な形をした機器が複数並んでおり、その内の半数は閉じられていたものの残りは使用されていないらしく、全体を覆い隠すフードが外されている。何でも今沙耶が聞かされた限りではこれに入ると美しくなれるらしい、美しくなる・・・その言葉は彼女の心の琴線を刺激した。
 物珍しげにそれを見る一方で沙耶は、口では寄せられる質問に対して答えていた。どれもが他愛の無い内容であった上に興味が分散していたので良くは覚えていない、しかしその後用意された注射は不思議と全く痛みを感じはしなかった事を覚えている。そして、右腕に注射を受けてからしばらく経つと急に眠気を覚えて睡魔に襲われ、耐え難いそれから逃れようと自ら空いている機器の中へと寝転がった。その後は睡魔に蝕まれつつも、しぱらくは中で寝転がっている様を自ら、まるで蛹みたいだと思う少しの余裕をあった。だがそれもフードが閉められた後にはすぐに絶え、間をおかずしてそのまま意識を失い眠りへと堕ちた。

 それから幾日かが経過したある日の晩、私はある所に身を潜めていた。それは公園、夜の人気の無い街中の公園い茂みの中。私の復讐に協力すると言った"セールスマン"によれば、何でも美佐子と弘明はこの公園を深夜に良く訪れ、その片隅の森の中で色々と楽しんでいるのだと言う。私はあの2人にもそんな意外な面があったのかと一人感心すると共に、絶好の機会と場所を与えてくれたものだと感謝していました。
 どうして感謝するのかと思われるかもしれませんが今の私は、美しくなり装いを新たにしたが故に最早人ではありません。今の私は猫、正確には獣人、猫の獣人。すらりとして筋肉質であるのを感じさせず、白と黒の斑の美しい毛並みの体を私は非常に気に入っています。複乳になったのはあれですが、それを差し引いても十分満足できるものです。そしてほら見渡せば、情報通りの場所に2人の姿、どうやら絡み合っているようです淫靡な匂いが鼻につんと伝わります。
 気が付かれぬ様気配を決して至近まで行き、そして私は襲い掛かりました。まずは佐代子の顔に一撃を、その顔の中心線に沿って縦に爪を走らせるのです。暗闇のせいで何が起きたのか分からず悲鳴を上げて苦しむ佐代子と戸惑う弘明の姿をしばらく、木の上から堪能すると今度はその上から佐代子に襲い掛かり気絶させます。そして静かになった所でメインデッシュの弘明を襲いました。
 全裸で戸惑う男と言うのは何とも鈍いもの、すぐに組み伏せると早速そのペニスを私のワギナへ誘導し突き刺させます。もうすっかり熟れたそこはペニスをすんなりと受け入れ、まるでその淫液と熱を以って溶かそうとするかの様に包み込みます。
 私はその様に熱いワギナに応えるようと腰を一心に振り続けました。やがて当初は訳も分からず抵抗していた弘明も何時の間にやら、人とは違い猫とも違う2つの交わった私のワギナの虜になって自ら求める様になりました。それを良い事に私は一層、徹底的に彼の性を搾り取ります。尽き果てるまで、文字通り彼の精が尽き果てるまで絞り続けたのです。

 そして朝日が昇る頃、私のフェロモンを直接嗅いで夢中になって交わり、数十回に渡って性を搾り取られた弘明は土気色になって夏草の上に横たわります。私がワギナの辺りを拭いていると、私にこの体をくれて手伝ってくれた団体いや組織の人々が姿を現し、いまだ気絶している佐代子と息も絶え絶えになっている弘明を何処かへと連れ去っていきました2人がどうなるのかは私は分かりません、何かの役には立つのでしょう。そして目的を達した私は普段は人として生活しつつ、時には復讐の手伝いに対する代償としてあの組織の指示の下、あの姿となって活動しています。
 人には言えない様な仕事もありました、自己嫌悪に陥った事もありました、私を手助けしてくれた組織は宗教団体である事も知りました。しかし私はすればするほどそれが楽しくて、今では人前にいない時つまり家の中にいる時は基本的にあの、獣人の姿となって過ごしています。恐らく私は代償としてこの姿でいる期間が終了しても、自ら望んで組織の指示に従っていく事でしょう。もう私は後戻り出来ない、人ではとても味わえない快楽を知ってしまったのですから・・・。


 完
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