草木も眠る丑三つ時…中秋の名月と呼ぶに相応しい満月が煌々と輝く空に、鋼鉄の機械を馳せ駆ける獣が一匹。
月明かりに照らし出されたその容貌から察するに一介の武将の様であった。
全身に生えそろった白の体毛は月明かりに映え、獣の妖艶な美しさと雄々しさを引き立てていた。
「さて、ここいらでよかろう…」
低いながらも芯の通った声でそう呟くと獣の馳せる機械はとある城の天守の一角に降り立った。
天守に降り立ったのは鬣までもが純白の獅子、なぜか右眼は眼帯で覆われている。
獅子は口元に薄笑いを浮かべると一つの窓に近寄り、あらかじめ知っていたかの様に格子を外し城内へと姿を眩ました。
城内のとある一室、ここにも眠らぬ獣が一匹。
先の獣とは対照的にその体毛は黒に近い灰色、そして左眼が眼帯で覆われていた。
獣の名はカゲトラ…その名の通り虎獣人でありこの城の総大将を務める程の猛者である。
カゲトラは待っていた。
普段ならばとっくに床に就いているであろう時間であるにも関わらず、彼は待っていた。
待ち人の指定したのは子三つ、一刻も待ち惚けを喰らっても尚彼は待ち続けていた。
ゆっくりと格子のはめ込まれた窓に寄り、隙間から灯りの射す方を仰ぎ見る。
脳裏には一抹の不安が過り思わず短い溜息が洩れた。
「……今宵は駄目、か…」
そう呟いたその時だった。
「待たせたな」
後ろを振り向くとそこには純白の獅子…シシワカが仄暗い闇の中に佇んでいた。
月明かりを浴びる灰虎と闇に佇む白獅子、二匹が相対する光景は宛ら八面玲瓏な水墨画の如く美しい。
カゲトラが自分を視認した事を確認すると、シシワカは混乱するカゲトラの元に駆け寄り力一杯抱きしめた。
「すまんな、その様子だと大分待たせたようだ」
カゲトラの耳元で囁いた。
その言葉を聞いたカゲトラはシシワカの厚い胸倉から顔を上げ、無言で口付けを交わす。
シシワカは大して驚いた様子も無くカゲトラを受け入れると、その口腔に舌を入れ、貪る。
カゲトラも同様にシシワカの口腔を貪り、舌を絡ませ脚を絡ませ、二匹の気分を高揚させていく。
どれ程の間そうしていたのか、獣の貪り合いが終わるとの二匹の口元には月明かりの映える雫が滴っていた。
「…どうやら既に準備万端の様だな」
そこで言葉を一旦区切り、そっとカゲトラの袴に手を這わせる。
「こんなに熱り立たせおって。まだ何もしておらんと言うのに汁まで溢れ出しておるわ」
その言葉通りカゲトラの陰茎は袴越しでもはっきり分かる程そそり立ち、その先端には既に染みが広がっていた。
カゲトラは恥ずかしそうに顔を伏せるがシシワカの手が陰茎に触れる度、全身の毛が逆立つ様な感覚に襲われ身を震わせた。
「もっと…もっとしてくれ…」
身を震わせながら更なる快感を要求するカゲトラに、シシワカはにぃと笑うとカゲトラの袴、そして褌の中に手を滑らせ直接陰茎を揉みしだき始めた。
カゲトラの陰茎から先走りが溢れシシワカの手を汚していく。
「んん! うぅ…っ!! あぁ…!!」
自ら望んだ快楽に歓喜するカゲトラ、しかしそんなカゲトラを余所にシシワカは陰茎を扱く手を止めた。
カゲトラは肉欲に溺れた瞳を怪訝そうにシシワカに向ける。
「お主一人気持よくなってもな…そろそろ儂のモノも楽しませてもらわんと」
そう言い放つとシシワカはカゲトラの袴から手を抜き、慣れた手付きで胴丸を外すと自身の滾る陰茎を露出させた。
そそり立つその陰茎はまさに巨根と形容するに相応しく、濃い雄の匂いを周囲に香らせる。
シシワカの意を汲み、何も言われずともその場に身を屈めカゲトラの眼前には先走りを溢れさせそそり立つ陰茎が。
まるで飴を舐めるかの様に鈴口から湧き出す先走りを一頻り舐め採ると、一気にシシワカの陰茎を口に含み舌を這わせた。
「そうだ。しっかり舐めるがいいわ、この色狂いめ」
武将としての尊厳を陥れる言葉でさえ今のカゲトラには己の感情を昂らせるだけに過ぎなかった。
その証拠に袴から伸びる尻尾は千切れんばかりの勢いで揺れ、下半身の染みはさらにその面積を増やしている。
カゲトラは口でシシワカに奉仕するだけでは飽き足らず、空いている両手を使い最早邪魔な布切れと成り果てた袴、褌を素早く脱ぎ捨てた。
顕わになったカゲトラの陰茎からは止めど無く先走りが溢れる。
カゲトラは右手で露塗れの陰茎を擦り、もう一方の手を襟に滑らせ陰茎と同様に硬くなった胸の突起を弄り始めた。
「ん、んんぅん…!」
口を埋め尽くす巨大な飴の所為で声にならない声を上げるカゲトラ。
出来うる手段全てを使い、肉欲に溺れる様子はまさしく淫獣そのものであった。
口で陰茎を食み、右手で陰茎を擦り、左手で乳首を弄る…どれ程の間そうしていたか…
いや、実際はほんの僅かな時間であっただろう。
しかしカゲトラにはその僅かな時間を幾刻かと感じる程、その時を待ち焦がれていた。
「んぅんん!! んんんぅううん!!!」
先刻よりも一層大きな呻き声を上げ、素直に望んでいた感覚に身を任せる。
陰茎から溢れる白い液体はそれを擦っていた右手を白く染め上げるばかりか、右手からも溢れ出し足下に飛散した。
しかし、カゲトラは射精しながらも決してシシワカの陰茎を口から離そうとはしなかった。
床に飛散した白濁液の水溜りがその広がりを止めたのを見計らい、徐にシシワカが腰を振り、脱力していたカゲトラの口腔を一突きした。
「…っ!?」
喉元への強い刺激にカゲトラは咥えていた陰茎を吐き出し、そのまま床へへたり込み肩で息を整える。
「出しながらも儂の一物を放さなかったのは褒めてやろう」
腰を落とし、同じ目線に立つとシシワカはカゲトラの頭を乱暴に撫でた。
「…しかしのぅ、儂の許可も無しに勝手に弄り出したのはいただけんな。ちぃっとばかり仕置きが必要のようだのぅ…!」
そう言うとシシワカはカゲトラの両脚を掴み、左右に力強く引っ張った。
咄嗟の出来事に肉体の均衡を失い床に背を付け仰向けになる。
左右に広げられた臀部から覗くのは一輪の菊の華。
シシワカはカゲトラに覆い被り、一息に菊の花弁を貫いた。
「…!!!!!!」
あまりの激痛に悲鳴を上げるカゲトラ、しかしその悲鳴も痛みの為に声に成る事はなかった。
この悪鬼のような仕打ちを行った当の本人はカゲトラの様子なぞ目もくれず、ただ快感を貪る為に腰を振り始めた。
いつも受け入れているとは言え、シシワカの巨大な陰茎を解さず挿入したのだ。
シシワカが一突きする度にカゲトラは顔を苦痛に顔を歪ませる。
「流石にかなりきつかった様だの。どうだ、反省したか?」
腰を振るのを止め、カゲトラの目を見据える。
「…拙者が悪う御座いました………」
消え入りそうな、弱々しい声でシシワカに陳謝の意を伝える。
その言葉を聞いたシシワカは微笑むと軽く眼を閉じ、優しく口付けした。
頭を持ち上げ一旦口を離した後、再び口付けを交わす。
舌を絡めた深い口付けをしながらもシシワカは空いた両手を使いカゲトラの着物を肌蹴させ、胸の突起を刺激した。
それらの刺激により徐々に、徐々にカゲトラの身体の強張りが和らいでゆく。
「そろそろ動くぞ?」
カゲトラを思いやって体を解してやったとは言えシシワカの理性はもう限界に近い。
カゲトラが首を縦に振るや否や、凄まじい勢いで腰を打ちつけ始めた。
どうやら菊門は充分に解されたらしく、シシワカが一突きする度にカゲトラは快感に顔を歪ませる。
あまりに激しい攻めにカゲトラは両の腕をシシワカの背に回し強く、強く抱きしめる。
愛する者を全身全霊を以て感じる為に。
背に回された両腕の温もりを感じ陰茎をさらに深く挿し進めるシシワカ。
愛する者と共に達する為に。
二匹の想いが、呼吸が重なったその時、二匹は、遂に、達した。
「…ぅぅ!」
「んぅんん!」
短い呻きを上げるとシシワカの精がカゲトラの中へ注がれ、カゲトラの精が二匹の腹部を汚していく。
二匹の射精が終え、シシワカはカゲトラを抱き起し、精液に塗れた腹部を密着するのも構わず力強く抱擁した。
空に浮かぶ満月は未だ輝きを失わず、光が二匹を包み込む。
呼吸も整わぬ内に陰茎を抜き、黒の毛皮を白く染める液体を舐めとるシシワカ。
あらかた舐め終えるとシシワカは顔を上げカゲトラと幾度目か知れぬ口付けを交わした。
夜が明けるまで数刻余り…二匹の懇ろ合いは一方が果てるまで続く。
時と共に傾く満月のみが、その動静を窺い知る。
あな、げに凄まじきは獣のまぐわいなり。