時刻は零時、空に浮かぶ望月が空を覆う暗雲の隙間から時折顔を覗かせている。
満月の光のお陰で何時もの夜より若干明るい闇の中を歩く者が数名。
見れば彼らは大学生の様な背格好で、会話の端々から察するに麻雀の休憩に、近所のコンビニへと摘みを買いに来たらしい。
先程の一局の様子を其々振り返り盛り上がっていたところに、そのうちの一人が何の気無しに呟いた。

「あれ?今日も車停まってる…」

皆一旦足を止め、無言でそう呟いた者の視線の先を皆一斉に辿る。
その視線の先にあるのは一軒の廃病院。
どうやら個人経営の病院だったらしく、それは二階建て程度の廃病院だった
赤レンガの様な外壁はより重厚な雰囲気を醸し出し、より一層「廃病院」という言葉の持つ不気味さをかき立てる。
入口の傍に植えられた落葉樹はこの病院が潰れた後から選定されていないのが見て取れる程、樹はその梢を二階の窓付近まで伸ばしていた。
樹木の木陰には暗闇が大口を開けているかの様に広がり、その中で幽かに浮かび上がる錆びついた鉄の看板が。
そこには辛うじてこの病院が内科専門だったと判別できる程しか腐食を逃れた文字は無く、
この病院が潰れてからどれ程時間が経過したのかを感じさせていた。
そんな潰れたはずの廃病院の駐車場に、車が停まっている。
それも一台や二台では無く、五、六台程しか収まらないであろうスペース一杯に駐車してあるのであった。
これ程の車が停まっているという事は、それが只の違法駐車でない事は明確であろう。

「ホントや…何なんやろうね?一体…」

グループ内の小柄な女子も未だ抜けきれぬ方言でぽつりと呟いた。
普段ならば頭髪から覗く耳も、今はえも言えぬ不気味さにすっかり隠れてしまっている。
と言うのもこの異様な光景が繰り広げられるのは、何も今に始まった事では無い。
以前から一月の内に一度か二度、この様な光景を目にしていたのだった。
一体ここで何が行われているのか…?
彼女の問いに答えられる者は無く、ただ沈黙が一行の空気を支配した。

「まーどうでもいいじゃん。さっさとコンビニ行って帰ろうや」

一人がその場の空気を紛らわす様にそう言うと、再びコンビニへ向けて歩き始めた。
一人、また一人と彼に着き従う様にその場を離れる大学生一向。
夜風に木の葉の揺れる音が澄んだ空気に響きわたった。



同時刻、廃病院内部。
長年人に見捨てられたはずの内部はその外観に似つかわしくない程清潔に保たれていた。
廊下には目立った汚れはおろか、塵一つ落ちておらず、窓の下枠の上にも一切埃は見受けられなかった。
照明には明らかに人の手を加えられていて、蛍光灯の明かりが灯る代わりに蝋燭の灯火が院内を照らしている。
蝋燭に照らされた院内は中世の城内の如き仄暗く、炎が揺らめく度に闇の中に潜む「何か」が蠢いている様だった。
不意にどこから音が聞こえた。

「………………」

無人の筈の院内のどこかから、微かだが人の声がする。
その声の元を辿り、着いたのは入口を入ってすぐのロビー。
そこには大勢の人物が、これまた新品同様の綺麗な長椅子に座っていた。
かつて在りし日の様に人で溢れるロビー、それが本来あり得ぬ筈の時間に、患者としては似つかわしくない格好である点以外は。
ここに集まっている人物は各々何らかで顔を隠していた。
ざっと見回す限りでも、覆面で頭から耳だけ出して覆っている者や、マズル以外を覆い隠す仮面をつけている者が見受けられる。
僅かな灯の下で見るその顔は、不気味としか言い様が無かった。
彼らの格好、居る場所、時間が、明白にここで「何か」が行われようとしているの教えてくれる。
急に、長椅子の並ぶ列の一番前の空間に一際大きい灯が灯った。
不気味な集団が固唾を飲んでその空間を見守る中、現れたのはスーツを着込んだ人物が現れた。
その人物もまた羽飾りの付いた奇妙な仮面に顔を隠していた為、
性別は窺い知れないが大きな三角形の耳と、背後に時折見える尻尾からイヌ科の獣であろう事は推測できる。

「紳士淑女の皆様、今宵もこのような場に足を運んで頂き誠にありがとうございます」

小さく、けれど確実にロビーに集まる全ての人に聞こえるような低く、重みのある声が響く。
声からするにそのイヌ科の男はそこで一旦区切り、長椅子に座る集団に深々と頭を下げた。

「今宵も皆様のご満足行く商品を提供するのが我々の務め…それでは早速始めましょう」

男はそこまで言うと薄暗闇の方に向かい指を鳴らした。
するとそこから処刑人の様な風貌の大柄な人物と、それに連れられた一糸纏わぬ山羊の少年が現れた。
年齢は13,4と言った処だろうか、側頭部から生える角は成人のそれと比べると些か未熟に思われた。
両腕には少年の腕の自由を奪う手枷後ろ手に嵌められ、少年が一歩歩く度に重厚な金属音を響かせる。
二人は薄暗闇の中に浮かび上がる空間の中央まで歩を進めると、少年の熟れ切っていない肉体が隈なく見える様長椅子の集団に対峙した。
全身を視姦される羞恥心から少年は顔を伏せるも、付添いの男はそれを許さず少年の顎を掴み顔を上げさせた。

「本日最初の『商品』はこちらの山羊で御座います。年齢は13、前後共に未使用の一品で御座います」

…山羊か……儂の好みじゃぁないのぉ…

…結構かわいい顔してるじゃない…どうしましょ…

…上も下もなかなかのモンじゃねぇか…

イヌ科の男がアナウンスするや集団の中から次々に声が飛び交う。
それらを聞いた少年の目は怯えの色を浮かべていた。

「さてそれでは開始致します。5万円から―5万円、いらっしゃいませんか?」

男が言ったその途端、蜂の巣を突いた様に集団が一斉に動き出した。

…8万!!!
…10万!!!
…15!!!
…24万!!!
一人、また一人と吊り上っていく金額を叫ぶ声が院内に木霊する。
しかし多くの木霊が響いたのも束の間、一人の声が響いた後に一抹の静寂が訪れた。
その静寂を破ったのはあのイヌ科の男だった。

「はい!70万出ました!!!他には!?他にはいらっしゃいませんか!?!?」

集団を一頻り見まわし、他の誰も声を上げない事を確認すると

「おめでとうございます!!!それではこの少年を落札された方は、二階205号室にて御待ち下さい」

と高らかに宣言した。
それを受けて集団の中から一人、目の部分のみ穴が開けられた象牙色の仮面を被った人物が長椅子を立ち、
そそくさとロビーを去ると再びあのイヌ科の男の声が響いた。
少年とその付添いの男はそれを受けて明かりの灯る空間から院内の薄暗闇に消えていった。

「さて次の商品に参りましょう。次の商品は………」




ロビーを去った人物は先刻言われた通り、205号室にいた。
元は患者の為の部屋だったのだろう、しかしこの部屋も院内と同じく、過去の様相を留めてはいない。
院内と同様に部屋の照明は四隅に置かれた燭台に灯る蝋燭のみ。
窓は内側から打ちつけられており、一目見ただけで開閉出来ないとわかる。
部屋の四辺には様々な道具が散在している、様々な形のバイブやローター、数種類のローションや優に10mはあろうかといった縄が置かれている。
中でも一番目につくのが中央に座する巨大なベッド。
4本の足には一体何のためか、先に革の拘束具の付いた鎖が其々繋がれていた。
そしてベッドには仮面を外した男―――熊獣人の男が腰掛けていた。
仮面どころか衣服すら纏わぬその身体は熊獣人らしく、筋肉の上に大量の脂肪が乗っているのが見て取れる。
男がそのまま待つ事数分、部屋の扉が開かれ現れたのは先ほどの山羊の少年とその付添い。
嫌らしい笑いを口元に浮かべる男、明らかに怯えている少年、そして仮面の下に表情を隠す付添い。
口を開いたのは付添いの男だった。

「それでは商品を納入致しました。明日の朝まで如何様に扱って頂いても構いません。それではごゆっくりお楽しみ下さい」

抑揚の無い口調でそう言って少年を部屋に残すと、付添いの男は一人部屋を去った。
ロビーでの競売、参加者たちの格好、そしてこの部屋とその状況からここで何が行われているのか、答えは明白であろう。
この廃病院で行われているのは闇の人身売買。
売られているのは山羊の少年の様に親に売られた子供、借金の肩に自らの身体を売る羽目になった若い男女等。
それに対し参加しているのは好色家の資産家達、大半は男だが中には所謂有閑夫人も混ざっている。
定期的に開かれるこの競売を開催しているのはヤクザかマフィアと言われているがその実体を詳しく知る者はいない。
参加者にとっては主催者が誰か等と言う事は、欲する商品を提供し続ける限り、取るに足りない些細な事なのだ。
恐怖に怯えその場に立ち尽くす少年に男が歩み寄る。
そっと少年の肩に手を回すと、少年は極度の緊張のあまり両手を握り締め、身震いしたが
抵抗してもどうなるわけでも無いと悟っているのだろう、その手をそのまま受け入れた。

「まぁまぁそんなに怯えなさんな。ほら、こっちにおいで」

猫撫で声でそう言うと少年をゆっくりとベッド脇まで連れ、そのまま二人揃ってベッドに腰かけた。
可愛い子だね、と男は肩に回していた手で少年の頭を撫でる。
男の様子から若干恐怖心が薄らいだのか、少年の震えは治まっていた。

「本当に可愛いね…こっちも」

もう一方の手で少年の股間をゆっくりと撫で回す。
男の急な愛撫にか細い声を上げながら、少年は自らの股間を弄る手を静止するべくその細い両手を男の腕に絡めた。
すると男は先程まで頭を撫でていた手を少年の胸元まで下ろし、今度は胸の突起を撫で愛撫する。
少年の力では腕一本を止めるのが精一杯らしく、胸を弄る手を止めれば今度は股間を刺激される。
―――少年には男の愛撫から逃れる術は無かった。
いや、少年が売られた時点でどの道逃げ道など無かっただろう、遅かれ早かれ好色家の手によって憂目に合わされる。
ただその機会が最初に巡ってきた、それだけの事に過ぎない。
それを悟ったのかいつしか少年は抵抗をやめ男の為すがまま股間を、胸を弄ばれていた。

「…んぅん…ん……」

次第に顔を上気させ艶っぽい声を上げる少年。
当初はベッドから垂れ下がっていた尻尾も今では力強く空を切っている。
少年の様子に興奮したのか、男は愛撫を続けながら少年の身体を舐め回した。
体毛に付着した唾液が微かな灯りを反射し、少年の未成熟の身体を煽情的に見せる。
胸部から腹部にかけて一通り舐め回した所で男は全ての愛撫を中断した。
唐突な終りに少年は怪訝そうな顔で男を見ると、男は無言のまま数度頷く。

「ちょっと横になろうか」

息を荒げる少年をゆっくりベッドの上に押し倒すと、男は一旦ベッドから起き上がった。

「それじゃあつぎは両手をまっすぐ上に伸ばして…」

次なる刺激を今か今かと待ち構える少年は疑問を抱くこと無くその指示に従う。
それを見て男は少年の頭側に回り込んだ、その次の瞬間。
カシャン―――
突然の金属音が響き、それに伴い少年の左手首に冷たい感覚が走る。
呆けきった少年がすぐさま我に返って左手を見ると、そこには鎖付きの手枷が微かに鈍い輝きを放っていた。
何故自分が拘束されなければならないのか、気が動転し少年の動きが止まる。
その隙に男は手際良く右手首にも枷を嵌める。
両手の自由を奪われた事を自覚すると少年は懸命に手枷を外そうとするものの、ベッドの脚から伸びる鎖に繋がれた枷をどうする事も出来ない。
目に涙を浮かべ、必死に手足を動かし抵抗する少年の様子を、男は満足げに見つめていた。

「ごめんね。おじさんこういうのが大好きなんだよ。君みたいな可愛い子がそうやって一生懸命無駄な抵抗してる姿を見るのが、ね」

一時前と変わらぬ笑顔を浮かべ少年に迫る男。
自由な両足をばたつかせ迫り来る男に抵抗を試みるも、それも虚しく簡単に両足を掴まれ組み敷かれてしまった。
至近距離で面と面で向き合う二人、両者はその位置通り対極の表情を浮かべていた。

「最初は痛いだろうけど朝までには君もまた気持ち良くなるだろうから。それじゃあ始めようか…」

男はそう言うと股間に聳え立つ肉棒を少年の穴に当て、一気に突き刺した。
少年の身体に激痛が走り、室内に尋常じゃない大きさの叫び声が響く。
少年の様子など全く気にせず、男は腰を前後に動かす。
未拡張の穴に強引に挿入した結果、穴は裂け男が腰を振る度に血が流れ少年の体毛を赤く染めるも、男はただただ腰を振るばかり。
少年の顔は痛みのせいで涙と鼻水、涎まみれになっていた。

「そうそう、その顔!!!堪らないね!!!」

ぐちゃぐちゃになった顔を一舐めし、額にキスをする。
その間も男は休む事無く腰を振り続けていた。
毛皮には汗が浮かび、腰を振る度に少年の純白の毛皮の上に滴り落ちる。
男が一突きする度に少年は悲痛な叫び声を上げるも一向に腰を休めず、寧ろその速度は上昇していた。

「…ねが……や…て……」

息も絶え絶えに哀願するがそんなもの男が聞き入れるはずも無い。
少年は男が購入した『商品』でしか無く、商品をどうしようと『持ち主』の自由なのだから。

「少しは…慣れたみたいだね…それじゃあそろそろ中に出してあげよう!!!」

声を上ずらせ告げると男は絶頂に向かい更に腰を振る速度を速める。
小刻みに肉棒を数度打ち付けると、遂に男は少年の中に欲望の塊を吐き出した。

「おおぉぉぉお!!!!!!」

獣の様な声を上げると、男は少年の中で果てた。
肉棒が脈動する度、男に快快感が訪れる。

「…うぅぅ……っ!!!」

体内に押し寄せる液体の感覚に少年は呻き声を上げた。
えも言えない不快感が少年を襲ったが、少年は喜びに包まれていた。
これで終わりだ…少年はその喜びと共に意識を手放そうと目を閉じた。
しかし少年の期待はすぐさま裏切られる事になる。

「言われなかったかな?朝まで君はおじさんの『物』なんだよ」

男はその言葉と同時に未だ中に収まっている肉棒を突き上げた。
再び身体に痛みが走る、だが最初程ではない。
朝まで残り六時間―――少年は何時自ら肉棒を求める獣に成り下がるのか。
廃病院の一室には肉と肉がぶつかる音が響いた。