予想外冬風 狐作
カチッカチャカチャ・・・
 昼下がりの電車の中、地方都市の近郊を走るローカル線の車内には春の穏やかな日差しが差し込んでいた。疎らに閉じられたカーテンの奥では、座席に座った客たちがそれぞれ思い思いの格好をしていた。その中にMDを聴きつつ、片手で携帯を一心不乱に操る女子高生の姿があった。彼女の名前は森本久子、17才の市内の私立高校に通う3年生である。
 高校3年生と言えば、それまで勉強をしてこなかった奴でも少しでも大学へ行く気があれば急に勉強をし始める、そんな時期であるがはなから大学に行く気の無い彼女にとっては関係の無い話しであった。今日も家を出て、学校の最寄り駅まで行ったもののレベルは低いとは言え、大学進学を志す学生の為にその様な体制と雰囲気になっている学校へ行く気が起こらず、結局折り返し駅まで乗り越して、また元来た道を自宅の最寄り駅へ向けているのであった。
"この着メロ良さそうね・・・頂きッと・・・これはいいや・・・。"
 彼女が先程から熱心に見ているのは携帯の着メロ・着うたサイトである。元々、そう言ったものを集めるのが好きな久子は以前からヒマさえあれば、その様なサイトを回って気に入ったものを蒐集して来た。しかし、それ故にパケット料が嵩み先月から一時親に取り上げられていた物を、ようやく昨日になって使い過ぎない事を条件に返してもらったので少しはその事を気に起きつつ、一月間もの間出来なかった蒐集に時間を費やしていると言う訳である。
"このサイトはもう無いわね・・・次行きましょうか・・・。"
 久子はそれまで見ていたサイトから目ぼしい物をダウンロードし尽くすと、すぐに見限って別のサイトへと移動した。電車が最寄り駅について降りた後も、誰も駅に来ない事をいい事にその田んぼのど真ん中にある無人駅の白塗りのブロック小屋の中で、ベンチに腰掛けて黙々と続けた。その時にはMDは外しており、遠慮なく大音量で一曲ずつ曲を流して・・・。
 最初のサイトから数回移動すると、彼女はそれまで見た事の無い新たなサイトを発見した。"New"と表示されている事から新規開設の様である。
"あら、何時の間にか新サイトじゃない・・・いい物見つけたわ、学校サボって正解だったな〜見よ見よ。"
 新しいものには目の無い彼女はすかさずそのサイトにアクセスした。アクセスした先はごく普通の一般的な構成で、出来たばかりという割には中々曲層も充実しておりその内容には十分満足の行くものがあり、幾つかダウンロードをしている内に久子はあるカテゴリを見つけた。
"自然楽曲"
 そう題された他のサイトでは見た事の無いカテゴリに、彼女は新鮮さを感じた。横に表示されているカテゴリへのアクセス数もまだわずかで、そのサイトの中でも影の薄い存在と言える正にそんな存在であった。
"どうかなー面白そうだし、見てみようっと。"
 大した期待を抱かずに興味本位で入ってみると、そこにはただ4つだけ選択肢が用意されていた。"大地の歌""風の歌""水の歌""陽だまりの歌"と題されたそれらの他には特に無く、瞬時につまらなそうだと感じた久子ではあったがすぐに戻る事はせずに、ひとまず曲の数も少ない事から全てをダウンロードして聴いてみようと上の方から順に落として、1つずつ再生を始めた。
"うーん、いまいちねぇ・・・これはどうかしら?"
 大地・風・水と聴き終えた彼女は事前の予想と違い、それらの曲が中々の物である事は認めつつも、どこか彼女の心に響かない事を強く残念に思って最後に残された"陽だまりの歌"へとスクロールさせた。クリックして流れ始めたその曲は最初からゆっくりと、時折テンポを早くしつつもユラリユラリとそれを繰り返す単調な物であったが、彼女は妙に心に響くのを思った。  そして、しみじみとして全てを聴き終えたその時、彼女の指先は自然と無意識の内に再生へと向っていた。幾度と無く聴き終えた後で彼女はそっとその曲を、認めた曲しか入れないお気に入りの中へと保存しすっかり満足した表情を見せて、駅前に止めてあった自転車に跨り自宅へと戻っていった。

 数時間後、日もすっかり暮れた頃に制服から私服へと着替えた彼女は再びその駅に姿を現していた。彼女がこれから向う先、それは町である。彼女の通学先の学校のある町であり、そこで久子は大学へ通う彼氏と待ち合わせをしていた。心躍らせながら、彼女は到着したワンマン列車に跳ねる様にして乗ると、郊外へ向けて渋滞する道路と満員の乗客を乗せた対向電車を尻目に待ち遠しそうな表情をして揺られていた。
「ごめん、待った?」
「いや、大丈夫。僕も今来たばかりだから・・・じゃあ行こうか。」
「うん。」
 電車から降りた彼女は改札を抜けて、駅の傍にあるバス停の待合室へと急いだ。乗っていた電車が途中駅を遅れて発車した為に、待ち合わせ予定の時間からもう既に5分が経過していたからである。すっかりラッシュのピークも過ぎて空いている待合室で待っていてくれた彼氏、小林秀一は何時もと変わらない明るい調子で応えてくれたので彼女は大きく胸を撫で下ろした。そんな久子を連れて小林は待合室を出ると、バス停脇の無料駐車場に止められてあった自分の車に乗せると、一路街の中へと消えていった。
 夕食を共にした後、彼らは郊外にある秀一の自宅へと向った。真面目が服着て歩いていると言う言葉が正に似合う秀一と、真面目と言った言葉は全く似合わない自由奔放な久子は一見すると噛み合わなさそうで、美味く噛み合って親密な関係を築き上げていた。それでも彼らは最後の一線だけは越えていなかった、だが今日とうとうその一線を越える日が到来したのである。そのせいか今日の2人にはどことないぎこちなさが絡み合っていた。

 秀一の自宅に着き、車をガレージへと押し込むと2人は人目を忍ぶかのようにそそくさと家中へ姿を消した。玄関が硬く閉じられ、締め切られた一室のカーテンの隙間からわずかな光が漏れている。風呂場からは水の流れる音が響き、甲高いドライヤーの音が一通り響くと再びその家は静けさを取り戻した。その体をすっかり清めた2人は、2階の普段は使われていない部屋に敷かれた布団の上に抱き付いたまま倒れこむと全てが動き始めた。
 互いに始めてである二人の動きは最初はぎこちなく、次第に滑らかに、そうそれまで長い時の間止まり錆び付いていた歯車が、油を注がれて次第に動きを取り戻して行く様であった。一度火が付けば後はもう止まらない、硬くなったペニスとすっかり漏れて緩まったワギナに自然と伸びるお互いの手、深く絡み合った舌は2人の間に長いつり橋を架けて果てる。上目遣いのフェラは秀一の隠れた心を顕わにし、ピストンの後今その時を待ち望んでいたかのように放たれる白濁の精液、口元からわずかに垂れた白い筋を拭い微笑む久子・・・。全てが正に流れるように事は進んでいた。そして・・・。

「いくよ・・・いいかい。」
「いいわ、あなたにうばわれるのなんて最高よ。」
 久子がそう答えると慎重に尋ねた秀一は、無言でその潤んだワギナへとペニスを挿し入れた。まだ一度も男を受け入れた事の無い、そのワギナはすっかり成熟して熱と潤みを存分に持っているとは言え、矢張りきつい事に変わりはなかった。だが、それは最初の一時に過ぎない。ペニスの先端に何か障害を見出すと、軽く引いてサッと素早く強く深く力を込めた。
ブツッ・・・
「あう・・・だっ大丈夫よ・・・。」
 蚊の鳴くかのような果たして聞き取れたかも怪しい音と誰も求めずに自然に漏れた久子の声、その一見対照的に見える声を耳にしながらも尚も無言のまま、秀一は奥へと進めた。そして、いよいよ入れる所まで全てを入れた時、秀一の中で何かが外れた。理性と言う冷静さが一挙に消し飛んだ秀一は途端に激しく引くと、まだ血混じりの愛液の潤滑剤に激しくピストン運動を開始した。
パンッパンッパンッパンッ!
「はぅ・・・はぁ、はぁ、はぁぁ・・・。」
 数分が経った頃、その部屋の中に人間はいなかった。いるのは一心不乱に腰を振り、それを受け入れるヒトのオスとメス、すっかり初めての熱に浮かされた2人はもうすっかり虜としてその身を投げ出していた。一度精を放ち、イけば落ち着く・・・そんな事は無い、とにかく更なるより強い快楽を求めて狂った様に、それまで溜まっていた鬱憤を晴らすかのように彼らは交じり合っていた。
タ〜ン、タッタッタ〜・・・♪
 そんな折の事、唐突に部屋の片隅に置かれた久子のカバンの中から着メロが流れ始めた。何時もの事なら何をしていても、携帯に飛びつく久子であるが今はそんな事はすっかり頭の外に置かれていた。持ち主から全く回顧見られず、ただBGMとして数分間場に流れてその役割を終えた携帯と着メロはある効果を、予想外の効果を導き出していた・・・互いの精力を向上させると言う。

 効果は着実に表れつつあり、曲と共に肥大化した秀一の睾丸からはそれまで以上に精液が生産され、供給されていった。精液の製造と共に未知のホルモンが作られ、一気に全身へ送り出されていった。久子の子宮もまた大きくなるとこちらも未知のホルモンを、やや秀一の物とは組成の異なるホルモンを同じく全身へ流していった。
 送り出されたホルモンはそれぞれの体内の各細胞を活性化させて、急速な細胞分裂を引き起こした。その際に染色体にまで影響を及ぼすと、DNAの配列も変わり全く別の細胞へと生まれ変わりながら、事は進みやがて2人の体には薄っすらと毛が生え始めた。脳下垂体中葉が目覚めたのである、久子は青く秀一は灰色に包まれてゆき、尾てい骨からは細く長い尻尾が伸び始めた。手の平、足の平の所々は厚さを増して柔らかくなり、頬からはそれぞれ三対の髭が伸びる。鼻の頂点は硬くなって黒くなり、顔の骨格全体が前側へとややふっくらとした物へと、毛に覆われる毎に変容して行き、耳は上へ四角く伸び目はそれぞれ妖しい光を放つ。そして・・・。
「フギャアッ!」
 突然、聞き慣れない叫び声を秀一が上げると久子のワギナの中へと莫大な精液が、数分以上に渡って注ぎ込まれていった。腹が膨れるほどに精液を注ぎ込むと秀一は勢い良く、もう用は終わったとでも言うかのようにペニスを引き抜いた。
「フギャアン!」
 抜かれると共に顔を顰めさせて、悲鳴を上げる久子・・・そうペニスに付いていた棘が彼女の膣へと引っかかって激痛を走らせていたのである。

 だが彼女は知らなかった、その痛みが排卵を誘発すると言う事を・・・いやも知っていても分からなかったろう。何故なら、今の2人は本能のみの猫と化していたのだから、翌朝目を覚ました時彼らはこの出来事を覚えてはいない。猫になっている間は人としての彼らは眠っているのだから、そして気が付いた時にはもう手遅れになっているだろう・・・誰が数ヵ月後の出来事を予見出来ると言うのだろうか・・・。

「おはよー、秀一。昨日はありがとう・・・楽しかったわ。」
「そう・・・かい、それは良かった。僕も同じだよ。」
 誰も知らないまま時間の歯車だけが動いていく・・・。



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