「なぁお前、どう思う?」
「いい事じゃないでしょうか?あの子ももう大人ですからね・・・。」
「あの薬も飲んでいる事だしな・・・相手の方が人間とは言え。」
祭壇に祀られている神像の表面が青く光って、その両目から2つの狐火が飛び出てきたのは2人が寝付いてからしばらく、深夜の刻をまわった頃の事だった。そして部屋の中に響く、2人の男女の声とその声に合わせて空中を付かず離れず動く狐火・・・仮にその場でサキが目を覚ましたら絶句する事だろう。何故ならその声は、彼女の亡き両親のものであったからである。
数分ほど空中を巡りに巡った2つの狐火は、何かを互いに了解した様に分かれるとすっかり眠っているサキと知明の体の中へと消えた。
"何だか息苦しいなぁ・・・。"
知明が体に熱さを覚えたのはそれとほぼ同時であった。熱さと共に襲ってくる息苦しさによって、何だか体全体が圧迫されているような気がしてならなかったが、そのまま布団の中で横になっているとその気にも慣れて再び安眠を貪っていく。そして、再び熱がぶり返して来た時何かが始まった。今度ばかりは知明は異変に気が付きはしなかったものの、もしその光景を見れたとするならば戦慄したかもしれない。
寝苦しそうに布団の中で体をくねらせていると、とうとう耐え切れなくなったのか彼は布団の上掛けを跳ね飛ばして、汗まみれのその体を外気へと曝け出した。だが、一時は良くなった熱もすぐに元通りになり再び体をくねらせ、手を服の間に入れては体を掻く。そう言った度重なる動きによって服は次第に乱れて行き、やがて右肩から寝巻きが外れて皮膚が露わになると、そこには汗まみれの鯖の様に照っている肌と共に一種見慣れぬ白い部分、白い毛の塊が姿を現して首筋から下顎、右の乳首の辺りまでを覆っていた。
「う・・・うむ・・・。」
暑さと息苦しさで知明が唸る、と共にその毛は場所によって灰色になりつつ全身へと骨格の変化と共に広がって行った。比較的大柄である彼自身の全体的なものにそう変わりはなかったが、より一層筋肉質になってわずかながら大きくなる。顔は顎が前へ伸びて鼻先が黒く湿り、全体としてはサキの顔と似てそれよりも逞しさの感じられる形態へと変化する。
体が一回りしうつ伏せになると、その衝撃で寝巻きの紐が外れて尻尾の先端が垣間見える。手や足の甲には肉球が出来、半開きになった口からは歯牙と共にダランとした長い舌が垂れる様になった頃、ようやく変化は終わると共に彼はその目蓋をそっと開いた。
「ふむ・・・上手く行った様だな・・・。」
立ち上がった知明は寝巻きを脱いで脇に避けると、彼とはまるで違う地の底から響くような低い声を出して体のあちらこちらに目を向けた。
「あなた、お久し振りね・・・こう言った形は。」
その様にしている知明に取り憑き、その体と中身を変えた者の前にもう1つの影が布団の中から立ち上がった。その布団はサキの眠っていた布団であり、知明と同じくその寝巻きは脇に寄せられている。
「あぁ、本当だな・・・これほど愉快な事だとは思わなかったよ。本当、あの時のままだな、サトお前は。」
「あなたこそ、そのままの姿ですよ。本当、肉を持っていた頃が懐かしいわね・・・。」
「そうだな、まぁそうだ早速久し振りに楽しむとするか?」
「そうね、そうしましょう。朝が来るまでに、あの子達に体を返すまでに。」
「承知しているさ、では何時も通りに。」
「分かったわ・・・じゃあ行くわよ。」
そう言って、2人の狼人の内の片方、乳房のあることだから女は膝を下ろすと目の前に立っている男のペニスを口に咥えた。男にとって久々の懐かしい刺激がペニスに走り、既に半ば臨戦状態にあったそのペニスはますます硬さを増し、舌が走り唾液と先走りとが交じり合う淫靡な音が微かに響き、間も無く果てる。サトはそれを受けて飲み、喉を揺らすもわずかに漏れてサトの黒い毛に一筋の白い線を走らせた。
「相変わらず・・・良い味・・・だったわ・・・一段と濃くて・・・。」
互いの舌を絡ませながらサトが途切れ途切れに呟く。
「それはそうさ・・・なにせ溜めに溜まった・・・ものだから・・・な・・・。」
ハチも同じく呟き、自らの精液の残滓と互いの唾液の混ざり合った液体を、舌先で感じて弄り合う。練ってこねて、練ってこねて・・・切り離された時、それは1つの橋となって切れた。
「キャウ・・・そこ、そこよ・・・。」
ワギナをハチの舌が走る。2つの行為によってすっかり熟れて、辺りの毛はすっかり湿って独特な芳香をハチの下へと漂わせていた。サトの喜びそのままに尻尾が激しく動いて、ハチの額と耳を叩くも気にはならなかった。むしろそれは彼を満足させて、刺激して更に舌の動きを細かく密にしそのままサトはイッた。
すっかりワギナの緊張が取れたのを見たハチは立ち上がってペニスをそこへ宛がう。先端が、クリトリスに触れて微妙な刺激が電撃となってサトの背筋を走り軽く体を振るわせた。尻尾はいよいよ激しく振られ、その最中に無言でハチは割れ目へとそっと挿し込んだ。久々に通す膣は狭くなっており、かつてよりも濃厚にペニスを包み愛撫してくる。入れる所まで入れると、一息吐いて彼は腰を戻してピストンを始めた。
入れては出し、入れては出し・・・緩急つけてのそれをサトのワギナは快く受け入れ歓迎し、もてなすので彼も相応のお返しを彼女に与えた。激しい息遣いと喘ぎ声、そして互いの肉と毛とが触れあい叩きあい擦れる音が社の中を満たし尽くす、それに匂いも追随し神聖であるべきその空間は真に対照的な場所に位置すべき空間へとなれ果てた。とは言うもののそこで交わっているのは山神であるサキと一介の人に過ぎない知明、正確には出来心でそれに憑依して姿を変えさせて、一時的にその肉体の主となっているサキの両親で前の山神であるハチとサトだった。
久々の肉の悦びに燃え上がったハチとサトはその体が、娘であるサキと偶然何らかの縁でそこにいた知明の物である事を、一時はすっかり忘れて激しく交わりあっていた。様々な体位を楽しんだ挙句、ようやく辺りが白み始めた頃2人は互いの体を剥がし、やや名残惜しくはあるもののその体を勝手に使っていた事をサキと知明にばれぬ様に場所と共に清めて、まったく元通りに寝巻きを纏い布団の中に潜らせてから体より離れた。
その幾分、青白かった狐火は更に濃さを増しており、まるで久々の夜遊びに満足している事を誇示するかのようにしながら元出た神像の中へと戻ったのである。そして後には静けさがまるでそれまでを覆いつくさんばかりに広がるのだった。
2人の別れは目前に迫っていて、時間は朝のはず。知明の頭はそう感じていたものだし、それでいながら寄り添ってくる相手の背中を撫でるのにどこか手は一生懸命で、これまで生きてきた中で感じたことのないどこか浮ついた、しかし芯のある心地の中でじっと静けさを味わっていた。
改めてふと思い返してみる、今、共にこうして感じあっている相手の名前はサキ。自分よりも年下に見えて、加えて人ではない、出会ったのは昨日の山の中、山登りをしている最中に転んで気を失い、目を覚ましたら看病をされていて、色々とやり取りをしている内に夜になり…目を覚ましたら朝だった。そう今になっていたと思いつつ改めて寄り添ってくる相手の顔を見る、まだどこか寝ぼけた調子のその顔の瞳は人にはない不思議な輝きを放っていた。耳と言えば矢張り人ではない事を強調するかの様にぴくぴくっと時折震える様がなんとも愛おしい。
(はあ、幸せ・・・)
そう心に過ぎるのも無理はないだろう、こうして、例え人ではないとしても前述した内容を繰返す形となるが、この様な経験は知明にとって初めてだった。だからこそ普通に感じるよりも数倍、初心さによって増幅されているとも言える訳で仕方ないのである。そしてそれを分かっていると言っているのかは知れないが、そうとも解釈で来てしまえる彼女が時として見せる動き、より彼の体に寄り添う、あるいはふと感じられる吐息、それ等によってますますその初心さによる興奮は増しに増していくのだった。
最もそれは彼だけでなしに彼女、サキも同様であったと言わなくてはならない。サトの場合、純粋な人間である知明よりもより感じやすい、いわば野生的な素質によってそう言う傾向を有している。だからこそその体の中に秘めている興奮と言うのはより強い物だったが、知明が人であるが故にそこまで伝わっていなかったのはある意味幸いで、そして不幸であるのかもしれない。
だが次第に2人の心は同一の方向へと向かっていた事、これは互いが知らずして、しかし結果として思いが通じ合っていたからとも言えるのではないだろうか。離れたくない、一緒にいたい、その思いを秘めあった2人はふと視線がぶつかり合った途端、もうその思いを留めておく事は出来なかった。すっと手を一瞬離したかと思ったら後は、今度は両の肩を抱き合ってがっちりと互いの肉体を密着しあう。
「ごめんなさい、トモアキ・・・さん・・・っ」
まず言葉を漏らしたのはサキだった、サキは今にも泣き出しそうと言わんばかりの顔をしては呟いて知明の胸に顔を鎮める。その時、その胸が柔らかいと彼女が感じたのは気持ちがそうさせた錯覚だったのだろうか。だがやわらかいと言う感覚は知明自身も感じていた、しかし何故だか確認する気にはならなかったし、更に抱き返して背中を撫でつつその囁きに耳を傾ける事、それですっかり頭は一杯だった。
「つがいに・・・なろうよ、あなたとならきっと・・・っ」
サキは共に歩み続ける存在になる事を懇願していた、そうつがいとは言えどそれは人で言うなら契りを結ぶと言う事になる。いみじくも山神の血筋と人がその様な関係になると言う事は極めて例外的であって、そう言う判断が仮になくとも本能的にもおかしいとは当然感じていた。だがもうサキにはこれしかなかったのだ、知明の心臓、その鼓動を耳にするだけで感じられる体の心の熱さに耐えられなかった、とも言えるだろう。
当然、断っておくとサキにも夜の記憶はない。山神の娘とは言え、今は亡き両親が互いの肉体に憑依して交歓に狂った等、到底思い当たる事ではないのだから。だからそれはあくまでも自分の想い焦がれた故の状態と彼女は認識していた。だからこそすまなさをまず始めに口にしたのであり、人であると、昨夜の眠りに落ちる前に繰り広げたやり取りの中で強く認識していた目の前の人を自分の歩んでいる道へ巻き込む、それを理解していたからこそだったのである。
しばらく沈黙が続いた、知明は相変わらずサキの背中を撫で続けている。その間にサキの緊張も幾分緩んで、また何か一言口にしようとした時、すっと智明の顔が入り込んできた。それはサキの額に向けてと言う具合で、すっとその唇が触れた途端にサキの尻尾がびくんっと震えたのは言うまでもない。
それは待望の知明からの反応だったから尚更だった、思わず瞳を閉じてしまったのはふとした満足感を抱いたから。そして次に続いた言葉、同意の、そうしようとの言葉にそのままの位置で首を縦に振ってしまったのはご愛嬌と言うところだろうか。とにかく嬉しさが爆発していた、そしてようやくある事に気付く。それはそう「柔らかさ」の正体だった。
「・・・トモアキさん・・・その胸・・・」
「え・・・あ、あれサキの胸が・・・っ」
サキに指摘されてようやく、ややテンポが遅れて事態に気付いた知明の顔。その表情を彼女はきっと忘れる事はないだろう、驚きに満ちたその表情、そして慌てて解き解して自らの胸に手をやっては事実と知っての狼狽の顔。それ等は一連の流れであるからこそ妙にゆっくりとして見えた、最もサキもただ見ていた訳ではない。彼女もまた自らの体の変化に驚いていた、あったはずの双球が消えて立派な鳩胸に変わっていた事、そして声が低くなって体つきもしっかりとした物に変わっていた事に気付いては、目の前のふと妖艶な雰囲気を湛えた肉体、女体へと変わって声も高くなってた知明を見る。
互いの視線は交差してはただただ口は音もなしに息を吐き続けるだけだった、初心に彩られた興奮は今やすっかり驚きに取って代わられて、どうしてそうなったのかとまたしばらく悩む事になる。その答えを、サキの両親が互いに憑依した置き土産であると知る時には2人はすっかりつがいとして、そして知明は牝として人ではない存在へと移り変わっていたのだった。2人はもう離れる事はなかった、そしてそれ等はまた別の話としてこの山に刻まれていくのだった。