「ホンッットアイツむかつきますよね! 上に媚売ってばっかで全然仕事しねーし!!!」

すっかり日の暮れた、都会のネオン街の一角。
私と同じ、サラリーマンで賑わう大衆向けの居酒屋の片隅。
目の前の男は無能な上司の愚痴を散々溢している。
余程頭に来ているのだろう、彼のしなやかな尻尾は天井に向け真っ直ぐ伸びワイシャツの隙間からは逆立った毛皮が垣間見えた。

「聞いてます!? 御堂さん!?!?
 中間管理職で板挟みなのはわかりますけど……もっと上の連中にガツンと言ってやって下さいよ!!!」

「ああ、そうだね。君の言う通りだよ、高津君」

耳をぴんと張り、話を聞いているふりをしながら適当に相槌を打つ。
全く係長とは心労が絶えない役職だ、会社では上司の機嫌を伺い外では部下の愚痴の聞き役に回らなければいけない。
目の前で未だにくだを巻いているこの男もその例外ではない。
この男…高津陽亮は私の下についてそろそろ二年になろうか、実直な勤務姿勢を評価しているがどこか間の抜けた所がある、憎めない男だ。
ふぅ…と溜め息をつき視線を下に落とす。

「も〜御堂さんったら溜息なんてついて〜そんな時は飲まなくちゃ駄目ですよ!!!
 さっきから全っ然飲んで無いじゃないですか!!! ほら飲んだ飲んだ!!!」

高津は私の様子を目ざとく察知して酒を勧めた。
カウンターのグラスには八分程日本酒が残っている。
そのグラスを手に取り喉に酒をぐいと流し込む。
体の臓器がほんのり熱くなるのを感じた。
……私は疲れてるんだろう。
日々の軋轢に。
無意識に空いている手で自分の尻尾を撫でてみる。
手触りからでも自身の尻尾が以前のようなボリュームは無く、艶を失っているのがわかった。
自嘲気味の笑みを浮かべグラスの残りを一気に流し込む。

「いい飲みっぷりですね〜!!! さ、今夜はガンガン飲みまくりましょー!!!」

私の心情を知る由もなく、高津は勝手に追加の酒を注文した。
ああ、そうだ。
たまには飲まなきゃやってられない……。



数時間後、所変わってここはとあるアパートの一室。
居酒屋を出た後、まだ飲み足りないと言う高津に合意して然程遠くない私の部屋に場所を移し酒宴の続きが始まった。
途中のコンビニで調達した稲荷を肴にビールを呷る。

「何で御堂さんみたいな良い人がまだ係長なんでしょーかねー」

喉のビールを腹に収め高津に視線を向ける。
彼は居酒屋での時より幾許か正気を保ってるようで、目線をしっかり私の方へと向けていた。

「御堂さんは本当に良い人だって課の連中皆言ってますよ。
 ミスしてもカバーしてくれるし今みたいに愚痴聞いてくれる、本当に良い人だって」

思わず視線を外し部屋の角を眺める。

「私なんかより有能な人材は沢山いるし、『良い人』なだけで上に行けるほど会社ってもんは甘くない。
 それより昨今の時勢の中でこうして給料貰えるだけでも感謝しなくちゃ」

吐き捨てる様にそう言うと、再びビールに手を伸ばす。
そう、感謝しなくちゃいけない。
部下の愚痴を聞くのも上司に媚び諂うのも仕事の内、決して不満を溢してはいけない。
ただ淡々と同じルーティンを繰り返せばいいのだ。
それが、私の仕事なのだから。
無意識に溜息がこぼれる。

「それはわかってますよ〜ただなんて言うか……御堂さんの事好きだから頑張ってもらいたいんですよ」

そう言う高津を見ると狭い額を恥ずかしそうに掻いている。
そんな光景に微笑ましいものを感じ自然と笑みがこぼれた。

「そうだね……。さぁ高津君、今夜はまだまだ飲むぞ! 仕事の事なんて忘れる位、な!!!」

高津は私の頭上に掲げた缶ビールに応える様手近の酒を一気に飲み干しその空き缶を笑顔で掲げるのだった。



下半身からの不思議な感覚によって私は目を覚ました。
どうやら泥酔するまで飲んだ後そのまま眠ってしまったらしい。
部屋の明かりは消えていて、目覚めたばかりの私の視界は文字通り闇に包まれていた。
意識がはっきりするほど下半身の感覚が鋭敏になり、それは確実に私の中の快感を呼び起こす。

「はぁあぁぁ…………」

仕事に忙殺され久しく味わうことの無かった感覚に思わず呻きが漏れた。
すると闇の中から爛々と光る鋭い瞳が現れ、快感が立ち消える。

「あ、御堂さん起きちゃいました?あちゃー起こすつもりは無かったんですけどねー」

そう言うと瞳は再び闇の中に溶け、水音が響くと同時に私の下半身からはまたあの快感が押し寄せる。
ここでようやく私は現状を把握した。

――――私は今、高津に竿を舐められている――――――

現状を把握すると同時に私は酷い混乱に襲われた。
一体何故自分の部下が、しかも同性の男が、私の竿を舐め回しているのか?
その答えを導き出そうとするものの、込み上げる快感が私の思考の邪魔をする。
そうこうしている内にも高津は私の竿を舐め回し、しゃぶり尽くし、鈴口から溢れる先走りを舐り取る。
本来ならば嫌悪するはずの行為なのに何故かそれを迎合し、興奮している自分がいる。
男から竿を舐められる……そう意識すると尚、その背徳的な行為は私の羞恥心を煽りより一層感情を昂ぶらせた。

「あっ! 駄目だ!!! もう出るっっっ!!!」

自身の限界が近いのを股間に顔を埋めている高津に告げるが、顔を離す所か射精を促す様に激しく口を上下させ吸い付く。
高津の強烈な吸い付きに元々限界目前の私が耐えられる訳も無い。

「っつ…………!」

短い嗚咽を漏らし高津の口内に精を放つ。
久方振りに放つそれはとても一回分の量とは思えなかったが驚く事に高津はそれを難無く喉に流し込んでいく。
射精が収まり、全ての精液を飲み込んだ高津が顔を上げる。
暗闇で表情ははっきりと窺い知る事は出来ない、しかし彼の瞳は喜びを湛えている様に見えた。

「御堂さん量多過ぎ! ここんとこ全然出して無いんですかー?
 でもま、濃くて美味しかったからいいですけど」

そう言うと高津は未だ硬さを失わぬ私のモノを一舐めした。
再び私の体に快感が駆け巡る。

「どうやら一発じゃ御堂さんのここ、満足してないみたいですねー。
 そんじゃ今度はもっと良い事してあげますよ」

最早相手が同性である事は何ら問題では無かった。
ただ、もっとこの快感に陶酔する事だけを私はひたすらに渇望していた。
そうこうしている内に高津が私の下腹部に跨る。
そっと高津の身体に手を伸ばす。
彼も興奮しているのか、少し湿ったその毛皮は滑らかで心地良い。

「さ、それじゃいきますよ……」

怒張する竿を菊門にあてがうと、高津はゆっくりと腰を下ろし私の竿を中に納めていく。
亀頭まで入り込んでしまうとそこからは早く、椅子に掛ける様一気に私の竿を飲み込んだ。
高津の臀部と私の下腹部が密着し、根本まで納まったのだと実感する。

「ああぁあぁぁぁ…………!」

久しく体感する事の無かった、他人の中に己を埋める感覚に私は思わず唸り声を上げた。
腹上の高津もどうやら感じているらしく、無言のままじっと動かない。
そんな高津を尻目に私は腰を引き、高津の中に打ち付ける。

「んあっっ!!!!」

高津は大きな喘ぎ声を洩らし感じている事を伝える。
一方先程の一突きは私にも多大な快楽をもたらした。
それによって頭の片隅に残っていた理性は消え、本能のみが今の私を突き動かす。
腹上の高津の腰を両手でしっかり掴むと私は狂ったように腰を上下させた。

「―――――――!!!」

声にならない悲鳴を上げる高津、しかし私はただ自分が達する為に構わず腰を振る。
口からこぼれる息は熱を帯び、汗が毛皮を濡らし私の動きをより潤滑にする。
高津の口から発せられる媚声と、肉と肉がぶつかる音が辺りに響き渡る。
竿を包み込む肉壁の温かさとその締め付け具合は再び私を絶頂に導いていく。
……一体どれ程そうしていただろうか、先に限界を迎えたのは高津だった。

「…御堂、さん…っ、俺……もう……っっ!!!ああぁあ!!! 」

一際大きな声で唸りをあげると同時に、私の上半身に液体が降り注ぎ毛皮を汚していく。
その液体が顔にまで掛かるのも気にせず、私は一心不乱に腰を振り続けた。

「……私も、そろそろ…………うあああぁぁぁ!!!!!」

後を追うように大きな唸り声を上げ、高津の最奥に精を放つ。
その射精は数分にも及び、肉壁の中を私の精液で満たしていく。
射精が終わるとゆっくりと身体の力を抜きそのまま寝転がる。
腹上の高津は未だ余韻に浸っているらしく、私の上から動こうとはしない。
激しい行為と仕事での疲れからか、私の意識は急激に遠退いていった……。



「御堂さん!!! 起きて下さい!!! 朝ですよー!!!」

耳元で大声で叫ばれ目が覚める。
振り向くとそこには皺だらけのスーツを着込んだ高津がいた。

「あーやっと起きましたか〜早くしないと会社に遅れちゃいますよー?」

そう言われ自分の体に目を下ろすとこちらも皺だらけになったワイシャツをちゃんと着込んでいた。
毛皮に掛かったはずの精液は一滴足りと残っておらず、痛んではいるものの綺麗なままだ。
…昨晩の情事は夢だったのか?
泥酔した私が見た夢だったのか?
その割にあまりにもリアルな感覚だった様な……。
いくら考えても答えは見つからない。
まぁ、いいか。
眠気振り払う様に頭を思い切り振り、ゆっくり立ち上がった。
さて今日も何時もの一日が始まる。
疲れの取れない体に鞭を打ち、高津と共に白日の下に飛び出した。