しままだら〜後編〜冬風 狐作
 それ以来俺は数日に一度の割合でそこを訪れるようになった。ヒミシアンもそれを真似て一緒に入る様になったがそれは週に一度程度、よって大抵は1人で入る事になるのは必然だった。だが、ある日の事俺はその広大な沼地の中で唯一、水の色が異なる場所を発見した。その時は一風呂浴びた後だったので入りはしなかったが、見当を付けて後にし次の入浴の際にそこへ足を向けた。その場所は他の場所の水が茶色かかっているのに対し、白っぽく何だか不思議な印象を俺に与えた。
 とにかく入って見ようといつもどおりに俺が足を踏み入れて、中へ入るとなるほど見た目通りに変わっていた。何だか泥がお湯と共に絡み付いて来るような感じがしたが、温度も丁度好みのものであったのでそのままに過ごす事となり、すっかり体から力を抜いてリラックスしていた。それが大きな油断であった事はしばらくして立証される事となる。
 気が付くと俺は転寝をそのままの格好でしていた。体も程よく温まりもう良いだろうと風呂から上がろうとすると、どういう訳か体に泥が纏わり付いて離れない。そればかりか泥の中に立てた手がどんどん引き擦り込まれて出てこない上に、体が何だかおかしい、熱がどんどん上がって・・・?
 その途端、不意に全身を強いむず痒さが走った。それが全ての合図であったのだろう、突如として水中の泥がまるで1つの意思に統率されているかの様な動きを見せて、その体の全身をカビみたくかなりの速さで既に泥に隠れている部分との境目から表面を埋め尽くして行く。それが広がる度に体の外側から内側にかけて、まるで見えざる手に全身を愛撫されたような一様の衝撃が走り、芯まで届いたその振動は互いに共鳴して増幅され、今度は内から外へと逆流する事でむず痒さの爆発は頂点に達した。
"何なんだよ・・・ここは・・・声が出ないばかりか満足に体も・・・あぁぅあっ・・・駄目だ、また何かが来た嫌、起きる来たやっやめ・・・。"

 泥に完全に包まれてから数秒後、泥の膜の極めて内側を構成する物が皮膚や口、鼻などを通じて体内へ静かに一斉に浸透し始めた。この期に及んでもその不思議な泥の成す業か、普段と変わらず呼吸の出来る村沢は正気を保っており、その時の感覚を後に全身の皮膚にある汗腺から口に至るまでを犯された様な、前代未聞の快感に全身を包み込まれたと回想した。
 泥の浸透によって茶色の彫刻の様になっていた村沢の体は、また新たなる変化を見せた。一時はすっかり平静を保ち忠実に彼の、この数ヶ月の生活の結果でもある鍛えられた以前とは異なる肉体を示していた泥に皺が寄り始めたのである。次第に皺は弛みとなり、既にその時点で包み込まれている体を現す役目を完全に放棄しており、新たなる変化を見る者に容易に予感させたのだった。
 全体的に弛みが良く目立ち始めたのに前後して、泥の体内への浸透もその殆どが完了してた。実を言うとその泥は泥ではなかった、泥と色のそっくりな単細胞生物である無数の藻にて構成された巨大な細胞群体だったのである。その種類の藻はまだ未確認の新種であり、絶滅寸前のこの地域に僅かしか生き延びていない種類であった。
 普段はじっと光合成をして沼地の水底に潜んでいるのであるが、生物の接近を察知すると周囲の泥に合わせた色へと変色し、何食わぬ顔でそれが藻の中へと踏み込んでくるのを待ち、上手く引っ掛かると最初は何でも無い様に振舞ってから中へと引き摺り込み、藻の繋がりの一部を外して獲物となった生物の全身を覆いつくし捕食するという、植物と動物の中間的な存在であり藻と呼ぶのは相応しくないかもしれない。
 泥の様な藻は静かに完全に手中に収めた村沢の体を食し始めた。彼らは生物の持つグリコーゲンを好物としており、その場で分解して自分達に使いやすい成分と不要な成分とにして使いやすい成分のみを吸収し、不要な成分と排泄物を獲物の体へと投棄する。大体、数時間ほどその動作は行われあらかた消費し尽くした藻達は、今度は何と残された不要な成分と自らの出した排泄物を用いて獲物の体の再構築を始める。
 どう言う訳かは不明だがこの藻達は、現在捕食した獲物以前の獲物姿形を記憶しているらしく、その姿にそって今捕食し終えた獲物の体の残った部分を補って、修復し解放するのだ。修復のスピードも捕食時に負けるとも劣らず、村沢の体は次第に人の姿をベースに異形なる者へと変貌されていき、融ける様に水中へと覆っていた藻が修復の完了した箇所から順に消えるにつれて新たなる体が顕わとなり、全てが終わると藻は何処かへと姿を消す。彼らは非常に効率の良い生物であるので一度グリコーゲンを大量に吸収すれば、10年から長ければ20年にかけて沼の更に奥底に潜んでしまうのである。そして藻の消え去った後の沼地本来の泥には、半ば体を沈めた村沢であった者の姿が残されていた。

 何時まで経っても帰らない事に心配したヒミシアンが沼地へとやって来たのは、事が終わってから大体3時間余りが過ぎ去った午後の事だった。そして村沢の気配を感じて、少し違和感を感じつつもそちらの方向へ行くと苦も無く村沢を・・・いや見知らぬ自分と似た者を彼は見つけた。
"これは・・・一体誰?僕と同じ様に人と獣とが合わさっているけど・・・それに何だかヒロユキの気配がするのはどうして?・・・だってヒロユキは男なのに・・・これは・・・。"
 ヒミシアンはそこに横たわる者の姿と気配の不一致にすっかり当惑していた。そこにあるのは大柄な自分と同じ様に人と獣とが交じり合った姿の者、ただしヒミシアンは豹であったが横たわっている獣人はシマウマ、そして女・・・だがその体から漂う気配は人であり男のヒロユキの物だったのだ。あの様な出来事の事を全く知らないヒミシアンはどう説明すればよいのか、全く考えられずに頭を悩ましていると不意にそのシマウマ人が目蓋を上げた。
「うっ・・・うん・・・おや、ヒミシアンじゃないか。如何したんだ?何だか変な物を見るような顔をして・・・俺だよ、浩之だよ・・・ん?何だこれは・・・。」
 その声は自分の事を浩之であると言いながらも、すっかり女の高い声になっていた。その事に村沢自身もふと違和感を感じかけたその時、恐る恐る今にも掻き消えそうな声でヒミシアンが口を開いた。
「ヒロユキなんだね、そうなんだね?」
「あぁ、そうだけ・・・ど・・・?」
その問いに対して村沢は2つの疑問含みの言葉を返した。まずはどうしてヒミシアンがその様な事を聞くのかと言う事、そして自分の声の違和感に対してであった。
「ヒロユキなんだね・・・良かった・・・安心したよ・・・。」
「だから何だって言うんだい?俺は浩之だって、お前もわかっていることじゃないか・・・?」
ヒミシアンは安堵の声を漏らしそして
「えっ・・・気が付いていないの?だって、ヒロユキの体・・・女の人になっちゃっているよ・・・それもシマウマの・・・知らなかったの?」
と驚きの声を上げた。これには村沢自身も面食らった、女の体?シマウマ?その2つの言葉に彼は慌てて視野が何時もと違い広い事に気が付き、そして我が腕を見た。
「うわっ・・・な、何なんだ?これは・・・俺が俺じゃなくなってる・・・どういう訳なんだ!?」
ザバッ
 村沢は沼の中から身を起こして改めて自らの体を確認した、見える範囲の体は自分の良く知っている体とは完全に異なり、白と黒のゼブラ柄の獣毛で覆われ、平坦であった胸には双球の膨らみ、股間にあったペニスはその影形すらなく変わりに縦に割れた窪みと覆う茂みがそこにはあった。第一関節までが黒き蹄となり、足も踵から先が大分姿を変えて斜めに伸び、蹄となっても安定して二足歩行が出来る様になっていた。尻尾も生え、顔はすっかりシマウマの顔、髪は鬣へと姿を変えて首筋の中程から頭頂部へと豊かに生えていた。そしてそれは住んだ沼の水面もまた証明した。
「どう言う事なんだこれは・・・ヒミシアン、何か知らないのか?」
「そんな事言われてもわからないよ。こんなの始めて見たんだからさ・・・。」
 それっきり2人は向かい合ったまま黙りこくって時間は流れた。

 次に動きがあったのは10分ほど経った頃だった。不意に女のシマウマ獣人となり、その体と精神に馴染んだ村沢がヒミシアンのある事を指摘したのである。
「ヒミシアン、お前・・・勃起してるぞ・・・まさか、欲情しているのか?」
「そ・・・そんな事は無いよ!うん、ないない・・・ないよ・・・。」
 ヒミシアンは余りにストレートなその指摘を即座に否定したが、その語尾は頼りなく到底信じる事は出来なかった。その反応を見た村沢は更に追い討ちをかけた・・・どうしてその様な事をしたのか、後になって考えた時、村沢はその理由を上手く言う事ができなかったのだが・・・。
「犯ろうか?俺・・・いや私は一向に構わないけど・・・。」
村沢の女性化はその瞬間も着実に進んでいた。ヒミシアンはその言葉に唾を飲んで、気を吐き目を丸くする。
「そんな・・・大丈夫だよ、それにヒロユキは元は男じゃないか・・・そんなのを・・・。」
「いいよ、それは前は男だったけど、今は女になってしまったのだからそんな事は関係ないって・・・だからどうする?するの?しないの?」
 続く言葉は戸惑い続けるヒミシアンの心を確実に撃ち捉えた。そして、まだ未経験の童貞であるヒミシアンの心には性に対する興味と感心が加速度的に深まり、再び唾を飲んだ時に彼はとうとう決心をした。
「ヒロユキが良いと言うのなら・・・したい・・・良いの本当に?」
「うん、大丈夫だよ。じゃあ早速・・・。」
「えっちょっと、何するの?」
「いいからいいから、じっとしててすぐに気持ちよくしてあげるから。」
クプッ・・・ヌチャ、ヌチュ、クチャ、ヌチュ・・・
 妙に積極的な村沢はすぐに片膝をつくとヒミシアンの未経験のペニスを口に含み、その長い舌で滑回した。時折前後させてたまには尿道を刺激する等、何もかもが初体験のヒミシアンには少し強い刺激を与えて間も無く彼は初めての射精を村沢の口内に放った。
「美味しいよ、ヒミシアンの精液・・・初物ありがとう・・・じゃあ次は・・・。」
 全てを飲み干した村沢は満足げに呟くと、初めての射精に朦朧としているヒミシアンを言葉のままに動かし始め、フェラから騎上位、正常位、パイズリと徹底的に快感をヒミシアンに叩き込んだ。流石にまだ若い獣人であるだけはあって精液は常に豊富に放たれ、その純度も中々の素晴らしさであった。それを堪能しつつ村沢はヒミシアンの体力を考慮して、最後にある自らの希望を叶えて終える事にした。
 村沢が最後に持って来た物、それは水中でのプレイ。まず先程までの格好と同じ様に村沢が沼の中へ身を横たえると、それを跨ぐ格好でヒミシアンを中へ招き入れた。すると丁度予想通りに彼のペニスが彼女の顔の前に来て、楽々再びまだ硬さを保ち続けているペニスを口に咥えた。すると今度は先ほどの事を覚えているのかヒミシアンは自ら腰を降り始め、太いペニスは一定のリズムを持って村沢の口腔内を前後して行く、先走りと精液の残滓、唾液が複雑に絡み合ってペニスを濡らし、雫が漏れては沼の中へと村沢の体を伝って落ちていく。
 鍛え抜かれた腹筋が迫っては去り迫っては去る、それだけで彼女は燃え上がりやがて放たれた精液を居通しそうに再び全て飲むと、ペニスを抜いたヒミシアンは自らそれをワギナへと宛がって挿し込んで、動き始める。水面の波と直接的な動き、波音と差し出される度の隠微な音、これらは単純に村沢の五感を刺激して気持ちを高揚させていた。それ以外は互いに何も語らないと言う沈黙の果てに2人は果てた。水中に倒れこんできたヒミシアンを抱いて、まだ体内に挿されたままのペニスをそっと抜き精液を沼へと漏らしつつ村沢はすっかり満足の行った顔を浮かべていた。

 その後も彼らは機会ある毎に住処で、時にはあの沼にて交わり合う様になった。当初はまだ緊張の残っていたヒミシアンも数回経験すれば慣れたもので、今や積極的に求めてくる始末である。そして女となった村沢は何時しか妊娠していた、何時出産になるかは不明だが恐らく通常の人よりは早いだろう。村沢浩之改めてムラヒアンは1人静かに寝ているヒミシアンを見詰めて、いとおしそうに膨らんだ腹を擦って瞳を閉じた、満月の晩の事である。


 完
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