大学も卒業して公務員として中央省庁に勤務する毎日を送っていた細谷の元に、久しぶりに大平から音信が届いた。
「久しぶりだなぁ・・・大平から手紙が来るなんて・・・。」
と細谷はその送られて来た国際郵便の封を開けた。中には、久しぶりに見る癖のある彼独特の字が書き連ねており数年ぶりに海外より日本に帰国し、しばらくの間日本に留まるのでその間に是非会いたい、都合の良い日時と場所を行ってくれればその場所に行く・・・と書かれていた。
"海外にいたのか、あいつ・・・道理で連絡が取れないと思ったよ。まぁ今度・・・そうだな来週の半ばに有休と合わせて5日ぐらい休む予定だから、その時にあえるか聞いてみるか・・・。"
細谷はすぐに手紙をしたためると、そこに書かれていた日本国内の住所へと手紙を送り出した。その返事は3日後に届き、大平はその日に出会うことを了承した。場所は細谷の自宅、現在細谷の住んでいる東京近郊の自宅であった。
そして、数年ぶりに大平と再会する日が到来した。細谷が車を運転して最寄の駅まで迎えに行き、改札でしばし待つと改札の向こうから手を振る1人の男、大きなリュックを背負った男が嬉しそうに手を振っている。それは大平だった、細谷も軽く手を振り帰した所で改札を抜けて大平は細谷の元にやってきた。
「久しぶりだなぁ、大平元気にしていたか?」
細谷が満面の笑みを湛えて、大平に言葉をかけると彼もまた嬉しそうに答えた。
「こちらこそ、久しぶりだよ細谷〜お前こそ元気にしていたかぁ?」
「お陰さまで・・・まぁ、ここで立ち話をするのもなんだ一先ず車に乗ろう。」
「おお、そうだな。さぁ、行くか。」
と共に歩き出した大平を見て細谷は思った。昔と本当に大平は変わっていないと、懐かしくも嬉しくもありそれでいて少し寂しかった。
車で10分ほど行くとそこが細谷の自宅であった。独身である細谷は省庁の独身寮に入れる身分なのだが、数年前に亡くなった東京の親戚が住んでいた家を潰すには勿体無いと、両親が引き継いでいた物を細谷自身の名義に変えて住んでいるのである。大学時代、当初は大学の寮に入っておきながらどうも馴染めないと途中で普通のアパートに引っ越した経歴を持つ細谷にしてみれば当然のことであり、特に特別とは思っていなかった。
「立派な家に住んでいるんだなぁ・・・。」
「まぁ、そんな事は無いよ。亡くなった伯父さんの家をもらっただけで僕が建てた訳じゃないからね。」
としきりに感心する大平にそう彼は答えるに留めた。
室内へ入り、2人は互いが持ち寄った物を中心に久しぶりの再開を楽しんでいた。そして、酒も入り宴もたけなわになった頃、今何をしているのかと細谷は大平に尋ねた。すると彼は世界を飛び回っていると答えた。
「世界を飛び回っているって・・・商社にでも勤めているのか?」
「いや、違う・・・俗に言うバックパッカーて奴さ・・・リュック1つに世界中どこでも行く、金が無くなればその土地で何とかバイトして多少の金を稼いだら、また別の国へ行く・・・と言う毎日さ。日本に残って中央勤めのお前の生活とは月とスッポンの差があるぜ。」
「それは・・・僕に対する当て付けかい?」
「うんなことはない・・・ただ、純粋に違うと言うことを言っただけだ・・・俺には俺のお前にはお前の生き方がある、ただそれだけの事だ・・・さぁ、飲むぞ飲むぞ、何たって今日はハレの日だからな!楽しもうぜっ!」
「そうだな、しんみりしている暇は無いわな。飲むぞー!」
とその日は深夜遅くまで2人は酒を浴びるほど飲みくわしていた。
「あー頭痛ぇ・・・。」
洗面所で顔を洗いながら細谷は二日酔いを催していた。それとは対照的に大平は全くの元気である、あれだけ昨日飲んだと言うのにまた朝から早速一杯飲んでいた。
「よぉ、二日酔い君!気分は如何かな、アッヒャッヒャッ!」
洗面所で青ざめている細谷を尻目に大平は大騒ぎをしていた。
「大平〜お前、人が苦しんでいる隣で騒ぐなよ・・・。」
「あっわりぃわりぃ、すまんかったなぁほ〜そ〜や〜、お詫びに良い物やるから許してくれって!なぁなぁ。」
「いい物って何だよ・・・酒とか行ったら洗面所の水の中にお前の顔をつけるぞ・・・。」
「酒じゃないって!飲み物だけどさっ、酒じゃねぇねぇ、子供でも飲める代ものだよ!今もって来て持って来てやる!」
と居間に戻ろうとした大平の首根っこを掴んだ細谷はこう言った。冷たい笑いを浮かべて。
「大平、ここは洗面所なんだ。俺も行くからここにその飲み物を持ってくるな・・・いいか。」
「大丈夫大丈夫!そんな怖い顔すんなって、言うことは聞くからさぁ。さっ行こ行こ。」
と大平は細谷を連れて駆け足で居間へと戻った。気分の悪い細谷はそれに引きずられる様にして付いて行った。
ソファーに座った細谷の前に大平はリュックの中から厳重に梱包された一升瓶を取り出した。
「これがその飲み物だよ、バルカンの山奥の寒村で手に入れた物なんだけどさ、不思議な事にこれを毎日定量飲み続けると・・・何とな、聞いて驚くなよ。酒が全く飲めない奴でも数日で、並に飲めるにまでなるんだ!その上、二日酔いをしてもこれを飲めばすぐに直るって言うすばらしい飲み物なんだよ。」
「二日酔いが治る?本当かい?」
二日酔いで只今、苦しんでいる細谷は急に声を大きくそして明るくした。無論、疑問を入れる事も忘れはしない。
「もちろんさっ俺がそうだ。ほらっ俺、全く酒飲めなかったんだよ、いやマジでっ!でもさ、その村でさこれを飲んで以来、すっかり酒豪と言えるレベルにまで飲めるようになったんだよ!」
「はぁ・・・本当か?その話。」
細谷は半信半疑でその話を聞いていた。どうしてか、実を言うと大平の話は昔から威勢が良い事で有名でそれで友人も多かったのだが、ガセネタや誇張も目立ち、それに風貌が相まって嫌われていた面もあり細谷自信も数度ならず幾度と無くそのガセネタに振り回された過去を持っていたからだ。それでも、二日酔いに今苦しんでいる身の上としては本当の話ならば、是非とも喉から手が出るほどその飲み物を口にしたいという考えを抱いていた。そんな細谷の気持ちを見破ったのか、大平は百聞は一見にしかず、是非飲めとどこからか用意したコップに並々と注いでそれを細谷の眼前に置いた。こうもされては、細谷とて飲まずにはいられない。それではと、細谷は静かにそのコップを手にとって中身を口にした。その結果・・・。
"美味い・・・何だこの味は、最高じゃないか。"
その白い液体は非常な甘味と芳香を漂わせるこれまでに経験の無い飲み物であった。細谷は一気にそれを飲み干し、口を開いた。
「美味いなぁ、これは・・・もう一杯良いかい?」
「あぁ、いいとも!さぁさぁ飲め飲め。」
細谷の求めに大平は快く応じて、飲み干し差し出す度に並々とその中身を注いだ。そして、気が付くと細谷はその液体を丸々一升瓶2本分を飲んでいた後だった。同時に大平の言葉に嘘偽り無く、あの得体の知れない二日酔いの気持ち悪さは完全に消え去り痕跡すら残っていなかった。
「どうだい気分は?」
「いや〜最高だよ。二日酔いの気持ち悪さが全く無い、ありがとう大平。いい物紹介してくれて・・・一升瓶2本も飲み潰しちゃってすまないが・・・。」
「なーになーに、気にするな。すぐまた増えるからさ!」
「すぐまた増える?どういう事だ?」
ふと細谷は大平が今ひとつ、謎めいた事を言ったのに気が付いた。
「あ・・・企業秘密、漏らしちゃったぁ〜まぁ、いいか、どうせすぐばれるんだし。」
細谷は眉を細めて更に言う。
「企業秘密?すぐばれる?どういった事か、今すぐ説明してもらおうかな・・・。」
「大丈夫、すぐわかるから・・・ほら、何か変な気分がしないかぁ?」
「変な気分・・・?」
と言われて細谷がふと思いを巡らしかけた正にその時、不意に頭の片隅から渦が生じたのは。そして、その渦は急激に脳内を覆いつくし、全身へと波及そして視界もまたそれに襲われた。
"な・・・な・・・なんだ、これ・・・は・・・。"
得体の知れない妙な気分に全身を剥ぎ取られそうになりながら、細谷はそれに懸命に耐えた。そしてしばらく立って、渦の治まりと共に何だか体全体が下に下がった様な重さを感じた。
"なんだこの重さは・・・?渦と言い、これと言い、訳分からん。"
と心中収まらぬ物を抱えて恐る恐る目を開けると特に以上は見られなかった。目の前にいる大平も平然と構えている。
"何だ気のせいか・・・。"
と軽く気構えをして目が痒かったので手で擦ろうと手を持ち上げたその時、彼は我が目をそして現実を疑った。
「な、何だこれは・・・一体・・・。」
細谷が目にした物、それは人の腕の形を多く残しながら白い敷き詰められた様な毛に覆われ、そして親指小指を残して付け根から融合し黒い塊、蹄と化していた。蹄の付け根部分には若干の多く毛が生えている。慌てて、もう片手を見るとそちらの指はそのままであったが手首までが先ほどと同じ毛で覆われている。そして所々にある黒い斑・・・細谷は一瞬でそれが何の気であるのかを悟り、恐る恐る視線を下に向けると腹からピンク色の半円にして幾つか襞の飛び出た塊が存在していた。無論、腹もまた白いややふさっとした毛で覆われ、腰のやや上から下は白と黒の斑の毛、そして爪先は完全なる蹄と化し尾てい骨からはある程度の太さを持ち、斑の毛と先端が黒くフサッとした尻尾が垂れていた。
"う・・・牛だ・・・牛じゃないか・・・。"
「ははは、どうだい気が付いただろ!自分が牛、いや半牛になったことに。そしてな、その乳房から搾った乳があの飲み物なんだ、ちなみに細谷、お前が飲んだのは俺の乳だ。」
と言うと軽く眉間に力を入れた途端、彼の身に纏っていた服は破れて見えてきた体には映像を見るかのように、自然な流れで白と黒の斑の毛が生えだし、腹は膨らんで乳房となりそして顔もまた人の面影を残しながら多くは牛と化し、角も生えた奇妙な彼曰く"半牛"という名前の良く合う生物へと変身した。
「どうだ、これが今の細谷の姿だ。あの液体を一定量以上飲むと、酒に強くなる代わりにこう言う体になると言う副作用があってな、俺も始めてこうなった時は無茶苦茶驚いたが、でもなその村の人間の殆どはこれと同じだったんだ。以来、もう慣れたものよ、二日酔いなんて忌々しい物にはならんし肝臓はおろか内臓は恐ろしいほど元気になる。病気なんて縁遠くなるからな!」
と大平はその姿で勢い良く、涎を垂らしながら言った。細谷はこの姿でも言葉が喋れる事を知って、ようやく口を開いた。
「人の姿に戻るには・・・どうすればいい?」
「それは簡単だ・・・乳を搾ればいい、一定量絞れば元に戻るぜ。」
「そうか・・・やはり・・・でも、どうすれば?」
「手で絞ればいいんだよっ・・・ここじゃ不味いな。風呂場開いているか?」
「あぁ、開いているが・・・。」
「そこで絞るぞ、着いて来い・・・あと、一升瓶を持ってな・・・。大丈夫だ、蹄でも歩ける。」
そう言って平気で立ち上がって一升瓶を持っていく大平の後を細谷は慣れぬ足取りで着いて行った。そして、風呂場に着くと大平は窓を閉めて一升瓶を外においてドアも閉めた。比較的広い、風呂場の中には2人だけとなった。
「じゃあ、手を浴槽を跨ぐ様にして置いてくれ・・・。」
「こうでいいか?」
「あぁ、いい・・・じゃあ、やるぞ。」
と大平は無防備に垂れた細谷の乳房の乳首を抓むとそれを軽く扱いた。すると、最初はジワリとそして何時しか大量に1つの乳首を弄ったに過ぎないのに全ての乳首から、やや黄身がかった乳か溢れんばかりに流れ出した。そして、それはかなりの大きさを誇る浴槽を見る見るうちに満たしていく。
ドボッドボドボッ・・・。
乳の海に更なる乳が流れ落ちる。それにはキリが無かった。そして、絞られている間中細谷はこの上ない、快楽を味わっていた。これまで長年体の中に溜まっていた数々の鬱憤等が搾り出されると共に、急速に消えて行き心が楽になるのであった。そして、風呂場に反響するその音がその気持ちをますます高ぶらせる。
"あは・・・いいわぁ・・・きもちいい・・・。"
と感じている間にも海は更に満ち、いまにも溢れんばかりとなったので大平は軽く乳首を捻って、その流れを止めた。
「何で止めるんだ・・・気持ちいいのに・・・。」
すっかりその虜となっていた細谷が彼らしくない台詞を吐いた。しかし、大平はさして何も思わずに答えた。
「それは、もう溢れかけたからだ・・・結構な量がまだ残っているようだし、よしもっと気持ちのいい事を教えてやる。横になりな。」
「こうかい?」
「あぁそうだ・・・じゃ、俺も・・・。」
体を片方下にして横になった細谷とは逆向きに同じ格好となった大平は軽くその細谷の乳首を口に含んだ。そして、急に吸い始めた、すると細谷には又、先ほどのただ流していた時以上の快感が彼を襲った。
「お・・・おぉぉぉ・・・。」
「お前も吸えよ・・・人にばっかやらせないでさ。」
1人味わっていると、じれったそうな顔をした大平にそう促されたので、彼もまた大平の張り切った乳房を吸い始めた。
"す・・・すごい・・・。"
途端に感じる量は半端ではなくなった、そして2人は延々とムッとした芳香の詰まった風呂場の中でほぼ一日それを続けた。
ザバッ・・・ジョボボボ・・・。
「ふう・・・これで終わりだ・・・。」
数日後、細谷はようやく空になった浴槽を見て息をついた。あの後、半牛から人に戻ったのがその日の深夜、ほぼ丸一日互いの乳を吸っていたこととなる。その後、しばらく眠って休憩し翌日は色々と片づけをして日長一日を過ごしていた。
「半牛になるのは一度なってしまえば後は自ら制御出来る。しかし、泥酔したり余りにも乳を飲みすぎたりすると・・・勝手になってしまうので注意が必要だぞ。回数を重ねると、ある程度乳が乳房に残っていても人に戻る事が出来る。また、出る量も自分で調整が効く・・・あとな、この因子は性交によって移る上に、子孫にも遺伝する。そこの事は気をつけた方がいいぜ、下手すると自分のそう言った事がばれかねんしな・・・後は、あの乳は保存が利く相当長く利く・・・俺がもらった村では軽く500年は持つと聞いたぞ。あと微量なら、毎日飲んでも・・・半牛で無い人間に飲ませても大丈夫だと言う事を忘れるなよ。それと・・・利点としては酒に強くなる上に、前にも言ったが内蔵を始め各器官がそれこそ丈夫になる。」
駅まで送っていく途中の車の中で大平は細谷にそのことを何度も強調した。細谷もそれをしっかりと承知した。
「じゃあな・・・次何時又会えるか分からんが、来る時は連絡するぞ。」
「ああ、分かった。何時でも来い・・・そしたら、また楽しもう。」
「おぅ、望む所だ・・・じゃあな電車が来た。」
「気をつけて行って来いよ!元気でな!」
細谷のその声に後ろ向きながら手を振って、彼は午後の空いた都心へと向かう電車に乗り込んでいった。
「快速東京行き、ドアが閉まりま〜す。」
ピュ〜ルルルッピィッ!
電車に乗ってから大平は何かをこちらに向かって言っていた。しかし、その言葉はアナウンスと車掌の笛にかき消され殆ど聞く事は出来なかった。"お前こそ、元気で・・・"と言う言葉以外は。
桜咲く駅を10両編成の電車は発車していった。電車が駅から過ぎ去ると辺りには桜の花と静けさ以外何も残ってはいなかった。
後日、細谷は自宅を大改造して地下室を設けた。そして、そこには飛び切り大きな水槽を設け多くの棚を置いた。彼の家に週末ともなれば様々な人が、集まる様になったのもこの頃からであり、低い声が響くと近所で評判になり出したのもまたそうであった。
数年後、事務次官、そして政界に進出し幾つもの国務大臣を長年、勤めた細谷は退任の際にこう語ったと言う。
「俺の夢は牧場を造る事だ。」
と、そして少子高齢化による過疎化により人の住まなくなった島を買取、集団で移り住んで以来消息は遥として知れない、大平もまた・・・。